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第85話 王国の狙い

「な、何なんだこのデカい竜は?!」


「黙れ。俺のヒョンを追いかけまわすのはもう終わりだ」


「なっ……」



 覚醒したユギは誰よりも高貴で、慈悲なんて言葉はどこにも持ち合わせていなかった。

 男の魂を鋭い目つきでキッと睨みつけると、静かにその右手を前に出した。

 ユギは静かに喉をグルル……と鳴らし言霊を紡ぎ出した。



「――反転、Haegeum(ヘグム)」



 ユギがヘグムと呟くと、差し出した右手からジャラララララララッと金属音と共に青色の魔力を纏った無数の鎖がまるで蛇のように一斉に飛び出した。

 その鎖は一直線に男の魂の手足、胴体、そして首元を瞬く間に何重にも縛り上げていった。



「 な、なんだこれは……! 動けんっ! ち、力が抜けていく……ッ!」



 本来、物理攻撃はすり抜けるはずの魂が、完全に身動きを封じられ、床へと叩きつけられていた。


 (え、何これ。ユギ怖いんだけど……)


 大人しかったはずのユギから放たれた冷徹なその攻撃に少しの恐怖を感じた。

 ユギを怒らせたら、俺も同じ目に遭うのだろうかと考えずにはいられなかった。


 そんな俺とは対照的に、頭の上のラミンは「水属性のHaegeumは本来、解放を意味する技。それを反転させて捕縛し、魔力も吸収するとは大した奴だ」とほくそ笑んでいた。

 ライオネル王やリアム陛下たちは、感心したように頷いている。

 この世界で目の前の光景を恐ろしいと思うのは、やっぱり俺だけのようだった。



「ヒョン……これで大丈夫。何でも聞いて」


「あ、ああ……ありがとう、ユギ」



 呆気に取られていると、ユギの瞳に優しさが戻り、フッと笑みを浮かべた。

 周りではユギの覚醒に喜ぶミナたちの歓喜の声が響いている。

 ちらりとリアム陛下に視線を移すと、静かにコクリと頷いた。

 

 (えっと、俺がやるのか?)


 そう思いながらおずおずと男の魂の近くまで寄り、声をかけた。



「何が目的で闇市でブルーアップルのエキスを売っていたんだ?

他国でやる意味は何だ? 普通は自国で実験し最強の兵器を作り出すものじゃないのか?

それに、ブルーアップルの効力について誰から聞いたんだ?

ブルーアップルはこの国にしかない禁断の果実のはずだ」


「だっ、誰が喋るか! 私は誇り高きブルーメイドの――」



 何を聞き出せばいいのか深くは理解していなかった俺は、ひとまず自分が気になっていたことを質問としてぶつけた。

 だけど、そう簡単に答えるわけがないことは分かっていた。

 すると、側にいたユギの目が再び冷徹な竜へと変わり、右手をギュッと握りしめた。



「ぎゃあああっ! な、なぜだっ! なぜこんな痛みが私に!!」


「黙れ。ヒョンが聞いていることだけ答えろ」


「ひぃっ……! なぜ死んでまでこんなに苦しめられなければならんのだっ……」


「死んだところで何も変わらない。お前が救われる道は口を割ることだけだ」



 冷静に言い放つユギ。その姿と発言はどこか見覚えがある。


 (ああ……ラミンだ……でかいラミンだこれ……)


 俺の頭の上を支配するラミンを見ているようで、何とも複雑な心境だった。



「とにかく答えてくれ。何が目的なんだ」


「……わ、私は王の命により……ブルーアップルの効力を利用し、他国で兵器の開発を任されていた」


「兵器……」


「ブルーアップルについては以前、売り込みに来た元貴族と、この国から追放されたゴイルから話を聞き、大量に買い取っていた。

我々の国で実験をすれば被害が出るかもしれない。それならブルーアップルの生産地であるウィンエバー王国で実験しろと王に命じられた。

うまくいけば、人間兵器を作り出し我が国が他国を支配し、真の王国を築ける。そう煽っておられた。

だから私はかつてゴイルたちが闇市を開いていたというグロリアに潜入し、ブルームーンの日に闇市を開き実験を繰り返していた。結果はこのざまだ」



 リアム陛下の弟のゴイルと、そのゴイルをそそのかしていた元貴族がまさか他国にブルーアップルを売り込んでいるとは思いもしなかった。

 さすがのリアム陛下も、弟の名前が出た瞬間、眉をひそめた。

 

 この国にとって極めて重要で危険な果実を利用して、他国を攻め入る準備をしていただなんて、考えただけでも虫唾が走る。

 だけど、情報が聞き出せたことは大きい。

 ブルーメイドに対する対策本部も大々的に立てられる。

 そう思っていた時だった。

 

 黙って話を聞いていたラムがスッと俺の隣にやってきて、静かに口を開いた。



「……本当にそれだけですか?」


「は?」


「あなた、何か他にも隠していませんか?

あなたの魂は淀んでいる。何か重要なことを隠している気がします」


「……話せ。隠し立てしても無駄だ」


「ぎゃああっ! やめろっ! やめてくれぇええっ!」



 俺には全く分からなかったが、ラムには魂が澄んでいるか淀んでいるかが判別できるようで、男に疑念を抱いている様子だった。

 そんなラムの言葉に続くようにユギが鎖に魔力を込め男を苦しめていく。

 そして、観念したようにぽつり、ぽつりともう1つの目的を話し始めた。



「かつてこの地にいた伝説の種族、竜族……と言っていたか。

その竜族が最強だったのは、竜の力が大きいと調べはついていた。

そして、この地にある竜の揺り籠に存在し、眠る強大な竜たちから出るという、竜の涙を手に入れたいと……」


「なっ……」


「それを手に入れれば、陛下は無敵の存在となると。

そのためにブルーアップルをばら撒き、魔物や人間兵器を作り出し、竜の揺り籠に足を踏み入れようと考えておられた。

そして、竜の涙を手に入れた暁には、その兵器を利用して他国を攻め入るというのが陛下、そして王家の望みだった。

それと同時に、精霊の力も欲しておられた。

この国の精霊の力は我々の国に住む精霊とは比べ物にならないほど強大だという。

竜の涙を持っていれば、その精霊たちとも容易く対話が可能なのではと考えていたのだ」



 男の口から語られた真実に、尋問部屋の空気が一瞬にして凍りついた。

 ブルーメイド王国の狙いは、単なる実験ではなく、最初からこの国の命とも呼べる竜と精霊の力を狙っていたのだ。 


 何も知らない頃なら、俺はただただ恐怖に怯えるだけだったかもしれない。

 だけど、ラミンと出会い、自分が竜族の末裔だと知り、精霊とも心を通わせ、ラムたちとも家族になった。

 

 だから今、この男の口から語られた真実は、もう俺にとっては他人事などではなかった――

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