未知の怪物との邂逅(ツイステッド・フェイト)
「……そうか。非常に残念だよ。」
長いコートを羽織った青年が小さく呟き、差し出していた手をポケットへと戻した。
そして、代わりに引き抜かれたその手には――不気味な鈍色の光沢を放つ、一枚の『ディスク』が握られていた。
青年は、色彩の反転した静止世界の中で、自動販売機コーナーの近くにある筐体の前に、座ったままピタリと動きを止めている湊の友人へと、無造作に歩み寄っていく。
「おい、何をする気だ……ッ!?」
湊の喉から、掠れた悲鳴が上がった。
青年は答えない。ただ、手にした謎のディスクを友人の首の後ろへと、静かに近づけた。
――その、まさに刹那だった。
ピィィィィィィン――ッ!!!
円盤の基盤から、鼓膜に突き刺さるような異質の高周波が放たれた。
直後、友人の首の後ろの皮膚が、まるで中に埋め込まれた機械が強引に自己主張を始めたかのように、ベキベキと歪な音を立てて波打ち始める。
直後、皮膚が裂け、肉がねじ切れ、骨が組み換わる。
友人の首元の肉体がドロドロと変質し、そこに形成されたのは――ディスクを差し込むための、生々しい鋼鉄の質感を帯びた異質な『挿入口』。
青年がディスクを近づけただけで、人間の肉体が文字通り、差し込み口へと変化させられたのだ。
あまりにも悍ましいその光景に、湊は呼吸を忘れて硬直した。
(嘘だろ……。あいつの身体に……『挿入口』が、生えた……!?)
驚愕する湊の前で、青年は友人の肉体に生成されたその挿入口へと、手にしたディスクを躊躇なく挿入した。
――ディスクが湊の友人の体内に、ゆっくりと入り込んでゆく。
「生物デバイス化――『エボリューションディスク』のプラグイン、および専用挿入口『エボリューションスロット』の定着を確認。
……使用実験は成功のようです、ボス。
使用対象が副作用によって怪物になってしまう点を改良すれば、より良い兵器としての運用が可能かと思われます。」
青年はそう言いつつ、化物へと化していく湊の友人を横目に見ながら、感情の抜け落ちた声で、何者かと通信している。
湊の友人の体内に入り込んだディスクが肉体の奥深くに、スロットを通して体内へと完全に吸い込まれた、その瞬間だった。
「ガ、あ……あ、あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!??」
世界が反転した中でピタリと止まっていた友人が、血を吐くような凄まじい絶叫と共に、強制的に超能力に覚醒させられた。
意識を取り戻した湊の友人は、その場に倒れ込み、頭を掻きむしりながら、のたうち回っている。
次の瞬間、友人の肉体が、その覚醒した能力の性質に従って、歪に、 そして凶悪に変異を始めた。
バキバキと音を立てて手のひらが巨大な獣のそれへと肥大化し、皮膚の表面が漆黒の防壁のような硬質物質に変化していき、人の姿を失っていく。
〚――Shield monstrosity ――〛
空間拡張されたゲームセンターの8階という閉鎖空間の中で、かつての友人は、ただ周囲を破壊するだけの怪物へと完全に変貌してしまった。
「……これが、我々の技術だ。これでもまだ、拒むかい?」
青年は、化け物へと成り果てた友人の背後に立ち、殺気を完全に消したまま、どこまでも淡々と湊を見つめた。
(なんだよこれ……。こんなの、あんまりだろ……ッ!!)
湊の足はガクガクと激しく震え、全身から嫌な汗が噴き出していた。
内心では、あんな強い口調で断らなければよかったかもしれないという後悔すら浮かんでいた。
だが、目の前で化物に変えられ、苦しげな咆哮を上げているのは、さっきまで一緒に笑い合っていた大切な友達だ。
それを心の中で再確認し、恐怖で竦みそうになる足を、湊は自分の力で強引に踏みしめた。
(こんな奴らに……屈してたまるか。ここで俺が逃げたら、あいつは本当に助からない……!)
「――ふざけるなッ!!」
湊は、恐怖を怒りへと反転させ、鬼気迫る気迫で叫んだ。カバンの奥底から、さっき研究員から手渡されたばかりの、鈍い銀色の輝きを放つカセットを引き抜く。
湊は震える腕を突き出し、重厚感のある黒色に輝くクロニクルガントレットへと、カセットを躊躇なく叩き込んだ!
【 Cassette Lock! ――RECORD 『Sherm : Metal』Play Start. ――】
「あいつを……元に戻してもらうぞ!!」
湊はそう宣言すると同時に、怪物と化した自身の友人へ物凄い勢いで突っ込んでいった――。




