第二十四章
ダンが同僚の全員を紹介し終え、皆で雑談をしている中突然。
「マイン。」
と俺が口をこぼす。
その言葉に反応したダンが。
「そうそう、お前のメンバー達が物凄く心配しているぞ。俺にもそうだったが、マインにもお前の単独任務の内容を教えてなかったんだろ?」
「あぁ、そうだ。誰かに知られる事も引き留められる事も避けたかったからな。」
「それは仕方の無い事があったんだろうが、ちゃんと説明してやれ。それと謝罪もな。」
「謝罪? 何で謝罪まで?」
「何だひゅうご、お前そっちには疎いのか。」
「そっちとは何だ?」
「本当に疎い様だな。お前、女性にあんな顔をさせて、何も無かった事に出来るのか?」
「そ、それは確かにそうだな。善処する。」
「硬いんだよ。お前。」
「おーい、マイン! と小僧、こっちに来てひゅうごに一言文句でも言ってやれ!」
「なんだよ、その煽りは。」
「まあまあ、その方が辛気臭くなくて良いだろぉ。」
「ま、まあな。」
マインとハーデンが、ダンが連れてきた集団の塊が、左右に分かれて出来た隙間を通って真っ直ぐに俺に向かって来る。
「やぁマインにハーデン、お前達も無事だったか。まぁ、さっき一度会ってるけどな。」
「師匠ぉー、さっきはお貴族様に普通に接してるから忘れてたけど、後から聞いたら師匠かなり今回無理したみたいだな。心配したよ。」
「ひゅうごさん、先程はお貴族様がいらっしゃり、お尋ね出来なかったのですが、何も問題なくご無事なんですよね?」
「あぁ、全く無事だし、全て順調に事が運べたよ。何も心配はない。今回の事に関しては。」
あっ、言い方に失敗した。頭の中に問題が山積みだから勝手に言葉がそう出てしまった。
「しかし、作戦とはいえ、お前達にも俺の行動の詳細を教えられなかったのは申し訳なかった。謝罪する。心配掛けたな。」
「ああ、心配したよ師匠。」
これで誤魔化せたかな。そんな簡単にはいかないか。
「まだ問題があるのですね。それは大丈夫なのですか?私が心配しても変わりはないと思いますが。」
「ん? え? そうなのか師匠。」
「まあな。問題もやるべきことも山積みだ。これからも忙しくなるぞ!二人共!」
「今までと変わらない様で安心しました。」
「ん?とは?」
「先程お見掛けした際には、ルッセイラティ様と談笑されてるご様子でしたので、もう私なんかではひゅうごさんにお言葉も掛けられないものと・・・」
なんでそうなるの?と、思うのも半面、二人にはかなり昔からの確執があったんだ。俺には図りし得ない程に。
「でもさっきな、マインとハーデンを最短でC級冒険者に育てるから、その時は俺もA級になってAランクパーティーにしようって話したら、まんざらでもなかったぞ。」
「えっ?私達がルッセイラティ様とパーティーを?そんなまさか。」
「セイラ本人もそんな事言ってたぞ。でも俺とならあり得る未来だ。とも言っていた。これは確かだぞ。」
「お、俺がC級に!?なれるのか?俺が?」
「あぁ、なれる。お前は先ずギルド指定依頼を一つこなすだけでEランクだ。その先も男爵様の協力を頂き、俺が育てる。最速でCまで辿り着くぞ。」
「よっしゃぁあっ! 俺はやるぞぉ!」
「あ、あの、ひゅうごさん。本当にルッセイラティ様がその様な事を仰られたのですか?」
「あぁ、そう言ってるだろ。」
「そ、そんな、私達には千年に及ぶ確執があるというのに。まさか・・・」
「あ、あと師匠、A級冒険者が二人いても、二つ離れたC級冒険者がいたらパーティーランクはAになれなくてBランクになるんだぞ。」
「そ、そうなのか?」
「あぁ、細かいのは忘れちゃったけど、師匠がA級になって、俺達がB級までなればAランクパーティーになるはずだ。」
「そうなのか。なら最終目標はそこだな。お前達をC級ではなくB級まで引き上げるぞ。」
「おぉぉぉっ! いいぃねー!」
「あぁ、その代わりスパルタでいくけどな!」
「な、なんだ、その「すぱるた」って?」
「いつもの数倍厳しくするって意味だ。」
「うわぁあああ、それは凄そうだぁ。」
「ふふふっ。」
「で、でも師匠のすることなら、俺、何がなんでも喰らい付いてやるつもりだ!」
「本当にいいのか。」
「あぁ、本当だ。」
「お、お前、凄いな、何と言って良いか。」
「そうだろ、凄いだろ、俺。」
「あ、あぁ。」
「ふふふふっ。」
この騒動の前の三人に戻れたかなと、安心した直後、この喧騒を上回る大きな怒声が鳴った。
「おぉーっい! お前達! 今晩大いに飲んだくれるのは構わないが、明日は2の鐘から石壁の開門だからなぁ!」
とギルマス。
「おぉおお!」
「うぅううう。」
「ぶぅっぅぅぅ。」
と様々。
「訓練と同じく土属性魔法使いは石畳作成、残りの成人冒険者は綱引きだ!」
「おぉおお!」
「うぅううう。」
「ぶぅっぅぅぅ。」
「それとシルバーは1と半に南門に集まってくれ! 最終安全確認だ!」
そう叫ぶとギルマスは歓談の中、俺達の方へつかつかと向かって来る。
「おぉ、ひゅうご。先程の安全確認だが、お前も参加してもらえないか?」
「あ、あぁ、構わないが、1と半って?」
「あぁ、1と2の鐘の丁度半分位の時間ってことだ。そこから作戦開始するから、その前に南門に来て欲しい。」
「そうか、なら、明日その頃に。」
「助かる。」
邪魔したなとばかりに用件だけ確認したギルマスが踵をかえす。
「あ、そうだ、ギルナス。」
振り向くギルマス。
「そこにマインも連れて行って良いか?」
「あぁ、構わない。人手は幾らあっても助かるし、お前の推薦なら大丈夫だろう。」
推薦って訳じゃなく、この際マインに索敵や異常探知等を教えられる良い機会と思ったまでだったが。
「俺の推薦って、」
とその続きを言いかけた時。
「いや、お前が安全確認にマインを連れて行っても大丈夫、と判断してるなら問題ないって意味だ。」
「あぁ、そうか。助かる。」
「そうだひゅうごよ。明日の綱引きに小僧も参加させるというのはどうだ?」
「小僧とはハーデンだな。ハーデンに何をさせると言うのだ?」
「あぁ、石壁を引き上げる綱引きは、成人している冒険者だけに依頼しているものだが、その小僧は成人並みに力があると聞いたからな。」
「それで?」
「あぁ、それで小僧が明日その依頼を受ければ、特別にギルドからの依頼達成として、終わったらEランクに出来るぞ。」
「そ、そうなのか?それは願っても無い申し出だ。ハーデンもそれでいいか?」
「あ、あぁ、それで一先ずEになれるんなら、願ったり叶ったりだ!」
「そうだな!ギルマス。それで頼む。」
俺はギルマスが先程の執務室での行動、言動の違和感が、今では全く感じられないのが逆に気になる。
そこで先程作ったセイラとの通話魔法に、外には無言で聞いてみる。
「なあセイラ、聞こえるか?」
「あぁ、聞いておるぞ。」
「そうか、ギルマスの動き、どう思う?」
「何とも言えぬな。お主や童を貶めるとしては、やっておることがあからさま過ぎる。」
「俺もそこが気になる。」
「そうせざるを得なんじゃ、というのを解って欲しい、という感じじゃの。」
「そうか。ギルマスは誰かに命令されてそうしているが、俺達にそこを気付いてくれ、という合図だったと。」
「それが一番可能性が高い、が、じゃが、そう思わせて安心させ、更にその裏を取る。ということも有り得る。」
うわぁ、まじかぁ、お貴族様はそこまで先読みしないといけないのかぁ。
「うむ、お主、声に出さなくとも心の声が光を通して聞こえてくるぞ。」
ま、まじかぁ。恥ずかしぃ。外に音を出さずに話すのと、興奮して考えていることが同じように伝わるなんて考えもしなかった。
「う、うん。それで、だけど。」
「なんじゃ?」
「あ、あぁ、その、ギルマスの上司に当たるのは誰になるんだ?」
「それは領主じゃな。童の父上じゃ。」
「そ、そうか、領主様か。お貴族様でも意図が分からないのに、領主様となると更にその意図が分からないなぁ。」
「ふむ、そうじゃな。父上がそんな小賢しい事をするとは考えられんな。」
「そうなのか?」
「うむ。父上である領主はいやらしい事はかなりするが、もっと権威を振りかざして堂々とするじゃろう。そういった奴じゃ。」
領主である父を「奴」って。
これはなんとか声にならないように静かにつっこむ。
「そうか。それなら違うといえそうだな。」
「ギルマスの上司か。それなら街長もそれに充たるじゃろうな。」
「街長?」
「そうじゃ、この街の長じゃ。領主の意向をこの街の者に伝える役割があってな。ギルマスにとって直接の上司って訳では無いのじゃが、領主の言葉を伝えるという意味では上司として捉えるやもしれぬと、ふと思っただけじゃ。」
「そ、それで、その街長とは誰なんだ?」
「童の兄じゃ。」
「あ、あに、お兄さん?」
「そうじゃ。その兄じゃ。しかし、そう考えるとあのギルマスの行動と合致するな。」
「そうなのか?」
「あぁ、ほぼその線で間違い無かろう。」
「そうか。それでその目的などは分かるのか?」
「あぁ、目的なんか童を貶めることだけじゃろう。」
「そうか。ならそのお兄さんを探れば解決しそうだな。」
「いや、そこじゃ。」
どこじゃ?
瞬間に心に思ったが、はっとセイラに心の声として聞かれたかもと、恐る恐る反応を伺う。
が、セイラには聞こえなかったのか、聞こえたが聞き流してくれたか、その事には何も反応せず。
「兄はここ数十年童に全く関わらんようにしておったのじゃが、それを破って行動に出た要因の方が、童には気に掛かるというものぞ。」
「それはどういう?」
「あぁ、細かい事を説明してやれる時間は無い。じゃが、お主はそのまま行動し、そこで男爵の周りに気になる事や、ギルマスの行動の変化、特に上位の冒険者達の行動・言動に気になる事があったら直ぐに童に相談せよ。」
「は、はい。」
「しかしお主は転生者故、最低限の状況は説明してやる。」
「それは助かる。」
「あぁ、兄は領主の正妻の息子じゃが、魔力に恵まれなんだ。そこで魔力の高い女子に子を産ませたが、生まれた子は女子じゃった。童じゃ。」
「そ、そういう。」
「そして男子を望む父と、産んだばかりの女児を護りたい母が、自身を上回る魔力でしか解けない魔氷で自身を閉ざしたのじゃ。」
「え、えぇえええっ」
「そうじゃ。その氷はこの世では童にしか解けない。しかし、それを解いては童は不要になる。それが童の母上が、童の身上を案じて考してくれたものだったのじゃ。」
「そ、そんな。」
「童が物心つく前から兄は童を排除しようと、暗躍しおってな。」
「えぇっ?」
「母の遺志を継いだ従者達によってずっと護られてきたのじゃ。」
「そうか。」
「何人ものその従者達が亡くなっていく中、童も年を重ねる以上に成長する必要があった。」
「そ、それはなんと言って良いか。」
「そして十になる頃には成人の魔法使いのそれを超え、二十歳になる頃には賢者となり、もうその頃には兄は童に立ち向かう術を無くし、ここ数十年一切の干渉も無ければ、顔を見せた事も無かった程じゃ。」
「な、なんとそこまで?」
「そうじゃ。そこに今回、この様なあからさまな動き、余程の奇策が出来上がったのか、想像出来ぬ程の後ろ盾が出来たのか、この様な愚策に走る理由が考えられぬ。」
「それ程までに?」
「そうじゃ。童に気取られず気策を作り上げるなども、そこまでの後ろ盾を見付けるなども、簡単には出来よう筈も無い。」
「ふむ。」
「そして一番の気掛かりは、じゃ、童も決して今まで気を緩ませておった訳ではおらぬ、故にその童の警戒を掻い潜って今回の事じゃ。」
「あ、あぁ。」
「しかし、そこまで万全を期して尚、初手にこんなあからさまで単純な手を打ってきたのか。」
「そこまで?」
「うむ。それはこれが初手では無く、既に策が練り上がられておると考えた方が良かろう。」
「えっ?そうなのか?」
「そう考えるのが妥当じゃ。ここ数十年静かにしておったのも何かしら手を打っておったということじゃろうて。」
「う、うん。」
「そこにお主の出現じゃ。あ奴はお主の出現で、焦って動いたか、それが好機と駒を進めたか、その辺りが気に掛かるところじゃ。」
「そ、そうなのか。」
「あぁ、童はこれらの探りを入れる為暫く身を潜める。恐らくこちらからは暫くお主に接触はせん。しかし、今回の様に気になることがあれば気軽に話掛けると良い。」
「あ、あぁ。そうする。」
「では、そのように。」
「あぁ。」
「お主も気を付けるのじゃぞ。」
「あ、あぁ。勿論。あっ、では執務室に作った盗聴影はそのままにして良いか?」
「それらがじゃの。最後に童の術に干渉したものは残っておるのか?」
「あぁ、それが一番上手く働いているぞ。」
「そうか、それならば良い。ではそれ以外のものは全て削除したほうが良いぞ。」
「ダミーで盗聴の劣化版を残してたけど、それも不要か?」
「あぁ、恐らくあの会話は記録されておってな、あの時作った魔術は全て消した方が良かろう。その後に其方が作ったものは感知されておらぬと思うぞ。」
「そうか、なら最終の影以外は全て削除しよう。」
「あぁ、そうせよ。」
俺は即座に壁に設置した盗聴魔法以外の全てを消す。
「してお主は童との会話で作った魔法は、あの場だけの戯れじゃったと言い通すと良い。」
「あ、あぁ、わかった。」
俺はその言葉を最後にセイラとの会話を終え、大変大騒ぎしているこの場の中、隣にいるマインから声が掛かる。
「もうよろしいでしょうか。」
俺はその言葉の意味が咄嗟には解らなかったが、この喧騒の中セイラと暫く魔法で無音で話し合ってた事を思い出す。
俺は周りに合わせて料理やお酒を交わしながらセイラとの会話を続けていたけど、マインにはそれが分かっていたようだ。
「あ、あぁ、もう大丈夫だ。何かあったか?」
「いくつかあります。そ、そのひゅうごさんはルッセイラティ様と直接お話が出来る術をお持ちなのでしょうか?」
「あ、あぁ、そうだが、そのルッセイラティ様というのは・・・セイラは冒険者にはセイラでも良いと言ってるみたいだが?」
「いいえ、以前、数十年前に私が冒険者登録した際、本人からはっきりと私にはその様な呼び方はしないようにと、ルッセイラティ様と呼ぶ様にと言及されております。」
「えぇっ?そうなの?そんなことがあったの?ま、まぁ深い確執があった様なので、そんなことも有り得るか。」
「はい。むしろ、私に関わっているひゅうごさんに普通に接している事や、私と関わらない様に命ぜられていない現状に驚かされます。」
「なんと、そこまで。」
「そうですよ。」
「いや、でもセイラは俺との間ならマインとパーティーを組む可能性が無くはないと言ってた訳だし。そんなにそこを考える必要は無いと思うぞ。」
「そうですね。そう割り切る様に致します。」
だから、硬いんだって!
「それと、明日の最終安全確認の任に私を同行願ったのは?」
確かに俺はゴブリンに襲われた当事者のマインには、なるべく作戦から遠ざけたかったけど、今回の陽動作戦には必要不可欠とお願いし、それが終わったばかりなのに、今度は積極的に参加させようとしているのが変に感じるのもしょうがない。
「あぁ、それだが、お前に索敵魔法の訓練になると思っての事だ。」
「索敵魔法の訓練?」
「あぁ、そうだ。お前はもう既にある程度索敵が出来ていて、ダンジョンでも森でもある程度正確な索敵が出来ていた。それを俺の索敵魔法を教える事で、それを成長させたいんだ。」
「そういうことですね。」
「あぁ、そうだが。今までも俺が体得した闇魔法を、お前に教えると、いつもそれ以上に進化させたものに変化させてくるからな。それが見られるかも、という自己投資でもある。」
「そんないつもその様な事にはなりませんよ。」
「そんなこと言って、いつも俺を驚かせるんだから、気を負わなくいつも通りにしててくれ。」
「はい。そうします。」
その後宴は最高潮に盛り上がり、皆が酔いつぶれていく中、飲んでも飲まれない輩が明日の作戦に向けて退室していくのに合わせ、俺達も退室した。
梨花亭に着くと、ハーデンを自室に、俺はマインの部屋に向かう。
「それじゃあハーデン。明日の2の鐘に間に合う様にな。」
「あぁ、師匠。おやすみなさい。」
「あぁ、おやすみ。」
俺は一刻も早く試したい事が出来たのだ。
セイラに聞いた聖法の限界を知る術、100日の加護内ならどれだけ倒れても問題はない。むしろ限界を知る為に試すべきだ。
それと、加重魔法で体を酷使した訓練に、聖法で自身の筋肉を回復させ、それを繰り返そうと。
これを数日前に気付けなかった自分に腹立たしく思う程だ。
生前にもあった。その世界では聖法ではなく治癒魔法といったが、それを間違った使い方をしたというラノベが。
確かに無茶に体を酷使して筋断裂を行い、それを修復する事で体を成長させると。
俺は早く実践したくて、マインの部屋に入ると、黒穴の出と引を作って祠に向かおうとする。
「マインはどうする?ここで休むか?ヒョウの所に行くか?」
「そちらに向かわせて下さい。」
「そうか。それなら行こう。」
「はい。」




