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傭兵王はガハハと笑う 〜え、半裸のろくでなしが伝説の英雄!? 木刀一本で全てをガハハと解決する、笑いと涙の人情無双ファンタジー〜  作者: 益城 茜


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北方編:アルカディア 「教王の一手」

いつもお楽しみいただきありがとうございます。

教王アウレリアの一手が北方を揺らします。

本日もお楽しみください。

月、水、土曜 18時の週3回投稿になります。

月水土曜はガハハの日 お忘れなく。

冷たい外気が一気に流れ込み、場の空気が揺れる。


黒衣の尼僧が一人、よろめきながら駆け込んできた。その姿は、ただの急報ではなかった。法力を使い果たした者特有の、体の芯が抜け落ちたような動き。

金色の瞳が色を失い、顔は血の気が引き、唇は紫がかっている。


彼女は氷の涯の構成員――本来なら、どれほど走っても息を乱さないはずの法力僧だ。


その彼女が、今にも倒れそうなほど消耗していた。

尼僧はセラフィナを見つけると、膝から崩れ落ちるように床へ手をついた。

声にならない声を絞り出す。


「だ……大僧正長……っ……」


セラフィナは立ち上がり、その顔色が見る間に蒼白へ変わった。


「どうしたのです……? 何があったのです……?」


尼僧は震える唇を必死に動かした。


「アウレリア様が……教王と名乗られ……政変の……準備が……っ…… アウレリア派が……僧正会を……掌握……しつつ……あります……!」


グレゴは大きく目を見開き、まるで心臓を掴まれたように肩を震わせた。


「な……っ……!」


セラフィナは尼僧の肩を抱き寄せながら、震える声で呟いた。


「……予想はしていました……アウレリアが動く可能性は……」


その表情は完全に血の気を失っていた。

グレゴは尼僧に必死に尋ねる。


「まさか……聖女メルツラ様まで……?」


尼僧は涙を流しながら頷いた。


「メルツラ様が……アウレリア様の文を携えて……聖都を……出られました……!」


その言葉は、その場の空気をさらに深く凍らせた。


シンバは椅子から立ち上がり、剣の柄へ手をかけた。


「政変……だと……?教団の内輪揉めが……ここまで来るのか……!」


メイの剣気が霧のように広間へ広がる。


「……最悪のタイミングです~」


尼僧は、法力が尽きかけた声で続けた。


「アウレリア様は……氷の涯を……新体制に組み込むと……僧正会で……宣言されました……旧聖女派の執行部は……切り捨てられる可能性が……高いと……」


セラフィナはアウレリアの目論見を看破した。


「……やられた……現執行部の主要な者が外に出るのを狙って……メルツラ様まで動かすなんて……!」


尼僧は最後の力を振り絞り一気に続けた。


「アウレリア様は……ご自身の派閥を中心に一気に僧正会を抑えられました……メルツラ様を不在の状況を作られたのちに、聖女候補四名を改めて四聖女へ指名する事を僧正会にて可決されました。教国は以降、教王と四聖女、僧正会の議会体制で運営されます。アウレリア様の後ろ盾には帝国の皇帝が立たれたとの事です……!」


セラフィナは、アウレリアの才気があるのは十分理解していたつもりだった。

しかし、自身の想定をはるかに上回る行動力と計画性は、アルカディア教国を一気に掌握し、「四聖女」と僧正会の議会体制という万人が受け入れ易いモノへと着地させたのだ。


セラフィナは、聖職者にあるまじき怒りの表情で机を叩いた。彼女の片眼鏡が、カツンと机に落ちる。


ガルハートは目をつむったままこの状況に静かに耳を傾けていた。

そうすると胸の奥で誰かが、内側から扉を叩いているような感覚が呼び覚まされる。

これこそが、ガルハートに何をすべきかをいつも教えてくれるのだ。


ガルハートが目を開くと低く落ち着いた太い声で、動揺する使節団に向けて伝えた。


「分からねえ事を想像して、敵をデカくするな。セラフィナさんよ、お前さんが頭領だろうが。そんなに喜怒哀楽が露骨だと、あんたの下の奴らがビビっちまうぜ。分かる事から考えようぜ、ガハハッ」


ガルハートは机の上の片眼鏡を笑いながらセラフィナに差し出した。


その声にハッとしたセラフィナは、深い呼吸を一つしてからガルハートという男を正面から見つめた。

最初の印象は、巨躯で傭兵然として野性味を帯びた外観の男だとしか思えなかった。しかし、空のように透き通る碧眼からは、途方もない知性と落ち着きが感じられた。


「……金の傭兵王……ガルハート殿がそう呼ばれる理由が今こそわかりました。……国が無くとも、家臣が居なくとも、あなたが王と呼ばれる理由が……」


取り乱したところを見られ恥ずかしかったのか、セラフィナは赤くなりながら片眼鏡を

受け取るとモニョモニョ答えた。


その隣でグレゴはガルハートに向かい両手を結び、祈りを捧げた。その表情には熱を帯びた女の顔があった。


「……やはり、ガルハート様は黄金の番なのですね。美しい金の御髪、そしてあふれる慈悲の心、地母神様があなたにご執着なのも理解できます」


うっとりとした表情でガルハートを見詰めるグレゴからは途方もない色気と相反する純粋さが感じられた。


セラフィナは片眼鏡を拾い上げた手を震わせながら、 怒りと焦りを押し殺すように深く息を吸った。

グレゴは胸元で祈りの印を結び、 震える声でガルハートを見つめ続けている。


鋼鉄の牙の団員たちは、 教団の内情がここまで崩れていることに驚愕し、 誰もが剣に手を添えたまま動けずにいた。


そんな重苦しい空気を、 ミーナが両手を叩いて破った。


「はい、はい、はい、ちょっとストップ。うちの旦那に色目を使うのは後にしてね、グレゴさん」


ミーナは軽く笑いながらも、その瞳は情報屋としての鋭さを宿していた。


「盛り上がってる最中だけどさ、ガルの言う通り。まずは情報をまとめましょう。出来る奥さんとしては、みんなに伝えなきゃいけないことがあるの」


リノンが頷き、手元の魔導通信機の記録を開いた。


「赤い月亭とゴールドバーグ商会からの最新情報よ。帝国軍の動きが……どう考えてもおかしいの」


揺り籠の空気が再び引き締まる。

ざわめきが収まるのを見計らうと、ミーナが帝国軍の動きを端的に説明する。


「帝国軍は二手に分かれて国境を固めている。牽制にしては兵が多すぎるのよ。

北方の、つまりザウロンとの境では国境警備隊と合流して、大兵力になっている。

そして――アルカディアとの国境には、軍事演習規模の部隊が動いている」


セラフィナが息を呑む。


リノンが商会の持つ帝国の経済動向を告げる。


「帝国は先月まで他国から食料を買い込んでいたわ。徴税も早めて、麦の代納を大規模に認めている。金相場も高止まりしている……これは、戦争前の動きよ」


ガルハートは静かに言った。


「兵が動いた以上は、戦支度どころか……もうとっくに準備が終わってるんだろうな。教国内部の動きを察している可能性が高い」


ガルハートはセラフィナへ視線を向けた。


「ザウロン向けの軍は恐らく、あんたらが容易に動けないように牽制だぜ」


セラフィナは震えた。

その震えは、アウレリアという怪物を理解してしまった者の震えだった。


ガルハートの言葉が、 彼女の中で一つの線を結んだ。

帝国軍の異常な動き。 徴税の前倒し。 麦の代納。 金相場の高止まり。 軍事演習規模の部隊の移動。

そして―― アウレリアの政変。


セラフィナの片眼鏡が、 指先の震えでカタカタと鳴った。


「……そういうこと……ですか……」


その声は、かすれていた。


「帝国皇帝が……アウレリアの後ろ盾…… だから……帝国は教国の動きを“知っていた”……」


セラフィナは自分の言葉に、 自分で息を呑んだ。


「アウレリアは……皇帝と内通していた…… だから……このタイミングで……」


彼女は机に手をつき、 震える肩を必死に押さえた。


「私たちが北方へ出ている“今”を狙って…… 僧正会を掌握し…… メルツラ様を動かし…… 四聖女を指名し…… 教王を名乗った……」

「……帝国皇帝の後ろ盾があるなら…… アウレリアは……教国を一気に掌握できる……私たち旧聖女派は…… 完全に切り捨てられる側……」


セラフィナは唇を噛み、 血が滲むほど強く噛みしめた。


ガルハートは静かに言った。


「アウレリアって言ったか、すげえな。たった一人で一国盗んじまいやがった。

並みじゃねえ怪物だ」


その言葉は、使節団の心をさらに追い詰めた。


セラフィナは机に手をつき、肩を震わせたまま動けない。

グレゴは祈りの印を結んだまま、涙を浮かべてガルハートを見つめている。

氷の涯の僧正たちは蒼白になり、固まっていた。


揺り籠の空気は、誰も息をすることすら忘れるほど張り詰めていた。


――その静寂を破ったのは、場違いなほど明るい少女の声だった。


「グーレーゴー!セーラーフィーナー!みーんーなー! 私、着いたよーーー!」


大広間の面した中庭から響く、妙に大きくて、妙に元気な声。

全員が反射的に窓の方へ振り返った。


そこには――


銀の聖女服に身を包んだ小柄な少女が、満面の笑顔でブンブンと手を振っていた。


雪のように白い髪。銀糸のような聖女服。

小柄な体躯。そして、場の空気を一切読まない天真爛漫な笑顔。


聖女メルツラだった。



いつもご愛読いただいありがとうございます。

別作品の紹介

親と子、姉妹の人情SF噺

重力1/100 〜コンテナ暮らしの宇宙人は世界を救う神らしい〜

https://ncode.syosetu.com/n7660me/

火木金の週3投稿です。

皆さんのご声援が有れば、上記より頑張ります。

どうぞ気軽にご一読ください

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