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傭兵王はガハハと笑う 〜え、半裸のろくでなしが伝説の英雄!? 木刀一本で全てをガハハと解決する、笑いと涙の人情無双ファンタジー〜  作者: 益城 茜


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北方編:序章「獅子の胎動」6

いつもお楽しみいただきありがとうございます。

獅子の胎動編も潮目となるお話です。

とある男の特技が、思いもよらない結果を呼びます。

月、水、土曜 18時の週3回投稿になります。

月水土曜はガハハの日 お忘れなく。

黒霧の谷で黒狼隊長を退けた一件は、鋼鉄の牙にとって決定的な転機となった。


あの日を境に、ギルドからの評価は跳ね上がり、依頼の質も報酬も、以前とは比べ物にならなくなった。

だが、それはガルハートが毎回戦場に立つからではない。むしろ逆だった。

ガルハートがいない時でも、鋼鉄の牙は“大きな仕事”をこなせるようになったのだ。


その中心にいたのは、若きシンバ。そして彼を支えるザルカス。さらに後見として控えるガルハート。この三人の関係が、寄せ集めだった鋼鉄の牙を“本物の傭兵団”へ押し上げていった。


シンバは黒霧の谷での経験を経て、“守るために戦う”という覚悟を手に入れた。

その覚悟は戦場での判断力に現れた。

敵の動きの読み、退き際の判断、仲間の配置、先読み――どれも以前とは比べ物にならない。ギルドの依頼主たちは口々に言った。


「鋼鉄の牙の若いの、あれは将来大物になるぞ」

「判断が早い。無駄がない」

「若いのに落ち着きが異常だ」


だがシンバ自身は、誇らしげに笑ってこう言った。


「俺一人じゃ無理だ。ザルカスが支えてくれるからだよ」


ザルカスは文字こそ読めないが、戦場の“匂い”を読む才を持っていた。

敵の足音、風向き、地形、兵の配置――そういった“生きた情報”を瞬時に理解する。そしてシンバの判断を支え、補強し、時に止めた。


「シンバ、そこは罠だ。回り込め」

「敵は焦ってる。追うな。引け」

「ここは勝てる。押し込め」


シンバはザルカスを兄のように尊敬し、ザルカスはシンバを“次代の頭”として支えた。

二人の呼吸は戦場で驚くほど噛み合い、鋼鉄の牙は着実に力をつけていった。


そして――その背後には、常にガルハートがいた。


ガルハートは常に前に出るわけではなかった。

むしろ、鋼鉄の牙が自分の力で戦えるように、一歩引いて見守ることが多くなった。だがザルカスは気づいていた。


「……ガルハート。お前は、全部見えてるんだな」


ガルハートは肩をすくめた。


「お前らが強くなってるだけだ」


ザルカスは首を振る。


「違う。お前は……いや……貴方は、戦場そのものを見ている」


ガルハートは答えなかったが、その沈黙が“肯定”であることをザルカスは理解した。


ある日、国境沿いで王国と帝国の小競り合いが起きた。王国軍は三百、帝国軍は百五十。

誰が見ても王国が勝つと思われた。だがガルハートは言った。


「帝国が勝つ」


鋼鉄の牙の仲間たちは驚いた。


「なんでだよ?」

「数が倍違うんだぞ?」


ガルハートは淡々と答えた。


「王国軍は補給線が伸びすぎてる。帝国は地形を使って分断する。勝つのは帝国だ」


翌日、帝国勝利の報が届いた。仲間たちは騒然となったが、ザルカスだけは静かにガルハートに近づいた。


「……教えてくれ。なぜそう見えた?」


ガルハートは少しだけ目を細めた。


「お前は頭がいい。なら、すぐに分かる」


ザルカスはその言葉を胸に刻んだ。大きな仕事をこなし、いくつかの死線を潜り抜けた彼は、ガルハートの言葉の“重さ”を理解した。


良い兵隊に良い軍師、さらに良いリーダーに成長したシンバにより鋼鉄の牙はますます勢いを増していった。

ギルドからの大金の報酬で、医者の往診を何度も受けられるようになった。

薬も、食事も、暖かい寝床も揃った。子供も死ぬ事は無くなった。


カンナの顔色は日に日に良くなり、やがて自分の足で歩けるほどに回復した。


そして――


カンナはガルハートの横で食事をとるようになった。


「ガルハートおじちゃん、これ食べる?」

「……ああ。もらう」


「今日ね、外で鳥を見たんだよ」

「ほう。そりゃいいな」


ガルハートは多くを語らない。だが、カンナの言葉には必ず返事をした。

その姿を見て、仲間たちは微笑んだ。

ガルハートもまた、少しずつ鋼鉄の牙の輪に馴染んでいった。


勢いある鋼鉄の牙は、ガルハートのサポートがなくとも大きな仕事をこなせるようになった。だが――ガルハートがいる時だけ、妙なことが起き始めた。


帝国の国境警備隊が、関係のない場所に“遊撃”として現れるのだ。

最初は偶然かと思われた。だが回数が増えるにつれ、誰もが気づいた。


「……狙われてるな」


ガルハートは肩をすくめた。


「まぁ、黒狼を倒したからな」


鋼鉄の牙は何度も帝国の遊撃隊を退けた。そのたびに、帝国側の噂は膨れ上がった。


鋼鉄の牙。

黄金の獅子。

国境の怪物たち。


そして――その噂を決定的にしたのが、一つの歌だった。


◇◆◇


――無邪気な声が、北方を揺らす。


金獅子の歌が生まれたのは、戦場でも酒場でもなかった。

ガルハートが黒狼隊長を称えるために、ぽつりと口ずさんだのが始まりだった。


「霧を裂き 影を喰らい黒狼すらも退けたり――」


それは勝者の驕りではなく、強敵への敬意と、戦士としての礼だった。

ガルハートは歌を広めるつもりなど毛頭なかった。ただ、黒狼という男の強さを忘れぬ為に作っただけだ。


だが――その歌を聞いていた小さな影があった。

カンナだ。


「ガルハートおじちゃんのお歌、かっこいい。なんでそんなにお歌が上手いの? 」


「忘れたくない出来事を、詩にして歌うんだ。理由は良く分からねえがな」


歌を聞かれて恥ずかしかったのか、ガルハートが赤い顔をして答えた


数日後。

要害ザウロンの市場へ買い物に同行したカンナは、街の広場で無邪気に歌い始めた。


「きーんのししー♪

 くーろおおかみーをー♪

 やっつけたー♪」


その声を、偶然通りかかった吟遊詩人が聞いた。


「……今の歌、どこで覚えた?」


「ガルハートおじちゃんが作ったの!」


「やたらと胸に残る歌だな。もっかい歌ってくれねえかな。嬢ちゃんはいい歌い手になるぜ 」

カンナは元気よく歌い、吟遊詩人は目を輝かせた。


この歌は食える歌だ。子供が歌う歌は、どんな英雄譚よりも早く広まる。


その日のうちにザウロンの酒場で披露され、

翌日には別の街へ、

さらに翌日には国境を越え、ライナル王国の酒場へ。


やがて北方の子供たちが口ずさむ“遊び歌”となった。


「♪国境に住むは金の獅子

 霧を裂き 影を喰らい

 黒狼すらも退けたり♪」


帝国でも王国でも、子供たちは意味も知らずに歌った。

だが――大人たちは違った。


「金の獅子……本当にいるのか?」

「黒狼隊長を退けたという噂の……?」

「鋼鉄の牙と組んでいるらしいぞ」


特にジョルカス帝国の宿敵であるライナル王国軍は妙な替え歌を歌うのだ。


「居るか居ないか分からない~♪

♪金色の獅子に恐れなし~

逃げ戻ったり黒狼の~哀れ右手は砕かれり♪ 」


黒霧の谷で黒狼隊長が敗れた――その歌は、国境警備隊の詰所全体を駆け巡った。

黒狼は霧の中で最強。霧の谷で彼に勝てる者などいない。そう信じられていたからこそ、噂は瞬く間に広がった。


「黒狼隊長が……負けた?」

「ありえねぇだろ。あの人は霧の化身だぞ」

「相手は誰だ? 王国の天下十剣どもか?」

「いや……傭兵だ。“金色の獅子”だとよ」


その名が出た瞬間、詰所の空気が変わった。右腕を折られた黒狼隊長が笑いながら語った“霧の中の金髪の怪物”。

だが、隊員たちにとっては信じがたい話だった。


黒狼は腕を吊ったまま詰所に戻り、仲間たちにこう言った。


「霧の中でな……金色の獅子に出会った。あれは人じゃねぇ。俺はただ、運が悪かっただけだ」


その語り口は、敗北の悔しさよりも“戦場で本物に出会えた喜び”に満ちていた。

だが、若い隊員たちにはまったく違う意味で火がついた。


「金色の獅子……? そんな奴、本当にいるのかよ」

「隊長が負けた相手だぞ。倒せば俺たちの名は帝国中に響く」

「黒霧警備隊の名を上げるチャンスじゃねぇか」

「獅子狩りだ。俺たちがやるしかねぇ」


黒狼は止めた。


「やめておけ。あれは……戦う相手じゃねぇ」


だが若者たちは聞かない。

むしろ、隊長の忠告が“恐れ”に聞こえ、逆に血を熱くさせた。


「隊長が怯えるなんて珍しいな」

「だからこそ価値がある。倒せば俺たちが次の黒狼だ」


黒狼は深くため息をついた。


「……お前らは、まだ霧の怖さを知らねぇ」


しかし若者たちはもう聞いていなかった。


◇◆◇


――黒狼隊長の敗北は軍部にも届く

黒狼隊長は元々、帝国軍の教導官としても名を馳せていた。


その隠形術と暗殺術は軍部でも一目置かれ、

「霧の中で黒狼に勝つ者なし」

とまで言われていた。


だからこそ――

その黒狼が敗れたという報告は、軍部の上層部をざわつかせた。


「黒狼が……敗北?」

「相手は何者だ。新興勢力か?」

「国境付近に未知の戦力がいるのは問題だ」


軍部はすぐに調査を開始した。だが、黒狼本人はこう答えた。


「金の獅子だ。あれは……戦場の怪物だ」


軍部の将校たちは顔を見合わせた。


「……獅子?」

「そんな童話じみた話があるか」

「だが黒狼が言うなら……無視はできん」


黒狼の敗北は、帝国軍部にとって“無視できない異常事態”となった。


――“国境に住む金獅子”の噂

帝都では、黒狼敗北の噂がさらに脚色され、酒場ではこんな歌が流行り始めた。


♪国境に住むは金の獅子

霧を裂き 影を喰う♪

帝国に禍もたらす、その牙は~

黒狼すらもひとひねり♪


兵士たちは酒を飲みながら笑った。


「黒狼隊長が負けたって歌かよ」

「面白ぇじゃねぇか」

「でも……本当なんだろ?」


噂は噂を呼び、

“金獅子狩り”は帝都の娯楽話題にまでなっていた。


だが――

この歌を聞いて、静かに野心を燃やした男がいた。

ジョルカス帝国の若き荒鷲――将軍レオニド・ヴァルツァーク


年若くして戦功を重ね、帝国の次代を担うと期待される男。


彼は酒場で歌を聞き、

静かに杯を置いた。


「黒狼が敗れた相手……金の獅子、か」


側近が慌てて言う。


「将軍、ただの噂話にございます。黒狼殿も――」


「黒狼が敗れた。それが事実だ」


レオニドの瞳は鋭く光った。


「ならば、我が討つ。金色の獅子を仕留めれば、帝国の英雄は私だ」


側近が息を呑む。


「まさか……獅子狩りを?」


レオニドは立ち上がった。


「手勢九百を用意しろ。黒霧の谷ごと包囲し、万全の形で獅子狩りを行う」


その声は静かだが、野心と自信に満ちていた。


「黒狼が倒せぬなら、私が倒す。帝国の荒鷲が、獅子を狩る」


若き荒鷲は、静かに国境の方角へ視線を向けた。


いつもご愛読いただいありがとうございます。

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日常から局面がハードな展開に変わっていきます。

1話から15話までは毎日更新で、以降は火木金の週3投稿です。

皆さんのご声援が有れば、上記より頑張ります。

どうぞ気軽にご一読ください。

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