北方編:アルカディア 「誘惑」
いつもお楽しみいただきありがとうございます。
聖女と呼ばれる少女たちのお話です。
明るい話ばかりではありません。
月、水、土曜 18時の週3回投稿になります。
月水土曜はガハハの日 お忘れなく。
聖都。
セラフィナたちが北方へ旅立ったその日の夕刻、静まり返った大僧正院の一室に、
聖女候補四名が呼び集められていた。
扉が閉じられた瞬間、アウレリア・ヴァルツァークは席に着いた四人を見渡し、
一切の前置きなく口を開いた。
「――単刀直入に伺います。
聖女メルツラ様について、あなた方はどう思われますか。」
その声音は、聖女候補のものではなかった。
柔らかさも、慈愛もない。あるのはただ、人の心を見透かし、揺さぶり、支配する者の声であった。
白紫の法衣――聖女候補だけに許された尊い色――の四人は互いに視線を交わし、やがて一人が口を開いた。
エリシアは淡々とメルツラへ思いを語った。
白銀色の髪を肩で揃え、整った眉の下にある灰青の瞳は、常に周囲を冷静に観察している。
教団育ちの端正な立ち居振る舞いは、“正統派の聖女候補”と呼ぶにふさわしい。
「……メルツラ様は、我々よりも神意に最も近いお方です。その……近すぎるがゆえに、
時にご負担が大きいのでは、と……」
表向きは敬意を表しているものの、その奥には、メルツラの持つ“怪物的才能への恐れ”が滲んでいた。
エリシアは、自分がどれほど努力しても届かない“壁”をメルツラの中に見出し、それを誰よりも理解していた。
次に答えたのはセレナだ。栗色の長い髪を三つ編みにまとめ、頬にはまだ幼さの残る柔らかな輪郭。だがその瞳だけは、いつも何かに怯えつつも、何かに抗っているように揺れていた。
「……私たちは、最初から“スペア”でした。あの方の感応と法力は……異常です。
私達は時代が悪かった、と……そう言われてきました」
彼女の声は震えていた。それはメルツラへの嫉妬ではなく、“選ばれなかった痛み”そのものだった。セレナは、自分が“二番手”として扱われることに、誰よりも傷ついていたのだ。
その発言が終わると落ち着いた空気を孕んだミレイユが、はっきりとした口調で意見を述べた。
黒髪をきっちりと結い上げ、切れ長の瞳は常に冷静、僧衣の着こなしもどこか軍人めいている。名門貴族の出で、幼い頃から政治と権力の空気を吸って育ったことが伺えた。
「……地母神の神意を垣間見るだけの我々と違い、メルツラ様は確かに神意を降ろせます。ですが、国事を担うには……あまりに不安定です。セラフィナ大僧正長も、グレゴ相談役殿も、彼女にかかりきりにならざるを得ない」
冷静な分析。アウレリアと同じ“政治の匂い”を持つ者の声だった。ミレイユもまた“聖女とは国家の柱であるべき”という価値観を持っている。
そして最後まで俯いきながら、沈黙を貫いていたリュミナがアウレリアに顔を向けた。
淡い金髪を肩で揺らし、大きな翡翠色の瞳は、まるで世界のすべてを映し込むように澄んでいる。
最年少で、最も純粋。だがその純粋さゆえに、最も揺らぎやすい。
小さく震える声が漏れた。
「……私たちは……選ばれなかっただけ、なのですか……? 時代が違えば……聖女になれたというのは、本当なのでしょうか」
その一言に、四人の胸に沈んでいた“本音”が露わになる。
リュミナは、自分が“選ばれなかった理由”をずっと探し続けていた。
アウレリアはゆっくりと立ち上がり、四人を見渡した。
「――あなた方は、本当に“スペア”で満足なのですか。」
四人の肩がわずかに揺れた。
「あなた方は皆、他の時代なら“聖女”として立っていた人材 です。
感応も法力も、地母神のご意志と繋がる力も、どれも歴代の聖女に匹敵する」
アウレリアの声は静かで、しかし鋭い。
「ただ――才能の傑物と同じ時代に生まれた。……本当に時代が悪かっただけ」
四人の瞳に、抑え込んできた悔しさが浮かぶ。
アウレリアは続けた。
「メルツラ様は確かに突出しています。地母神の御心を地上に降ろすほどの感応と法力。
傑物と言うよりも、あれは……もはや“怪物”です。」
四人は息を呑む。
「ですが――統治者としては不安定すぎる。
セラフィナ大僧正長とグレゴ相談役は、彼女にかかりきりにならざるを得ない。
その結果が――スターレの焼失と、鋼鉄の牙の軟禁です」
アウレリアは一歩前に出る。
「これが、衆生を導く“地母神と聖女の国”の姿で良いのですか?」
四人の表情が曇る。
アウレリアは、まるで未来を見通すような声音で告げた。
「あなた方四人と私が揃えば――合議制の“四聖女”が成立します。
神意、外交、軍事。すべてを“聖女たち”で決められる。僧正会の上位に、四聖女が君臨する」
四人の瞳が揺れる。
「そして私は――その統括として、大僧正長と相談役の役割を兼ねる」
アウレリアは微笑んだ。
「その役割に名を与えましょう。聖女に並ぶ地位――“教王”。」
「聖女が君臨し、教王が統括する。これが新しいアルカディアです。」
四人の胸に、初めて“野心”が灯る。
エリシアは息を呑み、セレナは拳を握り、ミレイユは静かに頷き、リュミナは震える声で言った。
「……私たちが……聖女として立てるのなら……」
「……“四聖女”として正しく人々を導けるなら……」
アウレリアは最後の一押しを与える。
「御気持ちは纏まったようですね。メルツラ様には、穏便にご退位いただきます。お寂しいといけませんのでセラフィナ、グレゴ両名もご一緒にお連れになるといいでしょう。
聖女の直属たる氷の涯の運用は、私とあなた方4人で行う」
「軍権が必要なら――私は帝国から軍を接収できます。ヴァルツァーク家は現皇帝家に大きな貸しがある」
四人は完全に息を呑んだ。
アウレリアは静かに言う。
「あなた方は“スペア”ではない。次代の聖女そのものです。私と共に――アルカディアを掌握しましょう。」
四人はゆっくりと頷いた。
「……アウレリア教王。私たちは……“聖女”として立ちたい」
「“スペア”で終わりたくありません」
「合議制の四聖女……それがアルカディアの未来なら……」
「……私たちは、あなたに従います」
アウレリアは、四人の瞳に宿った光を見て、静かに満足げに微笑んだ。
「――良い判断です。これより、教王と四聖女の時代を始めましょう」
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別作品の紹介
宇宙人と人工知能の人情噺
重力1/100 〜コンテナ暮らしの宇宙人は世界を救う神らしい〜
https://ncode.syosetu.com/n7660me/
火木金の週3投稿です。
皆さんのご声援が有れば、上記より頑張ります。
どうぞ気軽にご一読ください。




