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傭兵王はガハハと笑う 〜え、半裸のろくでなしが伝説の英雄!? 木刀一本で全てをガハハと解決する、笑いと涙の人情無双ファンタジー〜  作者: 益城 茜


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北方編:鋼鉄の揺り篭 「金髪の獅子と酒場の歌姫」

いつもお楽しみいただきありがとうございます。

過去の思い出が終わり、本編再始動です。

さてガルハートは自身の過去とどのように向き合うか

お楽しみください。

次回からも月、水、土曜 18時の週3回投稿になります。

月水土曜はガハハの日 お忘れなく。

アルカディア聖都の最奥――。


白亜の大聖堂に併設された「聖女の間」は、夜気すら凍らせるほどの静寂に包まれていた。

その中心で、黄金の瞳を宿した少女が胸元を押さえ、震える息を漏らしていた。深夜にもかかわらず、法力の光が脈動し、薄闇を淡く照らしている。


聖女メルツラは、まるで恋文を読み返す少女のように胸元を押さえ、陶酔した声を漏らした。


「……また、動いたわ。黄金のつがいが……あの人が、北へ向かっている……」


その声音は、神意を受けた巫女のそれではない。

地母神の“煩悩”――その危うい欲望を、純粋すぎる依り代の少女がそのまま受け取ってしまった結果だった。


背後で控えていたグレゴ大僧正は、こめかみを押さえながら深く息を吐いた。

氷のこおりのはてを統括する彼女は、聖女の側近であり、同時にアルカディア政治の中枢を担う重鎮でもある。


「……聖女。お気持ちは分かりますが、まさかご自身が北方へ向かうなど、前代未聞です。外交の場に元首が出向くなど、政敵に餌を与えるようなものですよ」


「でも……行きたいの。あの方を、この目で……」


メルツラは頬を染め、両手を胸の前で組んだ。

その姿は、神の代弁者というより、恋に落ちた少女そのものだった。


グレゴは肩を落としつつも、その瞳の奥にだけ微かな熱を宿していた。


(……まったく。私まで胸がざわつくなんて、どうかしている)


黄金の番――ガルハート。

北方の激戦区では金の傭兵王と呼ばれ、一騎当千の武と、スターレ家と共に経済包囲網を食い破った知略を併せ持つ男。

出生は不明。不可視の部分を多く抱えた危険な存在。


そして、地母神の“娘”である世界樹の番として選ばれた、神秘の理を宿す者。


その名を思い浮かべるだけで、胸の奥が熱を帯びるのを、グレゴ自身も否定できなかった。


「……聖女。せめて今は、私との感応で我慢なさい。あなたが彼を追えば、僧正会が黙っていません」


その言葉に、メルツラの表情が曇る。


アルカディア内部では、すでに激しい政治の渦が巻き起こっていた。

僧正クラスの者たちは皆、黄金の番の存在を感応している。

そして最大派閥である僧正会は、聖女の独断を危険視しつつ、別の思惑を抱き始めていた。


――ガルハートを、地母神教に迎え入れるべきだ。


聖女のカリスマに対抗しうる“新たな象徴”。

彼をアルカディアの庇護下に置き、地母神の正統なる“番”として祭り上げるべきだという声が、日に日に強まっている。


「聖女一人にこの大事を託すのは危険だ」

「黄金の番は、教国全体の象徴として扱うべきだ」


そんな建前の裏に、僧正たちの野心が透けて見える。


メルツラは唇を噛みしめた。


「……あの人は、地母神様の“番”となるべきなのよ。それを世界樹なんて枷を嵌められて……ずっと、ずっと孤独だったはず。私が行かなきゃ……誰が救うの……?」


その呟きは、神意ではなく、地母神の煩悩をそのまま受け取った少女の恋慕だった。


グレゴは静かに歩み寄り、聖女の肩に手を置いた。


「……聖女メルツラ。あなたの想いは理解します。ですが、今はまだ動くべき時ではありません。

――せめて、私との感応で彼を“視る”だけにしておきなさい」


メルツラは涙を滲ませながら、こくりと頷いた。


その瞬間、二人の間に淡い法力の糸が張り、遠く離れた北方の気配が流れ込んでくる。


黄金の獅子のような気配。

世界樹の残光。

そして、地母神の煩悩を刺激する、あまりにも強い“理”の匂い。


メルツラは震えた。


「……ガルハート……。待っていて……必ず、迎えに行くから……」


グレゴはその横顔を見つめ、胸の奥で小さく舌打ちした。


(……まったく。あの黄金の番、どれだけ女の心を乱せば気が済むのかしら)


だがその舌打ちは、嫉妬ではなく――

自分自身もまた、彼の存在に心を揺らされているという、苦い自覚の音だった。


◇◇◇


アルカディア聖都――

白亜の大聖堂のさらに奥、一般の信徒は決して足を踏み入れられぬ禁域。

そこに、僧正階級のみが集う円卓の間があった。


壁面には地母神の巨大なレリーフが刻まれ、燭台の炎がゆらりと揺れるたび、まるで神が息をしているかのように影が蠢く。

その中央で、最年長の僧正が杖を突き、低く告げた。


「――黄金のつがいが、北方へ向かったそうだな」


ざわり、と空気が揺れた。僧正たちは互いに視線を交わし、しかし誰も驚きはしなかった。

彼らもまた、感応を持つ者たち。地母神の“煩悩”が揺れ動くたび、胸の奥に微かな熱が走るのを感じていた。


「聖女メルツラ様は、また“お心”を乱されておられるとか」


「乱されている、では済むまい。あれは……恋慕だ。地母神の煩悩を神意と誤認した、危うい陶酔だ」


「この大事を、聖女お一人に委ねるのは危険だ。

 ――黄金の番は、アルカディアが迎えるべき“新たな象徴”だ」


その言葉に、円卓の空気が一段と重くなる。


「聖女のカリスマは確かに絶大だ。しかし、あの方は若い。

 地母神の声を聞きすぎるあまり、己の感情と神意の境界が曖昧になっている」


「ならばこそ、我ら僧正会が導かねばならぬ。

 黄金の番――ガルハート殿を、正式に地母神教へ迎え入れるべきだ」


「“世界樹の番”などという枷に縛られたままでは、彼の力は活かせぬ。

 地母神の真なる番として、我らの庇護下に置くべきだ」


「聖女様は反対なさるだろうな。あの方は……あまりにも、彼に心を寄せすぎている」


「だからこそ、だ」


最年長の僧正が杖で床を叩いた。乾いた音が、会議の空気を切り裂く。


「聖女メルツラ様は、地母神の依り代としては優秀だ。

だが、政治の場では“少女”に戻ってしまう。黄金の番を前にした時など、特に顕著だ」


「……僧正会としては、どう動く?」


「決まっておろう。

 ――ガルハート殿を“アルカディアの正統なる番”として迎える準備を進める」


「聖女様の独断を抑えるためにも、か?」


「そうだ。聖女の暴走は、アルカディアの弱点となる。

 地母神の煩悩に振り回される元首など、政敵にとって格好の餌だ」


僧正たちは頷き合う。


「氷の涯の統括であるグレゴ大僧正は、どう動く?」


「……あの女は、聖女様に忠誠を誓っている。

 だが同時に、黄金の番の価値も理解している。――揺らぐだろうな」


「ならば、こちらへ引き込む余地はある」


「いずれにせよ、聖女様が北へ向かうなど論外だ。元首が外交の場に出向くなど、前代未聞。

 我らが止めねばならぬ」


最年長の大僧正が、静かに結論を下した。


「――黄金の番は、聖女のものではない。アルカディアのものだ。地母神のものだ」


その言葉は、まるで神託のように重く響いた。


燭台の炎が揺れ、壁のレリーフが微笑んだように見えた。

まるで地母神自身が、“奪ってみせよ”と囁いているかのように。


◇◇◇


北方国境の要害ザウロンは、かつての戦火の名残をわずかに残しながらも、どこか懐かしい空気を漂わせていた。


重装馬車の列が石畳を軋ませて進む。

 先頭の馬車から降り立ったガルハートは、北風を胸いっぱいに吸い込み、ふと視線を遠くへ向けた。


「……おい、ザルカス。あそこに森なんざあったか?」


指差した先――

 かつて帝国軍六〇〇〇を迎え撃った、あの荒涼たる平原。


そこには、記憶にない“深い森”が広がっていた。


ザルカスは目を細め、苦笑を浮かべた。


「……あれは、貴方が帝国軍を退けてからですよ。あの一帯の植生が一気に豊かになりましてね。十年も経たずに森になったんです。まったく……何があったのやら」


その視線は、明らかにガルハートへ向けられていた。


ガルハートは鼻を鳴らし、肩をすくめた。


「さぁな。俺に聞くな」


だが、その声音には珍しく“歯切れの悪さ”があった。


カインが首をかしげる。


「ガルハート殿、どうかしたんですか?」


「……いや、別に。ただ……今日は妙にケツが痛ぇんだよ。重装馬車のクッションが柔らかすぎてな。宿を取るぞ。ザウロンの酒場とギルドで情報を集めてぇ」


ガルハートらしからぬ慎重な言葉に、シルヴィとザルカスが同時に目を見合わせた。


(……ああ、これは)


ザルカスは心の中でため息をついた。


(鋼鉄の牙に合わせる顔が無いと言っていたからな……。遠慮しているのだろう)


そんな空気を読んだザルカスが、場をまとめるように口を開いた。


「では、まずギルドに依頼を出しましょう。カイン殿とシルヴィ殿がクランハウスの様子を見に行く件、アルカディア側にも先触れを出した方が間違いありません。私がギルドへ行ってきます。皆さんは酒場で待っていてください」


カインとメイ、ヒサメも頷いた。


「公式な交渉の場になる以上、下見に行っても問題ないはずだ」

「そうですね。兄上のおっしゃる通り、先触れを出せばアルカディアも文句は言えないでしょう」


シルヴィが一歩前に出て、胸を張った。


「では、私が案内します。鋼鉄の牙がよく使っていた酒場があります」


ザウロンの街に入ると、シルヴィはまるで“この街の顔”のように、次々と挨拶を受けた。


「おお、シルヴィちゃんじゃねぇか! 無事だったのか!」


「お帰り! ……って、その隣の小太りの兄ちゃんは誰だ?」


二度見されるカイン。


「……小太り……?」


「気にしないで、カイン様。この街の連中は物見高いし、荒っぽい家業の奴らばかりで口が悪いの」


メイが肩を震わせて笑い、ヒサメは「ぷっ」と吹き出した。


やがて、酒場の扉を押し開けると――

 店内には、緑の髪をした美女が情感たっぷりの歌を響かせていた。その声は、澄み切った水のようで、聴く者の胸を震わせる。


「……すばらしい!発音や音程の抑揚も一切濁りがありません。 王都にも、これほどの歌い手はなかなか居ませんねぇ……!」


メイが思わず両手を胸に当て、感嘆の声を漏らした。このような戦地の酒場にあまりにも不釣り合いな技量に、声楽の徒である立場から思わず出た言葉だった。


歌い終えた美女に向かって、シルヴィが大きく手を振る。


「カンナ姉さーん!」


緑髪の美女――カンナは、驚いたように目を丸くし、慌てて駆け寄ってきた。


「シルヴィ!? 無事だったのね! よかった……!」


そして隣のカインを見るなり、にやりと笑った。


「……あんたにも春が来たか。あたしの春はまだまだ遠いってのに。とほほ」


「か、カンナ姉さんっ……!」


シルヴィが真っ赤になる。


だが、カンナの視線がテーブルの奥へ向いた瞬間――

 彼女の表情が一変した。


「……あ?」


次の瞬間。


「ガルハートおじちゃんッ!!」


バチィィィン!!


酒場中に響き渡る、全力ビンタ。


ガルハートの顔が横に吹っ飛ぶ。


「ぶっ……!」


ミーナとリノンが同時に立ち上がった。


「ちょっと! 何するのよアンタ!!」


「うちのガルに手を上げるなんて、ただじゃおかないわよ!」


ヒサメは目を丸くし、メイは「あらあら」と微笑む。


カインとシルヴィは慌てて間に入ろうとするが――

カンナはガルハートの胸ぐらを掴み、ぶんぶん揺さぶった。


「今までどこ行ってたのよ、このろくでなし!! 心配したんだからね、ガルハートおじちゃん!!」


ガルハートは、珍しく気まずそうに頭をかいた。


「……悪かったな、カンナ」


その声音は、どこか懐かしさと、申し訳なさを滲ませていた。


いつもご愛読いただいありがとうございます。

別作品の紹介

傭兵王は立場は違えど悪人のいない世界での人情噺をモットーにしてますが、

悪意と野望の中で生きるスーパーピュアボーイの巻き起こす人情噺を作りました。


重力1/100 〜コンテナ暮らしの宇宙人は世界を救う神らしい〜


https://ncode.syosetu.com/n7660me/

火木金の週3投稿です。

皆さんのご声援が有れば、上記より頑張ります。

どうぞ気軽にご一読ください。

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