未知なる超技術(オーパーツ)
水録学園が表の希望だと位置づけるのならば、ここは裏の希望と位置づけられる、高度な超常科学の頭脳である、国家機密研究所。
その静寂に包まれた、薄暗い研究室のデスクで研究員は、淡々とキーボードを叩いていた。
「――以上が、白瀬湊によって観測された、第3事象記録媒体の定着、および白瀬湊によく使用されている次世代型実戦検証用記録媒体の最大出力時における運用データとなります。
現状、クロニクルガントレットのシステムは適合者の意志に強く依存しており、次なる検証には――」
画面に並ぶ公式検証報告書。
白瀬湊が戦いの中で引き出した数々のデータが、冷たいタイプ音とともに打ち込まれていく。
その横で、忙しなくスキャンデータを整理していた【研究員の助手】が、ふぅと息を吐いて声をかけてきた。
「松本先生、本当にこれほど早く2つ目の力が満たされるなんて、あの適合者の少年、やっぱりタダモノじゃないですね。」
「無駄口を叩いている暇があるなら、次の解析を進めなさい。世間話をする為にここへ来た訳では無いでしょう。」
「相変わらず冷たいですね……。」
2人が仕事に戻ろうとした、まさにその時だった。
研究所の最高暗号通信回線に、超常対策課の防衛班からの緊急通信が、赤いシグナルと共に割り込んできた。
『超常対策課、防衛班より研究所へ。協定に基づき、拾得物の緊急引き渡しを要請する』
スピーカーから、対策課の通信員の硬い声が響く。
『本日、超常対策課が指定区域内で発生した超常現象を鎮静化させた際、その現場の爆発跡地から、持ち主不明の異質な拾得物が回収された。
周囲が激しく焼け焦げて黒ずんでおり、詳細な構造は分からない状態だ。』
通信員の言葉に、研究員はキーボードを叩く手を止めた。超常対策課と、国家機密研究所の間には、厳格な取り決めが存在している。
――「現場で回収された、超常現象に由来するものとみられる遺物は、すべて研究所へ引き渡す」という協定だ。
『先の協定の取り決めに則り、当該の拾得物は安全な特殊コンテナに封印の上、すぐに国家機密研究所へと極秘裏に転送される。……以上だ。』
プツリ、と通信が切れる。
ほどなくして、超常対策課が使う規格の、特殊コンテナが転送装置の中から姿を現した。
「先生、これ……ただのアノマリーの残骸じゃないですよ。まずは、特殊クリーニングしますね。」
助手が専用の洗浄液とスキャンレーザーを照射すると、何層もの黒い煤がボロボロと剥がれ落ち、中から本来の真の姿が露わになっていく。
現れたのは、これまでに見たこともない、流線型の美しい曲線を描く【漆黒のパーツ】だった。まるで陰陽道の太極図の、黒い勾玉をそのまま立体化させたかのような円盤型の形状。
しかし、ところどころ欠けているようで、完全には勾玉の形を成していなかった。
「……完全な形状ではありませんね。まるで勾玉の片割れのようですが、ところどころが欠けているようで、完全には勾玉の形を成していません。
さらに、ガントレットに一つ付いているスロットが『3カ所』存在しています。」
「えっ……!? 3カ所もですか!?」
助手の驚愕の声を余所に、研究員は淡々と語り続ける。
「さらに裏側には、謎のくぼみがあります。形状から見て、何か別のパーツをここへくっつけられそうな設計ですね。
……最初から、なんらかの機械と合体する前提で作られているのか。だとしたら、それは何だ……?」
データを冷徹に見据え、研究員はシステムの仮称を瞬時に決定した。
「相反する複数の力を同時に連環・増幅させるための、未知のマルチ拡張スロット。
……システムの仮称を、『デュアルブースター』とします。」
「先生、これ、すぐに適合者の少年に届けますか?」
「いえ、不可能です。見ての通り回路の損傷が激しく、ところどころが欠損している。
……これでは修理を施さなければ、起動どころか使用すらできません。これの修復作業を最優先で開始します。」
「了解です! 適合者の少年には、まだお預けってわけですね。」
「きっと彼には、いずれこれが必要になる。
……それまでに、何としてでもこれを完璧に仕上げますよ。」
それだけを冷淡に言い残すと、研究員はキーボードを叩き、欠けた黒いパーツの修復を迅速に開始したのだった。
これほど高度な技術で作られた『デュアルブースター』の半分(黒)が、なぜ対策課の現場に落ちていたのか。そして、このパズルを完成させるための、もう半分の『白のパーツ』はどこにあるのか。
研究員の思考は無表情のまま、難航する修復作業と共に深いところへ沈んでいった。
◇
青年の消失とともに、優しい光に包まれ、気が付けば2人は元のゲームセンターの自動販売機コーナーへと引き戻されていた。
元の世界。大音量で鳴り響く電子音が遠くひから聞こえてくることに、猛烈な安堵感を湊は感じた。
「はぁ、はぁ……助かった、のか……?」
湊は、ディスクの呪縛から解放されて安らかな寝息を立てている友達を見て、ようやく深く息を吐き出す。
その時、湊は目の前の床に、円盤型の何かが落ちているのを発見した。
近寄ってみると、それは勾玉のような異質な形状をとり、眩いほどに綺麗な白い機械だと分かった。
「あいつ……俺に、これを置いていったのか……?」
謎の白い円盤型の機械。
それが、研究所で研究員が「デュアルブースター」と名付けたものと完璧に噛み合う運命の半身だとは、この時の湊はまだ知る由もなかった。




