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傭兵王はガハハと笑う 〜え、半裸のろくでなしが伝説の英雄!? 木刀一本で全てをガハハと解決する、笑いと涙の人情無双ファンタジー〜  作者: 益城 茜


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北方編:アルカディア 「胸の扉」

いつもお楽しみいただきありがとうございます。

本日はリオネルの謎がざっくり解き明かされます。

お楽しみください。

月、水、土曜 18時の週3回投稿になります。

月水土曜はガハハの日 お忘れなく。


揺り籠の空気は、誰も息をすることすら忘れるほど張り詰めていた。

――その静寂を破ったのは、場違いなほど明るい少女の声だった。


「グーレーゴー! セーラーフィーナー! みーんーなー! 私、着いたよーーー!」


大広間の面した中庭から響く、妙に大きくて、妙に元気な声。

全員が反射的に窓の方へ振り返った。


そこには――銀の聖女服に身を包んだ小柄な少女が、満面の笑顔でブンブンと手を振っていた。

雪のように白い髪。銀糸のような聖女服。小柄な体躯。そして、場の空気を一切読まない天真爛漫な笑顔。


聖女メルツラだった。


「わぁぁぁぁ! みんな揃ってるー!」


窓からひょいっと身を乗り出し、そのまま軽々と大広間へ飛び降りる。

着地した瞬間、彼女は一直線にグレゴへ駆け寄ってぎゅうううっと抱きついた。


「グレゴー! 会いたかったぁぁぁ!」


グレゴは顔を真っ赤にして固まった。


「め、メルツラ様……!? な、なぜ……ここに……!」


「アウレリアがね! “黄金の番に会いに行っていいよ”って言ったの!

だから来たの! でもね……何日も馬車に乗ったから……お尻が痛いの……!」


重厚な政変の告白の直後に繰り出された、徹底的な空気の破壊。


メルツラはそのままガルハートに視線を移すと、その黄金の瞳を一瞬だけ虚ろに染め、吸い寄せられるように歩み寄った。


「……あ……リオネル……黄金の、賢者……」


教国の頂点にある凄まじい「神意」が広間に溢れかけ、ガルハートの脳裏に強制的な接続の予兆が走る。


だがその瞬間、机に立てかけられていたガルハートの木刀『世界樹』が、衣服の隙間から淡い翡翠の光をツン、と鋭く瞬かせた。


神意の糸を弾かれたメルツラは、「ほへっ?」と間の抜けた声をあげて自分の頭を軽く振り、元の天真爛漫な少女の瞳に戻る。


何事もなかったように、メルツラはガルハートの左右に座るリノンとミーナを指さした。


「あっ! 赤い髪の子と銀の髪の子!

黄金の番にくっついちゃダメだよ! 地母神様がヤキモチ焼いちゃうから! ……私もだけど……」


ミーナは口をパクパクさせ、リノンは「は?」と独占欲の塊を前に動揺の声を漏らす。


離れた席では、カインとシルヴィが小声で視線を交わしていた。


「……あれが……地母神教の聖女……?」

「……小さな子供みたい……」


その呟きを聞き咎めたのか、腕を組んだままのシンバが、二人の背後から低く静かな声で言葉をかけた。


「カイン。ああいうタイプのリーダーはな……とんでもないカリスマや実力を持ってるもんだ。

お前、うちのシルヴィを娶るんだろ。だったら人間観も磨いてくれ。王族ならなおさらだ」


カインがハッとして振り返る。

シンバは顎でガルハートとメイ、そしてザルカスを示した。


「ガルハートとお前んところのメイ姉さん、うちのザルカスを見てみな。警戒を最小限に見せて、出方をうかがってる。ああいうのが見本になる。

俺もガルハートやザルカスに鍛えられた。……お前も、そういう男になれ」


その不器用な言葉の端々には、シルヴィを娶らせることへの無言の肯定と、カインという「凡人」の器量を人間として認めつつある、義理の父親なりの静かな教育が滲んでいた。


カインは背筋を伸ばし、深く静かに頷いた。


メルツラは大広間の中央へ進み、大事そうに小脇に抱えていた真紅の封蝋の捺された書状を取り出す。


「アウレリアがね、これをセラフィナに渡してって。渡せばわかりますってにっこり笑ってたよ」


アウレリアの口調を器用に真似てみせたメルツラは、その書状を無邪気にセラフィナに手渡した。


見た事の無い封蝋を訝しがりながら、セラフィナは文書を開く。


中に記されていたのは――

『国政刷新に伴う平和的政権移行への勧告』。


アウレリアからの最後通牒とも言える、有無を言わさないその内容をセラフィナが冷徹に読み上げていく中、

最後の一節に差し掛かったところで広間の全員の時が止まる。


『なお、本書面は皆様の名誉を守るため、旧執行部の皆様に直接の使者を立てることは控えました。

そのため、返答の使者としては、地母神の御心に最も近き“聖女メルツラ様”を任じております。

また、旧執行部の皆様が現在滞在されている北方《鋼鉄の揺り籠》での協議は、政治的拘束力を持たないものと僧正会にて確認されております。

つきましては、黄金の番ガルハート殿ならびに鋼鉄の牙の皆様には、教国へご来訪いただき、正式な場にて協議を行うことが望ましいと存じます。

その際、旧執行部の皆様の退任合意書をご持参いただければ、政権移行はより円滑に進むことでしょう』


セラフィナの指先から、片眼鏡が力なく滑り落ちた。

カツン、と乾いた音が床に響く。


自分たちがここで重ねてきた話し合いの全てを「政治的拘束力なし」と切り捨て、自分たちを事実上放逐した上で、返事の使者として無垢なメルツラを一方的に指名する。


あまりにも一方的で傲慢な、政治の暴力だった。


その瞬間、鋼鉄の牙の団員たちの怒りが一斉に爆ぜた。


「……ふざけんな……!」

「ここまで来て誠意持って頭を下げてきた仲間を、本国で国ごと乗っ取った挙げ句にこれかよ!」

「この場の話し合いには意味がねぇから本国に来いだぁ!? 何様のつもりだアウレリアってのは!」


かつて自分たちを拷問した氷の涯や旧外交部に対する恨みやわだかまりが、彼らが示してきた「誠意」とこのあまりに理不尽な切り捨ての事実によって、奇妙な同情へと変質していく。


「……お前ら、怒るのはいい。だが抜いたらお終いだ」


シンバの声が、荒ぶる傭兵たちの殺気を力ずくで押さえつける。


「行き違いはあった。だが、ちゃんと謝罪した相手をこの雪の中に追い出すのは、北方の流儀じゃねぇ。

行く当てのねぇ旧執行部の連中だ、しばらくこの鋼鉄の揺り籠に逗留させる」


ザルカスもまた、黒い毛皮を揺らしながら静かに首肯した。


「揺り籠は広い。アウレリアの政変と帝国の動きは、どう見ても急ぎすぎている。

旧執行部をしばらくここに置くのは、情報の観点から見ても、北方の義としても正しい判断だ」


その北方の傭兵たちらしい、ぶっきらぼうで気の良い提案に、

セラフィナは涙を拭いながら深く深く頭を下げた。


「……シンバ殿……ザルカス殿……本当に、申し訳ありません……そして、ありがとうございます……」


氷の涯の僧正たちや旧外交部も、かつて刃を交えた傭兵たちを前に、今度は完全に私怨を捨てて深く頭を下げた。


広間を包む空気は、最悪の衝突を経て、静かにわだかまりを解いていく。


広間のすべてが動き、北方の義によって新たな結束が生まれていく中、ガルハートだけは静かに目をつむり、自らの内なる声に深く耳を傾けていた。


胸の奥で、扉を叩く感覚がいつもより激しく、切実に響いていた。


意識をその暗謎の深淵へと沈めていくと、目の前にあった巨大な胸の扉が、音もなく静かに開いて彼を迎え入れた。


そこは、現実の大広間とは対極の、静謐な一つの書斎だった。


壁一面を埋め尽くすおびただしい本。

床から積み上げられた無数の資料や、微細な文字で書き綴られた何らかの用紙。


そしてその中央に、少女のように繊細で美しい、ガルハートの胸までも身長の無い小さな金髪碧眼の美少年が佇んでいた。


ガルハートと同じ、空のように透き通る碧眼を持つ少年。


「……いつもお前に助けてもらってばかりだな」


美少年はゆっくりと振り返り、懐かしそうに微笑んだ。


「金のフクロウは、困っている主を放っておかないもの。

……それに、きみにも苦労ばかりだ。僕の思い残しに何百年も付き合ってくれてありがとう」


ガルハートは少し照れくさそうに顔を掻きながら、不敵に鼻を鳴らした。


「よせよ、お前は俺だろうが――リオネル」


ハッとして、ガルハートは目を開いた。


アウレリア、四聖女、帝国皇帝の後ろ盾。

教国が呼びかける「黄金の番」と、メルツラが呟いた「黄金の賢者」。


そして、アウレリアという怪物への純然たる興味が、ガルハートの胸を内側から突き動かしていた。


次に進むべき策は、すでにその胸の中に完璧な形として刻まれている。


碧眼に途方もない知性と落ち着きを宿したガルハートは、どっかりと据えていた巨躯をゆっくりと立ち上げた。


「ガハハ! 行く場所が決まったぜ。

教国へ行く。アウレリアって怪物と、直接面ぃ拝んで話をつけてこようじゃねえか」


そしてカインとメイ、ヒサメを見詰めて言葉を続ける。


「なあ、領主様と連絡が付くか?今後の方針について話がしてえ。教国の件についてもだ」


その太く落ち着いた声は、揺り籠にいる全員の心を、一瞬にして次なる戦場へと叩き向けた。


いつもご愛読いただいありがとうございます。

別作品の紹介

宇宙人が訳アリ地球人とワチャワチャする人情噺

重力1/100 〜コンテナ暮らしの宇宙人は世界を救う神らしい〜

https://ncode.syosetu.com/n7660me/

火木金の週3投稿です。

皆さんのご声援が有れば、上記より頑張ります。

どうぞ気軽にご一読ください

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