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傭兵王はガハハと笑う 〜え、半裸のろくでなしが伝説の英雄!? 木刀一本で全てをガハハと解決する、笑いと涙の人情無双ファンタジー〜  作者: 益城 茜


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北方編:アルカディア 「思わぬ会合1」

いつもお楽しみいただきありがとうございます。

人生には予期せずに出会う事もあります。

お楽しみください。

月、水、土曜 18時の週3回投稿になります。

月水土曜はガハハの日 お忘れなく。


明け方、セラフィナ大僧正長は、頬に触れる冷たい木の感触で目を覚ました。

ゆっくりと顔を上げると、机の上に散らばった書類と傍らに置かれたモノクルが視界に入った。


(……寝てしまったのね)


突っ伏したまま、長く眠っていたらしい。肩が重く、首が痛む。

だが、ここが自分の執務室ではないことに気づくまで、数秒かかった。


見慣れない天井。

石造りの壁。

簡素なランプの灯り。


(……ザウロンの寺院)


ようやく思い出す。

北方の一件の後、

教国の使節団としてザウロンに滞在しているのだ。


机の上には、スターレの街での火付け、白銀の監獄への攻撃、鋼鉄の牙のクランハウスの不法占拠――

教団が起こした一連の不祥事の報告書が積み上がっていた。


セラフィナは、胸の奥が重く沈むのを感じた。


「……最大限の配慮をした、ね」


グレゴ大僧正からの報告書にはそう書かれている。

市民に被害が出ないように、氷の涯は法力の出力を抑え、火付けも最小限に留めた――と。

だが、それが言い訳でしかないことを、セラフィナは誰よりも理解していた。


(不法占拠、監禁、拷問……どれも、教団がしていいことではない)


氷の涯は戦闘特化集団。その構成員は法力も地母神への感応も極めて高い。

そして――彼女たちが“何か”に引きずられていたことも、セラフィナは薄々感じていた。


地母神の残した“意志の残滓”。

黄金の番への執着。

世界樹への……説明できない感情。


それが氷の涯の感応に影響し、彼女たちを過剰に駆り立てたのだろう。

グレゴにしてもそうだ。鍛錬や任務でも他人を傷つける事を躊躇う彼女が、あろうことか、領主の息子にして王族の一員を半死半生足らしめたと言うのだ。


高い自制心を持つ彼女たちにはあり得ない出来事だった。


セラフィナは書類を手に取り、深く息を吐いた。


(……このままではいけない)


だが、疲労が限界だったのだろう。書類を読みながら、いつの間にか眠ってしまったらしい。

机の上には、自分が途中まで読んでいた報告書が開いたままになっていた。


セラフィナはゆっくりと背筋を伸ばし、窓の外の薄明かりを見つめた。

ザウロンの朝は冷たい。

だが、その冷たさが、少しだけ頭を冴えさせてくれた。


「……ガルハート殿は手強いお方とのこと。お会いする前に、この書類をすべて整理しないと」


静かに呟き、セラフィナは再び書類へ手を伸ばした。


◇◇◇


セラフィナが書類に向き直ったその頃――

寺院の中庭では、早朝から惨事が展開されていた。


氷の涯の長であり、大僧正でもあるグレゴ。

教団の武を統括する彼女により、寺院の僧侶たちはいつもより二倍の鍛錬を課されていた。


「は、はぁ……っ……」

「も、もう立てません……」

「大僧正様、どうか……慈悲を……」


石畳の上に倒れ込む僧侶たち。

立ち上がろうとしても膝が笑い、腕が震え、

誰ひとりとしてまともに動けない。


修行不足もある。だが何より――

グレゴがタフすぎた。


実戦部隊の訓練とは異なり、法力を一切使わず、ただの素手の鍛錬でこの有様である。

白の僧衣をまとったグレゴは、その柔らかな物腰とは裏腹に、氷の涯の戦士たちを率いる武闘派の頂点。

ましてや、彼女と日常を共にする氷の涯の構成員たちも、体力と法力に秀でた怪物揃いだ。

さらにセラフィナも武術に秀でている。グレゴの域には届かないながらも、同等の訓練をこなす武闘派である。


(……この寺院の者たちは鍛錬が足りていませんわ)


倒れ伏す僧侶たちを見て、グレゴは静かにそう思った。


しかし、それ以上に彼女自身の視野が狭かった。


氷の涯の基準で鍛錬を課してしまったのだ。

寺院の僧侶たちが耐えられるはずもない。その為もあって、身の回りの世話をする僧侶たちも疲労困憊で、誰も動けない。

仕方なく、グレゴは単身で市場への買い出しを買って出た。


白の僧衣が雪の上でひときわ映える。

その光景はグレゴの女性らしい美しさを引き立て、妖艶とすら言える。


そんな美女が、牛引き用の巨大な荷車を一人で引いて歩いている。

市場の人々は目を丸くした。


「……あれ、尼様だよな?」

「なんで荷車引いてんだ?」

「牛馬より強い尼様なんて聞いたことねぇぞ……」


大量の注文品を積み込むと、荷車は山のように膨れ上がった。


寺院と使節団の食料、日用品、大量の薪、布、油、保存食。市場の屈強な牛馬ですらビクともしない量だ。


でっぷりした腹の好色そうな亭主が慌てて駆け寄る。


「尼様! 別便で運ばせてくださいよ!いつもの筋肉だるまみたいな坊様でも、こんな時は牛馬を借りるか、小分けにするんです!」


亭主は好色な顔で、妖艶すぎるグレゴを嘗め回すように見ながらも、本気で心配していた。


「お美しい尼様の細腕じゃ無理ですよ……!」


グレゴは荷車を見つめ、静かに言った。


「荷車が壊れないなら、私が持ち帰りますわ」


「む、無理だ! 手足がいかれるよ!」

「尼様、やめときなって!」

「牛馬でも動かねぇんだぞ!?」


市場の人々が口々に止める。


だがグレゴは――

何でもないかのように荷車を引き始めた。

その姿は荷物も持たずに朝の散歩を楽しむ美女そのものだった。


市場の喧騒が一瞬止まった。


「「「……嘘っ」」」


遠ざかるグレゴのふくよかな腰を見つめながら、好色亭主はぽつりと呟いた。


「……なんだあの力……助平な気持ちが全部吹っ飛んじまった……」


市場の者たちも同じだった。


「力が足りてねぇのは俺たちの方かもしれねぇな……」


好色亭主は荷車の跡を見つめ、静かに決意した。


「市場が終わったら……寺院に行こう。あの尼様に鍛えてもらおう……」


でっぷりした腹肉をさすりながら、遠ざかるグレゴをずっと見つめていた。






市場からの帰り道。


荷車は雪道を軋ませながら進んでいたが、色街の近くで、突然動かなくなった。


人通りが多いのだが、色街という事もあり、道路整備の優先順位が低くぬかるみが多い。車輪が深い窪みに取られ、荷車は斜めに傾いたまま微動だにしない。


グレゴは荷車を力ずくで引こうとしたが、車輪の付け根からミシミシと音がした。


(……これ以上は荷車が壊れますわ)


荷物はうず高く積まれ、後ろから押せば荷崩れを起こす。強すぎる力のせいで、選択肢が狭くなってしまうという皮肉。グレゴは珍しく困り果てていた。


その時――

酒場の裏口がガラリと開いた。


朝の仕込みの最中なのか、金髪の大男が大きな鍋を抱えて出てきた。

大きな荷車とうず高く積みあげられた荷物とおろおろする白衣の尼僧の後姿を眺めて、男は言った。


「よう、尼さん。牛にでも逃げられたか?良かったら力になろうか?」


低く、朗らかな声。


グレゴは振り返った。


そこに立っていたのは――

金髪碧眼の巨漢、ガルハートだった。


瞬間、グレゴの胸の奥で“何か”が弾け、瞳の色が金色へと変わった。


地母神の感応が、雷のように走った。


(……見つけましたわ。私の――黄金の番)


金色の瞳が細められ、妖艶な微笑みが浮かぶ。

グレゴは荷車を放り出し、そのままガルハートを抱きしめた。


「……ようやく、お会いできましたわ……」


ガルハートは鍋を落としそうになった。


「え、え? 尼さん? いや!お前、カイン殺そうとした法力僧!なんだ?」


その瞬間、酒場の扉が勢いよく開いた。


「ガル!いい加減仕込みに戻りなさいよ!」

「お鍋を抱えたまま出ていかれたら、煮込みが出来ないでしょ。お猿頭!」


ミーナとリノンが怒鳴りながら出てきて――

抱きつくグレゴと、抱きつかれて固まるガルハートを見た。


「「…………は?」」



少し遅れてカンナが来た。


「これが修羅場ってやつだよね。おっかない……」


さらにメイがそっと扉から覗く。


「あらあら……大変です~……」


酒場の裏口前に、奇妙な沈黙が落ちた。


ガルハートは抱きしめられたまま固まり、

リノンは怒りと困惑で震え、ミーナは真っ赤になり、

カンナは面白がり、メイは優雅に微笑む。


そしてグレゴは――

金色の瞳で幸せそうに微笑んでいた。


「……見つけましたの。私の黄金の番を」


その声は、地母神の残滓が震えるほどの確信に満ちていた。


いつもご愛読いただいありがとうございます。

別作品の紹介

高校男子と男装美女の人情噺

重力1/100 〜コンテナ暮らしの宇宙人は世界を救う神らしい〜

https://ncode.syosetu.com/n7660me/

火木金の週3投稿です。

皆さんのご声援が有れば、上記より頑張ります。

どうぞ気軽にご一読ください

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