第84話 飛び出した光
リアム陛下、ザッカリー宰相、エリック騎士団長と共に遺体が安置されている尋問部屋を訪れた。
扉を開ける前から既に負の空気が漂っているのが感じ取れて気分が滅入った。
ギィッと開かれた重たい扉の向こうには、かけられた布切れから遺体の足だけが見えた。
(本当にこの人の魂を抜き取るのか……)
そう思うだけで、今すぐ全速力で逃げ出したくなる。
だけど、ここは王城。どこにも逃げる場所などなく、覚悟を決めるしか選択肢はなかった。
「……ラミン、俺どうやって魂抜けばいい?」
「いつもと同じだ。触れたら良かろう……とは言ってもあれは貴様の善意と慈悲の心も影響しているだろうからな。今回は難しいか」
「この人に向ける善意も慈悲もないけど?!」
これまでなぜ魂を抜き取ることが出来るのか分からなかったが、どうやら自分の心が関係していると知り驚かされた。
それが竜族の力なのか、別の力が備わっているのか謎のままだったが。
犯罪者に向ける善意と慈悲も持ち合わせていない今、どうしろというのかと頭を抱えていた。
すると、ラミンは少し考えたあと、俺にいかにもそれらしい詠唱を教えてくれた。
「……それに触れて心で命令してみろ。我が呼びかけに応えよ、とな」
「うへぇ……なんか魔王みたいじゃん?」
「やかましい! 何でも良いのだ。
貴様がそやつに命令する形が取れたら良い。適当に言えば応えるわ」
正式な詠唱かと思っていたが、適当だと告げられた俺は愕然とした。
規格外な能力だと思っていた俺の能力は、どちらにせよ俺自身の心次第らしい。
「……俺の父さん適当怪獣なんだけどライオネル王!」
「はははっ。いつものことだろう? それ、やってみなさいオリオン」
「オリオン、頼んだぞ」
「うぅ……分かりました」
2人の王に圧をかけられ逃げ道を完全に塞がれた俺は、ゆっくりとした足取りで遺体の前に立ち身を屈めた。
(殺されませんように……)
切実な願いを胸に、一度大きく深呼吸をしてから右手でそっと体に触れた。
「――我が呼びかけに応えよ」
意識を集中させ言葉を発すると、音もなく体からスゥッと淡い光が抜け出した。
人の形になった魂はキョロキョロ辺りを見回し、明らかに戸惑っている様子。
そこへ、すかさずリアム陛下が問いかけた。
「我が名はリアム・シルフィ・ウィンエバー。貴様は――」
「な、な、なんなんだこれは?! なぜ私はここにいるのだ?!」
「……貴様の魂を叩き起こした。もう、黙秘など通用せぬぞ」
「なっ……貴様はっ……」
自害しすべて終わったと思っていた男は、リアム陛下からの言葉を受け愕然としていた。
自身の遺体とリアム陛下に何度も視線を動かし、自身の置かれている状況をようやく理解した様子でギロリと俺に視線を移した。
「……貴様だな? 貴様から魂を取り出された感覚がある。
何故だ! 死してなおこの私から情報を聞き出そうというのか!
許さん……許さんぞぉおおおっ!」
「え、いや、ちょっと待って!」
何故か俺が魂を抜き取った相手だと察知し、その怒りの矛先が俺に向けられた。
魂からは負の感情が湧き出し淡い光が次第に黒く染まっていく。
それは、かつてジヨン騎士団長たちを覆っていたあの黒いモヤのようだった。
「貴様の体を乗っ取って喰ってやるわ! 覚悟しろぉおおおっ!」
「ぎゃああっ! 来るな! こっちに来るなーー!」
「オリオン! 貴様この狭い中を逃げ回るな! さっさと始末せんか!」
「どうやって?! ジヨン騎士団長の時だって無理だったじゃないか!」
一直線に向かってくる魂を前に、俺は情けなく悲鳴を上げながら、尋問部屋の机や椅子の周りを全速力で逃げ回った。
ラミンは怒声をあげながら頭をポカポカと叩き始末するように命令するが、魂の始末の仕方など知る訳がない。
だけど、このままではリアム陛下にまで被害が及ぶかもしれない。
どうにかして魂を大人しくさせなければ。
そう思った時だった。
『オリオンに……ヒョンに触るな!』
「ユギッ?! お前何やってるんだ! 危ないから離れろ!」
突然、俺の前にスッと現れたのは水属性魔法を宿すユギだった。
普段はのんびり屋でおじいちゃんのように日向ぼっこが趣味のユギ。
こんなふうにラムのように前線に立つようなタイプではないのは俺もよく知っている。
だからこそ、ユギの行動に焦りを覚えユギを庇おうと手を伸ばした。
『大丈夫』
ユギは一言言うと、フッと柔らかい笑みを浮かべたあと、額にある魂星を暴走する魂に向け差し出した。
すると、たちまち魂星から眩い光が発生し、あまりの眩しさに誰もがギュッと瞼を閉じた。
そして、瞼の裏まで届いていた光が消えたと感じた俺がゆっくりと瞼を持ち上げると、そこにはラムほどではないが明らかに何倍もの大きさに覚醒したユギの姿があった。
大きな翼、鋭い爪、キレイな水色の体はより一層鮮やかな水色に輝き、魂星が煌々と光を灯していた。
その神々しさに、暴れまわっていた男の魂の動きがピタリと止まった。
「ゆ、ユギ……お前、覚醒……しちゃったの?」
「オリオン……俺の主。大丈夫、護るよ。任せて」
覚醒前の端的な言葉ではなく、滑らかに喋るその姿に思わず息を吞んだ。
そんな俺にコクリと頷いたあと、男の魂に向き直り、スッとその右手を伸ばした。
絶対に逃がさない、そう右手が語っているように思えた――




