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傭兵王はガハハと笑う 〜え、半裸のろくでなしが伝説の英雄!? 木刀一本で全てをガハハと解決する、笑いと涙の人情無双ファンタジー〜  作者: 益城 茜


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北方編:アルカディア 「黄金の女」

いつも皆様お楽しみいただきありがとうございます。

アウレリア教王のお話。

お楽しみください。

月、水、土曜 18時の週3回投稿になります。

月水土曜はガハハの日 お忘れなく。


聖都、その地下にある『氷の涯』の訓練場。

光の届かぬ冷酷な石造りの空間に、荒い呼吸音と、次々と肉体が崩れ落ちる重い音が響き渡っていた。


「……あ、足を手で払われた……!? ぐあッ!?」


「速すぎる……! 影すら見えな――ッ!?」


漆黒の僧衣を纏った『氷の涯』の尼僧たちが、次々と石畳へ叩きつけられていく。


実力主義を絶対の掟とする『氷の涯』。

セラフィナとグレゴが北方へ向かった後、アウレリアは二人が退位することを滞在中の全メンバーへ静かに告げた。そして、新たなリーダーを決めるという名目のもと、彼女が提示した条件はただ一つ――「私と『氷の涯』全員で手合わせをすること」。


残された精鋭たちが息を呑む中、繰り広げられたのは一方的な蹂躙だった。


アウレリアの徒手格闘の動きは、恐ろしいほどに洗練されていた。

かつてグレゴと過ごした時間に、彼女から「手ほどき」として授かった技の数々。グレゴ自身は他の法力僧以上の過酷な訓練を課していたつもりだったが、アウレリアにとっては単なる楽しい「遊び」に過ぎなかったのだ。


「アウレリア様が……グレゴ様から手ほどきを受けておられたとは伺っていましたが……これほどとは……ッ!」


衝撃を隠せない尼僧たちの動揺を置き去りに、アウレリアは舞うように間合いを詰める。

最期の立ち塞がりの喉元へすっと細い指先を滑らせ、その首筋を確かな圧力で優しく抑え込んだ。


「……ッ、は……ッ」


最後の一人が意識を失い、静かにその場へ崩れ落ちる。


静寂が戻った訓練場の中央で、アウレリアは乱れ一つない髪をそっと指先で整え、倒れ伏す尼僧たちへ向けて、太陽のように美しく、そしてどこまでも冷徹な笑みを浮かべた。


「皆様、良く戦われましたわ。教王として、そして地母神教の一信者として、あなた方の苛烈な鍛錬には非常に満足いたしました。……さて、今後とも私の元で、この教団を支えてくださいな?」


絶対の武と圧倒的な器量。

その場にいた『氷の涯』の全員が、息を整えながら胸に手を当て、自然と教王アウレリアの膝元へと跪いたのだった。


「ふふ……重畳です」


アウレリアは細い顎を上げ、暗く冷たい訓練場の天井のさらに向こう――遥か北方の空へと視線を向けた。


教国を手中に収め、実動部隊をも完全に配下に置いた。

満たされない異才ゆえの退屈を埋めるには、あまりにもあっけない勝利。


だがその時、アウレリアの黄金の髪が、微風もない地下でわずかに揺れた。


(……あぁ。聞こえるわ……)


遥か遠く、北方の白銀の空の下で。

己の予測をも超えて広がり始める、新しくも巨大な「うねり」の予兆を――その類まれなる感応が、確かに捉えていたのだった。


◇◇◇


セーラがセラフィナ達に『正統本流』の戦略を語る中、ガルハートは瞑目していた。


静かに目を閉じたガルハートの意識は、現実の大広間を離れ、胸の奥にある暗謎の深淵――壁一面を本が埋め尽くす静謐な書斎へと深く沈み込んでいた。


傍らに佇む小さくも美しい美青年リオネルと、その翡翠の光を纏う「金のフクロウ」。

ガルハートは「鳥の目」を全開にし、セーラが提示した『正統本流』の盤面を上空から俯瞰するように精査していた。


――その時だった。


全知を張り巡らせた無声の空間に、異質な「何者かの視線」が滑り込んできた。


刺さるような、それでいて甘やかな圧力を伴う視線。

ガルハートが意識の書斎でゆっくりと振り返ると、そこに一人の女が佇んでいた。


眩いばかりの黄金の髪に、吸い込まれそうな深い碧眼。

地母神の感応を通じて数千キロの距離を飛び越え、ガルハートの精神世界へと足を踏み入れてきた、教王アウレリアその人だった。


二人の視線が交錯した瞬間、言葉を交わすまでもなく、お互いが「相手が何者か」を完璧に察した。


ガルハートはニヤリと口角を上げ、軽快に声をかけた。


「――お前さんがアウレリアか。若くて美人だ。国盗りしたんだってな。物語の主人公みたいだぜ」


アウレリアは黄金の瞳を妖しく細め、ガルハートの全身を舐めるように見つめると、静かで深く重い声を響かせた。


「あなたがガルハートね。……ジョルカス帝国、ヴァルツァーク宗家を滅ぼした黄金の男。あなたに言いたいことがあるの」


ガルハートは鼻を鳴らし、不敵な笑みを崩さずに頷いた。


「なんだ、聞いてやるぜ」


アウレリアはうっとりと胸に手を当て、どこまでも可憐で、そして狂おしいほどの微笑みを浮かべた。


「婚約者レオニドと宗家を滅ぼしてくれて本当にありがとう。嫁入りして家庭に入ると言う退屈な日々になりそうな私の人生を大きく変えてくれたわ。感謝しかないわ」


恨みや憤怒など微塵もない。己の人生を狂わせた「滅亡」すらも、退屈な日常を壊してくれた娯楽として祝福する圧倒的な破格の器量。


ガルハートは呆れ混じりに腹を揺らし、豪快に笑い飛ばした。


「ガハハ! 成り行きだ、気にするな」


アウレリアは妖しく笑うと、ガルハートにこう答えた。


「成り行きで……ね。地母神に愛される男だけのことはあるわ。あなたに私から感謝の御褒美を差し上げたいの」


ガルハートとの距離を一気に詰めると、アウレリアはガルハートに深い口づけをした。


「……っ」


動動するガルハートの顔から離れると、アウレリアは自らの唇を舌で舐めとった。聖職者とは思えない淫靡な黄金の女。


「ああ、とてもいいわ。地母神様はこれをあなたに求めていたのね」


次の瞬間、ガルハートの意識の底で、激しい怒りの本流がほとばしった。

「おおいなるもの」の愛憎入り混じった、腹の底から響くような怒りの波動が、アウレリアとガルハートの逢瀬を引き裂こうとしていた。


「ふふふ、これでしばらくお別れみたいね。また会いましょうガルハート」


アウレリアの笑い声が薄れ、怒りの波動と共に視界が弾けた。


――ハッと目を開くガルハート。


現実の大広間へと意識が戻ると、彼の額には大粒の冷や汗が流れていた。


セラフィナとセーラの議論の声がガルハートを一気に現実に引き戻す。

侃々諤々の中、目ざとくガルハートの異変に気が付いたセラフィナがガルハートに尋ねた。


「ガルハート殿、体調がお悪いのですか?そんなに冷や汗をかかれて……」


額の汗を手でぬぐいながらガルハートは軽くため息をついてから答えた。


「ああ、体調は悪くないが……俺は今、アウレリアに会ったらしい……」


「……は!?」


議論を戦わせていたセーラの声がぴたりと止まった。

セーラもオルトも、セラフィナもグレゴも、ミーナもリノンも、スターレ姉弟も、さらには『鋼鉄の牙』の猛者たちまでもが、言葉を失ってガルハートを注視した。


「会った……って、ガル……? あんた、ずっと目の前で目をつむってたじゃないのよ」


ミーナが困惑気味に声を潜める。


ガルハートは口元に残る、あの淫靡で妖しい感触と、胸の奥で燻る地母神の激しい怒りの残り香を感じながら、自嘲気味に鼻を鳴らした。


「地母神の感応ってやつか……向こうからこちらの意識の奥に飛び込んできやがった。……恐ろしい女だぜ。俺が宗家と婚約者を滅ぼしてくれたおかげで退屈な人生が変わった、感謝してるなんて笑いながら言いやがった」


その言葉に、セラフィナとグレゴが顔を見合わせ、戦慄に唇を震わせる。


「ヴァルツァーク宗家の件まで……!」


ガルハートはガシガシと頭をかき、双眸に鋭い黄金の光を宿らせた。


「あの女は、自分が勝つことに疑いを持ってねぇんだよ。教国も、帝国も、王国も、俺たちも自分の人生を彩る暇つぶしの玩具くらいにしか思ってねぇ。……破格の怪物だ」


ガルハートはテーブルの上の地図へ目を落とすとガハハと笑う。


「だがな、面白くなってきたぜ。セーラの言った通り『正統本流』をぶち立てる。その上で、あのアウレリアのド肝を抜く『毒針』を仕掛けてやろうじゃねえか」


遥か遠くの空にいる怪物アウレリアを思い、ガルハートは拳を強く握った。



いつもご愛読いただいありがとうございます。

別作品の紹介

厄介な親子関係を宇宙人が解決する人情噺

重力1/100 〜コンテナ暮らしの宇宙人は世界を救う神らしい〜

https://ncode.syosetu.com/n7660me/

火木金の週3投稿です。

皆さんのご声援が有れば、上記より頑張ります。

どうぞ気軽にご一読ください

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