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傭兵王はガハハと笑う 〜え、半裸のろくでなしが伝説の英雄!? 木刀一本で全てをガハハと解決する、笑いと涙の人情無双ファンタジー〜  作者: 益城 茜


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北方編:鋼鉄の揺り篭 「金髪の獅子と二人の歌姫」

いつもお楽しみいただきありがとうございます。

嵐の前に楽しいお話を一つ差し込みます。

月、水、土曜 18時の週3回投稿になります。

月水土曜はガハハの日 お忘れなく。


ザウロンの花街の奥まった一角。


かつて娼館だった二階建ての建物は、鋼鉄の牙が営む酒場――「鋼の獅子亭」。


本来は鋼鉄の牙のセカンドハウスとして、ギルドの会議や他クランとの打ち合わせ、町の有力者との会合に使われている。

そのため、一階は娼館時代の名残でやたらと広い。高い天井、磨かれた床、壁に掛けられた古いランプ。二百人は優に座れる卓と椅子が並び、奥には大きな厨房。

二階は牙のメンバーが宿泊する“家”になっている。


本来なら、傭兵が経営する酒場など堅気の町衆は寄り付かない。

カンナ目当ての傭兵や国境警備の兵が酒を飲む、荒っぽい場所――それがこの店の姿だった。


だが今は違う。

広いホールは人々のざわめきと料理の香ばしい匂いで満ちていた。


到着してからというもの、ガルハートは二階で寝てばかりいた。


「働かざる者は食うべからずだよ、ガルハートおじちゃん」


そんな彼を見つけたカンナが、満面の笑みで黒いエプロンを押し付けたのが始まりだった。

そのホールを、ガルハートとザルカスが忙しなく駆け回っている。


「ガルハート殿、そっちは肉盛り三つだ」


「分かってる。……皿が足りねぇぞ」


二人のやり取りは、まるで昔に戻ったかのように自然だった。


厨房では三人の女たちが鍋を振っていた。


王国でも名高い酒場「赤い月亭」の跡継ぎ・ミーナが指示を飛ばし、リノンとシルヴィが手足のように動く。

リノンは気位が高いのだが、料理はガルハートのために長く研鑽してきた腕前。

シルヴィもスターレ家での花嫁修業で厨房に立つことが多く、動きは軽やかだ。


「川魚のハーブ焼き出来たわよ。早く運んで、お猿さん」

「ミーナさん、煮込みできました!」

「味見させて……うん、いいわ。シルヴィ、次はパンを温めて」


シルヴィは慣れた手つきで動きながらも、時折ホールの方へ視線を向ける。

そこには――父の親友であり、鋼鉄の牙の“師”だった男、ガルハートがいる。


大柄な体で複数の皿を抱え、熟練の給仕のように人混みをすり抜けていく。

ザルカスも要領よく皿を下げ、飲み物の注文を取っていた。


その後ろでは、カインとヒサメが言い争いながらテーブルへ駆けていく。


「僕が呼ばれたんだ!」

「呼ばれてませんよ、小太りの兄様なんて!」


客たちはそのやり取りを面白がり、何度も二人を呼びつけては注文を繰り返す。

この小太りの給仕と小柄な娘が、まさか異国の王族だとは誰も思わない。


料理は旨く、居心地も良い。

一行が到着して二日目には、店はザウロンでも指折りの賑わいを見せていた。


だが――

この繁盛には、もう一つ決定的な理由があった。


二人の歌姫の存在である。


◇◇◇


一行が到着したその夜、鋼の獅子亭のカウンターにて。


「ガルハートおじちゃん、久しぶりにあたしの歌う新曲、作ってよ」


カンナが身を乗り出し、黒い瞳を輝かせる。

ガルハートは酒杯を置き、天井を見上げて鼻で笑った。


「……酒場の歌なんて作ったことねぇぞ」


そう言いながらも、彼はふと目を細め、胸の奥に沈んでいた何かを掬い上げるように――

小さく、鼻歌を漏らした。


軽やかで、どこか懐かしい旋律。

北方の風の匂いと、街角の記憶が混ざったような音。


その瞬間、カウンターの端でスターレ家への外交報告書を纏めていたメイが顔を上げた。


「ガルハートさん……今の、歌になりますよね~?」


「え、え? ガルハートおじちゃん、今のもう一回!」


カンナも身を乗り出し、二人に挟まれたガルハートは観念したように肩をすくめた。


「……勝手にしろよ」


こうして生まれたのが――


「牙の娘と白銀の貴公子」


メイは、すぐに歌詞をつけ、カンナと二人で旋律を整え、その日のうちに練習を始めた。


「メイ、ここは二拍伸ばして!」

「カンナさん、ここの和声は低音を強調してくださ~い」


二人の声が重なるたび、厨房の空気が震え、皿を洗う音さえ止まる。


ミーナが手を止め、リノンが目を丸くし、シルヴィが息を呑む。


「……これ、歌えますね~」


「うん。これ、絶対ウケる」


二人は顔を見合わせ、同時に頷いた。


そして――


本気で歌い始めた。

その瞬間、花街の空気が変わった。

歌はホールを満たし、 扉を抜け、花街の通りへと流れ出す。


通りを歩いていた娼婦が足を止め、 酔った傭兵が振り返り、 露店の親父が鍋をかき混ぜる手を止めた。


「……鋼の獅子亭から聞こえるぞ」


「歌姫がいるって噂、本当だったのか?」


「傭兵がやってるおっかねえ店って聞いたけど、行ってみるか」


一人、また一人と、 花街の人々が店へ吸い寄せられていく。

歌はさらに広がり、 花街の外へ、 城壁の方へ、 ザウロンの夜空へと響き渡った。


帝国軍の国境警備の詰所でも、若い兵が耳を澄ませた。


「……なんだ、この声……」


「行ってみるか?」


「いや、勤務中だぞ……」


「ちょっとだけだ。ちょっとだけ」


兵士たちまでが、吸い寄せられるように花街へ向かう。


その夜―― ザウロンでは、 “鋼の獅子亭に二人の歌姫がいる” という噂が一気に広がった。


◇◇◇


翌朝。 ザウロンの街は、いつもより早くざわついていた。


花街の通りを歩けば、 露店の親父がパンを焼きながら、昨夜の歌を鼻歌でなぞっている。


「♪ 牙の娘が~、細い縁をたどり~……」


「おっちゃん、それ昨日の歌か?」


「そうだよ。鋼の獅子亭の歌姫が歌ってたやつだ。耳から離れねぇんだ」


娼婦たちも、朝の支度をしながら口ずさんでいる。


「白銀の鎧の貴公子が~、娘の手を取って~……」


「ちょっとアンタ、声綺麗じゃん」


「違う違う、あの歌が良すぎるのよ」


傭兵たちは武具を磨きながら、昨夜の歌の“物語”を語り合っていた。


「昨日の歌、聞いたか?」


「牙の娘が、無実の罪で捕まった父ちゃんを助けに行くんだよな」


「で、細い縁をたどって出会うのが――あの小太りの警邏の男だ」


「最初はビビってたのにな。娘の必死さに押されて一緒に戦うんだよ」


「悪漢どもをぶっ飛ばすところ、鳥肌立ったわ」


「娘は牙の血で強ぇし、男は勇気振り絞ってよ。あれは良かった」


「で、父ちゃん助けて、三人で抱き合うんだよな」


「そこでもう泣いた」


「でも一番すげぇのは最後だろ」


「別れの日に、あの小太りの男が白銀の鎧着て現れるんだよな」


「『私はこの街の領主の息子、王族の一人だ』ってやつか」


「娘にプロポーズしてよ。身分違いの恋が実るんだ」


「傭兵の娘が王族に嫁ぐって、夢があるよなぁ」


娼婦も、傭兵も、商人も、兵士も――誰もが昨夜の歌を口ずさみ、

誰もがその物語を語り、誰もが“牙の娘と白銀の貴公子”の話題で盛り上がっていた。

ザウロンの街は、完全に “歌の街” になっていた。


◇◇◇


それからの鋼の獅子亭は、 歌の余韻がまだ残っているかのように、営業前の昼間から異様な賑わいになった。連日、花街の通りを抜け、市場まで長い長い行列が出来ていた。

行列のすべてが、歌を聴くために集まった人々だった。


「おい、そこ邪魔だ!営業は夕方からだぞ」


あまりの行列に、ザルカスも思わず語気を荒げた。


花街の娼婦、傭兵、商人、帝国兵まで入り混じり、待ちきれずに屋台の手売り酒を飲む者までいる始末だから仕方ない。

そんな混雑の中―― ひとりのギルド職員が、汗だくで人をかき分けていた。


「す、すみません……通してください……!  ギルドの者です、通してください……!」


だが、誰も道を開けない。

歌の話題で盛り上がる客たちの声が渦を巻き、 職員の声はほとんどかき消されていた。


「おい、あんた! 足踏むなよ!」


「す、すみませんっ……!」


職員は半ば泣きそうな顔で、 人の肩と背中の隙間を縫うように進む。


ようやく酒場の前で行列の整理をしていたザルカスの背中が見えた。


「ザ、ザルカス殿っ!!」


ザルカスは振り返り、 汗だくで書類を抱えた職員を見て眉をひそめた。


「……どうした。騒がしいな」


「ど、どうしたじゃありません!  正式通達です! アルカディアからの……!」


ザルカスの表情が一瞬だけ固まる。ガルハートも、仕込みの食材を両手に抱えたまま足を止めた。


「……アルカディアから?」


職員は息を切らしながら、 封蝋の押された厚い書簡を差し出した。


「は、はい……!  “鋼鉄の牙”へ、至急の通達とのことです……!」


ザルカスは書簡を受け取り、 封蝋に刻まれた紋章を見て目を細めた。紋章は、先日と同じアルカディア教国のものだった。

「……なるほど。どうやら、向こうの準備が出来たようですな。ガルハート殿」


二人は酒場のカウンターに戻った。

ガルハートは食材を置き、静かにザルカスの横へ立つ。シルヴィも、厨房から顔を出して固唾を飲む。カインとヒサメは、 客の注文を忘れてザルカスの手元を覗き込んだ。

ザルカスは封を切り、 書簡を開いた。


そして―― 低く、重い声で告げた。


「……本日より五日後、“鋼鉄の揺り籠”にて、ライナル王国スターレ家領主代理ガルハート殿との正式交渉を行いたい、だと」


ガルハートは目を細め、先を進めるように促す。

そしてザルカスは、 書簡の最後の一文を読み上げる。


「立会人として――スターレ家より、カイン殿、メイ殿、ヒサメ殿、鋼鉄の牙より、シンバ、シルヴィ、そして俺を指名する、領主代行の随員二名も歓迎するとの事だ」


ザルカスが書簡を閉じた瞬間、ガルハートはふっと鼻で笑った。


「……向こうも、こっちも準備万端ってわけだな。 いいじゃねぇか。堂々と交渉してやろうぜ」


そう言って肩を回しながら、吹っ切れたような顔をしたと思うと、ガルハートは視線をそらし、声を少しだけ落とした。


「……ただよ。交渉より厄介なのは、鋼鉄の牙の連中に顔を合わせることなんだよなぁ……」


ザルカスが目を細める。


「何を今さら。貴方は“金色の獅子”で“金の傭兵王”でしょう」


「いや、それはそうなんだが……」


ガルハートは頭をかきながら、珍しく歯切れが悪い。


「……俺、あいつらに何て言えばいいんだ?

“久しぶり”で済むか?“悪かった”って言うべきか?

 それとも……何も言わずに殴られるか?」


カインが吹き出した。


「殴られる前提なんですか……!」


ヒサメも呆れたように肩をすくめる。


「ガルハート殿は、意外と気にしいなんですね」


シルヴィは、そんなガルハートを見て小さく笑った。


「……大丈夫ですよ。みんな、ガルハート様に会いたがりますよ」


ガルハートは照れくさそうに鼻を鳴らした。


「……そうだといいんだがな」


そして、前を向いた。


「ま、やることは決まった。五日後――堂々と鋼鉄の揺り籠へ行こうぜ。

 逃げも隠れもしねぇよ」


その言葉に、ザルカスも、シルヴィも、カインも、ヒサメも頷いた。


「話、盛り上がってるところで悪いけど、ガルハートおじちゃん。行列を何とかしないと」


カンナが苦笑いしながら、夕方の営業準備を進めていた。


「交渉事まではゆっくりしようと思ってたのに、なんでこんな風になるのかねえ」


ぽつりとつぶやいて、ガルハートは頭をかくと、妙な鼻歌を歌いながら、照れ隠しのように店の外へ出て行った。


鋼鉄の牙の“家族”が、再び揃う日が近づいていた。


いつもご愛読いただいありがとうございます。

別作品の紹介

現代ファンタジーの皮をかぶった人情噺のハイブリッドコメディ

重力1/100 〜コンテナ暮らしの宇宙人は世界を救う神らしい〜

https://ncode.syosetu.com/n7660me/

火木金の週3投稿です。

皆さんのご声援が有れば、上記より頑張ります。

どうぞ気軽にご一読ください。

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