浄化されし異変(コロージョン)
【 Awakening Cassette Lock ! 『Plant』 】
直後、湊の身体を淡い緑色の光が包み込み、クロニクルガントレットの表面を無数の光の粒子が走り始めた。
その光は腕から肩へ、そして全身へと広がっていく。
まるで、眠っていた何かが目を覚ますように。
――ギュォォォォォン……!
ガントレットの内部から、これまで聞いたことのない低い駆動音が響いた。
「……これが、プラントカセットの力……?」
湊が不思議そうに右腕を見つめる。
すると――。
「うわっ!?」
足元の地面から、一本の緑色の蔓が勢いよく飛び出した。
それは湊の眼前を通り過ぎ、そのまま街灯くらいの太さに成長しながら、踊るように空中へ伸びていく。
その後も、競うかのように次々と地面から蔓が伸び、周囲の植え込みや街路樹までもが、まるで何かに呼応するようにざわめき始めた。
「植物を成長させる力なのか……?」
湊は目の前で勢いよく伸び続ける数本の蔓を見つめる。
確かに、単純に考えれば植物を急激に成長させる能力なのだろう。
しかし――湊は絶対と言えるほどの、一つの確信を持っていた。
「ラノベとかだと、成長させた植物を操るのが定番なのに、それだけのショボい能力の筈がない!」
湊は、絶対的な確信のままに、右腕を怪物に向かって突き出す。
すると、その動きに合わせるように一本の蔓が大きくしなり、まるで意思を持った鞭のように怪物へ向かって伸びていった。
「――いけっ!」
ビュンッ!!
蔓が怪物の腕へと巻き付くが――。
ガガガガガガガガガガガガッ!!!
「うわっ!?」
もう片方の腕にも備わっているガトリング砲が一斉に火を吹いた。
斉射された大量の弾丸は、片腕に絡みついた蔓を瞬く間に引き裂き、千切れた植物が周囲へと飛び散っていく。
「くっ……!」
湊が思わず身を引いた、その瞬間だった。
怪物の胸部が、低い駆動音を響かせながらゆっくりと開いていく。
ギギギギギギ――。
漆黒の装甲が左右へと展開され、その奥から巨大な砲口がせり出してくる。
「胸から……大砲が!?」
底なしの暗闇を覗かせる砲口の奥に、眩い光が集まり始める。
一瞬。
ほんの一瞬だけ、怪物の全身が静止した。
そして――。
ドォォォォォォォンッ!!!
「――うわぁぁぁっ!?」
空気を打ち破る凄まじい轟音と共に、胸部の大砲から巨大な砲弾が撃ち出された。
砲弾は地面を抉りながら湊へと一直線に迫る。
「――ッ!?」
湊は咄嗟に横へ飛び退こうとしたが、身体がついて来ず、足がもつれてしまった。
「うわっ!?」
次の瞬間、尻もちをついた湊のすぐ脇を、砲弾が猛烈な勢いで地面を削りながら通過していった。
ドゴォォォォォンッ!!!
砲弾が遊歩道の先で炸裂し、凄まじい爆風が辺りへ放射され、湊の身体を吹き飛ばす。
「ぐっ……!」
地面を転がりながら、湊は必死に体勢を立て直して立ち上がろうとする。
その目の前では、怪物が両腕のガトリング砲を構え直しながら、ゆっくりとこちらへ身体を向けている。
(特殊能力が遠距離攻撃って厄介過ぎないか……!?)
そして、ガトリング砲の銃口が、真っ直ぐに湊を捉えた。
――まずい。
そう思った瞬間だった。
(……待てよ。)
湊の脳裏に、かつての光景が蘇った。
それは、校舎を覆い尽くすほどに巨大化した、あの『水録願掛の木』を依り代とした超常現象。
あの時も、湊たちは逃げ場のない状況に追い込まれていた。
校舎の壁を容易く穿つほどの速度で、無数の木の葉が空を埋め尽くすように飛んできた。
逃げ遅れた生徒たちは必死に物陰へ逃げ込み、陽菜は炎の力で飛来する木の葉を焼き払うのが精いっぱいだった。
(あの時の木の葉の散弾……。このカセットの力ならば、再現できるかもしれない。)
湊は、周囲に植わっている木へと視線を向ける。
今、自分の右腕には、あの水録願掛の木をベースとした、植物の記録を内包しているカセットがある。
「……俺だって、できるはずだ。」
湊はガントレットのスイッチを押し、右腕を空に向かって突き上げる。
「――『クロニクルチャージ』――ッ!!」
【 Chronicle Charge!】
その瞬間。
ザワッ……!
公園に植えられていた樹木が、一斉に大きく揺れた。
木々そのものが、湊の意志に呼応するように枝を震わせている。
「……いける!」
木の枝が一気に伸び、そこから葉が爆発的な勢いで生え、枝先へと密集していく。
そして――。
公園の木々に生えていた無数の葉が一斉に剥がれ落ちた。
しかし、それらは地面へ落下することはなかった。
空中でぴたりと静止した葉が、まるで何かに狙いを定めるように、すべて怪物へとその先端を向ける。
湊は拳を握り締め、左手を怪物に向かって突き出す。
「――いけぇぇぇッ!!」
シュバババババババババッ!!!
次の瞬間。
無数の木の葉が、弾丸のような速度で一斉に撃ち出された。
怪物の巨躯へ向かって一直線に進む、緑色の弾幕を撃ち落とさんと、怪物が即座にガトリング砲を乱射する。
ガガガガガガガガガガガガッ!!!
無数の木の葉と銃弾が正面から激突し、空中で次々と弾け飛んでいくが、今度は湊もただ撃ち続けるだけではなかった。
「もっとだ!これで動きを止める!」
周囲の植え込みから新たな蔓が伸び、それらは大きくしなりながら、怪物の巨躯へと次々に叩きつけられていく。
続いて地面が大きく隆起し、地中から無数の根が飛び出て怪物の脚へと一斉に絡みつく。
さらには、新たに生み出された木の葉が空中を埋め尽くし、第二波、第三波と途切れることなく怪物へと襲い掛かっていく。
まるで――。
かつて湊たちを追い詰めた、あの水録願掛の木の攻撃そのものだった。
無数の葉を怪物の装甲へと激突させつつ、怪物の動きを制限させる。
絶え間なく続いた連撃の果てに怪物の身体が押され、傾く。
「効いてる……!」
湊の瞳に、確かな手応えが宿る。
やがて――。
ドォンッ!!
怪物の巨体が、ついに地面へと倒れ込んだ。
「これで終わりだ……!」
湊は荒い息を吐きながら、倒れた怪物を見つめる。
(今なら……いける!)
湊はデュアルブースターの装着された右腕を大きく掲げる。
休日の水録市を照らしていた、眩しい太陽。
(植物は、太陽の光を使って成長する、ならば……。)
「……植物の力っていうなら、これもできるはずだ!」
湊は、ガントレットに接続していたデュアルブースターを1回転させる。
【 Awakening Chronicle Charge!】
――次の瞬間。
ザワァァァァァッ!!
まるで湊の言葉に応えるかのように、公園中の植物が一斉に揺れ動いた。
公園の木々の葉が太陽へ向かって広がり、植え込みの植物の葉が次々と開いていき、芝生や、果てには雑草の一枚一枚にまで、淡い緑色の光が宿っていく。
湊は右腕を再び空へ向かって突き出すと、クロニクルガントレットの周囲に、緑色の光が集まり始めた。
「なるほど……植物が受け取った太陽の力を、一つに集められるのか!」
光がさらに強くなり、公園中の植物から集められたエネルギーが、湊の前方へと集中していく。
やがて、その中心に太陽そのものを小さく凝縮したかのように、眩く輝く巨大な光球が形成された。
【 PLANT Special Energy Release!】
「これで……終わらせる。――『デュアルソーラービーム』――ッ!」
湊の掛け声と共に、公園中から集められた太陽の力が、一気に解き放たれる!
「いっけえええええええ!!」
ズドォォォォォォォォォンッ!!!
巨大な光線が怪物へ向かって一直線に伸びていく。
その生命力に満ち溢れる光は、まさに一本の巨大な太陽そのものだった――。




