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不思蜀  作者: 自称速水真澄


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中編ー蜀漢滅亡

段谷で姜維が惨敗することもなかったので兵士たちは市民として不思蜀を謳歌しています。

「どうするんだ北斗! 乱世を終わらせるどころか、あいつら全員で『まぁお酒でも飲んで不思蜀しましょうよ〜』って、大陸全体をニート化させる気か!?」


「お、おのれ現代人……! ぬるま湯の環境適応能力が、神の想像を超えているというなら……これならどうだ!」


北斗星君は血走った目で、天界の操作パネルの「歴史強制介入レバー」をガツンと引き下げた。


「こうなれば奥の手だ! 地上の『魏』の最高権力者、司馬昭(しばしょう)の演算能力と殺意を極限までブーストしてやる! 現代人の生ぬるい合理主義など微塵も通用しない、歴史上最強の『冷徹な超現実主義リアルレイバー』を、あの成都に叩き込んでやるのだ!!」


天界のバグ(神々のブースト)は、即座に北方の大国・魏の宮廷へ反映された。


「……なるほど、蜀の劉禅が『サボるための完璧なシステム』を構築したと」


魏の権力を一手に握る大将軍・司馬昭は、冷徹な細目をさらに細め、冷ややかに笑った。

彼には、天界の焦りによって「すべてを見通す冷徹な知性」が強制インストールされていた。現代人のロジックなど、この男の前ではただの「甘え」に過ぎない。


「ウィンウィンの経済同盟? 安全保障のサブスクリプション? 笑わせるな。そんなものは、双方が『いつでも相手を殺せる武装』を維持して初めて成り立つ絵空事だ。片方が完全に骨抜きになった組織など、ただの『利権の詰まった都合の良い財布』でしかない。……全軍に告ぐ。成都へ進軍せよ。など費えなど気にするな、相手はすでに戦う牙を失っている」


西暦263年。

史実を前倒しする圧倒的な速度で、司馬昭の命を受けた鍾会・鄧艾の二大軍勢が、怒涛の勢いで蜀へと侵攻した。夜陰に陰平を渡ることも剣閣で軍勢を押しとどめられることもなく。姜維すら成都で飲んだ食っているのだから


その頃、成都の宮殿では――。


「え? 魏の軍勢が、剣閣けんかくを突破してこっちに向かってる?」


極上の絹の寝着をはだけさせ、美女にブドウを口に放り込まれていた俺(劉禅)は、報告を聞いてパチパチと瞬きをした。

だが、元社畜の俺は全く動じない。かつて数々のクレームを「大人の外交(接待)」で揉み消してきた経験がある。


「大丈夫大丈夫。いつもの『顧客対応(接待)』の準備をして。黄金一万枚と、うちの特産品の最高級ワイン、あと可愛い踊り子たちを最前線に派遣して。彼らも上司(司馬昭)に無理やり残業させられてるだけの可哀想な兵隊さんだから、美味しい飯とエンタメを与えれば、一瞬で『不思蜀』のサボりマインドに染まるよ。これぞ全自動防衛(仕組み化)の極意ね」


「ははっ! さすが陛下! 経費で敵を無力化するのですね!」


蔣琬も費禕も、すっかりニート洗脳が完了しているため、笑顔でワインを樽ごと台車に積んで前線へと向かった。


――だが。

現代のビジネスロジックは、神にブーストされた「ガチの修羅」には通用しなかった。


数日後、前線から戻ってきたのは、ワインの樽ではなく、血まみれになってガタガタと震える生存者の一報だった。


「へ、陛下ぁぁぁーーーッ!! ダメです! 差し出した黄金もワインも、敵の総大将・鄧艾とうがいに『戦場への差し入れ感謝する。軍の兵糧にせよ』と没収されました! 踊り子たちも『軍規を乱す不届き者』として全員即座に実家に強制送還されました!!」


「えっ」

俺はブドウを喉に詰まらせかけた。


「そ、それどころか、敵は『交渉のための会議室(対話の席)』を一切設けず、ただ物理的に、無言で、圧倒的なスピードで、こちらの城壁を破壊しながら進軍してきております! 『我が主・司馬昭様のオーダーは【成都の完全買収(武力制圧)】のみである』と……!!」


「ロ、ロジックが通じない……!?」

俺は玉座から転げ落ちた。


現代社会であれば、どれほど理不尽な競合他社であっても「法律」や「コンプライアンス」、あるいは「事前の交渉」というクッションがある。だが、ここは古代の乱世。神によって限界まで冷徹にされた司馬昭の軍勢にとって、サボり散らかして武装解除した蜀など、ただの「防御力ゼロのボーナスステージ」に過ぎなかったのだ。


「陛下! 魏の軍勢が成都の門を突破しました!」

「もうダメです! 働くのをやめたら、筋肉(武力)が完全に退化して、誰も剣の持ち方すら分かりません!」


昨日まで「不思蜀〜♪」と踊っていた官僚たちが、一転してパニックに陥る。

俺の【絶対洗脳カリスマ】も、「圧倒的な物理的暴力(刃物)」の前には、何の効力も持たなかった。言葉を交わす前に首をハネられたら、洗脳もクソもない。


「クソッ……! 仕方ない、最後の『出口戦略エグジット』だ!」


俺は涙目で、白旗(降伏文書)を掲げて城門を開いた。

かつてブラック企業が倒産した際、速やかに他社へ泥船を乗り換えたあの手際の良さで、俺はあっさりと司馬昭の軍門に降ることを決めたのだ。


「いいか、みんな。降伏すれば、魏の法律(雇用契約)で最低限の命と身分は保障される! これも一つのエグジットだ!」

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