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傭兵王はガハハと笑う 〜え、半裸のろくでなしが伝説の英雄!? 木刀一本で全てをガハハと解決する、笑いと涙の人情無双ファンタジー〜  作者: 益城 茜


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北方編:序章「獅子の胎動」3

いつもお楽しみいただきありがとうございます。

若きガルハートが、北方で過去に何を起こしたか。

しばし、お付き合いください。

月、水、土曜 18時の週3回投稿になります。

月水土曜はガハハの日 お忘れなく。


小屋を出ると、北方の夜風が肌を切り裂くように冷たかった。

ザウロンの路地は、昼間よりも闇が濃く、まるで“世界の端”に迷い込んだような錯覚を覚える。


その闇の中を、俺はひとり歩いた。ザルカスの声が背後から飛んでくる。


「シンバ! どこ行く気だ!」


振り返らずに答える。


「……あいつに会いに行く」


「やめとけ! あの化け物は――」


「分かってる。でも、今は……あいつしか思い浮かばねぇんだ」


ザルカスは言葉を失った。俺の声が震えていたからだ。


路地の先で、月明かりが石畳を照らしている。その光の中に、“血の匂い”が混ざっていた。昼間の光景が脳裏に蘇る。


重槍騎兵二十を、木刀一本で叩き潰した金髪の巨漢。


あの時、俺は確かに“死”を見た。だが同時に――“生”も見た。あの男は、死の中で生きていた。


だからこそ、今の俺には“あいつ”しか思い浮かばない。


「……頼む。いてくれ」


祈るような気持ちで、ギルド前へ向かった。


◇◇◇


ギルド前に着くと、そこには昼間と同じ光景があった。


石畳の隅。毛布をかぶり、木刀を抱えたまま眠る巨躯。


ガルハート。


月明かりに照らされたその姿は、“戦場に置き去りにされた獅子”のようだった。

俺は息を呑んだ。


「……なんで、こんな場所で寝てんだよ」


近づくと、返り血の匂いがまだ残っていた。ガルハートの胸が、ゆっくりと上下している。生きている。だが、どこか“壊れている”。


俺は思わず声をかけた。


「……おい。起きろよ」


返事はない。


毛布を少しめくると、ガルハートの腕に刻まれた無数の傷跡が見えた。


古い傷。

新しい傷。

戦場で刻まれた“生き残りの証”。


その腕が、カンナを救う鍵になるかもしれない。そう思った瞬間――                                                                                         ガルハートの目が、ゆっくりと開いた。


蒼い瞳が、月光を反射して俺を射抜いた。その視線は、“敵を見る目”でも“仲間を見る目”でもなかった。ただ――“空っぽ”だった。


ガルハートが低く呟く。


「……なんだ。殺すのか?」


その声は、眠りから覚めた獣のように荒れていた。


俺は慌てて首を振る。


「違う! 俺は……頼みがあって来たんだ」


ガルハートは毛布を払い、ゆっくりと上体を起こした。その動きだけで、石畳が軋むような錯覚を覚える。


「頼み……?」


「うちの子どもが……倒れた。医者も薬もある。でも金が足りねぇ。無難な仕事じゃ間に合わねぇんだ」


ガルハートは無言で俺を見つめる。その瞳は、“何かを思い出そうとしている”ようにも見えた。


俺は続けた。


「……あんたの力が必要だ。危険な依頼を受ける。そのために……あんたに来てほしい」


ガルハートは、しばらく黙っていた。北方の風が吹き抜け、毛布の端が揺れる。


やがて――ガルハートは木刀を肩に担ぎ、立ち上がった。

その巨躯が月を遮り、俺の影が長く伸びる。


「……行くぞ」


「え?」


「子どもが死ぬんだろ。なら、急げ」


その声は、昼間の“怪物”の声ではなかった。どこか人間の声だった。俺は思わず息を呑んだ。


「……ありがとう」


ガルハートは振り返らずに言った。


「礼はいい。……俺は、借りを返すのが嫌いなんだ」


その言葉の意味は分からなかった。だが、その背中は頼もしいものだった。


ガルハートの背中を追いながら、俺は、ザウロンの夜道を早足で進んだ。

北方の風は、まるで“死んだ兵士の指”が頬を撫でていくように冷たい。


だが、その冷たさよりも、隣を歩く金髪の巨漢の存在感の方が、よほど現実離れしていた。


毛布一枚。

裸同然。

木刀一本。


それなのに、寒さに震える気配がまるでない。むしろ――彼の周囲だけ、空気がわずかに“温い”。まるで、彼自身が“戦場の熱”を纏っているかのようだった。


俺は思わず口を開いた。


「……あんた、寒くねぇのか?」


ガルハートは短く答えた。


「寒さでは……死なねぇな」


その言葉は、まるで“死ぬ理由にならない”と言っているようだった。俺は背筋が冷えた。


◇◇◇


小屋が見えた瞬間、カンナの事を思い出し胸の奥が締め付けられた。焚き火の光が漏れ、湿った木材の匂いが漂う。


ここは――俺たち十五人の“家”だ。


ガルハートは立ち止まり、しばらく小屋を見つめていた。その横顔には、“懐かしさ”と“痛み”が混ざった影が落ちていた。


「……あんたには、こういう場所が無かったんだな」


ガルハートは答えない。

ただ、小屋の灯りをじっと見つめていた。まるで、“帰る場所”という概念を、初めて目にしたかのように。


俺は扉を開けた。


焚き火の光が、ガルハートの巨躯を照らした瞬間――小屋の空気が、音を失った。


まるで、焚き火の炎さえ息を呑んだかのように、揺れが一瞬だけ止まった。


オユキは鍋をかき混ぜる手を止め、木杓子を握ったまま固まった。

その目は、人間ではない何かを見た時の目だった。


ロッカは反射的に斧を構え、その刃先が震えているのが分かった。

あの豪胆なロッカが震えるなど、俺は一度も見たことがない。


ミルカは弓に手をかけ、矢羽がわずかに擦れる音がした。

彼女の視線は鋭いが、その奥に恐怖が滲んでいた。


サンジは口を開けたまま固まり、喉が上下するだけで声が出ない。


トモエは悲鳴を飲み込み、布を握りしめた手が白くなるほど力が入っていた。


バルドは盾を前に出し、その巨体がわずかに後ろへ下がった。

“守るための一歩”ではなく、本能が逃げようとした一歩だった。


ザルカスが叫ぶ。


「シンバ! なんで化け物を連れてきてんだ!」


その声は怒鳴り声というより、恐怖が形になった音だった。

俺は叫び返した。


「違う! こいつは……ガルハートは、助けてくれる!」


ガルハートは一歩踏み出した。


その瞬間――小屋全体の空気が震えた。


焚き火の炎が大きく揺れ、壁板が軋み、吊るされた馬具がカタカタと鳴った。

まるで、獅子が家に入ってきたようだった。


だが、ガルハートは静かに言った。


「……子どもはどこだ」


その声は、昼間の“怪物”の声ではなかった。どこか、誰かを救うために歩いてきた男の声だった。

祖父が震える声で言う。


「……こっちだ」


その声には、恐怖とわずかな希望が混ざっていた。


ガルハートは、その声に導かれるように歩き出した。


その歩みは静かで、だが確かな重みがあった。まるで、“死と生の境界を歩く者”の足音だった。


カンナの寝床に案内すると、ガルハートは無言で膝をついた。

高熱でうなされる小さな身体。荒い呼吸。汗で濡れた髪が額に張り付き、その小さな胸が必死に上下している。


ガルハートは、その小さな手をそっと握った。


その瞬間――彼の表情が、ほんのわずかに揺れた。


怒りでも、悲しみでもない。ただ、“何かを思い出したような”揺れ。


まるで、遠い昔に失った何かが、一瞬だけ胸の奥で疼いたような表情だった。

ガルハートが低く呟く。


「……弱ぇ奴が苦しむのは……嫌いなんだよ」


その声は、まるで自分自身に言い聞かせているようだった。


祖父が震える声で言う。


「……助けてくれるのか」


ガルハートは立ち上がり、木刀を肩に担いだ。

その動きは、“戦場へ向かう兵士”のそれではなく、“群れを守る雄獅子”のように見えた。


「……行くぞ、シンバ」


「どこへ?」


「金を作るんだろ。危険な依頼を受けるんだろ。……なら、急げ」


その声には、迷いが一切なかった。


俺は頷いた。


「あぁ。行こう」


その瞬間、胸の奥で何かが決まった。“この男となら、死地へ行ける”と。


ギルドハウスの壁にあった高報酬依頼の一つ「黒霧の谷・補給隊殲滅任務」。

俺は思い出していた。


◇◇◇


小屋を出ると、北方の風が吹き抜けた。


その風は、まるで“戦場の匂い”を運んでくるようだった。


ガルハートは月明かりの下で立ち止まり、黒霧の谷の方角を見つめていた。

その背中は、まるで“戦場へ帰る獅子”のようだった。


ザルカスが追いかけてきた。


「シンバ! 本気で行くのかよ!」


俺は振り返らずに言った。


「……あいつじゃなきゃ、間に合わねぇ」


ザルカスは歯を食いしばった。


「死ぬぞ!」


「死なねぇよ。あいつがいる」


ザルカスは言葉を失った。


ガルハートは静かに言った。


「……行くぞ」


その声は、夜の冷気を切り裂くように鋭かった。


俺は深く息を吸い、ガルハートの背中を追った。黒霧の谷へ――死の霧が渦巻く場所へ。



いつもご愛読いただいありがとうございます。

月、水、土曜 18時の週3回投稿になります。

月水土曜はガハハの日 お忘れなく。

続きが気になる!』『面白い!』と思っていただけたら、

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