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傭兵王はガハハと笑う 〜え、半裸のろくでなしが伝説の英雄!? 木刀一本で全てをガハハと解決する、笑いと涙の人情無双ファンタジー〜  作者: 益城 茜


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北方編:鋼鉄の揺り篭 「鋼鉄の獅子と新しい家族」

いつもお楽しみいただきありがとうございます。

シンバの父としての葛藤と、カインの男の器量がぶつかります。

月、水、土曜 18時の週3回投稿になります。

月水土曜はガハハの日 お忘れなく。


鋼鉄の揺り篭、裏庭として広い訓練場がある。

シンバとカインの手合わせは、雪が隅々に残るこの場所で行われることになった。


訓練場へ向かう途中、 シンバは歩みを止め、 ザルカスとガルハートにだけ聞こえる声で呟いた。


「……やつから言い出した事だが、カインは本当に大丈夫と思うか。

俺は本気で行くつもりだ。」


ガルハートは鼻を鳴らしながら言った。


「技量だけなら“中の下”ってところだ。

だが、弱くはねえ。あの若様はお前が思う以上に才覚はある、度胸もある。」


シンバは眉をひそめる。


ガルハートは続けた。


「仮にだな、お前が手心を加えるくらいなら足元すくわれる。奴をしっかりと見てやれ。」


ザルカスも静かに口を開く。


「兵を率いるなら、お前よりも現状で上だ。」


シンバが目を丸くする。


ザルカスは淡々と続けた。


「愚直な剣の使い手で信用できる。王族や貴族の坊ちゃんとは思えん反復をしている。  若君の“手”を見てやれ。剣士の手だ」


シンバは腕を組み、 少しだけ視線を落とした。


「……お前らからの評価はまずまずか。

シルヴィが嫁に行くとなれば、鋼鉄の牙の後継者どうするかなあ……」


ガルハートが豪快に笑う。


「なんだかんだ言って、もう嫁に出す気でいやがる。ガハハ、親心は複雑だな。」


「うるせー!」


シンバは顔を赤くしながら怒鳴る。


「この上ない良縁なのも分かってる。なんせ王族だ。

しかもスターレ家は質実剛健の名門だろ。シルヴィが嫁ぐなら、野心家じゃない、しっかりした家がいいとは思っていた。」


ザルカスが頷く。


「ああ。オルト様は王族でありながら、出自に関係なく接する方だ。

シルヴィの輿入れもご本人から打診された。一介の傭兵の俺に頭を下げられたのだ。断る理由がなかろう。」


シンバは少しだけ目を細める。


「……オルトか。王国の大剣豪な。噂には聞くが……お前らが言うなら大丈夫か。」


ガルハートは肩をすくめ、悪びれもせず言い放った。


「領主様は最高の種馬だ。安心しろ、何も問題はねえ。」


「おいコラァ!! 王族に対してまずいだろ。その物言いは、お前、本人に言ってないだろうな?」


シンバの怒号が外に響き、 ザルカスは肩を震わせて笑いを堪えた。


その空気のまま、 三人は訓練場へと歩みを進める。すると訓練場の入口から二つの影が顔を出した。


「ガル、寒いから上着くらい着ていきなさいって言ったでしょ」


「お馬鹿は風邪をひかないらしいけど、お猿は風邪を引いたら大変でしょ」


リノンとミーナだった。


二人は当然のようにガルハートの両脇に立ち、 まるで“そこが自分たちの定位置”であるかのように寄り添う。ガルハートは無表情のまま、気まずそうに視線を逸らした。

シンバの目が、ゆっくりと細くなる。


「……おい、ガルハート」


「なんだ」


「お前……女房が二人いるのか?」


ガルハートは無表情のまま答えた。


「違ぇよ。……勝手に押しかけてきただけだ」


リノンとミーナは同時に頬を膨らませる。


「「はあ?勝手じゃないでしょ、正式に妻でしょうが!」」


シンバは盛大にむせた。


「ぶっ……! お、お前……!なんでそんな大事なこと、黙ってんだ!!」


ガルハートは肩をすくめる。


「うるせえ……」


ザルカスは腕を組んだまま、淡々と補足した。


「シンバ。この二人はアルカディアとの交渉に欠かせない要人だ。リノン殿は『ゴールドバーグ商会』の現会頭、ミーナ殿は情報屋の総元締め『赤い月亭』の後継で、次代の大陸の目だ。」


シンバは頭を抱えた。


「……とんでもない大物じゃねえか。お前、ほんとに俺の心臓に悪いわ……」


リノンとミーナは楽しそうに笑い、 ガルハートは苦笑しながらもどこか誇らしげだった。


訓練場ではカインは、シルヴィを伴い、既に剣を振っていた。少しぬかるんだ訓練場の隅々まで、カインの足跡が残っていた。

メイとヒサメのスターレ姉妹も、弟であるカインの様子を訓練場の端から静かに見守っていた。


だが、シンバが姿を現すと、二人は自然と歩み寄り、礼を尽くして頭を下げた。


「シンバ殿。私はスターレ家のメイ、そして妹のヒサメです。本日は我が弟の手合わせに感謝いたします。」


いつもは間延びした話し方をするメイだったが、この時ばかりはしっかりとした言葉遣いだった。


「いや、礼には及ばねえ。娘の輿入れとくれば、親父が出ずに誰が出るというんだ」


メイは目を細めて笑顔で答える。


「今回の輿入れの件は、シルヴィさんの人柄に触れて、我が家は皆、心を決めました。もちろん、私もです」


ヒサメもまっすぐとシンバを見つめて、一気に口を開いた


「姉が言う通り、シルヴィ殿の剣舞は目を見張るものがあります。一緒に訓練していて本当に楽しいのです。兄カインとの手合わせが終わりましたら、北方最強の腕前をぜひ私にもご教授ください」


シンバは唖然としながらガルハートに聞く。


「なあ、ガルハートよ。武門の家系と聞いてはいたが、あのふんわりした姉さんも小柄な娘っ子も。……あの姉妹、ただ者じゃねぇな。何者だ、あれは。」


「ガハハ、さすがにお前なら分かるだろうな。あの二人は、王国の天下十剣だ。カインと違って剣では、まるで侮れねえな。だが、カインは武門の家に咲いた徒花だ。あいつの強さは、そんなところじゃねぇ。」


ガルハートの言葉にシンバは複雑そうな表情をすると、少し空を仰いでから、カインを見据えた。


「待たせたな、カイン。北方流の挨拶ってやつを見せてみろ」

シンバは片腕ながら、その立ち姿だけで“北方最強”の名に恥じない威圧感を放つ。


「……ご武運を、カイン様」


シルヴィはカインの手を軽く握り、その傍を離れる。それを見るシンバは、親として娘の成長を垣間見た嬉しさと、何とも言えない寂しさの微妙な気分になった。


カインは、両手で自分の頬をはたき、一度強く剣を握るとシンバを見据えた。


ザルカスが静かに合図を送る。


「――始め。」


◇◇◇


ザルカスの合図が終わるや否や、一瞬にしてシンバが踏み込んだ。すさまじい踏み込みに瞬間、空気が爆ぜた。


「ッ……!」


カインは反射的に剣を構え、シンバの斬撃を受け止める。

左手のみというハンデを感じさせない、全身を使った、重くも絶え間ない連撃が、カインに襲い掛かる。


重い。

速い。

鋭い。


メイもヒサメも、スターレ家の剣には無いシンバの動きに圧倒される。戦場のみでしか生まれない異形の隻腕剣がここにはあった。



だが――カインの心は折れない。


攻撃をすべて捨てて、防御に徹するカイン。

氷の涯との一戦、最強の法力僧であるグレゴとの対峙は、カインの剣士としての立ち位置を大きく成長させていた。


必殺ともいえる獅子の連撃を耐えに耐える。


シンバは目を細めた。


「ほう……?」


カインは攻撃しない。守って、守って、守り抜く。

その姿勢は、まるで“シルヴィを守る”という意志そのものだった。


「……弱くはない。確かに。」


カインは息を荒げながらも、一歩も退かない。


「……僕は……攻撃より……守る方が……得意なんです……!」


シンバは改めてカインを見据えた。

息も絶え絶えのカインの防御は、疲労の為に綻びつつあった。


「攻めずに姿勢だけを見せて、俺の心を折るつもりか。……だがそこまでだ。」


シンバの気配が変わる。本気の殺気が立ち上がり、カインに向かい収束した。

全身を使った獅子の連撃が、再びカインに咢を開いた。


「腕の一本、もらうぞ。」


「シルヴィ、今だ!」


その瞬間――


シンバの背後で風が鳴った。


「――っ!」


シンバが振り返るより早く、

シルヴィの短剣が背中へ迫る。


「父様、ごめんなさい!」


シンバは驚愕に目を見開く。


その一瞬の隙をカインは逃さなかった。


「はあああッ!!」


カインの剣先が、シンバの首筋にピタリと触れた。


完全な“勝ち”の形。


シンバは動けない。

シルヴィの短剣は背中に、カインの切っ先は喉元に。


ザルカスが目を細める。

ガルハートは腹を抱えて笑った。


「ガハハッ! やりやがった!」


シンバが何か言う前に、カインが静かに口を開いた。


「……僕は“全力で”と言いました。」


カインは剣を下げずに続ける。


「剣の“全力”を尽くし、

我が妻シルヴィと“全力で”策を練り、あなたに一矢報いました。」


シルヴィは短剣を下げ、父の背中を見つめる。


カインは言い切った。


「こうやって僕は彼女を守ります。

 守るためには――勝つしかないのです。」


沈黙。


やがて、シンバはゆっくりと息を吐いた。


「……お前の“全力”には、策も含まれているのか。」


カインは頷く。


「はい。」


シンバは笑った。


「確かにお前の“全力”だ。嘘はない。」


ザルカスが腕を組んだまま言う。


「俺は事前に伝えただろ。

この若君はお前よりも兵の使い方が巧みだと、俺たちの仲間だと。

 こういう事も出来る方だから、シルヴィとの婚姻を認めたんだ」


ガルハートは豪快に笑う。


「ガハハ! 詭弁も卑怯もねえ。死人に口なしは傭兵家業の華みたいなもんだろ。

雨降って地固まるってやつだな!」


シンバはゆっくりと立ち上がり、カインの肩を叩いた。


「……認める。お前の方がよっぽどか傭兵らしい。

生まれ育ちは関係ない、生き残ったやつが強いんだ。今日の俺はお前に生かされた。

理屈じゃねえ。シルヴィを頼んだぞ、カイン」


カインは深く頭を下げた。


「はい。必ず」


北方の空に、静かに雪が舞い始めていた。


いつもご愛読いただいありがとうございます。

別作品の紹介

現代ファンタジーの皮をかぶった人情噺のハイブリッドコメディ

重力1/100 〜コンテナ暮らしの宇宙人は世界を救う神らしい〜

https://ncode.syosetu.com/n7660me/

火木金の週3投稿です。

皆さんのご声援が有れば、上記より頑張ります。

どうぞ気軽にご一読ください。

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