北方編:鋼鉄の揺り篭 「金髪の獅子と素晴らしき仲間」
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北の激戦区で静かに反撃が始まります。
お楽しみください。
次回からも月、水、土曜 18時の週3回投稿になります。
月水土曜はガハハの日 お忘れなく。
カンナの全力ビンタで横を向いたままのガルハートに、酒場中の視線が集まっていた。
カンナは胸ぐらを掴んだまま、さらに顔を近づける。
「で? あんた、説明してもらうわよ。まず――シルヴィ。なんで王国の貴族と一緒にいるの?」
シルヴィはビクッと肩を震わせたが、すぐに姿勢を正した。
「え、えっと……カイン様は、スターレ家のご嫡男で……その……」
「ご嫡男ん?」
カンナはカインを上から下まで見て、目を細めた。
「……小太りの?」
「そ、そこは関係ないでしょうカンナ姉さんっ!」
シルヴィが真っ赤になって抗議し、カインは「また小太り……」と小声で落ち込む。
メイとヒサメは口元を押さえて笑いを堪えていた。
カンナは「まあいいわ」と手を振り、次の矛先を向ける。
「で、ザルカスはどこ行ったのよ。あの堅物が、おじちゃんをほったらかしなんて珍しいじゃない」
ガルハートは気まずそうに視線を逸らした。
「……ギルドだ。先触れを出しに行った」
「先触れぇ?」
カンナは眉をひそめる。
「クランハウスの下見のためだ。アルカディアに接収されてる。なら勝手に見に行くわけにはいけねえだろ」
ガルハートは答えず、ただ黙って酒場の床を見つめた。
その沈黙に、カンナは「ああ、なるほどね」と鼻で笑った。
「回りくどいことして、鋼鉄の牙に合わせる顔が無いんでしょ?」
ガルハートの肩がわずかに揺れた。
その瞬間、ミーナが椅子を蹴って立ち上がった。
「ちょっとカンナって言ったよね! ガルは悪くないでしょ!
あんた、再会していきなりビンタして、今度は質問攻めってどういう了見よ……!」
赤い髪を揺らし、胸を張って怒るミーナ。情報屋らしい鋭い目つきでカンナを睨む。
続いて、リノンが静かに立ち上がった。その所作は優雅だが、瞳は氷のように冷たい。
「カンナさん。
うちのお猿さんに手を出すなら、飼い主である私を通しなさい。ね、ガル 」
その声に、酒場の空気が一瞬で引き締まる。
カンナは二人を見て、目を丸くした。
「……ちょっと待って。赤いのと銀の……あんたら、まさか――」
ミーナは胸を張り、リノンは静かに微笑んだ。
「ガルの連れ合いよ!」
「ええ。このお猿さんの“大家”であり“飼い主”でもあるわ」
「大家はともかく、飼い主ってなあ」
ガルハートが慌てて突っ込むが、ミーナとリノンは完全に“正妻ムーブ”でカンナを見下ろしていた。
カンナは額に手を当て、深いため息をつく。
「……いつの間にこんなハーレム作ってんのよ」
「押しかけて来るんだよ!」
ガルハートが即答すると、酒場中がどっと笑いに包まれた。
不満げに鼻を鳴らすとカンナは腕を組み、メイとヒサメへ視線を向ける。
「で、その貴族二人は何なの?」
メイは優雅に微笑み、スカートの裾をつまんで一礼した。
「私はメイ・アルマ・スターレ。小太りカインの姉であり、声楽の徒でもあります。ガルハートさんには、弟の命を救われた恩があるのです~」
ヒサメは軽く頭を下げた。
「ヒサメ・スターレです。カイン兄様の妹で、メイ姉様と私はライナル王国、天下十剣の位を頂いています。ガルハート殿とは……戦友、みたいなものです」
カンナは二人をじろじろと見て、ため息をついた。
「……おじちゃん、ほんとにいつの間にこんな人間関係作ったのよ」
「色々あったんだよ、お前も本当にあのチビッ子だったカンナかよ? 擦れやがって 」
ガルハートが再び叫ぶと、酒場中がまた笑いに包まれた。
カンナはようやく胸ぐらを離し、腕を組んでガルハートを睨む。
「……まあいいわ。でもね、ガルハートおじちゃん。
あたしは、あんたが帰ってきてくれて――本当に嬉しいんだから」
その言葉だけは、怒りでも皮肉でもなく、北方の女の“本音”だった。
ガルハートは照れくさそうに頭をかいた。
「……悪かったな、カンナ。心配かけた」
カンナはふんと鼻を鳴らし、笑った。
「心配したわよ。死んだかと思ったんだから」
その瞬間、酒場の扉が勢いよく開いた。
「待たせてすまない」
緊張を帯びた様子のザルカスが、息を切らせて酒場に入ってきた。
「鋼鉄の揺り篭の現状と、アルカディア側の対応について――ギルドから情報を得た」
酒場の空気が一気に張り詰める。
ザルカスは酒場の中央に立ち、皆の視線を受け止めた。その表情は、いつもの冷静さの奥に、明らかな“困惑”を滲ませている。
「……まず、鋼鉄の揺り篭の件だが――」
酒場の空気が一気に静まる。
「アルカディアは“接収”と言っているが、実態は違う。――団員の大半が、揺り篭の中に“軟禁”されている」
ミーナが椅子を蹴りそうな勢いで立ち上がる。
「軟禁!? やっぱり保護なんかじゃなかったのね!」
ザルカスは頷いた。
「ただし、扱いは丁重だ。暴力も拷問もない。むしろ“機嫌を損ねたくない”という態度すら感じた」
リノンが目を細める。
「……丁重に、ね。理由は?」
ザルカスは少しだけ言いにくそうに続けた。
「――ガルハート殿が来たことを、アルカディアは“歓迎”している。こちらが驚くほどの過剰な友好姿勢だ」
ガルハートは眉をひそめる。
「歓迎……? なんでだよ」
「分からん。だが、こちらが強気に出ても一切反発しない。むしろ“要求を全部飲む”つもりらしい」
ヒサメが小声で呟く。
「……アルカディアが、誰かに怯えているように見えますが、一体?……」
ザルカスは続けた。
「そして――協議の件だが」
皆の視線が集まる。
「アルカディアは、ガルハート殿が提示した“すべての条件”を受け入れた」
ミーナが目を丸くする。
「全部!? ガルが言ってた、あの無茶苦茶な要求を!?」
ザルカスは頷いた。
「スターレ家のカイン殿、メイ殿、ヒサメ殿。ガルハート殿の身内の女性二名。
そして――団長シンバ殿。これら全員を立会人として同席させるという条件」
リノンが静かに息を呑む。
「……それを、アルカディアが?」
「“即答で”飲んだ。
しかも――その承認は、“聖女メルツラ様の神意によるもの”と公式に通達された」
酒場がざわつく。
ガルハートは露骨に顔をしかめた。ザルカスは紙を広げ、震える指で示した。
「ギルドに届いた文書には、こう記されていた。“聖女メルツラ様は、北方の揺り篭にての会談を是とし、ガルハート殿の提示した条件をすべて受理された”」
メイが目を丸くする。
「……聖女様が、直接ですか……?」
ヒサメは眉をひそめた。
「でも……どうやって? 聖都は遠いはず……」
ザルカスは低く答えた。
「アルカディア側の説明では――“聖女様が外交の場にて神意を示された”とのことだ」
「……ああ、あの時の“アレ”かよ。大使の身体乗っ取って喋ってた、あの妙な声の女だろ。 ……ったく、勝手に条件まで飲みやがって」
「黄金の目……間違いねぇ。……聖女メルツラってんなら、なおさらタチが悪ぃ。」
ミーナが驚く。
「ガル、それ知ってるの!? 何それどういう――」
ガルハートは手を振って遮る。
「法力の何かだろが、説明なんざできねぇよ。ただ……あの時の“黄金の目”と同じだってのは分かる。気味の悪ぃほど、こっちを見てやがった」
ザルカスが頷く。
「……やはり、ガルハート殿は“何か”を見ていたのですね」
ガルハートは不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「さらに腑に落ちないのは――」
ザルカスは懐から一通の封書を取り出した。
「アルカディアの割印付きの正式文書が、昨日のうちにギルドへ届いていたという点だ。
受取人の宛名は……俺になっていた」
ミーナが目を見開く。
「昨日!? でもザルカスさんがギルドに行ったのは、今さっきでしょ?」
「そうだ。だが文書は“昨日の夕刻”に届いていた。 つまり――俺たちがここへ向かう前から、 アルカディアは我々の行動を把握していたことになる」
ヒサメが息を呑む。
「……まさか、監視されてるのでしょうか……?」
ザルカスは重く頷いた。
「アルカディア側の説明では、“聖女様は北方の気配を常に感知しておられる”とのことだ」
シルヴィが震える声で言う。
「じゃあ……私たちの動き、全部……?」
リノンが静かに言葉を継ぐ。
「――読まれていた、ということね」
ザルカスは真剣な表情で続ける。
「ガルハート殿。アルカディアは、あなたの提示した条件を“神意として”受理した。
そしてその文書は、我々が動く前に届いていた。これはつまり――」
ザルカスは言葉を区切り、皆を見渡した。
「我々の行動は、すでに“聖女メルツラ”に筒抜けである可能性が高い」
酒場の空気が凍りついた。
カンナは腕を組み、ガルハートを睨む。
「おじちゃん……あんた、何したのよ。なんで聖女様が、あんたの条件を即答で飲むのよ……」
「知るかよ。
俺はただ、スターレ家とシルヴィからのオーダーの為に動いてるだけだ。向こうが勝手に“歓迎”してるだけだろうが」
ザルカスは静かに告げた。
「……いずれにせよ、避けては通れません。協議は“揺り篭”で行われる。
団長シンバ殿も、必ず出席するとのことです」
ガルハートはゆっくりと立ち上がり、北方の風のように冷たい声で言った。
「――なら行くしかねぇだろ。俺たちの家と仲間を取り返すためにな」
ザルカスの報告が終わり、酒場の空気が重く沈む中――
カンナがふと、何かに気づいたように眉をひそめた。
「……ねぇ、ちょっといい?」
全員がカンナを見る。
「スターレってさ。
ライナル王国の大貴族でしょ? 王族なんでしょ?」
カインがビクッと肩を震わせ、メイとヒサメが苦笑する。
カンナは続けた。
「その“嫡男”が、なんでこんな血生臭い北方の酒場にいるのよ。
シルヴィの男だって言われても、王子様をこんな危ないとこに連れてくるのはおかしいじゃん」
シルヴィが真っ赤になり、カインは「王子ほどではないのです」と困惑した顔をする。
ザルカスが静かに口を開いた。
「――男ではない」
カンナが目を瞬かせる。
「は?」
ザルカスは淡々と続けた。
「シルヴィは、スターレ家へ嫁入りするのだ」
酒場が一瞬で静まり返った。
「………………は?」
カンナの口がぽかんと開く。
「ちょ、ちょっと待って。 大クランの長女っていっても、王族に“嫁入り”って……
そんな成り上がり話、芝居や歌でも聞いたことないんだけど!?」
ミーナが「まぁ、そうなるわねぇ」と肩をすくめ、リノンは優雅に微笑んだ。
メイが胸に手を当てて言う。
「もちろん正式な婚約はこれからですが、シルヴィさんは弟の命の恩人ですし、
スターレ家としても歓迎してるんですよ~」
ヒサメも頷く。
「兄様は……その……小太りですが、誠実です」
「小太りは余計だろヒサメぇぇぇ……!」
カインが机に突っ伏す。
カンナは頭を抱えた。
「……いやいやいや……
あんた、いつの間にそんな大物になってんのよシルヴィ……!」
シルヴィは耳まで真っ赤にして、
「そ、そんな……わ、私なんて……!」と慌てふためく。
ガルハートは腕を組み、ため息をついた。
「……色々あったんだよ。俺が説明できるのはそこまでだ」
カンナはガルハートを睨む。
「色々ありすぎでしょ、おじちゃん!!どんだけ人生変わるイベント起きてんのよ!!」
酒場中がどっと笑いに包まれた。
酒場中の笑いがようやく落ち着いた頃。 ガルハートは、ふっと真顔に戻り、カンナの方へ向き直った。
「……カンナ」
呼ばれたカンナは、腕を組んだまま顎を上げる。
「なによ、おじちゃん」
ガルハートは一拍置き、不器用でまっすぐな声で言った。
「色々……本当に色々あった。お前に心配も迷惑もかけた。――すまなかった」
カンナの目がわずかに揺れる。
ガルハートは続けた。
「それでも……頼みてぇ。揺り篭を取り返すのに、お前の力が必要だ。鋼鉄の牙の仲間を救うのに……お前の手が欲しい」
カンナはしばらく黙ってガルハートを見つめていた。 その瞳には、怒りでも呆れでもなく
―― 幼い頃から知る“金の獅子”への、深い信頼が宿っていた。
そして、ふっと笑う。
「……ほんっと、おじちゃんは。昔からそう。勝手にどっか行って、勝手に大事なこと抱えて来るんだから」
ガルハートは気まずそうに頭をかく。
カンナは立ち上がり、ガルハートの胸を拳で軽く叩いた。
「でも――帰ってきて、ちゃんと“頼む”って言ったのは偉いわよ、おじちゃん」
そして、にやりと笑う。
「鋼鉄の牙のカンナを舐めんな。あたしはおじちゃんの味方だよ。揺り篭も、仲間も、全部取り返す。――一緒にね」
ガルハートは、照れ隠しのように鼻を鳴らした。
「……助かる」
その瞬間、酒場の空気が再び熱を帯びた。 北方の風が吹き抜けるような、戦いの前の静かな高揚。
ミーナが笑い、リノンが微笑み、 シルヴィは涙ぐみ、 カインとメイとヒサメは誇らしげに頷いた。
そして―― 鋼鉄の牙の仲間たちを救うための、反撃が静かに始まった。
いつもご愛読いただいありがとうございます。
別作品の紹介
傭兵王は立場は違えど悪人のいない世界での人情噺をモットーにしてますが、
悪意と野望の中で生きるスーパーピュアボーイの巻き起こす人情噺を作りました。
重力1/100 〜コンテナ暮らしの宇宙人は世界を救う神らしい〜
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火木金の週3投稿です。
皆さんのご声援が有れば、上記より頑張ります。
どうぞ気軽にご一読ください。




