北方編:鋼鉄の揺り篭 「金髪の獅子と教国の思惑」
いつもお楽しみいただきありがとうございます。
北方編も新たな展開です。
アルカディアサイドでも何やらきな臭い動きが……
お楽しみください。
次回からも月、水、土曜 18時の週3回投稿になります。
月水土曜はガハハの日 お忘れなく。
ザルカスの報告が終わり、酒場の空気が落ち着きを取り戻した頃。
ガルハートは腕を組んで言った。
「……まあ、向こうが受け入れ態勢になったら、ギルド経由で連絡が来る。
今すぐ揺り篭に向かう必要はねぇ」
カンナが頷く。
「そうだね。アルカディアも“歓迎”って言ってるなら、向こうから動くはずだよ」
ミーナが大きく伸びをした。
「じゃあ今日はもう休みましょうよ。あたし、旅の疲れで肩がガチガチよ」
リノンも優雅に微笑む。
「ええ。夜も遅いですし、無理に移動する必要はありませんわ」
ガルハートは鼻を鳴らした。
「……宿探しは面倒だな。重装馬車で夜を明かすか」
シルヴィが心配そうに言う。
「でもガルハート様ほど大柄なら、馬車……狭いんじゃないでしょうか?」
「狭いんだよ。俺にはな」
ガルハートは肩を回しながら言った。
「それに……」
ぼそりと続ける。
「……リノンとミーナが迫ってくるから、野宿の方がマシだ。何なら道路で寝るわ」
「「はぁ?」」
次の瞬間、
バチン!
ゴスッ!
ミーナの拳とリノンの扇子が、同時にガルハートの後頭部に炸裂した。
「逃げてばっかりの癖に、この甲斐性無し!」
「“道路で寝る”なんて、私たちほどの女に迫られて逃げてるあたり、お猿さんなのよ」
ガルハートは頭を押さえながら呻く。
「いってぇ……! 冗談だよ冗談!」
カンナはその様子を見て、呆れたように笑った。
「……相変わらずだね、おじちゃん。でも、宿の心配ならいらないよ」
全員がカンナを見る。
カンナは親指で酒場の天井を指した。
「ここ、鋼鉄の牙の店だから。
元々は高級娼館だったんだよ。二階に部屋がたくさんあるし、今日は店を閉めて泊まっていけばいい」
ミーナが目を輝かせる。
「えっ、いいの!? ベッドで寝られるのね!」
リノンも満足げに頷く。
「カンナさん、ありがとう助かるわ」
カンナはふと、リノンとミーナを見比べた。
「……そういえばさ」
二人の顔をじっと見つめる。
「この二人、おじちゃんの“連れ合い”ってことは……
お嫁さんってこと?」
ミーナとリノンが同時に胸を張る。
「もちろんよ!」
「ええ、そういうことになるわね」
カンナは目を丸くした。
「え、ちょっと待って。
あたしと年そんな変わらないじゃん。……子供は?」
ガルハートは即答した。
「いねぇよ! 手も出してねぇよ!!」
ミーナが頬を膨らませる。
「散々迫ってるのに、ぜんぜん手出ししないの。お尻は触るのに。うちは両親も公認だから、出してくれてもいいのにねぇ?」
リノンが扇子で口元を隠しながら微笑む。
「そのうち、ね? ガル 」
ガルハートは真っ赤になって叫んだ。
「勘弁してくれ。本当、やめろっての!!」
カンナは一瞬だけ二人を見つめ、照れくさそうに笑った。
「……おじちゃんのお嫁さんなら、あたしの姉妹みたいなもんだよ。
改めて自己紹介だね。あたしは鋼鉄の牙のカンナ。ちょっと恥ずかしいけどザウロンでは“歌姫”って言われてる」
「わたしはミーナ。ガルの連れ合いで、スターレの街で赤い月亭って酒場の娘なんだ」
「私はリノン・ゴールドバーグ。このお猿の飼い主だけど妻でもあるわ。」
二人の名乗りにカンナは、大きく目を開く。
「赤い月亭の娘って、赤い月亭って“大陸の目”だよね。情報屋の本家本元でしょ?
それに、ゴールドバーグって……あのゴールドバーグ商会!?北方でも噂になる大商会じゃん。あそこは娘が会頭って聞いてるから…… あんたが“美しき銭ゲバ”?!」
「おじちゃん、どこかと戦争でもするの?
金の傭兵王と奥さん二人が居れば、小さな国なら降伏しちゃうでしょ 」
「そんな物騒な生き方はもうしねえよ。俺は穏やかに按摩でもしながら暮らしたいの!」
ガルハートは頭をかきながらため息をつく。
「……ほんと、勘弁してくれ」
そんなガルハートを笑いながらも、カンナはザルカスの方を向いた。
「……で、副団長。揺り篭、どんな状態になってんの?」
「団員は軟禁。
建物は“接収”って名目でアルカディアが占拠中だ」
「接収ねぇ……」
カンナは鼻で笑った。
「北方の家を勝手に乗っ取っておいて、よく言うわ」
ミーナが肩をすくめる。
「まあ、言葉を飾るのは得意よね、あの国は」
リノンが優雅に髪を揺らした。
「でも、丁重に扱われているというのは意外ね。普通なら、もっと乱暴に押さえつけるはずでしょう?」
ガルハートは短く答えた。
「……理由は分かってる」
全員がガルハートを見る。
ガルハートは眉間を押さえ、ため息をついた。
「“黄金の目”の女だ。
あの大使の身体を乗っ取った声……聖女メルツラってやつが、俺たちの動きを全部見てやがる」
シルヴィが身をすくめる。
「やっぱり……監視、されてるんですか……?」
「されてるだろうな」
ガルハートは酒場の天井を見上げた。
「気配を常に感知してるって話だ。
どこまで本当かは知らねぇが…… あの目は“見てた”。間違いねぇ」
カンナは眉をひそめた。
「……おじちゃん、あんた本当に何したのよ。
聖女様に目ぇつけられるなんて、普通じゃないわよ」
「知らねぇよ」
ガルハートは肩をすくめた。
「大使との話し合いでは、ブラフ使って逃げられないようにしたのは間違いないが、結局は向こうが勝手に条件飲んで、勝手に歓迎してるだけだ。都合が良すぎて気味が悪りい」
カインが苦笑する。
「ガルハート殿は……本当に、巻き込まれ体質ですね……」
「巻き込まれてんのは俺だけじゃねぇだろ」
ガルハートはカインを横目で見た。
「お前もだ。巻き込んだ俺が言うのも何だがな、王族が北方の最前線に来るなんざ、前代未聞だぞ。断る事も出来たのに……」
カインは頬を赤くし、胸を張った。
「し、シルヴィのためですから!」
シルヴィは耳まで真っ赤になった。
ミーナがにやりと笑う。
「はいはい、ごちそうさまです、王子様」
「だから王子じゃないって……!」
ヒサメがくすりと笑う。
「でも兄様、ガルハート殿に会う前は、世間知らずの馬鹿な王子みたいな振る舞いでしたよ」
メイも、ふわりと微笑んでからぽつりと言う。
「自分以外の姉妹と比較して、ずーっと拗ねてましたからねぇ。弟ながらちょっぴり情けない振る舞いでしたよぉ。」
「姉様、ヒサメぇぇぇ……!」
カンナはそのやり取りを見て、ふっと笑った。
「……いいわね、あんたら。こういう空気、久しぶりに見た気がする」
ザルカスも言った。
「揺り篭に着いたら、もっと騒がしくなるぞ。
シンバもいる。団員もいる。……全員、待ってる」
カンナは真剣な顔で頷いた。
「取り返すんでしょ?あたしたちの家を」
ガルハートは短く答えた。
「――ああ。絶対にな」
その言葉に、全員の表情が引き締まる。
酒場の外を北方の夜風が、彼らの背中を押すように吹き抜けた。
◇◇◇
聖都アルカディア。
夜の静寂に包まれた聖女の間で、少女はひとり座していた。黄金の瞳が、ゆっくりと開く。
その視線の先には――
遥か北方の酒場で、仲間たちと笑い合うガルハートの姿。
「……黄金の番……」
その声は、祈りにも似て、呟きにも似ていた。
彼の周囲にいる女たちを見て、胸の奥がきゅっと締めつけられる。
(……また、あの赤い髪の女……
そして銀の髪の女……
どうして……どうして、あなたの隣に……)
嫉妬とも焦燥ともつかない感情が胸を焼く。
だが同時に、彼が生きていることに、彼が笑っていることに――
胸の奥が、温かく満たされる。
「……よかった……」
黄金の瞳がわずかに揺れた。
(……でも……
どうして、私の呼びかけに応えてくれないの……?)
彼の心に触れようとするたび、ガルハートの強固な精神は、
まるで“余人を拒むように”閉ざされている。
それが、彼女にはたまらなく寂しかった。
「……黄金の番。
あなたは……私の……」
言葉はそこで途切れた。
ただ――
その瞳は確かに“恋慕”の色を帯びていた。
そして、
その恋慕は既にアルカディア全土を揺るがしつつあった。
アルカディアの奥深く。僧正会の会議室には、重苦しい空気が漂っていた。
議事を仕切るのは、僧正会のまとめ役――セラフィナ大僧正長。高位僧侶の家系に生まれ、法力も学識も優れた才女である。
しかし聖女の相談役には、孤児出身ながら卓越した才と人徳を示したグレゴ大僧正が選ばれ、セラフィナはその座に届かなかった。
彼女は政治の表舞台を担う立場にありながら、心の奥底ではその決定を今も忘れられずにいる。
「……聖女様は、また“北方”を感応しておられる」
セラフィナの声に、会議室がざわめいた。
「やはり“番”の兆候か……」
「地母神の依り代が、ひとりの男に心を傾けるなど前例がない!」
「もし完全に結ばれれば、教国の均衡が崩れるぞ!」
セラフィナは手を上げ、会議室を鎮めた。
「静粛に……ゆえに、我ら僧正会の方針は三つだ」
僧正たちが息を呑む。
第一の方針は
ガルハートの身柄を抑えること。
聖女の精神安定のためにも、教国の統制のためにも、彼を野放しにはできない。
第二の方針は
ガルハートと僧正会の協力体制を築くこと。
敵に回すより、味方にした方が安全。聖女の“番”であるなら、なおさらだ。
第三の方針は
聖女が安定し、ガルハートが僧正会を理解するなら――
聖女と共に“アルカディアの頂点”に立ってもらう。
地母神の神意に逆らわず、教国の権威を守り、聖女の暴走を抑える唯一の道。
僧正たちは静かに頷いた。
しかし、その沈黙の中に――ひとりの僧正が、震える声で問いを投げた。
「……セラフィナ大僧正長。もし……もしもですが……」
彼女が目を細める。
「言え」
「聖女様が……安定しないまま“番”に呑まれた場合は……どうなさるおつもりですか?」
会議室の空気が、一瞬で凍りついた。
誰もが口を閉ざす中、セラフィナだけが、静かに目を閉じた。
そして――重く告げた。
「……その時は、新たな聖女を立てる。」
僧正たちが息を呑む。
「アルカディアの歴史を紐解けば、地母神の依り代は、ひとりとは限らなかった。
教国の均衡を守るためならば――避けては通れぬ道だ」
その言葉は、恐怖と冷酷さを帯びて会議室に落ちた。
教国の均衡を守ると言った言葉の奥底で――
セラフィナ自身の野心が、静かに膨らみ始めていた。
彼女の瞳には、グレゴを超えたいという欲望と、“新たな聖女”を立てる未来への危険な光が宿っていた。
いつもご愛読いただいありがとうございます。
別作品の紹介
傭兵王は立場は違えど悪人のいない世界での人情噺をモットーにしてますが、
悪意と野望の中で生きるスーパーピュアボーイの巻き起こす人情噺を作りました。
重力1/100 〜コンテナ暮らしの宇宙人は世界を救う神らしい〜
https://ncode.syosetu.com/n7660me/
火木金の週3投稿です。
皆さんのご声援が有れば、上記より頑張ります。
どうぞ気軽にご一読ください。




