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第22話 金髪の獅子と若駒たちの凱歌。 遥かからの雄叫び

いつもお楽しみいただきまして誠にありがとうございます。

カタルシスが感じられるといいのですがどうでしょうか。お楽しみください。

月、水、土曜 18時の週3回投稿になります。

月水土曜はガハハの日 お忘れなく。

自由貿易都市ルナール。その議事堂の一室には、喉を焼くような沈黙と、逃げ場のない絶望が澱んでいた。


「……無理だ。これ以上の交渉は時間の無駄だ」


ルナールの外務大臣は、拭っても止まらない脂汗をハンカチで押さえ、忌々しげに卓上の書類を弾いた。窓の外では、隣接三カ国の兵士たちが威圧的な足取りで巡回し、地母神教の聖歌が不気味な圧力となって響いている。


「三カ国連合からの通告は絶対だ。『背教の傭兵を匿うライナルと同調する者は同罪』。穀物の禁輸に、法外な関税の引き上げをちらつかされている……。我が国は議会制だ。そんな暴挙を許せば、明日には市民がパンを求めて議事堂を焼き討ちにする。次の選挙で、私の席など木っ端微塵だ。貴方が大国の王族とはいえ聞ける話とそうでないこともあるのです。良き隣人である貴国は、我々を見捨てろと言いたいのか?」


大臣の言葉は、正論という名の逃げ口上だった。だが、対面に座る三人の若者――カイン、リノン、ミーナの瞳には、一切の揺らぎがなかった。


「……あなたが恐れているのはアルカディアですか?地母神への帰依ですか? それとも、自分の議席ですか?」

カインが、静かに、だが冷徹に言い放った。その声には、かつての「ねじくれ若様」の面影はない。ガルハートという「不屈」の怪物の傍らで、死線を越えてきた者だけが持つ、重い決意が宿っていた。


「王国通商法第十七条――『非常時における領主の緊急調達権』。母から預かってきました。スターレを襲ったテロを『王国への宣戦布告』と定義し直せば、法的にはこの一筆でルナールを臨時拠点に指定できる。……これは、お願いではありません。通告です」


「なっ……!?」


「三カ国に従えば、これを機会に今後も同様の手段を取る事でしょう。つまり、あなた方は一生彼らの顔色を伺う小作人に成り下がる。ですが、この臨時拠点化を受け入れれば、ルナールはライナル王国最大の貿易拠点となる」


リノンが冷徹な手つきで扇子を閉じる。その乾いた音が、外交官の退路を断つ銃声のように響いた。


「計算は済んでいますわ。三カ国を出し抜き、ライナル王国との単独貿易を行う事と我がゴールドバーグ商会の輸送網の許可を行う。三か国の経済規模八割に等しいライナル王国、その利権を前にして、賢明なルナール市民が議会に石を投げると思いますか? むしろ、あなたを『新時代の英雄』として再選させるでしょうね」


「それに、その三カ国の『大義名分』……これが出た後でも持つかしら?」


ミーナが、無造作に一枚の紙を放り出した。ルナール最大手新聞社、印刷前の翌朝刊、第一面の「ゲラ刷り」だ。ミーナは「赤い月亭」という情報源が持つ絶対的な信頼を武器に、「不徳の情報」をライナル王国とルナールの双方の新聞社へリークを行ったのだ。その「赤い月亭」の名は、ライナル王国のみならず隣国のメディアであっても決して無視できるものではなかった。


『学区テロ現場よりアルカディア構成員の遺留品発見。黒幕は地母神教内部か』

衝撃的な見出しに、外交官の目が点になる。


「アルカディアがテロの首謀者。それが号外で世界を駆け抜ければ、三カ国の禁輸措置はただの『テロ加担』に変わる。……さあ、泥舟と心中するか、勝ち馬の背に乗るか。選ぶのは今よ」


数分後。震える手で外交官が署名した瞬間、満足そうに微笑んだリノンは商会の馬車に戻ると導力通信機を操作した。


「ルナール支店より王都ゴールドバーグ本部へ、外信! 通商法十七条に基づく臨時航路、承認! ルナールを中継地と確定する!!」


その通信は、暗号化すらされていなかった。あえて「誰もが傍受できる形」で放たれた。


***


同時刻。王都、スターレ家別邸のスターレガーデン。


 門の外では、「悪徳貴族!」「神に背く傭兵を追い出せ!」と、世論に煽動された民衆の怒号が地鳴りのように響いている。王都の警邏隊が必死に民衆を抑えているが、スターレ家への怒りと怨嗟の声は決して止まることはなかった。


「……往生際が悪いな、エレン殿」


会議室では、大蔵官僚が冷めた茶を啜りながら、エレンを蔑むように嘲笑っていた。


「あなたの外交官としてのキャリアも国際問題の当事者とあっては無力だ。スターレ領内のテロ?アルカディア関与の証拠もない。むしろ、そんな危うい傭兵団を抱え込んだスターレ家の落ち度だろう。アルカディアからは『神の遺産』の隠匿という難癖までついているんだ。おかげで禁輸に関税増。国内経済はガタガタだ。大蔵省としては、君たちの意地のために国が傾くのはいい迷惑なんだよ。さあ、とっとと傭兵団の引き渡し書類に署名しなさい」


エレンは完璧な微笑の仮面を崩さず、その無礼な言葉を耐え忍んでいた。隣でオルトが、膝の上の拳を血が滲むほど握りしめている。


その時だ。


部屋の隅の導力通信機が、耳を劈くような受信音を響かせた。同時に、窓の外の罵声が、波が引くように静まり返った。


「……なんだ?」


官僚が眉をひそめた瞬間、扉をノックして秘書官の一人が慌てて官僚に駆け寄った。


「こちらをご覧ください」


 それは、ルナールからの外信を傍受した各新聞社が、即座に刷り上げた「号外」だった。「赤い月亭」からの事前通告を受け、活字を組み、輪転機を回す準備を終えていた新聞社たちは、外信の着信とほぼ同時にそれらを王都の民衆へぶちまけたのだ。


『速報:ルナール、スターレ家と緊急貿易協定締結!ゴールドバーグ商会 穀物輸送、開始!』

『第三国情報:スターレ領テロの黒幕はアルカディアか!? 経済封鎖の不当性を指摘』


「な、……なんだと!? ルナールが……!? ゴールドバーグが動いているだと!?」


官僚の顔から血の気が引く。窓の外では、別邸を取り囲んでいた民衆が、号外を手にしながら顔を見合わせ、その目が「怒り」から「驚愕」、そして「喜び」へと変わっていくのが分かった。


「ルナールからの外信をこちらの通信でも受け取りました。ゴールドバーグ商会本社からも関係各省庁へ穀物輸送の王都市場での受け入れ要請と検疫依頼の調整が来ております。」


非難を受けながらもスターレ家は、自分たちのために、穀物を、パンを運ぼうとしていたのだ。


窓の外から民衆たちのスターレに対する称賛の声が聞こえてくる。


「オルト様……っ!」


エレンが崩れ落ちるように夫の胸に飛び込んだ。鉄の規律を誇る領主オルトが、なりふり構わず彼女を力強く抱き寄せた。


「カインたちが……あの子たちが、やり遂げました!」


「ガハハ! いいねぇ、最高だぜ!」


部屋の隅で、ずっと「テロ事件に居合わせた当事者」を演じていたガルハートが、品のない、だがこれ以上なく痛快な笑い声を上げた。


「腹を空かせた民衆にはな、パンの一切れ、そして『勝ち馬』の背中。これが一番の特効薬だぜ。……さて、えらいさんよ。今のうちにその引き渡し書類、丸めて食っておくか?」


ガルハートは、呆然と立ち尽くすセーラの肩をポンと叩いて耳打ちする。その手には、地母神教高僧の銀の護符が、鈍い輝きを放っている。


「なあ、セーラ。今からはったりっていう絵空事が、『歴史』に変わるところを拝ませてやるよ。……お前さんの大好きな童話の金のフクロウさんも、こんな風に作られたんだってな」


ガルハートの瞳に、王都を飲み込むほどの、どす黒くも黄金に輝く知略が宿った。


「さあ、俺たちのターンだ。――不徳を始めようぜ」


いつもご愛読いただいありがとうございます。

月、水、土曜 18時の週3回投稿になります。

月水土曜はガハハの日 お忘れなく。

『続きが気になる!』『面白い!』と思っていただけたら、下の星を【★★★★★】にして応援してくださいませ。嬉しくて頑張っちゃいます!

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