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白銀の可能性と別世界(アノマリー・フィールド)

ドゴォォォォォォォン――ッ!!!


崩落する巨大な天井が、展開された鋼の障壁へと正面から激突した。


凄まじい衝撃波が走り、キィィィィンと火花が爆発的に飛び散る。

ガントレットを通じて、湊の右腕に、まるでダンプカーを受け止めたかのような強烈な負荷がのしかかった。


「ぐ、うぅぅぅぅ……ッ!!」


骨がきしむような激痛に、湊は歯を食いしばる。一瞬でも気を緩めれば、障壁ごと押し潰されて全員が肉片に変わるだろう。


「止まれ……っ! 止まれぇぇぇぇッ!!」


叫びと共に、湊は両腕に力を込める。


湊が叫ぶと同時、右腕のクロニクルガントレットが眩い白銀の光を放った。

金属が高速で噛み合うような、未知の駆動音が空間に響き渡る。


直後、湊の右腕から溢れ出した強大なエネルギーが、教室中を瞬時に覆い尽くすほどの『白銀の障壁』となって、幾重にも、幾重にも急速展開された。


(これは……!?こんな力見たことない……。)


展開された白銀の障壁は、崩落する天井と、壁を突き破り湊たちを突き破らんとする岩石の槍を、力強く押し返していく。


激しい火花を散らしたせめぎ合いの末――湊たちを圧殺しようとしていた巨大な天井のコンクリート塊が、そして校舎を貫こうとしていた岩石の槍が、白銀の障壁に完全に押し返され、その動きをピタリと止めた。


「……はぁ、はぁ、はぁ……!」


激しい息を吐きながら、湊は両腕を突き出した姿勢のまま、ゆっくりと目を開けた。

視界を遮っていた土煙が、割れた窓から吹き込む不気味な風に流されていく。


そこには、信じられない光景が広がっていた。天井の半分が完全に崩落し、無数の瓦礫が降り注いだ教室。しかし、湊たちがいる空間だけは、ドーム状に展開された『白銀の障壁』によって、塵一つ通さず完全に守り切られていた。


湊たちを貫こうとした岩石の槍は、障壁のすぐ手前に力なく落ちている。

そして、障壁の向こう側で巨大な天井のコンクリート塊が、白銀の盾に阻まれて完全に静止していた。


(防ぎ、きった……のか……?)


湊は、後ろに倒れていた友人の呼吸を確かめる。気絶してはいるが、怪我はない。


「よかった……。」


安堵の言葉が漏れたのも、束の間だった。


白銀の障壁が、一瞬だけ不規則に明滅し、辛うじて静止していた巨大な天井が、音をたてながら少しめり込んでくる。


頭上を見上げた湊の顔から、一気に血の気が引いた。


(そうだ……防いだからって、終わったわけじゃない……!)


別に防ぎきった訳では無い。ただ、障壁で支えているだけだ。

これだけのエネルギーを内包する障壁は、そう長くは保てないだろう。


(この障壁が解除された瞬間、俺も、みんなも、一瞬で圧殺される。だけど……このまま維持し続けることなんて不可能だ……!)


じわり、と額から冷たい汗が流れ落ちる。この状況をどうすれば突破できる?

気絶したクラスメイトたちを抱えたまま、この場を動くことはできない。

かといって、この巨大な天井をどかす手段など、無能力者の湊にはあるはずがなかった。


(どうする……!? この天井を、この場所から排除できる方法はないのか……!?)


じりじりと削られていく限界の時間。湊が必死に打開策を脳細胞に叩きつけていた、まさにその時だった。


ピピッ――、ピピピピピ……ッ!


カバンの隙間から、聞き覚えのある電子音が鳴り響いた。その電子音の正体は『ツールカセット:モバイル』の着信音だった。

湊は、カバンに入っていたスマートフォンにツールカセットを接続する。

すると、急に画面にノイズが走り、研究所に繋がった。


『――聞こえるか、湊くん。こちら研究所だ。モバイルカセットの時計機能を中継器として、強引に回線を繋いだ。』


スピーカーから聞こえてきたのは、焦りも熱も感じられない、いつもの冷徹な研究員の音声だった。


「研究所……!? なんで通信が……っ!」


『世間話をしている余裕はない。その障壁はシャームカセットの限界を超えて発動したものだ。今すぐその過剰な防御行動メタルプレベントを中止しろ。さもなくば、ガントレットが自壊するだろう。』


「中止しろって……! 今、崩落する天井を必死に受け止めてるんだ! 解除したら、俺もクラスメイトも全員押し潰される!」


湊が悲痛な声を上げても、研究員のトーンは一切変わらなかった。


『冷静に分析しろ。この天井や、この空間の物質全てが超常現象によって高密度に圧縮された「疑似物質」にすり替わっている。「疑似物質」は現実の物質となんら変わらない性質を持つが、構造の「結節点コア」を持つという点のみ異なる。手元のモニターを見ろ。構造の「結節点コア」のデータを送信した。』


スマホの画面に、幾何学的な構造線と、赤く点滅する一点の座標が表示される。


『メタルカセットの力をその一点へ集中。障壁の形状を反転し、高周波の共振エネルギーとして瞬間的に撃ち込め。

結節点コア」を破壊することで、物質の構造を内側から破綻させることが出来る。

構造が破綻すれば、その天井はひとりでに崩壊する。

……制限時間は、その障壁を解除した後から数えて5秒程度だ。』


「……分かった。やってやる!」


理屈は分かった。やるしかない。


湊は歯を食いしばり、深く意識をガントレットへと沈めた。脳裏に描くのは、ただの鉄の盾ではない。指定された座標をピンポイントで穿つ、細く、頑丈な針。


「これで……最後だ。」


湊は、障壁を細い針に変化させる。


そして、湊は残ったすべての力を振り絞り、指定された「結節点」に向けて、天へと右腕を突き上げた。


それに呼応して、一筋の白銀の光に変化した障壁が、崩落する天井に物凄いスピードで接近する。


―――ドカァァァァァァァン――ッ!!!


重力をも逆行する、一筋の光。それが、静止していた数トンものコンクリート塊の「結節点」を正確に撃ち抜いた。


構造の集合する場所を破られたコンクリート塊は、内側から細胞レベルで結合を失い――。


次の瞬間、頭上にあった絶望的な質量は、ただの「砂と塵」へと変えられ、床へと虚しく降り注いだ。


「はぁ……はぁ……っ!」


完全に天井を粉砕しきり、遮るものがなくなった教室。湊は激しい息を吐きながら、辛うじてその場に踏みとどまった。


『……目標の完全粉砕を確認。ガントレットの出力低下、安全圏内。それに加えて、シャームカセットの新たな可能性。実戦データとしては上出来だ。』


通信の向こうで、研究員が淡々とキーボードを叩く音が聞こえる。見事、研究所の冷徹なデータ提示によって、最悪の危機を乗り越えられたのだ。


しかし、一息つく間もなく、割れた窓の向こう側から――さらに不気味な、地を幾重にも変形させるような咆哮が響き渡った。


『……だが、喜ぶのは早いな。今回の超常現象の根源――この空間の本体が校庭へと現れる。あれを倒すことは、考えない方が賢明だと私は考えている。君はこの空間から脱出するのが先だ、とアドバイスはしておこう。通信の維持はここまでだ。健闘を祈る。』


ブツッ、と音を立てて通信が途絶える。

湊は、異空間にて再び孤独となったのだった――。

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