第二十三章
ギルマスが席を外した途端、セイラが盗聴方法を教えてくれるという提案。
「ひゅうごよ、良く聞け、時間がない。やり方を教える故直ぐに試すが良い。」
「は、はい。」
「ここはこの街で一番重要な部屋じゃ、恐らくこの街で一番貴重な情報が飛び交う部屋なのじゃ。」
「それはそうだろうけど。」
「こんな貴重な状況はありえぬ、童とお主が盗聴防止の魔道具を持ち、部屋の主のギルマスが席を外すなぞ奇跡ともいえるのじゃ。早うせよ。音を拾える影を作ってあの扉の横、壁の隅、角の床に設置せよ。」
「あ、あぁ。」
俺は言われるまま影を出すが、音を拾える影って???
「音、音、音、そっか、振動か。」
「なんじゃ、振動とは?」
俺は質問には答えず、時間が無い中俺に出来る事はギリギリだという事だけは理解し、影の生成に集中する。
「振動だけだと他の音の方が多くなるな。声の音域だけ、んー、取り敢えず空気の振動の声に近い音域だけを拾う様に・・・出来た!」
何やら近くの扉の向こうの部屋からの声が聞こえる。が、内容までは聞き取れない。
「出来たならその影を広げるかして、その扉の向こうの部屋の隅にも設置せよ。あちらはギルド長執務室の従事室じゃ。執務室より面白い話が聞けることもある故な。」
「あ、あぁ。」
また言われるまま影を伸ばし、扉の隙間から壁の隅に影を設置する。そのまま索敵の影を伸ばしてその執務室従事室の状況を影を通して見てみる。
「何じゃ、範囲を知る魔法は出来ておるのか。流石に闇魔法と言うべきかの。」
「え?え、そうなのですか?」
俺は従事室の状況を確認した際、いわゆる給湯室の様な役割をしている事と、そこにはギルマスから指示が無い為おろおろとしているギルド職員の女性が、ぶつぶつと独り言を言いながらうろうろとしている様と、その部屋には下に降りる階段があり、そこからギルドの1階の喧騒が漏れていた。
「初めて知ると面白かろう、今回の様に客人をこの部屋に呼ばれると、下の職員がその部屋に上がって来て、茶を出す準備をするのじゃ、そのままその茶を出すタイミングを計りながら、その客人の噂話を良くするのじゃ。貴重な情報じゃろ。」
「確かにそうですね。そこまで教えて頂きありがとうございます。」
「其方は中級から上級貴族の振る舞いで良いと申したのに、まだそんな堅苦しい。それも童が教えた方が良いのでは?」
「教えて頂けるのでしたら大変ありがたいです。」
「今の今まであの小娘はそんなこともお主に説明せなんじゃろ?」
「その小娘とはマインの事ですよね?」
「そうじゃ、あの小娘じゃお主の役には立てんと思うのじゃが。」
「いいやそんなことは決してない。マインのお陰でこの短期間に闇魔法の深淵を知ることが出来たんだ。でなければ、先程の盗聴の影も作れなかったと思う。」
「そうか、同じ闇属性というのは何かしら同調するものがあるんじゃろな。童とはその部分では真反対故、少しは小娘の事も認めるとしようぞ。」
あ、俺を介して多少でも今までの蟠りが解ける様なら、全力でその方向に力を注ぎたいと、言葉を考えてる途中に。
「いやー、待たせたな、ギデル達が戻って来たのだがな、先程の男爵とひゅうごとの取り組みにギデルが待ったを掛けて話が一度拗れたようでな、だが今はちゃんと話は落ち着き、先程と全く同じ条件で落ち着いたぞ。安心してよいぞ。」
ん。何か変だ。ギデルがあれで良い、と最後に決着して、ギデルが先程の決定権者だと認識させられたばかりなのに、ギデルが異を唱えたと。
俺は何気なくセイラに目を向けると、同じく気付いた様で、目をゆっくりと瞑り、ゆっくりと顔を左右に揺らした。
俺は咄嗟に先程作った盗聴影を、それぞれの部屋の別の隅に二つずつ生成する。
それと同時に最初に作った二つの影を、声に近い音の振動をどこかに送るという劣化版に修正する。
更に、部屋の隅という概念から外し、それぞれの部屋で光が入りにくい箇所を考える。
あれこれ考えて影を移動させていると、この建物の壁がそれぞれ空洞を設けられていることに気付く。こちらの世界でも防音対策は同じなんだと思った。だが、壁の端からも床材からも隙間はなくびっしり。
俺はどこからかその空洞に入れないかギルマスには平静を装いつつ内心慌てふためきながら影の移動を行っていると、天材からは隙間がいくつかあるのを見付ける。
俺はやった!と思う気持ちを隠しつつ影を侵入させると、
「うっ」
っと、思わず、声が漏れた。
ギルマスが
「どうかしたか?」
との問いに。
「紅茶を勢いよく流し込んでむせた。」
と答える。
これで誤魔化せたかは分からないが、影の侵入を続ける。
先程感じた違和感は、どうやら他人の魔力との干渉だ。
こんな所に魔力を設置しているのは、当然。
俺はゆっくりと目線だけセイラに向けると。
セイラはこちらには目も向けず、ギルマスには気取られないようにゆっくりと頷いた。
俺はセイラの魔力の邪魔にならない所を探しながら、執務室側の壁の内側と従事室側の壁の内側にそれぞれ影を設置した。
はっと思った俺は、作戦室の壁の内側とそれぞれの会議室の壁の内側にも影を送って設置した。
やはりそれぞれの壁にセイラの魔力を感じた。
それぞれ思った場所への影の設置は出来た。が、俺は後悔していた。
余りにも偶然の状況から、セイラが俺に盗聴影魔法の設置を促したが、そう仕向けられた可能性だ。
それは余りにも幸運過ぎたのだ。
重要な情報が行き交うこの部屋で、その部屋の主が席を立ち、残されたのは盗聴防止の魔道具を握る二人、その一人は既にこの部屋に盗聴魔法を成功させている、そしてもう一人は盗聴魔法に有利な闇魔法使い、すでに盗聴魔法を設置させている者はその闇魔法使いに恩を売りたい。
全てが出来過ぎていたのだ。
俺達は完璧すぎるタイミングで入室してきたギルマスに、それらの事を一気に悟った二人は、俺がセイラに目線を送って、それを受け入れてくれ頷いてくれたことで、セイラの秘匿していた魔法に触れても、それを俺が暴くことはないと信用してくれた証だった。
それで俺とセイラは二人してギルマスが、セイラの魔法を暴く為に俺を利用したのか、そう見せかけて俺に盗聴魔術を設置させたのか、はたまた何か考えがあるのかを探った。
だが、どう探ってもその先の意図は図り得なかった。
もう、盗聴防止魔術具を握っていたから安心して作った、二つの盗聴影をどう処理するかで判断する事に二人で目線だけで同意した。
そこで向かいに座ってたギルマスが、俺とセイラの盗聴魔術具を回収し、ギルマスと向かい合う俺達の座る長いソファの左右にある、一人用のソファにギルマスがギデルとジゼルを案内する。
ギデルが奥の窓がある方のソファ、ジゼルは入り口に近いソファだ。
それぞれのパーティーメンバーはその一人用ソファの後ろに並ぶ。
そこでギルマスは俺達から回収した盗聴防止の魔道具を、先程出した応接テーブルの引き出しに戻すと、その隣に埋め込まれた魔石に手をかざし、何やら魔力を流し込む。
「良し、これでこの部屋の盗聴防止を行った。ギデルよ、あの後の顛末を聞かせてくれ。」
「あぁ、あの後大きな話はない。だが、細かい取り決めはした。」
やはりギデルが異議を申し立てた話はなさそうだ。
「先ずは夫人がひゅうごの気の変わりを気にしててな。」
「お、俺が何か気変わりを?」
「あぁ、当初お前は日銭を稼ぐ冒険者だから領都には行けないからヴィルテスを通して、道場の指導方法を教えて欲しいと言ったと聞いた。」
「た、確かにそう言いました。」
「だが、男爵邸では領都に向かう護衛をするから小僧を道場に通わせて欲しいと変わっていた。」
「あ、確かにっ、そ、それは・・・」
俺がどうしてそこで気が変わったか、自身の考えを思い返しながら言葉を探ると、途中でギデルに遮られた。
「言わなくても良い。俺はこう考えた。道場の門下生の殆どは習うのが毎週一回だ、だがヴィルテスはこのエルネスからの通いとあって毎月一回、それを聞いた。」
「あ、」
と言葉を続けようとした俺をギデルが制す。
「まだ皆までは言ってない、お前は口を挟むな。」
「はい。」
「そこでお前はこう考えた。その程度のなら日銭を稼ぐのにも邪魔にはならない、とな。」
「・・・」
俺はまたしても口に出そうとした瞬間、ギデルが掌を俺に向け、続ける。
「そこにきてレソルザットはお前に平身低頭にお礼がしたいと申した。」
「・・・」
ギデルは静かに黙っている俺の方を向いてにやっとする。
「それでお前は夫人には小僧が道場に通えない代わりに指導、と言ったのにレソルザットの礼替わりになる道場への顔つなぎを申し出た。」
「あ、」
声が漏れたおれにギデルは今度は顔を強張らせる。
俺はもう最後まで反応しない様に黙っていようと決める。
「更にだ、お前が助けた命、お前は自分がその道中を護ることで安心を与えたい、そう思った。違うか?」
長々自分の内心を暴かれたかの様な時間に、心身慌てふためいていたが。
「全くその通りにございます。」
と、落ち着いて答える。
と、そこで、今まで口を噤んできたジゼルが言葉を発する。
「この様な事あの場の誰しもが知り得た故、私が祖父に取り次ぎ話を通す事と、男爵には礼として道場の月の支払いと、その道中の護衛費を支払う事で同意を得てたではありませんか。何故あなたがいかにも取り決めた様な話になるのです。」
「だーかーらっ、お前には言ったろう。あの場の者達の思惑は、全て知り得たと。それを踏まえて俺がその取り決めを承諾した。それをその場に居合わせなかったひゅうごに説明したまでだ。」
「まったくっ、いつもあなたはその様な・・・、まあいいでしょう。それがギデルですからね。これ以上続けても変わりはありませんからね。」
これでやっぱりギルマスの先程の発言と行動は、怪しいのだと再認識した。
セイラに目線だけ向けると、恐らく「同意」というゆっくりと瞼を閉じる。
ここまでくると、ギルマスがどういう意図があるのかは、いずれ何としてでも調べる必要があると確信した。
今までは不可解な俺を探る程度なら、普通のことだし、情報の提供や協力をして貰った分、俺が出来る事や、俺の能力に対しては隠すつもりもなければ、協力を惜しまない気構えだった。
だが、俺を使って領主の娘の能力の解析や開示、はたまたそれ以上の証拠集めに使われたとあっては全くの別物だ。
今までギルマスを信頼していた気持ちは真逆になる。
セイラが俺に興味を持って関わったせいで、何かの失脚や今まで作り上げたものを排除される可能性。
ましてや、領主、領都からこの街への反感、疑念、警戒からであるならば、ギルマスを通じて真向に反する意を唱える覚悟だ。
それにはギルマスがどうしてあのような行動に出たかを、言ってくれる、若しくは教えてくれるのを待つしかない。
つまり現状維持だ。
ギルマスの行動にどんな意図があるかを探りつつ、全ては現状維持。
それが最終行動指針だ。
と、そこで先程の決定事項とは別の男爵からの提案事項がギデルより話される。
「してレソルザットは新しくヴィルテスに剣を、同じ店主に作らせたい要望があると聞かされ、その際には是非お前に立ち会って貰いたい。との事付けを得ている。」
「その件に関しましては、私もその様に同行願えればと思っていた所です。」
「そうか、それならばその旨俺の使いからレソルザットには伝えておこう。」
「ありがとうございます。」
「うむ。」
俺は先程のジゼルを見習って、ギデルに対しては、まだ俺の前では公表はしていない王族、という立場に合わせて言葉と敬意を表すと、サクサクと物事がすすむ。
そこでギルマスが今までの流れを打ち消すかの様に無理矢理話題を変える。
「それで手榴弾については、その製作者若しくはゴブリンへの提供者などの目星は付いておるのか?」
皆が俺に視線を向けるが、俺は沈黙することでそれに答える。
発見からその対処だけしてきたこの数日で新たな発見がある筈も無いのは誰もが周知の事ではある。
「手榴弾の製作元に関しては全く見当がつかない。が、あれだけの技術だ。何としてでも手掛かりを見付けて尻尾を捕らえてやる。」
「ほぉ。」
とジゼル。
「その為に、先ずはヴィルテス様の新たな剣の作成に携わり、いち冒険者として、若しくは立場を偽ってでも、貴族からは遠い所から探りを入れようと思っている。」
「そこに宛てはあるのか?」
と、ギデル。
「宛てという程でもないですが、武器屋の店主ガイスに協力して貰い、剣に魔力を付与した領都の魔法使いに会って、魔道具士への糸口を掴もうと考えています。」
「ほぉ。」
「これには素性の知れない自分が一番の適任だと思ってのことです。」
「確かにな。それで?」
「はい、こちらは領都の魔道具士をしらみつぶしにしていくつもりですが、貴族様の方から男爵家への仕打ちに心当たりはないですか?これだけの事をしたのですから。」
「あぁ、それな。」
苦い顔をしてギデルがそう言う。
「そちらからの特定は期待しない方が良い。」
「と、言いますと?」
「それは、公爵だって国王にだって可能性があるって話だ。」
「えっ?」
「あくまでも可能性、な。」
「そ、そうなんですね。」
「どんな目論見でそうしてるかなんて、解る筈もない。それを悟られない事が貴族の嗜みというものだ。」
「貴族の嗜みはそこまでのものなんですか。」
「あぁ、そうだ。レソルザットが貶爵された時も、陞爵の話が上がった際も、必ずどこかの貴族が絡んでる筈なのに、どんなに探っても高位貴族等の総意として上がってる。」
「そ、そうなんですね。もう動いてて、探っててもそうなんですか。それは中々にして手強いですね。」
「あぁ、目的なんざ星の数ほどあってな。その前哨だとしたらその線も手繰れない。いや、逆にそちらから考えていくとまんまと嵌められる。そして虚偽を捕まさせられる。」
「ほうほう。」
「あぁ、国王には無いが、公爵や侯爵にとっては只の暇つぶしだったってことだって有り得るからな。」
「ひ、暇つぶしっ!?」
「あぁ、ただの可能性だ。」
「それは何と言えば良いか。かなり複雑ですね。」
「あぁ、間違いない。だから今回の件、お前が思う様にそちらの線から探って欲しい。といってもこちらも変わらず貴族の線は探り続けるから安心せよ。」
「はい。それは頼もしい。」
「いや、だからこちらの線からは難しいと言ってるだろうが。」
「それは解っています。」
そうは言うが、当初から国王様やお貴族様には関わらないようにする、と決めていたことが、全くその様になっていない事、更に関りそうな事に肩を落とす。
「まぁ、出来る事から進めていくしか無いんじゃないですか。こちらは領都の魔道具士の線です。」
「あぁ、そうだな。」
「そこで、この中で誰か北の武器屋のガイスに顔が立つ方はいますか。俺をガイスの弟子となれる様にガイスに口添え願いたいのですが。」
「何故弟子と?」
「はい。そこはヴィルテス様の剣の作成に携わり、ガイスと一緒に領都に出向く理由の一つに、いち冒険者兼鍛冶師見習いという事にして、魔法付与に興味があるという事にしたいのです。」
「それは良い案だな。」
「ありがとうございます。」
実際には本当に鍛冶にも魔術具にも興味があるんだけどな。
実際にどちらも作れる様になりたいと思っている。
夢は自分が作った剣を持った、自分を守る魔法で動くゴーレム造り!
「口添えか、どうだろうな。ここの者よりダンの方が通せると思うぞ。」
「そうでしたか。ではこの後ダンに頼むとします。」
「それならこれで一先ずの戦後処理は終わりだな?ハルド。」
「そうだな。」
そう一言だけ言うと、ギルマスが応接テーブルの魔道具に手をかざした。
「あぁ、ここまで皆良く頑張った!今宵は大いに楽しんでくれ!」
「よぉぉっし!いったろぉ!」
「ギルド食堂にて祝勝会だっ!冒険者達も待たせておる。今宵は思う存分喰って飲んでくれっ!」
一同が、「おぉぉぉぉっ!」っと唸る。
先程の動きは盗聴防止を切っていたようで、この部屋の者達の歓声に反応した食堂の者達が、同じ様に一斉に歓声を上げる。
「やっと解禁だぁ! 宴だぁっ! 祝勝だぁっ! 奴らを全滅したぞぉっ!」
等と歓喜の声が飛び交う。
同時に大量のお酒と食事を持った給仕達がこの部屋に現れ、所狭しと食事を並べ立て、お酒を皆に渡していく。
良く見ると全員ギルド職員ではなく、この街の住民だ。
後で聞いた話、住民を臨時に雇って宴をこの街全体で盛り上げているとの事だった。
ギルマスが作戦室の奥の窓をミイナに開け放って貰い、1階の冒険者達に向かって声を張る。
「みんなっ!聞いてくれ! 今回の作戦は我々の大勝利に終わった! 砦を襲ったゴブリンジェネラル等から街を護り、ゴブリンの集落にいたゴブリンキングを初めその配下を屠り、集落に囚われていた男爵夫人とそのご子息を無事に救出し、その男爵邸に送り届けた、という功績まであった。今回はかつてない功績を挙げたのだと自信をもって称えたい!」
「おぉぉぉっ!」
「それでは、皆、かんぱーーーっいっ!」
「おぉぉっ! かんぱーいっ! うおぉぉっ! ガャッ ゴゴゴォッ」
少しするとこの部屋から下へ盛り上がりに行った者が居たり、下からここへ詳しく話を聞きに来た者とが出始め、騒ぎ楽しむのは1階、落ち着き今回の話をする者がこの部屋と、自然と住み分けられてきた。
作戦室の窓から1階の騒動がここまで聞こえる中、この部屋も落ち着いた者達のといっても、前世の立食パーティーよりも騒がしく、方々で盛り上がってるなか、隣に座っているセイラが表情を変えずに、俺だけに聞こえる様に声を掛けてきた。
「上手くいったかの?」
「えぇ、気持ち悪い程に。」
「そうじゃな。どう考える?」
「今は何とも、、、悪く無い方に、と願うだけです。」
「そうか、じゃが奴が盗聴の魔道具を発動しても聞けたんじゃろ?」
「はい。」
「ならそう考えて良いと思うぞ。流石にそこまで許すはずは無いからのう。」
「そうでしたら助かります。が、その先の意図がどんな要望かと、考えるのが怖いです。」
「くっくっくっ、それは致し方ないであろう。どんな要望が出てくるか、楽しみに待つのじゃ。」
「そんな気軽にいられませんよぉ。」
「くっくっくっ、本当に面白い卯奴じゃのう、あんな大胆な事が出来るのに、こんな些細な未来の不安に怯えるとは。」
「どうせ俺は小心者ですよ。」
「言うておれ。」
そこに1階から数人の集団が上がって来て、俺の前に立つ。
「ひゅうご、報告は終わったか。俺の同僚を紹介させてくれ。」
と、ダンが数人を引き連れていた。
そのダンが、俺の隣に座る金髪の女性に目を止めると。
「あっ、セイラ殿。いらしてたのですね。これは失礼しました。」
と、急にかしこむ。
それに合わせ、一緒に付き添ってた面々も。
「セイラ様、突然駆け寄り失礼しました。」
と、その場で膝を付いた。
恐らく中級、下級貴族や平民では膝を付く程の身分差があるということだろう。
「ちっ、童もここでは冒険者じゃというのに・・・」
俺だけが聞き取れる程の独り言だ。
今のセイラは領都での会議に出ていたであろう、豪奢な衣装を着ているので、それを見た者達が、冒険者としてではなく、領主の娘として接しているのだろう。
「良い。今回の作戦では童は関与しておらん。これにて去るから好きにせよ。」
「じゃあな。ひゅうごよ。また近いうちに。」
「あ、あぁ。」
そう言葉を交わすとセイラはこの場からすぅっと光の点になって消えた。
ほほぉ、とその魔法に俺は感心し、俺の影移動とも、黒穴とも違う様子に。
「もっと色々話がしたかったな。」
と声を漏らす。
セイラが去ったことで気兼ねすることがなくなったダンが、周りの人達を俺に紹介している中、先程の俺の声を拾ったセイラがまるで耳元で話掛けてくる。
「必要とするならばいつでも会話出来る様にしてやるがの。」
俺は驚き。
「えっ!?」
と大きく声を出してしまう。
それに驚いたダンとその同僚は、今の話のどこにそのような驚くところがあったのかきょとんとしている。
「あ、いや、急に思い出したことがあっただけだ。もう大丈夫。続けてくれ。」
「突然大声を出すではない。」
俺は小さく。
「あ、あぁ。」
「これは童がまだまだお主とは話したいことがある故、お主の襟の中に童の光を忍ばせておいたのじゃ。盗聴ではなく双方向の会話用じゃ。」
それで先程と同じように右の方から声が聞こえたのか。いや、先程よりも耳元で囁かれた感じだったが。
「お主が嫌なら消すぞよ。」
「いや。」
「良いのか。」
「あぁ・・・」
俺は自分の右の襟の内側に、セイラの魔力を認識すると、それを覆う様に自分の影をまとってみた。
そして、その影に先程の盗聴魔法で覚えた音を振動で拾う魔法を、振動で音を発するのを加えてみた。
俺は言葉は発せず、その襟元の影を使って。
「俺の声は聞こえますか?」
「あぁ、聞こえるぞよ。どうやっておるのじゃ。」
「先程作った盗聴影を音声を載せられる様に双方向にして、貴方の光を覆ってみたのです。」
「そうかそうか、それは上手く上達したようで何よりじゃ。」
「ありがとうございます。」
「しかしそれじゃ。その様な畏まった言葉は必要ない。折角二人きりで話せるというのに。」
「そうですか。いや、そうか。それなら助かる。」
「そうじゃ、それで良い。」
「ははっ、ありがとう。とても助かるよ。」
「良い。それでは暫くは話しかけん故、お主も宴を楽しむと良い。」
俺は先程作った光を覆う影を、そっと襟から引き出し、俺の首筋を這わせ、左耳の後ろ辺りのうなじに、髪に隠れる様に設置した。
いわゆる骨伝導だ。
しかも俺は前世で電話する時は左耳派だったのだ。
「あぁ、そうするよ。」
「なんじゃ。急に声が鮮明になったぞ。」
「あぁ、影を別の場所に移動したんだ。」
「そうか、それではまた後程な。」
「はい、また後程。」
俺はダンが同僚を紹介してくれる中、セイラとの会話を終わらせふと目を上げると、ダン達の集団の奥に、物凄く悲しみと不安を顔に張り付けたマインの姿が。隣には同じような顔をしたハーデンの姿も。
俺は。
「マイン。」
と、口をこぼす。




