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傭兵王はガハハと笑う 〜え、半裸のろくでなしが伝説の英雄!? 木刀一本で全てをガハハと解決する、笑いと涙の人情無双ファンタジー〜  作者: 益城 茜


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北方編:アルカディア 「謝罪と野心」

いつもお楽しみいただきありがとうございます。

スターレと鋼鉄の牙を襲ったアルカディアサイドのお話。

月、水、土曜 18時の週3回投稿になります。

月水土曜はガハハの日 お忘れなく。


重厚な石壁に囲まれた僧正会議室。


セラフィナ大僧正長は、今回のライナル王国との外交交渉に関しての方針を僧正会の面々に説明していた。

まずは使節団の編成、グレゴと外交部の優秀な僧侶十名、 そして氷の涯から選抜された数名を伴い、 鋼鉄の揺り籠へ向かう方針。

そして、今回の交渉の目的を二つにまとめた。


一つは―― 金の番(きんのつがい)ガルハートを正式にアルカディアへ招く約束を取り付けること。

もう一つは―― 北方にあるとされる世界樹の情報協力を、鋼鉄の牙から得ること。


どちらも、 教国の未来を左右する重大な使命である。


セラフィナの各派閥に対する事前の根回しもあって、外交に関する僧正会は、通常通りの全会総意の賛成を得られて終了する予定であった。


だが――

「セラフィナ大僧正長への賛意は致しかねます」


その声を発したのは、 聖女候補アウレリア・ヴァルツァークだった。


アウレリア・ヴァルツァークは静かに立ち上がった。

北方の尊い血筋にのみ現れる黄金の髪が、会議室の光を受けて冷たく輝いた。

しかしながら、その瞳は氷のように澄み、奥底には炎のような野心が揺れている。


会議長でもあるセラフィナの真向いの席までアウレリアは歩み寄り、二人は対峙する。

二人の間に漂う空気は、冬の北方よりも冷たかった。


アウレリアは堂々たる姿勢でセラフィナを見据えるとこう言い放った。


「……大僧正長。謝罪を前提とした交渉など、弱腰にもほどがあります」


会議室の空気が一瞬で張り詰める。

セラフィナは眉一つ動かさず、静かにアウレリアを見返した。


「弱腰ではありません。必要な手順です」


「必要……?地母神の神意は“金の番”を求めています。我らが拙速に動き、無駄な血を流したことは事実ですが――

 神意そのものは、我らの行動を否定していない。それなのに大僧正長、なぜ我々が、下から出る必要があるというのですか?」


アウレリアの反論は冷静で、しかし鋭かった。


「神の理と、人の世の理は違います」


セラフィナはゆっくりと立ち上がる。


「確かに、神意は金の番を求めている。しかし、人の世から見れば、我々は“火付けと押し込み”をした無法者に映る。スターレの街を焼き、鋼鉄の牙を軟禁したのは事実です」


アウレリアの眉がわずかに動く。


「誤解を解かねばならない。そのための謝罪です」


「誤解……?大僧正長、あなたは“理想論”を語っている」


アウレリアは一歩前に出る。


「金の番の来訪を確実にするには、こちらが下手に出る必要などありません。

 彼は神意に導かれた存在。来るべき者は来る。それをわざわざ謝罪で縛るなど、愚策です」


「……アウレリア。

あなたを使節団から外した理由が、今の言葉にすべて現れている。

あなたは優秀よ。だが――頑なすぎる。神意だけを見て、人の世を見ていない」


セラフィナは静かに続けた。


「地母神は天にいらっしゃる。だが、我々は大地で人々と生きるのです。

 神意だけで国は動かせない。あなたなら分かるでしょう」


「……つまり、私を排除したいと?」


「違う。あなたを“守った”のです」


アウレリアの表情がわずかに揺れる。


「今回の交渉は、繊細で危険。あなたの強硬さは、火種になりかねない。

 だからこそ――使節団には入れなかった」


アウレリアはしばし沈黙し、やがてゆっくりと頭を下げた。

だがその瞳は、冷たく光っていた。


翌朝、聖都の高台。

朝靄の残る空気の中、セラフィナ率いる使節団の馬車列がゆっくりと遠ざかっていく。


アウレリア・ヴァルツァークは、その背を見下ろしながら、僧衣の袖を風に揺らした。


黄金の髪が朝日を受けて淡く輝く。その横顔には、聖女候補らしい清廉さは微塵もない。

あるのは――頂に立つ者だけが持つ、冷たい光だった。


やがて馬車列が小さくなり、完全に視界から消えた瞬間に、アウレリアはふっと微笑んだ。


「……これくらい“わからずや”の振る舞いをしていれば、私を使節団から外さざるを得ないでしょう」


その声は、氷のように澄み、炎のように熱い。


「重畳です」


アウレリアはゆっくりと踵を返し、聖都を見下ろす大理石の欄干に手を置いた。


眼下には、地母神の名のもとに築かれた巨大な都市。

僧院、神殿、学舎、軍営――

すべてが整然と並び、まるで彼女の故郷、ジョルカス帝国の“帝都”のように美しい。


アウレリアはその景色を見つめながら、静かに呟いた。


「あなた方が北方へ出向く間に――こちらは、我が王道への地固めと参りましょう」


その言葉は、誰に聞かせるでもなく、彼女がつぶやいた確かな“宣言”だった。


「世界樹は北方で目覚めつつある。金の番も、いずれはアルカディアへ来る。

神意はすべて、私の手の中に落ちてくる。」


アウレリアの瞳が細くなる。


「セラフィナは“人の世”を語る。

 だが私は違う。私は――“天と地の両方”を手に入れる」


風が吹き、黄金の髪が揺れた。


「聖女?そんなものは通過点にすぎません」


アウレリアは胸に手を当て、静かに、しかし確信に満ちて言い放つ。


「私が目指すのは――そう、教王とでも名付けましょうか。

 地母神の神意を代行する唯一の王」


その声音には、帝国王族としての誇りと、かつて、獅子狩りの野心によって滅びた公爵家の怨念と、聖女候補としての自負と、そして何より――頂点に立つ者の覚悟が宿っていた。


「アルカディアも、帝国も、王国も、地母神教の国々は、すべて私の下に置かれるべきです」


アウレリアはゆっくりと歩き出す。


「さあ――始めましょう。“教王”への道を」


その背に、朝日が差し込む。

だがその光は、祝福ではなく、新たな覇者の影を長く伸ばす光だった。


◇◇◇


鋼鉄の揺り籠へ向かう使節団の馬車列は、 聖都を離れ、 北方へ続く街道を静かに進んでいた。朝靄が晴れ、 冷たい風が馬車の帆を揺らす。

セラフィナは馬車の窓から遠ざかる聖都を見つめ、 小さく息を吐いた。


その横で、 グレゴが不安げに問いかける。


「……セラフィナ大僧正長。アウレリア殿を置いてきて、本当に良かったのでしょうか?」


セラフィナは目を閉じたまま答えた。


「良くはないわ。でも――仕方がなかった」


馬車の揺れに合わせて、 セラフィナの声は静かに続く。


「あなたも知っているでしょう、

アウレリアは、ジョルカス帝国の皇族の血を引いているわ。ヴァルツァーク公爵家の分家の生まれでありながら、宗家の“正妻”として望まれるほどの才を持っていた」


グレゴは驚いたように目を見開く。


「……正妻、ですか。」


「ええ。  帝国でも、あの家に嫁げるのは“選ばれた者”だけ。若くして、それほどの器量と才覚を持っていたのよ。」


セラフィナは遠い目をした。


「だけど、彼女の人生は北方で狂ったわ。

婚約者レオニドは、鋼鉄の獅子――シンバに討たれた。その敵討ちとして、ヴァルツァーク公爵が率いた六〇〇〇の公爵軍は、激しい嵐の中で、金の番たるガルハート様に殲滅されたとのことよ」


グレゴは息を呑む。


「……それで、アウレリア殿は……」


「ええ。帝国皇族としての未来を失い、出家せざるを得なかった」


馬車の中に、重い沈黙が落ちる。

セラフィナは続けた。


「アウレリアは、聖女候補としても極めて優秀。法力も感応も高い。それに――メルツラ様のように神意に呑まれない」


「意志が……強いのですね」


「強すぎるほどに。神意に引きずられないということは、神意を“利用できる”ということでもあるわ」


グレゴは息を呑んだ。


「……それは、聖女としては……」


「とても危険よ。メルツラ様は異常なまでの法力と感応があったからこそ、私やあなた、僧正会の支えがあって“聖女”として成立している」


セラフィナは静かに言う。


「だがアウレリアは違う。彼女は一人でも聖女になれる。軍事も、政務も、外交も回せる。恐らくは、教国をも動かせると思うわ」


グレゴは言葉を失った。


「私はね、グレゴ。アウレリアを次代の相談役に、あるいは大僧正長に据えたかった」


セラフィナの声には、 珍しく悔いが滲んでいた。


「だが今回の件で、彼女を使節団に入れることはできなかった。強硬すぎる。神意と政治を同列に扱いすぎる」


グレゴは静かに頷く。


「……アウレリア殿は、野心を持っているのですね」


セラフィナは目を閉じた。


「ええ。彼女は頂点に立つことを望んでいる。きっと、私たちが考えていない形で」


馬車が大きく揺れた。その揺れが、二人の胸の不安を象徴するかのようだった。


「アウレリアを残したこと……私は、少しだけ不安なの」


グレゴは驚いた。


「セラフィナ大僧正長が、ですか?」


「ええ。彼女は優秀すぎる。そして――野心が強すぎる」


セラフィナは窓の外を見つめた。


「北方へ向かう私たちの背後で、彼女が何を“地固め”するのか……それが、怖い」


馬車は北へ向かって進む。

だがその背後――聖都では、新たな女王が静かに動き始めていた。


いつもご愛読いただいありがとうございます。

別作品の紹介

現代ファンタジーとコメディの人情噺

重力1/100 〜コンテナ暮らしの宇宙人は世界を救う神らしい〜

https://ncode.syosetu.com/n7660me/

火木金の週3投稿です。

皆さんのご声援が有れば、上記より頑張ります。

どうぞ気軽にご一読ください。

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