閑話 金のフクロウの話
いつも皆様お楽しみいただきありがとうございます。
今回は以前も出てきた金のフクロウの話って何かを語ります
本作もお楽しみください。
月、水、土曜 18時の週3回投稿になります。
月水土曜はガハハの日 お忘れなく。
北方へと駆け抜ける王国の快速馬車は、白銀の凍てつく風を切り裂きながら北へ北へと進んでいた。
向かいの席では、父オルトが前方を見据え、母エレンの手向けた地図に鋭い視線を落としている。御者台から伝わる定期的な震動に合わせて、馬車の車輪がコトコトと小さなリズムを刻んでいた。
セーラはその向かいで、膝の上に一冊の古い童話集を静かに広げていた。
すり減った革表紙の古い絵本「金のフクロウの話」。 王国の始祖の一人であるミナカ・ユリアが我が子に話した寝物語が基になったおとぎ話である。幼い頃から何度も読み返し、史学科の教授となった今でも、彼女にとって「金のフクロウ」は特別な憧れであり、そして研究の対象でもあった。
(……あぁもうっ、不愉快だわ)
セーラは小さく唇を尖らせ、自分の指先をにらみつけた。
あのおとぎ話の「金のフクロウ」は、困った時に現れ、美しい知恵で世界を救う愛らしい存在のはずだった。 それなのに――あの大広間で、下卑た笑い声を上げながら「証拠品を捏造して敵の退路を断つ」などと算盤を弾いてみせたあの男、ガルハート。
あろうことか、あの男の放った大陸全土を俯瞰するような「鳥の目」と冷徹な知性に、一瞬でも「金のフクロウ」の幻影を重ねてしまった自分自身が、たまらなく腹が立った。
(アイツはただの野卑な傭兵よ。私の大好きだったおとぎ話の幻想を、泥と算盤で塗りつぶしたろくでなし……!)
セーラは自分を納得させるように、静かにページをめくった。
むかしむかし、北の果てにある寒さ厳しい森に、小さなフクロウたちの国がありました。
その国には、体は小さく力は弱いですが、けれど誰よりも賢い“金のフクロウ”の子がいました。
だが、大人になり学を修めた研究者としての冷徹な頭脳が、童話の文章をなぞるたびに「自国の真の実相」と重なり合い、恐ろしい違和感を弾き出してしまう。
セーラは史学教授として、自分たちのルーツである「ライナル王国」の過酷な成り立ちを正確に理解していた。
かつて自分たちの先祖である「スタン族」が複数の小国を破竹の勢いで併呑していった際、最後まで激しく抵抗した国の一つが、ミナカ・ユリアの治める名も無き小国だった。 敗北したミナカは敵王の後宮に入り、熾烈な権力闘争の中でライバルたちを次々と蹴落とし、王妃の座を奪取した。精神的にも追い詰められたミナカは機を見計らい、何らかの秘術か毒によって当時のスタン族の王を殺害。みずから王権を握ると、「スタン族の王との子」と言い張る金髪碧眼の「我が子」を擁立し、国号を『ライナル』と改めて自ら強権的な独裁者として君臨したのだ。
やがて母ミナカ亡き後、穏健派であったその「我が子」がスタン族との仲を取り持ち、血を交え、今日の現王家の母体を作り上げた。 当初は「始祖王」と崇められた彼だったが、後世の歴史学の見地においてスタン族の血統的特徴を持たないこと、そして何より「ミナカが誰かと成した子」であることが暴かれ、王族の陰では冷笑を込めて『簒奪王』と呼ばれるようになった歴史を――セーラは誰よりも深く知っていた。
(ミナカ様は冷徹な復讐者であり、強権の独裁者だった。だが……あの名も無き小国の時代から、スタン族と渡り合い、あの『簒奪王』を孕むまでの激動の最中、彼女は一体『誰』と共にいたの……?)
セーラはかつて、王族の長女という特権で閲覧した「王宮最奥の書庫」の古い書簡を思い出していた。 スタン族との苛烈な戦いや政治的危機の局面において、ミナカ様のすぐ傍らには、間違いなく「国家を動かすほどの膨大な知恵を持った誰か」が存在していた。 だが、その人物の記録だけが、まるでこの世から存在を消し去るかのように、完璧に不自然にくり抜かれているのだ。
(ミナカ様は……命を賭して、誰かとの子を『簒奪王』として王座に据えながら、その実父である『誰か』の存在だけは、歴史の表舞台から完璧に消し去った。……己の愛した男の名すら残さず、この子供向けの『とりのお話』の中にだけ閉じ込めて……)
金のフクロウは女王様を心から慕いましたが、自分は故郷の森を失った身。
「自分はただ、女王様の木陰で支えるだけでよい」と心に決めました。
女王様もまた金のフクロウを愛しましたが、国と民を背負う身ゆえに、その想いを口に出すことはできませんでした。
セーラは指先を震わせ、静かに絵本を閉じた。
ミナカが闇へと封印し、歴史の表舞台から抹消したその名を、現代の誰も知る者はいない。 だが、セーラにはどうしても馬鹿みたいに笑う金髪の巨漢が思い起こされるのだ。
(……あーもうっ! なんであのアイツの顔が浮かぶのよ……!)
セーラは頭を抱え、小さく唸った。
酒臭くて、がさつで、傭兵独特の野卑な匂いを漂わせているくせに、頭が良くて驚くほど話しやすい。時折見せる智謀知略と圧倒的暴力は、間違いなく英傑のそれである。
残念ながら、ライナル王家では忌避される金髪碧眼である事は、セーラも理解している。
しかし、北方の貴種特有の金髪に、目もくらむような高貴さと威光をのぞかせる碧眼の男。王都の気取った貴族どもには逆立ちしても真似できない、独特な存在感。北方の傭兵たちが彼のことを「金の傭兵王」と呼ぶ事も何故か納得できるのだ。
あの大剣豪である父オルトすら、どこか一種の「憧れ」を抱いて一目置いているような、あのスケールの大きな男。 そんな男に、自分までもがどこか惹かれ、憧れを感じてしまっている事実が、たまらなく気恥ずかしかった。
ふと前方に座る父オルトを見ると、目を細め、ニヤニヤとした顔で娘の顔を覗き込んできていた。
「……どうした、セーラ。さっきから顔を真っ赤にして本を睨んだり、悶えたりして。ガルハート殿に呼ばれた事がそんなに嬉しかったか?」
「な……ッ!?」
図星を突かれたセーラは、両手で自分の頭をぐっしゃぐしゃとかきむしりながら、淑女の面影もどこへやら、絶叫するように叫んだ!
「な、ななな何言ってるのよ父様っ!! そんなんじゃないんだからねっ!! 私はただっ、歴史の謎が気になって研究者として悶絶してるだけなんだからねーーーーっ!!」
「はいはい、そういうことにしておこう」
オルトは豪快に笑い、娘の慌てぶりを心底面白そうに眺めるのだった。 馬車は一路、雪深き北方『鋼鉄の揺り籠』へと向けて、白銀の道を駆け抜けていく。
いつもご愛読いただいありがとうございます。
別作品の紹介
宇宙人が訳アリ地球人とワチャワチャする人情噺
重力1/100 〜コンテナ暮らしの宇宙人は世界を救う神らしい〜
https://ncode.syosetu.com/n7660me/
火木金の週3投稿です。
皆さんのご声援が有れば、上記より頑張ります。
どうぞ気軽にご一読ください




