第二十五章
俺達は黒穴出を通って祠に着くと。
「ヒョウ、ただいま。大体終わったぞ。」
「くぅうん。」
「そっちは問題ないか。」
「くぅん、くぅん。」
「そっか、ならいい。」
「ヒョウ様、またお邪魔します。」
「くぅうん。」
「そういえば、マイン。約束だったな。話しておく。」
「は、はい。」
やっぱり待ってたか。
俺はこの話をかなりためらっていたが、セイラにあっさり知られたので、逆にマインに知らせない方が悪いとまで思っている。
要は吹っ切れたのだ。
「マイン。」
「はい。」
「昨日俺はここで言う、バルカの迷子と言ったが、実は正確には言葉が違っていて、」
突然この世界の、この国の、この街にある、魔の森に現れた、という事は事実だから、嘘は言ってない。誠実そのものだ。
「はい。」
「もっと正確に言うと、転生者なんだ。」
「て、転生者? ですか? その転生者というのは?」
「あぁ、俺は突然この世界の魔の森に、87日前に現れ、数日前にこの街に顔を出した、というバルカの迷子に変わりは無いが、元々全く別の世界で生きていて、そこで42年もの月日を過ごしてきたんだ。」
「べ、別の世界?」
「あぁそうだ。そこで俺は一度死に、だがそこで最後に助けたものが神の御使い様、いや、その方もここでいう神様で、それでこの世界のこの森に生き返らせてくれ、若返らせてくれたんだ。」
若返っただけでなく、恐らく身長とかも高くなってる。以前170ちょっとだった俺は、180センチ超えを望んでた。理想は185センチだと。恐らくその辺りになってるかと。景色が違う。
だが、この世界には冒険者だからだろうか、ダンもギデルも俺よりかなり高く、190から195位はあるだろう、でも軽々と動けるとか、ダンの兄の何だっけ、あぁダルクだ、ダルクに至ってはゆうに2メートルは超えて、横幅もお相撲さん並みにでかいが、ダンに劣らず早いとか。
御使いさんから元の世界と似た物理法則の世界と聞いていたけど、魔法があるから、何かが大きく違うようだ。とは思っていた。
あ、思考が離れた。
「そ、それで余りにも考え方が違うので、記憶喪失、ということにしてたんだ。」
あ、嘘もついてた。誠実では無かった。
「そ、そうなんですね。」
「な、何か、がっかりさせたか? こっちに来て落ち着いて話そうと思ったけど、部屋で話してゆっくり時間を持って貰った方が良かったかもな。早まったか。」
「いいえ、そんなことは無いです。むしろこれで良かったですし、聞けて良かったです。」
「そ、それはどういった?」
「はい。私のような者と普通に接して貰える事、ルッセイラティ様とお話が出来る立場になられても、こうして私と接して貰えてる事、魔法に対するアプローチが独特で私を成長させて貰えてる事、どれを取っても、私にはひゅうごさんと出逢えた事が奇跡の様です。」
「奇跡って言いすぎでは?」
「いいえ、奇跡です。そんな奇跡を起こす方が普通の方がおかしかったのです。別世界からの転生者と知れて、むしろ納得です。ひゅうごさん、私はあなたに何処までも付いていきます。」
「そ、そうか。そう言ってくれて正直嬉しいよ。俺も、マインと共にこの世界で生きていくよ。」
「はいっ。」
なんか今のセリフおかしくなかったか。
でもまぁいいや、快く返事が貰えたし。
「ふふっ、しかしひゅうごさん、人間の若者としては思慮深いと思ってはいたのですが、私と同年代だったのですね。」
「同年代?」
「はい、私は今年42になります。夏生まれですからね。」
「そうか、俺は2月だからもう既に42だ。少しお兄さんだね。」
「お、お兄さんだなんて。ふふふっ」
ど、何処につぼったんだ?
「と、所で、俺の話を聞いても俺から離れないなら、相談したいことがあったのでは?」
「はい。有ります。ですが、ここではしません。皆さんに迷惑を掛けそうなので。」
「め、迷惑?」
「はい。明日にでも相談したいです。」
「ヒョウに聞かれると困るとか?」
「いいえ、そんな事では無いです。ただ、迷惑を掛けそうと。」
何か良く分からないが、マインがそう言うのならその様にしようと思う。
「な、なら、明日、聞こう。」
「はい。お願いします。場所は、、、闘技場が良いでしょうか。」
「え? 何故闘技場!?」
俺は聞き間違いかと思って復唱する。が、
「んー、でも色々人がいるとまた厄介な事になるかなぁ。梨花亭の裏庭は・・・あそこじゃ狭いかも・・・」
いや、マイン、独り言駄々洩れだし!
「あ、あの、マイン。どうしちゃったの? いつもと様子も違うよ。」
「あぁっ、ごめんなさい。相談は明日、なるようになります。もう修羅場は覚悟してますから。」
「えっ? 修羅場?」
「ごめんなさい。それより、折角ここに来たのですから修行を始めましょう。して、ひゅうごさんはどの様な修行をなされるつもりですか?」
「あ、あぁ、加重力最大で体の筋肉が壊れた所に、聖法でそれを治し、また加重を掛けて訓練、それを繰り返すつもりだ。」
「まぁ、なんて苦しそうな行を。」
「それがまた良いんだ。普通なら週に1度か2度しか行えない訓練を、この方法なら今から寝落ちするまでに2,3回実施出来る。通常の20倍から30倍の速さで体を成長させられるんだ!」
「そんな事があるのですね。」
マインはそう言って思考の海に意識を沈めた様だ。
「そ、それを私にも体験させて貰えませんか?」
「え?」
「ひゅうごさんの修行に、いきなり付いて行けるとは思いませんが、それに近しいものにご一緒出来る機会はございませんか?」
難しいなぁ。俺は今まで自身がどの位の加重に耐えられるか実践しながら加重圧を高めてきた。俺自身が自分の訓練中に、他人の耐久力を推し量りながら、などとは無理だろう。
「いや、それは難しいな。」
「それはそうでしょう。申し訳ありませんでした。」
しかし一緒にへばってくれたなら、聖法をどこまで使えるのかの試しにはなる。何とかしてマインを俺の訓練に同行させられないか。
そこでふと、考えた。
いつも祠前で加重して回っている広場を、加重圧を変化させて作動させる訓練を共に行う、というのは。
では、それを俺が作って維持するのをマインにも感じて貰って、いずれ加重魔法を修得してもらうというのも良いな。
なら、広場の中心近くは小さい加重で、外に行く程加重を強めると。
その加重力魔法の調整を行う事で魔力操作の訓練を行いつつ、筋断裂を起こさせる程体を鍛え、それを聖法で治していく。その聖法はマインにも。そういう訓練にする。
おれは広場の中心に、横幅10m位の楕円状に、重力1.5倍の重力場を設ける。
そして、その周りに2倍の重力場、その周りに2.5倍、といった具合に上げていき、最遠周を現在の最大加重値の6倍に設置した。
「マイン。今からこの俺が作った広場の力場の中心にマインを送るから、そこの最小周で双短剣の剣舞で訓練して欲しい。そこで体への負荷が足りないと感じたならその一つ外の周で。それを繰り返し、体が立たなくなったら外縁部で同じく訓練している俺に声を掛けてくれ。ヒールを掛ける。」
「承知致しました。」
いや、硬いって。
「それと同時に俺の加重魔法の理解に努めて欲しい。」
「加重魔法の理解?」
「あぁ、これがそのままお前の役に立つとは余り思えないが、お前なら理解も早いと思うし、更に応用できるようになると思うんだ。」
「善処します。」
「あぁ、そうしてくれ。」
言葉が硬いなぁ。
「ヒョウ、お願いがあるんだ。」
「くぅうん。」
「俺も聖法の限界使用は初めてで、もし回復させられないでへばってたら、祠に連れていってくれないか。」
「くぅうん。」
「そうか。頼む。しかし、俺はいいが、マインを運ぶ時は優しくな。俺の時みたいに首根っこに牙がぶっ刺さる様なのは駄目だぞ。」
「くぅうん。」
全く、後で祠の力で傷が癒えるとはいえ、あの背筋が凍る感覚は思い出すといつでもぞっとするんだ。
意識が遠のいていても、体が覚えているというか。
しかしあの時は黒蛇に体中を絞められてて、引き抜くのにその位は必要だったってのは理解してるけど、ね。
それとこれとは別。そう言いたい。
あの鋭い顎で首を咥えられたのが、外側からじゃなく、内側からなら完全に猛獣に襲われて餌となる草食動物のそれだ。
まさか転生して猛獣に狩られる体験するなんて。
いや、待てよ。ヒョウが俺の首を咥えたら、後ろからでも前からでもほぼ同じ頸動脈が流れる辺りに牙が入ってただろ。
俺の血が流れ捲ってたんじゃないか。しかもあの時の俺は黒蛇の毒に侵されてた。血も毒でそれをくらってたのでは。
子猫を運ぶ親猫の様には、俺の体重では無理もあろう。
なんか、急にあの時のヒョウに申し訳なく感じ、ヒョウに飛び乗る。
そして俺が知る、猫が喜ぶポイント、首下や耳の付け根をガシガシと撫でると、ヒョウはまるで猫の様に体を裏返し、腹を見せ、俺の頭や肩を甘噛みする。
「痛い、痛い、お前、甘噛みでも牙が通ってる。血が出てる。」
「くぅうん!くぅうん!」
「いやいやいやいや、俺が悪かった。俺から仕掛けたの確かだが悪かった。」
そうしてヒョウから何とか離れると、
「本当に仲がよろしいようで。」
とマイン。
「いや、こんなことしたのは今が初めてだけどな。」
「そうなのですか。まるでそうとは思えない程自然でした。」
「あぁ、そうかもな。」
俺はヒョウの甘噛みで出来た出血を聖法で治す。
正しい祈り文句は解らないが、それでも何度も発動したのは確か。それなら言葉にしなくても祈りさえ通れば発動するのではと試みる。
「ガイアモライ様お力をお与え下さいませ ・・・ ヒール。」
俺の首や頭に金色の光が舞う。
よぉしっ、元々祝詞は知らないんだし、この調子で無詠唱の治癒聖法を使えるようにするぞ!
期待と気合を載せた宣言を心の中で叫ぶ。
「それじゃ、マイン、杖は置いて短剣を構えてくれ。中心まで運ぶ。」
「はい。」
俺は黒穴引と出を作り出し、マインを広場の中心に送った。
「マイン、先ずはその中心の重力1.5倍で型稽古を行ってくれ。それで足りないと思ったら一つ外縁に。」
「はい。」
「ただ、無理はしない様にして欲しい。」
「はい。」
「それで体が疲れた所で俺を呼んで欲しい。」
「はい。」
「それと、その重力魔法に同調してくれ。お前に重力魔法を覚えて貰いたい。」
「はい。そのように。」
マインが型稽古を始めているのを横目に、自分も重力6倍の外周で、黒虎徹と木刀を持った二刀流で型の動きをする。
すると、今日一日真剣勝負が多かった為、直ぐにバテる。そこで自身にヒールを掛ける
「・・・・ヒール」
回復してまだまだたどたどしい二刀流を6倍の重力で暫く行っていると、マインが。
「ひゅうごさん。回復願います。」
と、2倍の周で地面にへばっている。
「・・・ヒール」
「ありがとうございます。」
「いや、俺の為でもあるからな。それより、時間的にもうあと2回繰り返したら休むとしよう。」
「はい。」
そのまま無言で二人共それぞれの位置で型稽古を繰り返す。
俺はいつもの様に自身の体で聖法の限界を図るつもりであったが、これもまたいつもの様に思考の繰り返しによる御使いさんの「ピンッ」である程度理解してしまった。
御使いさんが正式には生命の神ガイアモライ様とは判明したが、俺自身の思考の中では親しみを込めて今まで通り、「御使いさん」とすることにした。
その御使いさんによると、この程度のヒールなら、まだ数十回も放てると。
しかも全回復には、今までの祈りの間隔である、およそ丸一日の時間が必要だと。
それによると、今のペースで型稽古で疲労した二人分をヒールしていても、回復が追い付き尽きる事はないと。
更には、その力の事も、魔力の様に自身が持っている力とは違うことから、聖法力とか聖力と言うのは間違いな様で、俺が今考えられる言葉だと、「祈りの糧」になるそうだ。
祈りの糧は魔力の様に、限界まで使ったら容量が増える、ということは無い様で、今俺がやろうとしていたことは無意味だと知る。
単に祈りの回数と祈りの真剣度合いを増やすしかないと。
それぞれもう2回バテてヒールで回復した所で訓練を終える。
俺は自身とマインに水採取と水分操作で体の汚れを取り除き、祠に入る。
「ヒョウ、すまんな。このヒールではお前の出番は無さそうだ。」
「くぅうん。」
「ところでマイン、この後最後にいつもの様に魔力切れで寝落ちして貰いたいのだけど、その前に二つ程、お前にとって問題なければやって欲しいことがある。」
「かしこまりました。問題ないです。」
「いや、まだ何の説明もしてないぞ。」
「はい。私はひゅうごさんの言う事は全て受け入れられる準備が出来ております。」
そ、そこまでとは。
「それは嬉しいが、今から言う事には、お前にとって不利益になり得る可能性があるから、ちゃんと理解して、自身で判断して欲しいんだ。」
「承知致しました。」
な、なんか気構えるなぁ。
「一つ目は、これから少しずつ、毎日の訓練に、大黒蛇の毒を少量ずつ受けて貰い、毒耐性訓練にして欲しいんだ。」
「はい。承知致しました。」
「い、いや、大黒蛇の毒はかなり強くてな、も、勿論大丈夫な分量にしてから徐々に、と考えてはいるが、、、」
「勿論大丈夫です。信じております。」
「いや、極力大丈夫な様にして望むが、一歩間違えれば死に至る可能性だってある。」
「問題ないです。私はもうひゅうごさんに付いて行くと決めてます。そんな事では揺らぎません。もし死することがあっても後悔は致しません。私にはひゅうごさんとご一緒していく未来しかありませんので。」
ど、どんな覚悟だよ。
「そ、それは、気を付けるよ。」
「いえ、ひゅうごさんに余計なお手間は無用です。この程度のご心配なら私医は不要です。ひゅうごさんの思う様にお進めくださいませ。」
「あぁ、そういうことなら、進めさせて貰うよ。しかし言っておく。これはマインが毒を受けその耐性を得ると共に、俺が聖法で回復させることで聖法の訓練にと考えての事だ。」
「はい。承知致しました。」
「でも最終目標は、マインがある程度の毒に耐性が出来て、大黒蛇を一緒に倒せる位になる事なんだ。」
「嬉しいです。そうなれるように頑張ります。」
「あぁ、その時には俺や、俺とハーデンがいると思うが、マイン自身が大黒蛇討伐の最大功労者となって、この黒虎徹を手に入れて欲しいんだ。」
「そうなんですね。それが成就できるよう邁進して参ります。ですが、その黒虎徹では私には長過ぎて扱いに困るかと思いますが。」
「そこだけど、御使いさんによると、」
「御使いさん?」
「あぁ、正式には生命の神 ガイアモライ様だけど、俺をこの世界に転生させてくれた方なんだ。」
「まぁ、そんなえらい神様に、、、」
「あ、やっぱりそうなのか。俺にはその前世でその神様の化身が、勿論神々しさもあったけど、それをお隠しになられてた分、とても愛らしくて。」
「まぁ。」
「あぁ、それで御使いさん、というのが合っててそう呼ばせて貰ってるんだ。」
「それはとても親しげな間柄だこと。」
「そこまでではないと思うけどな。でも常に感謝と敬意は忘れてないよ。」
「そうでしたか。それはとても微笑ましいものですね。」
「そういうものか。」
「まぁ、その御使いさんが言うには、あ、実際にお告げとかあった訳じゃないけどな、ちょっとヒントを教えてくれる。みたいにな。」
「は、はい。」
「そう、それで、大黒蛇を倒した者に与えられる剣は、その者に相応しい、その者が必要とする剣になるそうなんだ。」
「そうなのですね。理解しました。そして、もう一つとは?」
「これもお前の意思に任せるが、俺と同じように御使いさん、いや、ガイアモライ様に毎日祈りを届けて欲しいんだ。」
「私に賢者を目指せと?」
「あぁ、最終的にはそうなる。やってくれるか?」
「でも闇魔法使いの私に賢者を目指させるとは、、、」
「そこなんだが、俺も気になってな、祈りを重ねて賢者を目指すことで、相性の悪い闇魔法の修得に影響するとか、習得した闇魔法が使えなくなるとか、そういったことは無さそうなんだ。」
「ひゅうごさんには珍しく断言はなさらないのですね。」
「あぁ、そこなんだ。いつもは俺が疑問に思う事は、御使いさんが正しいか正しくないかを答えてくれるんだが、この疑問にははっきりとお答え頂けないんだ。」
「そうなんですね。私には今聞いていると、ガイアモライ様がその都度お応え頂けているその現状の方が驚きですけど。」
「あぁ、それな。ギルマスやセイラも驚いてた。マインには全てを知って貰いたいと思ったから、隠さず話してる。」
「それは嬉しいです。けど、そんなにあっさりと当然に様に話されても、驚きは隠せません。」
「それは悪かった。だけど、それだけじゃないんだ。マインが俺と同じように祈る様になったからと、賢者になれるかどうか、まるで分からないんだ。」
「それはそうでしょう。」
「いや、何と言って良いか。いつもならはっきりと出来る出来ないを答えてくれるのに、返答が曖昧、と言うのが近いか。」
「それは出来ない、賢者にはなれないと仰ってるのでは?」
「いや、そうではないんだ。返事が曖昧というか、、、」
どう言葉にすれば良いか悩む。
いまいちはっきりとした「ピンッ」が返ってこない。のことをどう言うか。
(あれ?なんか既視感! 「いまいちピンとこない」とはこの事を言うのでは?)
まさかそんな事は無いか。
「そこで考えたんだが、恐らく試されてるんだと。」
「試される?」
「あぁ、聖法は信仰心によって育まれるのに、俺が生命神様と交信できるからと、その答えを聞いて賢者になれるなら祈る。では駄目なんじゃないかと。」
「そういうことですね。」
「あぁ、だがあくまでも俺の憶測だ。お前に魔法修得の影響が全くないとは言えないんだ。最後はお前に選択する権利がある。無理のは言わない。」
「いいえ、私には既にひゅうごさんの事を全て受け入れる覚悟があります。どんな望みであったも、私が死に至る事であっても辞さない覚悟です。全て受け入れます。」
な、なんか重いな。でも悪くは無いな。
「そうか、そこまで言うのであれば、どちらもやって欲しい。先ずは毒耐性からだがいいか?」
「勿論です。」
俺は先ず、自身の聖法、毒消しの威力を図るべく、大黒蛇の毒息の入った黒穴から、片手一握り分、ソフトボール1個分位の量を取ってそれを吸い込む。
「うっ」
毒耐性で体に異変は無いが、気持ち悪いので声が漏れる。でも体に毒はちゃんと残っている。
「・・・キュアポイズン!」
体内の毒息は全て取り除かれた。
この位の量なら問題ない。
「問題なさそうだ。では俺が思う、お前が耐えうるだろうの量の大黒蛇の毒息を用意する。」
「はい。」
俺は考える。初めて大黒蛇の毒息を吸い込んだ状況を。その吸い込んだ量。それまでゴブリンの使う毒草を毎日の様に飲んで耐性を作ってた自身を考える。
あそこまで毒耐性を作ってた自分が、一息で全身の筋肉が裂かれ血が溢れ出し、神経もやられ意識も飛んだ。そんな毒だ。
一度同じゴブリンの毒にやられた事があっても、俺程耐性は無い筈、絶対に一息に生死に関わる事が無いと言える量。
俺は黒穴から親指と人差し指で摘める量の毒息を取り出し、マインの前に見せる。
「すぅっ。」
マインは何のためらいも無くそれを吸い込む。
「う゛ぐぅっ」
マインの口元からすぅっと血が流れ出る。
「だ、大丈夫か?マイン?」
口を開けると血が更にこぼれるからか、口を開けず苦しみながらニコッとこちらをみて頷く。
その仕草に慌てた俺は、咄嗟に
「キュアポイズン! ヒール!」
とマインを即座に治す。
「ふぅ、ふぅ、、、ひゅうごさん、流石に早すぎませんか?これでは耐性が付かないのでは?」
「そ、そうかも知れないが、見てられなかったんだ。」
落ち込む俺に、マインは。
「また次お願いします。今度はもっと耐えてから聖法を掛けて下さいませ。」
「あ、あぁ、そうする。」
そう言って、黒穴からまた同じ量の毒息を取り出す。
そうして十数回繰り返した頃には、最初の毒息の量の倍位で訓練出来る程には耐性が付いた。
時間も押しているしここらで毒耐性訓練は終える事にした。
「それでは魔力切れで寝落ちする前に、どの様にお祈りすれば良いか教えて頂けませんか。」
「そうだな。俺は今まで目覚めと共に今日まで生かせて貰えた事に感謝の祈りを上げていたんだ。」
「はい。」
「それで俺は今日から、といっても殆ど明日からだけど、今まで通りの目覚めの祈りに加え、毎回の食事前と、寝る前に祈ることにする。」
「そうなのですね。」
「あぁ、就寝前の祈りは実際には魔力切れ訓練前だがな。」
「そうですね。」
「祈りの回数、というかその真剣度合いも掛けて、神達に届いた分が聖法の力の源、恐らく「祈りの糧」というのだそうだが、それが増える。」
「そうなのですね。」
「あぁ、それとその量によって上位聖法も扱えるようになるそうだ。」
「そうなのですね。」
これはもっと調べていく必要があるがな。
「はい。」
そこはセイラにも聞いていく必要があると思ったが、口にはしないでおく。
「それで、一日の中で祈りに繋げられそうなのが今言った所だ。」
「はい。」
俺は毎日の生活習慣に、祈りを取り入れるならこれが最高だろうと考えた。が、ふと気付く。
「あ、毎回の食後にもお祈りしよう。」
「そんなにもするのでしょうか。」
「あぁ、俺は前の世界では、食事の前にも後にもお祈りしてた。」
「そ、そんなに心神深い世界でしたのですか?」
「いや、何と言って良いか。特定の神様に祈ってた訳ではなく、前世では萬の神といって、この世の全てのものに神が宿っていると考え、その全てのものに感謝する祈り。というのが解り易いかな。」
「益々心神深いと言えるのでは?」
俺にとって心神深いとまでなると、実際には見た事無いが、協会に住む修道女の様なことで、決して前世の俺が居た日本ではその様な生活の人は殆ど居なかった。
でも毎日きちんと食事の前後で祈りともいえる言葉を発していたのは事実。
それに加え、見た事がある実際の神様に向かって祈ることを、朝晩に加え食事の前後とするのであれば、もう修道女のそれを遥かに超えるだろう。
「ま、まぁそういうものだと理解してくれて構わないよ。」
「はい。」
「それで、朝晩は今日一日や、今までの「生」に対しての感謝で、毎回の食事の前後ではこの食事にありつけた事への感謝だな。」
「理解しました。それでは祈りましょう。今私が生あること、先の混乱に生き永らえたこと、それをお与えくださったひゅうごさんに、そのひゅうごさんと出逢えたこと、そのひゅうごさんをこの世界にお送りくださったガイアモライ様に感謝のお祈りを捧げます。」
おいおいおいおいっ! どんなけ俺が入ってるんだ! そんな祈りでいいのか!
そう驚きを露わにマインを見ていると、マインの全体から薄っすらと金色の幕が張られたようになり、その金色が静かに上空へと消えていった。
マジかっ! な、なんか起こるのでは。 何か凄い事になりそうな。




