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傭兵王はガハハと笑う 〜え、半裸のろくでなしが伝説の英雄!? 木刀一本で全てをガハハと解決する、笑いと涙の人情無双ファンタジー〜  作者: 益城 茜


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北方編:アルカディア 「俯瞰」

いつも皆様お楽しみいただきありがとうございます。

旧執行部の行く末を過去の事例から最善を引き出す

セーラ教授のお話。お楽しみください。

月、水、土曜 18時の週3回投稿になります。


月水土曜はガハハの日 お忘れなく。

ドカン、と大広間の重厚な扉が豪快に押し開かれた。


静まり返っていた広場に突風のごとく飛び込んできたのは、王都一の淑女であるはずのセーラだった。両腕には抱えきれないほどの分厚い書籍と資料を抱え、息を切らせながらも、その瞳は怪しいまでの熱量で爛々と輝いている。


セーラは大広間の面々を一切気に留める様子もなく、真っ直ぐガルハートの目の前まで大股で突き進むと、不敵にニヤッと口角を上げた。


「あんた、私の知恵を貸してくれって、父様に泣きついたんだってね! 来てやったんだから感謝しなさいよ。それであんたほどの切れ者が判断つきかねるっていうのは何なのか、早く聞かせなさい!」


開口一番、捲し立てるような大喝。


あまりの勢いと淑女の欠片もない威圧感に、大広間にいた全員がぽかんと口を開けて唖然となった。


次女メイと三女ヒサメは、「まったく……姉様は……」と言わんばかりに苦笑いを浮かべて長姉を迎え入れ、数々の死線を潜り抜けてきた歴戦の猛者であるシンバとザルカスさえも、毒気を抜かれたように呆気に取られている。カインとシルヴィに至っては、身内のあまりの暴走ぶりに肩をすくめ、若干いたたまれないような顔で視線の置き所に困っていた。


「……コホン」


重苦しくも威厳に満ちた咳払いが、大広間の入口から響いた。


最後にゆっくりと足を踏み入れてきたのは、領主オルトだった。彼は呆れたように頭を振りつつ、暴走する長女へ静かに掣肘を加える。


「……娘が失礼した。オルト・アルマ・スターレだ」


『天下十剣・筆頭』たる大剣豪の登場に、一瞬で場の空気が凛と引き締まる。


オルトは場内の面々――『鋼鉄の牙』の獅子たち、そして青ざめて震える教団の旧執行部を一瞥すると、不敵な笑みを口元にたたえてガルハートへと視線を向けたのだった。


「領主様、北方の最前線に呼びつけてすまねえ。セーラの姉ちゃんの知恵と領主様の判断が必要だ。セラフィナさんや聖女さんの今後について話し合いてえ」


ガルハートが頭をかきながらそう切り出すと、セーラは腕を組み、待ってましたと言わんばかりに鼻を鳴らした。


「って事は腹案があるんでしょう? 一体何なのか話しなさいよ」


ガルハートは不敵にニヤリと笑うと、テーブルの上に広げられた地図の真ん中――アルカディア教国の聖都を指でコンコンと叩いた。


「なに、簡単な話だ。アウレリアって娘が帝国を後ろ盾に教王を名乗り、旧執行部を『政治的拘束力なし』と切り捨てて無効化しようとしてる。……なら、こっちはその真正面に見据えて『正統』をここで打ち立てればいい」


「……その真正面に見据えて『正統』ですって……?」


セラフィナが呆然と声を漏らす。


セーラは一瞬目を見開いたが、次の瞬間、史学教授としての頭脳がガルハートの狙いを瞬時に解読し、その瞳にゾクゾクするような熱量を宿らせた。


「……っ! 政治的権力に固執するアウレリア教王に対し、こちらは『信仰と神意の根幹』を奪い返すというわけね!」


セーラは大股でセラフィナの前へ詰め寄ると、抱えていた分厚い書籍を机にドカンと置いた。


「セラフィナ殿! 宗教史において、神聖なる正統性とは世俗の権力や軍勢に宿るものではありませんわ! 地母神の御心に最も近き真なる聖女メルツラ様は、今どこにおられますの? ここにおられますわ! さらに、地母神に認められし『黄金の番』ガルハート殿もここにおられます!」


早口で捲し立てるセーラの迫力に、セラフィナとグレゴは気おされるように身を引く。


「帝国と手を結んだアウレリアは、世俗の権力と引き換えに信仰を汚した『偽りの教王』! 対してあなた方は、真なる聖女様と黄金の番を擁する『地母神教正統派本流』!

ライナル王国の正式な庇護のもと、この『鋼鉄の揺り籠』を拠点として正統本流の立ち上げを電撃的に世界へ布告するのです! 彼女が返事の使者として寄こした無垢なメルツラ様をそのまま旗印に掲げ返せば、アウレリアの『政治の暴力』は内側から瓦解しますわ!」


息を切らせて胸を張るセーラの大立ち回りに、大広間の全員が息を呑んだ。


ガルハートはどっかりと据えていた腰を叩き、「ガハハ!」と豪快に笑った。


「おいおいセーラの先生、流石だぜ! 俺が言いたかったことを百分の一の分かりやすさで説明してくれたぜ!」


「当り前じゃない! 伊達に最高学府で教授やってないわよ。専門分野だしね」


誇らしげな顔で胸を張るセーラだったが、その顔には自分の頭脳がガルハートの思惑と完璧に合致したことへの喜びが滲み出ていた。


オルトは不敵に笑い、シンバと視線を交わした。


「……ふむ、娘ながら大した知恵だ。我がスターレ家は、旧聖女派を正式に庇護し、正統本流の立ち上げを全面支援しよう。ライナル王への進言もだ。どう思われるかシンバ殿」


オルトの気さくさに軽く微笑んだシンバは、豪快に鼻を鳴らした。


「異論はない。スターレ家だけじゃなく鋼鉄の牙も助力させてもらう。セラフィナ殿から、きっちり謝罪を受けた。娘の嫁ぎ先が支援を表明してるなら猶更だ」


オルトは満面の笑みでシンバを見据えた。


「鋼鉄の牙、そして鋼鉄の獅子と謳われたシンバ殿と縁続きになり、才女シルヴィ殿を娶ることが出来たのは、息子カインの大手柄だ。改めてよろしく頼む、舅殿」


シンバに頭を下げるオルト。鋼鉄の牙の面々もシンバ自身も、身分を問わず人と接するスターレ家当主の度量に痛く感服した。


そして「大手柄」と父から公の前で称賛されたカインは、思わず耳まで真っ赤にし、照れくさそうに頭を掻いた。

天才ばかりの一族の中で唯一の凡人として、泥を啜るように足掻いてきた彼が、領主である父からこれ以上ない言葉で認められたのだ。


その隣で、シルヴィは瞳を細め、心底嬉しそうにカインの袖をキュッと握りしめていた。

自分の愛した男が、誇り高き実の父親と、王国の最高峰である義父の双方から認められている――その事実がたまらなく愛おしく、彼女の頬を誇らしげに染め上げていた。


「……さて。目出度い縁談の喜びも束の間、私たちが今なすべきことには明確な優先順位がありますわ。ここからは本格的な『正統』についての戦略を詰めさせていただきます」


セーラはセラフィナとグレゴに向き直り、静かだが力強い口調で言った。


「宗教の離散集合など歴史上いくらでもありますわ。地母神教のような巨大な世界宗教であっても、過去に何度か分派が生まれた記録が残っています。自分たちの手でそれを起こすことには躊躇いがあるかもしれませんけれど、何ら恐れることはありません。宗教的な絶対の権威である聖女様と、地母神に選ばれし黄金の番はこちらの手にありますのよ」


自信に満ちたセーラの言葉に、セラフィナたちは息を呑む。


「国際政治の力学としてのバックアップなら、父様から国王陛下へ取りなしていただけば問題ありませんわ。……カイン、念には念を入れて、あなたからもエドワード公爵様へ一筆お願いしておきなさい。あの公爵様のことですもの、悪いようにはなさらないはずよ」


「は、はい、セーラ姉様!」


カインはあの失禁の件を思い出しつつ、即座に頷いた。セーラは不敵な笑みを深める。


「ジョルカス帝国への牽制という意味合いにおいても、我がライナル王国はこの庇護と支援を引き受けざるを得ないはず」


完璧なロジック。完璧な盤面形成。

ガルハートは静かに目を閉じ、セーラが組み上げた戦略の大全容を、自身の「鳥の目」で上空から深く深く俯瞰するように思い描いた。


――その暗謎の深淵で。

ガルハートの胸の奥に佇む、小さくも神々しく美しいリオネル――「金のフクロウ」が、静かにその翼をはためかせ、ガルハートへ天啓(次の一手)をもたらすのだった。


いつもご愛読いただいありがとうございます。

別作品の紹介

宇宙人が訳アリ地球人とワチャワチャする人情噺

重力1/100 〜コンテナ暮らしの宇宙人は世界を救う神らしい〜

https://ncode.syosetu.com/n7660me/

火木金の週3投稿です。

皆さんのご声援が有れば、上記より頑張ります。

どうぞ気軽にご一読ください

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