第83話 苦肉の策
1ケ月後――
変わらない現状と、毎日ダンジョンと家を往復する日々が続いていた。
そんなある日、レガリアに通信があり、リアム陛下から緊急招集の声がかかった。
「グロリアを調査していた密偵が昨晩、闇市に出くわしたと話したな」
「はい。昨日のうちにこちらに連れ帰ったと」
「ああ。すぐさま尋問にかけたのだが……」
「……もしかして」
「隠し持っていた毒を身体に入れて自害しよった」
「……」
グロリアから闇市の売人が自害したと聞かされた俺たちは、ある程度予想していたとはいえ落胆した。
仲間意識が強いのか、はたまたブルーメイドの絶対的支配による命令なのか。
どちらにせよ、振り出しに戻った挙句、売人が突然姿を消したことによりブルーメイド側が警戒を強める結果になることは間違いなかった。
「グロリアに売人が現れることは当面ないだろう。別の街か、はたまた隣国に現れるか……」
「売人の持ち物で何か怪しいものはなかったんですか?」
「ブルーアップルの瓶以外は何も。ただ、奴が着ていたローブだがな。
あれはブルーメイド王国の王族だけが纏う生地のものだった。それだけでブルーメイドを疑うには十分すぎる材料だったよ」
「……そうですか」
身に着けていたものから相手国が判明したと分かり、その事実はやっぱり変わらないのかと肩を落とした。
他国が絡み、ことが大きくなってしまえば、また巻き込まれてしまう。
俺の悪い癖だが、どうにかして回避できないかと、それしか考えられなかった。
そんな中、頭の上のラミンが小さく俺に呟いた。
「残留思念……」
「え?」
「リアムよ。遺体はまだ?」
「はい。まだ処分せずに尋問部屋に寝かせてありますが……」
「そうか。では、オリオン。貴様の能力を活かす時がきたぞ」
「はい?」
どこか自慢げに聞こえたラミンの声。
こういう時、絶対にろくでもないことを考えていると俺は知っている。
そんな俺の予想通り、ラミンは面倒なことを口にし始めた。
「貴様には不思議と魂を救う力が備わっておる。
我らがこうしていられるのは、貴様が我らを救い出したからだな?」
「……いいえ? 俺は、断じて何もしてないですが?」
「たわけ! 嘘をつくな! その能力で売人の魂を叩き起こせ!
そうすれば何かと情報を聞き出せるだろうが」
「絶対に嫌だ! 魂を叩き起こしたら俺が面倒見なきゃいけないじゃないか!
極悪人の魂の面倒みるほど俺お人よしじゃないんだけど?!」
嫌な予感というものは常に当たるもので、明らかに普通ではない提案を受けた俺は断固拒否をした。
今までは善人と呼べる魂だったこともあり素直に受け入れていたが、さすがに悪人の魂を取り出し尋問しようだなんて有り得ない。
そんな俺の切実な訴えに、ラミンは呆れたように告げた。
「バカたれ。魂を抜き取ったところで器がなければ数分ですぐに消滅するわ」
「え? そうなのか? でも、ラミンみたいに無理やり俺の中に入ってきたらどうするんだよ」
「それは……貴様の気力で追い出せ」
「はぁ?! 絶対にノープランじゃないか!」
「知らぬわ! とにかく魂を抜き取れ! それが一番早い!」
器がなければすぐに消滅すると教えられた時は一瞬安堵したが、即座に絶望させられた俺は思わず叫んだ。
(父親代わりになった割には俺を雑に扱いすぎなんだよ!)
心の中でそう叫びながらため息を吐き出すと、黙って話を聞いていたリアム陛下が目を細め、口角を上げた。完全に企んでいる時の表情だ。
「オリオンよ。我が国の危機なのだ。頼まれてはくれないか」
「……」
「一刻も早く目的を聞き出さねば、また被害者が出てしまうかもしれぬ。
愚弟ゴイルのようになってからでは遅いのだ。間近であれを見たそなたなら分かるだろう?」
「それは……」
グロリアでの出来事を引き合いに出すのは非常にズルい。
あの姿を目の前で見ていた俺にそう訴えれば、何も言えなくなることを分かっているのだ。
そうはいっても、リスクが高すぎるのではないだろうか。
万が一魂が暴走した時は誰が責任を取るのだと、よからぬことばかり考えてしまう。
そんな俺の心情を察したように、側にいたラムが優しく言葉をかけてくれた。
「オリオンさま。万が一魂が暴走した場合は、僕たち守護竜がお護りします。
どうか、リアム陛下のお力になっていただけませんか?」
「ラム……」
「それみろ。ラムたち小童どものほうが肝が据わっておるではないか。
大体、貴様は竜族なのだぞ。少々のことでどうこうなる訳がなかろうが」
「うぅ……そんなこと言われたら、もう断れないじゃないか」
「だから断る必要はない。さっさと行くぞ」
「はぁ……なんでだよぉ……」
ラムの絶対的守護と、未だに分からない竜族の力を盾にされた俺は完全に退路を塞がれた。
絶望の中ため息を吐き出すと、俺の両肩をそれぞれポンッと叩くライオネル王とリアム陛下の新旧国王。
今日ほど自分の能力を恨んだ日はないかもしれない。
魂を抜き取るなんて恐ろしい能力は、望んで得たわけでもないというのに。
気づけば勝手に抜き取っているだけなんだと訴えたところで、もう誰も引く気はなさそうだ。
「……怖いことが起きませんように!」
「大丈夫でしゅよご主人さま! コハクがちゃーんと護ってあげましゅからねぇ!」
「……うん。期待してるコハク」
ぽつりと呟いた言葉に反応したのはコハクだった。
コハクの辞書には恐怖という言葉は絶対に存在しないのだろうな。
なんて思いながら、リアム陛下たちと共に遺体が安置されている尋問部屋へと向かった――




