SS⑥
真っ黒な男がいた。
見たまんま―――真っ黒のコートに真っ黒なズボン。コートを脱げば、下は動きやすい戦闘服で。
男の目は、普通の人間とは違う輝きを宿していた。
初めて見たとき、まるで死神のようだと思ったものだ。
こんなに死を纏っていそうな男は他にはいない。そんな気がした。
でもなんとなく、その雰囲気に惹きつけられて、声をかけていた。
『行く場所がないのなら―――、私と来る?』
私はある目的のために、一人で旅を続けていた。
初めは、お互いの探り合いで。
だんだんと、共闘するようになり、お互いの命を預けられるまでになった。
好みを知った。合間には雑談も楽しんだ。一緒にごはんを食べた。時には祭りに混ざって遊んだ。
かけがえのない人だと想うまでになった。
あぁ、でも。まさか。
生まれながらの敵だったなんて。
「お前、それが誰か知っているのか?」
「お前がずっと探していた、敵だぞ」
凄まじい衝撃が、体中を走り抜けた。
手に持っていた荷物を落としてしまう。
私より少し後ろにいる男を、見ることができない。
敵への恨みで、視界が真っ赤に染まりそうだ。
「ばれたか」
振り向けない私の後方から、何の感情もこもっていない声が聞こえた。ただ事実だけを述べているような、そんな声。
「おかしいな。あの時のことを知っている人間はすべて消したと思っていたのに」
聞きなじんだ声が、淡々と告げる。
「まぁいい。ここでお前を消せば、他に知っている人間はいなくなるだろ」
「待っ……!!」
止める間もなく、私に真実を教えてくれた知人を一瞬で消してしまった。
知人の近くにいた私の顔に血が飛び散った。
「すまなかった。場所を選ぶべきだったな」
いつの間にか、目の前に男がいた。
大きな手が―――ほんの数秒前に知人を手にかけたけれど、汚れ一つついていない男の手が、頬についた血をふき取った。
「こんなに汚れてしまったら、流さないとダメだな。宿に戻ろう」
何一つ、関係が変わっていないかのように、男が私の手を掴んで歩き出す。
「……や、だ……触らないで…」
私は、その手を振り払い、ふらふらと数歩後ろに下がった。
男は振り払われた自分の手をじっと見て、それから私を見た。
「俺から、逃げるのか?」
声のトーンや表情は、私を責めるような、悲しそうな、そんな感じ。でも、目は煌々と光っている。
「でも俺は、お前を逃がさないよ」
「…あ……っ」
手足が、がくがくと震える。急激に、体温が下がっていく。まるで、足の裏から、地面へと抜け出ているかのよう。
――――――そして、視界は暗転した。
ゆらゆら。
何かが揺れている。
それは心地いいとも思えるほどの振動を私に与えていた。
そして、声も聞こえる。
「俺、初めて欲しいものができたんだ」
「どんな手段を使っても、お前を手に入れるよ。」
――――――あぁ、なんて心地よい闇。
そして、抜け出せない闇に沈んでいく。
書きたかったのは、最後のセリフ二つと、執着。
とりあえず、はじまりなところというか、雰囲気だけを出したかっただけなんです。