北方編:アルカディア 「三人の怪物」
いつもお楽しみいただきありがとうございます。
アウレリアという天才の暇つぶしに、多くの人々が巻き込まれます。
月、水、土曜 18時の週3回投稿になります。
月水土曜はガハハの日 お忘れなく。
アウレリア・ヴァルツァークの人生は、
二度、怪物に襲われている。
一度目は――黄金の番、ガルハート。
ジョルカス帝国皇統、ヴァルツァークの分家筋に生まれた彼女は、器量の良さと溢れる才気により、わずか八歳にして宗家である公爵家から正妻の打診を受けた。
公爵家――歴代皇帝を輩出した名家が、分家の少女を正妻に迎えるなど異例のことだった。
婚約者レオニドは、将来を嘱望された将軍候補。
アウレリア自身も、地母神教への深い信心と、神意に触れる感応・法力の才能を開花させ、
アルカディア教国から聖女候補としての打診を受けていた。
多くの人々や国々から求められる、幼いながらも満たされた生活。
だがアウレリアは、それをどこか退屈に感じていた。
アウレリアは思った。
「自分はいつか、世界の中心に立つのだろう。だが、それはあまりに予定調和すぎる」
慢心ではない。異才ゆえの倦怠だった。
そんな彼女の人生を揺るがしたのが、レオニドの死の報せだった。
一度会っただけの十一歳年上の婚約者。若さゆえの危うさと慢心を感じ、興味も持てなかった男。
その男が――一介の傭兵に倒れた。
あまりにも早い、若き英雄の死。一族が悲嘆にくれる中、アウレリアは思った。
「これはこれは面白い。世の中は、予測できない。」
次に届いたのは、レオニドの父ヴァルツァーク公爵の死。
六〇〇〇の兵を率いて北方へ向かった公爵軍は、嵐に呑まれ、全滅したという。
使者は天を仰ぎながら、公爵の死を悼んだ。アウレリアの両親もまた、地母神にヴァルツァーク親子の死後の安寧を涙しながら祈った。
その夜、アウレリアは夢を見る。
獅子のような金髪の巨漢が、軍勢の前で緑の閃光を振るう。激しい光の奔流の中、騎士も馬も歩兵も、将も影も残さず消えていった。まるで理解を超えた怪物の力だった。
その光景の中、恐らく女であろう、激しい嫉妬の声が響く。
「何故、その美丈夫を私は、娘の番に据えてしまったのか。
本当に失態だった。我が物にすべきであった。……ああ、リオネル。不屈の魂」
経験の無い熱を体に覚え、目覚めたアウレリアは、その夢が公爵軍の最後の光景であり、女の声が地母神の神意であることを冷静に判断した。
あれが――私の退屈を破った男か。
幼き天才は、金の男に感謝した。いつか相まみえるだろう、その時、自分はどうするのか。
その空想に浸るのが楽しくなった。
そして彼女は決断する。両親にはすまないが、この退屈に終止符を打つのだと。
筋書きは、こうが楽しいだろう
自分の存在は皇族内で混乱を招き、皇位継承に影を落とす。だからこそ――出家する。
だがこれは“貸し”である。才ある自分はいつかアルカディアの頂点に立つ。その時は帝国に利をもたらす。
誇大妄想ともとられかねない、天才の記した筋書きであった。
躊躇うことなくアウレリアは、ジョルカス皇帝への文にこう記した。
「私は聖女候補としてアルカディアに向かいます。これは帝国にとっても利益となるでしょう。いずれアルカディアの頂点に立つ際には、どうか力をお貸しください。」
この文を見て、皇帝は笑いながら言った。
「アウレリア・ヴァルツァーク、才ある女児と聞いていたが、この皇帝に夢想じみた文を送るとは…… アルカディア教国に向かう前に一度会わざるを得ない」
アルカディア教国へ向かう前日、相まみえたアウレリアを見た皇帝は、自分の想像よりも幼い娘の持つ、あまりにも強大な才気に当てられた。
試すかのように笑いながら皇帝は告げた。
「……出家するとは誠か、アウレリア、惜しいぞ。その才気、その器量、そしてその覇気、我が子より皇帝にふさわしい。国内に残って、女皇として君臨するか」
アウレリアは首を振った。
「いいえ。
陛下から受け継いだ帝国を統べるより、一からアルカディアを取る事が面白いのです」
その言葉に満面の笑みを浮かべ、皇帝は鷹の指輪――皇位継承権を持つ者の証――を渡した。
「覇気溢れる娘よ。万事、約束いたす。そなたがアルカディアを取った時は、再び相まみえん」
こうしてアウレリアは、皇位継承権を手にしたまま出家した。
◇◇◇
アルカディアでの日々は退屈だった。
祈る、学ぶ、施す。
四人の聖女候補は皆、善良で、真面目で、向学心に溢れていた。
アウレリアからすれば、祈りに価値は無く、学ぶには物足りず、衆生に施す事は性に合わなかった。本当に退屈だった。
そのような日々ではあったが、目新しいものもあった。
アウレリアは暇つぶしに、 氷の涯の超人グレゴの体術を真似て遊んだ。
聖女候補でありながらも、氷の涯の法力僧と正面から伍する姿にグレゴは驚きを禁じ得なかったようだ。
アウレリアも、このような荒事が体に馴染むとは思ってもいなかった。それと同時にグレゴという女の戦闘力と法力の高さが理解できた。意味ある暇つぶしであった。
そんな中、 自分に比肩しうる才を持つ者に出会う。
セラフィナ大僧正長。
外交分析、交渉、教国内の政務―― 聖女候補には与えられない役割を任される彼女は、 アウレリアと同じ“知性の匂い”を持っていた。
多くの暇つぶしを行いつつ、仕事の手伝いを申し出る。アウレリアが多くの仕事をこなす中、セラフィナもアウレリアの才に共鳴し、ますます重要な役割を与えていった。
しかし、相互の才を認めながらも、互いに相容れないと理解する結末となった。良い暇つぶしだった。
そして聖女候補として最後に合流したのが―― メルツラ。
グレゴによると教会で老いた僧正と赤ん坊の頃から過ごしていた、教団育ちの少女。
他の聖女候補のように向学心も高く無く、すぐに飽きる。嫌な事は嫌と言う。泣く、わめく。喜ぶ。笑う。人間そのものだった。だがアウレリアは気づく。
「この少女は……地母神そのものだ。」
自分たちのように“神意を観測”しているのではない。 神意そのものになっている。その法力には地を割り、天を割く程のエネルギーを感じた。それは理解をはるかに超えていた。
アウレリアは悟った。
「これも怪物だ。これこそが“自然に生まれた聖女”なのだ。」
アルカディアでも国盗りは困難。 人生とは面白い。
「さて、残りの人生に張りが出てきた。この怪物どもをどう扱い、その先にある私の人生をどう楽しもうか。」
アウレリアはまだ気づいていない。彼女自身も怪物であるという事に。
満たされない怪物は、一生自分自身に気づく事は無い。
彼女の覇道は、これから始まる。
いつもご愛読いただいありがとうございます。
別作品の紹介
宇宙人と人工知能の人情噺
重力1/100 〜コンテナ暮らしの宇宙人は世界を救う神らしい〜
https://ncode.syosetu.com/n7660me/
火木金の週3投稿です。
皆さんのご声援が有れば、上記より頑張ります。
どうぞ気軽にご一読ください。




