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傭兵王はガハハと笑う 〜え、半裸のろくでなしが伝説の英雄!? 木刀一本で全てをガハハと解決する、笑いと涙の人情無双ファンタジー〜  作者: 益城 茜


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北方編:序章「獅子の胎動」7

いつもお楽しみいただきありがとうございます。

獅子の胎動編もラストスパートです。

月、水、土曜 18時の週3回投稿になります。

月水土曜はガハハの日 お忘れなく。


北方の風は、いつもより冷たかった。

鋼鉄の牙の小屋では、朝の支度が静かに進んでいる。薬草を刻む音、鍋の湯気、子供たちの笑い声。

――かつての荒んだ日々が嘘のように、穏やかな時間が流れていた。


だが、その静けさの底で、確かな“異変”が動き始めていた。


「……また帝国の遊撃か?」


見張り台から戻ったロッカが眉をひそめる。

鋼鉄の牙の中でも、ロッカは“目と耳”の役割を担う男だ。元は山賊崩れで、鼻が利き、足が速く、危険の匂いに敏感。見張り台に立つのは、いつも彼だった。


そのロッカが険しい顔をしている――それだけで、場の空気が引き締まる。


シンバとザルカスは顔を見合わせた。


「ガルハートがいる時だけ、だよな」


ザルカスが低く呟く。シンバも気づいていた。


ガルハートが“狙われている”。


ガルハート本人は、薪を割りながら淡々と言った。


「気にすんな。黒狼を倒したんだ。向こうも面子がある」


その声は軽い。まるで割れる薪の音よりも静かで、緊張の欠片もない。

最強ゆえの“揺るがなさ”だった。風向きが変わろうと、敵が増えようと、ガルハートの心は微動だにしない。その背中は、鋼鉄の牙にとって何より頼もしかった。


――変わったのは、周囲の方だった。


◇◆◇


あれから季節がひとつ巡った。


鋼鉄の牙は、かつての“食い詰めの寄せ集め”ではなくなっていた。

ギルドからの依頼は増え、報酬も跳ね上がり、仲間たちの顔つきも変わった。

その中心にいたのは、若きシンバだ。


黒霧の谷での経験を経て、彼は本来持っていた剣の才と統率力を惜しみなく発揮し始めた。

戦場では誰よりも冷静で、誰よりも速く判断し、誰よりも仲間を守った。


シンバは、弓使いのミルカとの間に子を授かった。


その知らせは、鋼鉄の揺り籠に小さな祝祭をもたらした。


ミルカは視力が異常に良く、皮肉屋だが情の深い女だ。

普段は仲間たちの軽口に毒を返す彼女も、この時ばかりは頬を赤らめていた。


「……そんなに見んなっての。照れるだろ」


だが、子供たちは遠慮がない。


「ミルカ姉ちゃんのお腹、ちょっとふくらんでる!」

「ねぇねぇ、赤ちゃんってどんな顔してるの?」

「弓、もう引いちゃダメだよ!」


ミルカは苦笑しながらも、子供たちの頭を優しく撫でた。


「はいはい、分かってるってば。あんたらの方がよっぽど騒がしいよ」


その知らせを聞いたガルハートは、薪割りの手を止めて珍しく目を瞬かせた。


「……大丈夫なのか。冷やすなよ。重いもん持つなよ」


普段は何が起きても動じない男が、妊娠という言葉にだけは妙に不器用に気を遣う。


ミルカは苦笑しながら言った。


「心配しすぎ。あんた、戦場じゃあんなに落ち着いてるくせに」


ガルハートはそっぽを向いた。


「……知らねぇんだよ、こういうのは」


その横顔に、鋼鉄の牙の仲間たちは思わず笑った。

ザルカスが笑いながらシンバの背中を叩くと、照れくさそうに頭を掻いた。


「シンバ、お前もとうとう父親か。本当に頼もしくなった」


シンバは少しだけ視線を落とし、息を整えてから言った。


「まだまだだよ。でも……守るものが増えた。だから強くなりたい」


ザルカス自身も大きく変わっていた。

ガルハートと共に仕事へ出ることが増え、その“読み”と“戦場観”に触れるたび、

ザルカスは自然と敬意を抱くようになった。


かつては「お前」「あんた」と呼んでいた男に、今では少しだけ言葉を選ぶ。


「……貴方は、どう見る?」


ガルハートは木刀を肩に担いだまま答える。


「敵は焦ってる。動きが雑だ。三日もすりゃ仕掛けてくる」


「……やはり、そうか」


ザルカスは素直に頷いた。

書物の知識はなくとも、戦場で培った直感は鋭い。ガルハートの読みが“外れたことがない”ことを、身をもって知っていた。

二人の関係は、戦士と戦士、軍師と獅子――そんな形へと変わっていった。


◇◆◇


そして、鋼鉄の牙の住まいも変わった。


かつての小屋はもうない。

要害ザウロンの商人たちが、彼らの働きに感謝して資材を融通し、仲間たち自身の手で新しい拠点を建てたのだ。若いクランにとっては、まさに飛躍と呼べる出来事だった。


だが――

土地選びだけは、ガルハートが頑として譲らなかった。


鋼鉄の揺り籠は、ザウロンの町から狭い谷道を抜けた先の、小高い丘の上に建っている。

住むには不便で、荷物を運ぶにも骨が折れる。だが、ガルハートはその場所を指して言った。


「遠い東の大国の偉いさんがな、“天の時、地の利、人の和”ってのが大事だって言ってた。

 そいつを意識して事を起こすらしい」


シンバが首をかしげる。


「……地の利ってことか?」


ガルハートは頷き、丘を指差した。


「この土地は小高くて日当たりも良い。ザウロンからは程よい距離だし、クランハウスに続く道が一本なのもいい。道幅が狭くて面倒かもしれねぇが……攻めるやつらも同じだ」


シンバは笑って言った。


「傭兵を攻めるやつらなんていないんじゃないか?」


ガルハートは薪を肩に担ぎながら、いつもの無表情で返す。


「それを“攻められた時”に言える言葉か、考えてみろ」


その言葉に、ザルカスが静かに頷いた。


「……ガルハートに同意見だな。守りやすい場所ってのは、それだけで価値がある」


こうして選ばれた丘に、三階建ての大きな建物――鋼鉄の揺り籠が建った。


二十名ほどの小さなクランには不釣り合いなほど立派な建物だ。

木の香りが残る広いホール、子供たちの寝床、鍛錬場、倉庫、そしてガルハートがよく座る縁側。鋼鉄の牙は、ただの傭兵団ではなく、家族が暮らす“揺り籠”を手に入れた。


◇◆◇


――その揺り籠に、帝国の影が迫っていた。


最初に異変を感じたのは、ザウロンの市場だった。


果物を並べる商人が、声を潜めて言う。


「なぁ聞いたか? ジョルカス帝国が“黒狼を倒した金髪の傭兵”を探してるって話だ」


「また噂だろ。帝国が傭兵一人に本気になるかよ」


「いや……国境の兵が言ってたんだ。 “金獅子を討ち取った者には褒賞が出る”ってな」


その会話を耳にしたロッカは、眉をひそめた。


「……褒賞、ねぇ。嫌な匂いがする」


ロッカの“危険の嗅覚”は、仲間たちの誰よりも鋭い。

その彼が警戒を強めたことで、牙の面々もただ事ではないと悟った。


次に噂が広がったのは、酒場だった。


帝国の若い兵が、酔った勢いで叫ぶ。


「金獅子を倒したら、俺は騎士になれるんだ!あの金髪の化け物を仕留めりゃ、出世間違いなしだ!」


周囲の客がざわつく。


「おいおい、あの金髪って……ガルハートのことじゃねぇか?」

「馬鹿言え。あいつに勝てる奴なんていねぇよ」

「でもよ、帝国が本気で狙ってるって話だぜ……?」


その場にいた牙の仲間たちは、互いに目を合わせた。


「……冗談じゃねぇな」

「帝国が動くってことは、もう噂じゃ済まねぇ」


酒場の空気は、いつもの喧騒とは違う重さを帯びていた。


◇◆◇


そして――噂は“形”を持ち始める。


しばしば、ギルドの依頼をこなす道中で帝国の国境警備隊がちょっかいをかけてきて、小競り合いになることもあった。ザウロンの酒場では、ガルハートが居る時に限って、腕自慢の若い隊員がグループで喧嘩を吹っかけてくる。


ガルハートは面倒くさそうに立ち上がるだけだ。

木刀すら握らない。手をひらりと振るか、肩で軽く押し返すだけで、挑んできた兵たちはまるで見えない壁に弾かれたように吹き飛んだ。


「なっ……なんだ今の……!」

「触られたかどうかも分からねぇ……!」


床に転がる兵たちは、痛みよりも“理解できない恐怖”に顔を青くする。


ガルハートはあくびをしながら言う。


「帰れ。酒が不味くなる」


その一言で、兵たちは蜘蛛の子を散らすように逃げていった。


そして――ザウロンの町でも、ついに噂が流れ始める。


“金獅子狩り”


帝国が懸賞金をかけたという話は、もはや酒場の与太話ではなく、確かな“現実”として牙の仲間たちの耳に届き始めていた。


◇◆◇


同じ頃――帝国軍本陣。


荒鷲レオニド・ヴァルツァーク将軍は、その報告書を読み終えると、静かに立ち上がった。


「金色の獅子……鋼鉄の牙という傭兵団に身を寄せている、か」


参謀が言う。


「はい。鋼鉄の牙は二十名にも満たぬ小規模のクラン。 若くまとまってはおりますが、軍勢と比べれば取るに足りません。 ガルハート以外は、数で押し潰せましょう」


レオニドは鼻で笑った。


「数で押すのは兵の仕事だ。金獅子だけは――私が倒す」


その瞳には、若き将軍特有の野心と自負が宿っていた。


参謀が地図を広げる。


「鋼鉄の牙の拠点は、要害ザウロンの近く。

 狭路の谷間を抜けた先の小高い丘に“鋼鉄の揺り籠”という拠点を構えています。

 谷は馬も並べず、兵も横隊を組めませんが……抜けてしまえば包囲は容易です」


レオニドは口角を上げた。


「ならば決まりだ。谷を突破し、揺り籠を囲む。 金獅子は逃げ場を失う」


参謀が慌てて言う。


「しかし将軍、谷は危険です。伏兵がいれば――」


「伏兵がいようが、相手は二十名なら関係ない。不埒千万な金獅子は私が討つ。それだけだ」


若き荒鷲の声は、軍議の空気を一変させた。


こうして、帝国軍九百は、鋼鉄の揺り籠を包囲するために動き出した。

いつもご愛読いただいありがとうございます。

傭兵王も続きますがコメディとシリアスが大好きな方は新作

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日常から局面がハードな展開に変わっていきます。

1話から15話までは毎日更新で、以降は火木金の週3投稿です。

皆さんのご声援が有れば、上記より頑張ります。

どうぞ気軽にご一読ください。

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