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第12話 金髪の獅子とねじくれ若様。ヤカラが惚れる贅肉の漢気

いつもお楽しみいただきまして誠にありがとうございます。

今回もねじくれ若様が本領を発揮します。

正規軍と傭兵、水と油のこの二つ。若君はどう扱うか

お楽しみください。


尚、想定よりも定期的に見ていただける方が多く大変うれしく思います。

その為、今後は月水土曜 18時の週3回投稿になります。

次回は4/6 18時です。

月水土曜はガハハの日 お忘れなく。

スターレの北の要塞「白銀の牢獄」の2階にある中庭は、早朝から熱気と鉄の匂いに包まれていた。

その中央では、場にそぐわぬほどに美しく、かつ苛烈な三つの影が火花を散らしている。スターレ家の娘たちと、保護を名目に預けられたシルヴィである。


「シルヴィちゃ~ん。今の踏み込み、とっても綺麗でしたよ~。でも、もう少しだけ『風の声』を聴くように、力を抜いてくださ~い」


メイは一歩引いた位置から、指揮官がタクトを振るような優雅な動作で木刀を掲げている。彼女の役割は、二人の訓練を制御し、導く教官役だ。おっとりとした口調とは裏腹に、その視線は相手の筋肉の弛緩さえも見逃さない。


「はぁ、はぁ……。メイ様、これでも抜いているつもりなのですが……!」


シルヴィは楽しげに、けれどどこか冷めた客観的な視線を自分自身に向けていた。


(……私だって、故郷じゃ神童なんて呼ばれたけど。この人たちと並ぶと、自分の努力がただの『作業』に思えてくるわね)


シルヴィは秀才であり、実力も並の騎士を凌駕する。だが、目の前で文字通り「踊る」ように剣を振るスターレの血筋を前にすると、自分の中に流れる才能の限界値を嫌でも意識させられてしまうのだ。

一方、ヒサメは完全に「別の世界」へ行っていた。


「……シルヴィさん、今のはすごいです! 回避不能のはずなのに、それを身体能力だけで躱すなんて!」


ヒサメの瞳は、まるで散歩に連れて行かれた大型犬のように、キラキラとした純粋な喜びで満ちている。彼女は一度集中すると周りが見えなくなる質で、今は「剣を交わす」という行為そのものに脳を焼かれていた。


「もう一本! 次はもっと早く動くから、シルヴィさんももっと速く跳んで! さあ、早く早く!!」


日頃の騎士然とした姿はどこへやら。今の彼女は、ただ「楽しいから動く」という本能に従う子供のような剣士だった。あまりの勢いに、シルヴィは苦笑いを浮かべながら受けるしかない。


「ふふ~、ヒサメちゃん、しっぽが見えそうな勢いですねぇ~。シルヴィちゃんが疲れちゃいますから、そのへんにしておきなさいな~」


メイが苦笑しながら木刀を差し入れ、突進するヒサメを「おっとり」と、しかし完璧なタイミングでいなした。


そんな、天上に住まう者たちの演武を背景に。


階下の地べたには、規律正しく並ぶ領主軍「スターレ・ガード」と、獲物を選ぶ獣のような眼光を放つ《鋼鉄の牙》の傭兵たちがいた。本来ならば水と油、決して混じり合うことのない二つの集団を前に、カイン・アルマ・スターレは木刀を手に立っていた。


「――いいか。俺たちの剣は、ヒサメやメイ、シルヴィさんのような『天に選ばれた一撃』じゃない」


カインの声は、広場に集まった百名ほどの男たちの耳に、驚くほど明瞭に届いた。


「俺たちが戦う相手は、北の化物「氷のこおりのはて」だ。あいつらには理屈も情けも通じない。だが、俺たちには『知恵』がある。……パリスの軍学、第十二項。個の武勇に頼らず、集団で一人の怪物を屠るための『生存戦略』を、今日ここで共有する」


当初、傭兵たちは鼻で笑っていた。


「大学出の坊ちゃんが、実戦を語るってか?」 「太った若君に教わることなんて、美味い飯の食い方くらいだろ」


だが、その嘲笑は、カインが始めた「実演」によって一瞬で凍りついた。


カインはスターレ・ガードの兵士三人、そして傭兵二人を名指しで前に立たせた。


「君たち五人で、あそこにいるザルカス殿を包囲してみてくれ」


「……俺をですか、若君?」


副団長ザルカスが、戸惑いながらも木刀を構える。


五人がかりでも、天下に名を知られた《鋼鉄の牙》の副団長には手も足も出ないはずだった。案の定、五人は個々に斬りかかり、ザルカスの鋭い一閃で次々と体勢を崩される。


「待て。今の動き、歩幅が三寸広い。……右の君、ザルカス殿の右足の踏み込みに合わせて、左膝を抜け。左の傭兵殿、君は斬る必要はない。ただ、盾の端で彼の視界を一瞬遮るだけでいい。……そう、それだ」


カインのアドバイスは、驚くほど具体的で、論理的だった。 彼は「感覚」という曖昧な言葉を使わない。重心の移動、視線の誘導、そしてタイミングの数値化。パリス大学で仲間たちと剣術要綱を議論し、一振りの剣を「動作の積み重ね」として解体してきたカインだからこそできる、極めて高度な「技術の翻訳」だった。


「――今だ、突け!」


カインの鋭い号令が飛ぶ。 五人の動きが、一つの有機体のように連動した。盾が視界を奪い、足払いが重心を揺らし、その隙間を縫うように兵士の剣先がザルカスの喉元で止まった。


「な……ッ!?」


ザルカスは目を見開いた。個々の技量は自分に遠く及ばないはずの男たちが、カインという指揮官を介した瞬間に、自分を追い詰める「壁」へと変貌したのだ。


「……分かっただろう。これが『凡人』の戦い方だ」


カインは自ら木刀を振るい、基本の刺突を繰り返して見せた。 その動きには派手さはない。だが、正確無比。そして彼の手のひらには、幾万回、幾十万回という反復練習によって刻まれた、岩のように硬い「剣ダコ」があった。


その無骨な手のひらを見た瞬間、傭兵たちから嘲笑が消えた。 彼らは知っている。そのタコが、戦場を生き抜くために地を這い、泥を啜りながら積み上げてきた者だけが持つ「勲章」であることを。


「若君……あんた、その手は……」


「僕はねじくれているからね。天才と同じようには振れない。だから、こうして言葉にして、体に叩き込むしかないんだ。……君たちも、死にたくないなら僕の言葉を聴け」


カインの言葉は、かつて彼を侮っていた者たちの胸に、深く、熱く突き刺さった。 領主軍「スターレ・ガード」は若君の背中に新たなカリスマを見出し、傭兵たちはカインの中に自分たちと同じ「戦士の矜持」を見た。


「ガハハ! 見ろよザルカス。あの『ねじくれ息子』、いいツラしてやがる」


「……ガルハート殿、正直驚きました。あの若君、一体パリス大学で何を学んできたというのですか。我らのような無頼のヤカラまでが、あの方の言葉一つでこうも動かされるとは」


ザルカスの問いに、ガルハートは酒瓶を傾け、中庭で泥にまみれるカインを眩しそうに目を細めて眺めた。


「天才の血筋に生まれちまった、救いようのねぇ『凡人』さ。あいつはヒサメやメイみたいに空は飛べねぇ。だがよ、飛べねぇからこそ、地べたの這いずり方と、泥水の飲み方を誰よりも知ってやがる。いいかザルカス。あの手を見ろ。あの剣ダコは、教科書を読んで付くもんじゃねぇ。家族という『たどり着けない天才』どもの影に怯えながら、それでも隣に立ちたくて、たった一人で地獄を振り抜いてきた証拠だ。自分の弱さを知恵に変え、他人の躓きを強みに変える……。ガハハ! あんな『ねじくれ息子』、そうはお目にかかれねぇぜ!」


ザルカスは黙って、カインが掲げた木刀を握る「手」を見つめた。 そこにあるのは、血筋や天分とは無縁の、執念そのものの堆積だ。


(……この御方は、我らと同じだ)


ザルカスは胸の内で戦慄した。 戦場で明日をも知れぬ命を繋ぐために、泥を啜り、必死に剣にしがみつく。そんな自分たち傭兵の本質を、この若君は「学び」という皮を被りながら、その実、誰よりも理解している。


(天才の傲慢さがない。自分の弱さを認め、その上で『勝つ』ことを諦めていない。……この御方の下であれば、我らはただの使い捨ての駒ではなく、真の『軍』として戦えるかもしれない)


ザルカスは、カインの中に「戦場でしか生きられない戦士の矜持」を見た。それは、かつて自分が宿敵として刃を交えたガルハートが放つ輝きとはまた違う、静かで、けれど決して折れない鋼のような信頼の灯火だった。


「……若君。貴殿の「生存戦略」、我ら『鋼鉄の牙』、骨の髄まで叩き込ませていただきます」


ザルカスが深く頭を下げると、それを見た傭兵たちや領主軍も一斉に膝を突いた。カインという一人の「凡人」を軸に、今、真に一つに溶け合った瞬間だった。


カインは戸惑いながらも、その重い信頼を確かに受け止めた。


前書きなどに記載がしてありますが、次週から月水土の週3更新を行います。

次回は4/6 18時更新になります。






いつもご愛読いただいありがとうございます。

前書きの理由で次回は4/6 18時です。

その為、今後は月水土曜 18時の週3回投稿になります。

月水土曜はガハハの日 お忘れなく。

『続きが気になる!』『面白い!』と思っていただけたら、下の星を【★★★★★】にして応援してくださいませ。嬉しくて頑張っちゃいます!

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