閑話 白衣の聖母と、黄金の疼き
いつも皆様お楽しみいただきありがとうございます。
敵側から見たガルハートと今回の話の顛末を閑話の形にしてあります。
本作もお楽しみください。
月、水、土曜 18時の週3回投稿になります。
月水土曜はガハハの日 お忘れなく。
それは、神に仕える身として生を歩み始めて以来、初めて体験する「不条理」だった。
黄金の疾風。
視界が白く爆ぜ、制御室の強固な障壁が紙細工のように何層も突き破られていく。背後にいた僧兵たちが、自分の肉体というあまりに巨大な質量の弾丸に巻き込まれ、次々と意識を失い、無力化されていく感触が伝わる。
だが、身体を襲う凄まじい衝撃よりも、グレゴの魂を激しく揺さぶったのは、その一撃を放った「男」の姿だった。
(……ああ。……ああ、何ですの、これは)
瓦礫と共に闇の深淵へ叩きつけられながら、グレゴは自らの内側に湧き上がる、異変に目を見開いた。今まで、どれほどの苦行を重ね、どれほどの「懺悔」を救ってきた。彼女の心は、常に地母神の静謐な慈愛と共にあったはずだった。
だというのに、今、その木刀の一撃を受けた箇所から、全身の血管を逆流させるような熱い「毒」が駆け巡っている。
胸の奥が、焼けるように痛む。
喉が、狂おしいほどに乾く。
そして――。
(……疼く。……身体が、このように……あさましく……)
それは、祈りのために捧げたはずの肉体が、一人の女として初めて知った、暴力的なまでの「欲望」に近い甘美な疼きだった。
羞恥よりも先に、圧倒的な「懐かしさ」が彼女を襲う。何百年、あるいは何千年の時を越えて、ようやく「自分の欠片」を見つけたかのような、狂おしいほどの愛着と渇望。
その時、グレゴの意識は、彼女自身の個を超え、地母神のトランス状態へと強制的に引き摺り込まれた。
「――《リオネル》――」
脳裏に、謎の言霊が響き渡る。視界の端に揺らめくのは、金髪碧眼の、少年とも少女ともつかぬ中性的な影。それは地母神の記憶の様だった。
(……見つけました。……見つけたのですわ。……神の作りし『完璧な理』さえも、自身の不屈で押し返す、渇望の存在……!)
悠久の静寂の中で地母神が零し、忘れ去っていた「孤独という名の飢え」。
それは神の座にいては決して得られぬ、焦がれるような生の感触。
この男こそが、神が求めて止まなかった、美しくも残酷な救済。
(……ああ、《黄金の番》……!)
かつて、分かたれた半身を想うような、凄まじい熱情。
グレゴの指先が、瓦礫の中で無意識にガルハートのいた方向を求めて彷徨う。声をかけたい、その名を呼びたい。あるいは、その強靭な腕の中に抱かれ、すべてを砕かれたいという、ないまぜの衝動。
『……グレゴ。……報告を』
頭の中に、冷徹な「聖女」の声が直接響いた。 グレゴは、荒い吐息を殺し、血に濡れた唇を震わせながら応じる。
「……聖女様。……捕捉しました。……世界樹の捜索を中断するに値する、理外の存在です」
『……それを、今この場で捕らえられますか?』
問われ、グレゴは粉砕された壁の向こう、黄金のオーラを纏って佇むガルハートを、熱を帯びた瞳で見つめた。そして、悲しげに首を振る。
「……不可能ですわ。……あのお方は、地母神様の理の外側に……いいえ、おそらくは理を自ら練り上げた、彼岸の住人です」
しばしの沈黙。聖女の声に、微かな温度が混じった。
『……姿は、共有しました。……これ以上、こちらの戦力を削るわけにはいきません。……お引きなさい、グレゴ。命令です』
「……。……畏まりましたわ」
グレゴは立ち上がった。全身の骨が軋み、内臓が悲鳴を上げている。だが、彼女の心は、ガルハートへの執念で、今までになく「生」を実感していた。
彼女はガルハートを見つめ、何かを口にしかけた。慈愛か、誘惑か、あるいはただの一人の女としての懇願か。
だが、それを押し殺し、グレゴは懐に忍ばせていた古の法具を握り締めた。
「皆様……戻りますわよ。……時は、また訪れます」
白銀の光が爆ぜる。空間そのものを切り取るような、氷の涯の秘奥義。
カインたちの退路を断っていた僧兵たちも、光の中に吸い込まれるように消えていく。
最期の一瞬まで、グレゴの瞳は、砂塵の中に立つガルハートの背中を、恋い焦がれるように焼き付けていた。
やがて光が収まった時、そこには粉砕された壁と、静寂だけが取り残されていた。
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