第82話 宰相VSオリオン
冒険者ギルド――
「なるほどな……じゃあ、ブルームーンの日に開かれる闇市に行けば何か分かるかもしれねぇな」
「はい。グロリアに潜入している王家の密偵の方が引き続き調査されるそうです。
さっきリアム陛下に連絡を入れたらそう言ってました」
「そうか。じゃあ市場の件は完全に王家に任せてよさそうだな」
「ですね。俺たちは変わらずダンジョンの見回りを続けます」
ダンジョンから戻る途中、レガリアでリアム陛下に報告を入れたあと、ハルクさんに今回の一件を報告した。
余計な手出しはせず、王家主導で動いてもらうことを告げ、冒険者ギルドを出て家に向かった。
家の扉を開けると出迎えてくれたのは、小さなぬいぐるみ4体。
ピョコピョコと飛び跳ねながらこちらに向かってくる様子はシュールすぎて笑えない。
「おかえりなさいませ、ライオネル陛下、オリオン様、ラミン様」
「ダンジョンの見回りでお疲れでしょう。ゆっくりとされてくださいね」
一番に声をかけてくれた執事長のクリストさんとメイド長のチェルさん。
そのすぐあと、ランジム宰相とジヨン騎士団長が近況報告を求めてきた。
「ライオネル陛下、いかがでしたか? 何か手がかりはつかめたのでしょうか?」
「コハク、ミナ。お前らちゃんと仕事してきたんだろな?」
「ジヨンたん、コハクはちゃーんとラムたちのお世話してきたでしゅよ~?!」
「ジヨンヒョン、頑張ったよ! だから、遊ぼ!」
コハクとラムたちは一斉にジヨン騎士団長の周りに群がり、わいわいとお喋りを始めた。
魂星の儀式により言葉が分かるようになった今、我が家は一気に騒がしくなった。
ラムのように大人になる日が待ち遠しくて仕方がないと思いながら、ランジム宰相にダンジョン内で起きたことを話した。
「というわけで、俺たちは変わらずダンジョンの見回りだな」
「そうか。闇市で情報を得られるのであれば問題ないが、果たして口を割るかだな。
我々がブルーメイドに直接潜入できれば良いが、あの国は鎖国的で異国の人間が入り込めば目立ってしまうからな。
王家の密偵頼みとなってしまうのが、いささかもどかしいな」
「まぁね。俺もブルーメイドなんて行きたくないし、これ以上巻き込まれたくないんだよな」
ランジム宰相に情報共有したあと、巻き込まれたくないとため息を吐き出すと、ランジム宰相のぬいぐるみの表情が曇った気がした。
ピョコピョコ跳ねながら俺の肩まで登ると、呆れたような声色で言った。
「オリオン……出会って間もないが、なぜそなたはいつも逃げ腰なのだ?
ライオネル陛下やラミン殿、コハクや七匹の守護竜が側にいて何を恐れる必要がある?
そもそも、そなたは誇り高き竜族なのだぞ?
この国を護れる力を持っているにもかかわらず、日陰に隠れようとする理由が分からん」
「……」
「普通、ここまでの騒ぎとなれば、何とかしてやりたいとなるだろう?」
王家に仕えてきた宰相だからこそ、常に安心安全ルートを求める俺が理解できないようだった。
(そんなこと言われてもなぁ。俺は暁の翼をクビになってから、ゆっくり暮すと誓ったんだ!)
なんて心の中で叫びながら、どう答えようかと悩んでいると、頭の上のラミンが溜息を吐き出しながら2人に伝えた。
「この男は争いごとを好まぬ。それどころか日々の鍛錬でさえサボろうとする。
自身に課せられた使命も、周りからの期待もこやつにとっては迷惑でしかないのだ。
スローライフを送りたいだけの怠け者だ」
「それはいかがなものかと。オリオン、そなたの力はこの世界を救うほど大きなものだ。
国の一大事とあらば、存分にその力を発揮し国を護ることが竜族としての使命だ。考え方を改めなさい」
「そうだぞオリオン! 竜族は常に国と共に歩んできたんだ。
俺も器が出来たら力を貸すから。共にこの国を護るんだ」
「マギ・ドールは戦いには向いてないから!すぐ壊れちゃうから!」
「大丈夫だオリオン。私のように鎧を纏えば少々のことでは壊れぬだろう?」
「そういう問題じゃないから! しかも、そのアーマーめっちゃ高いやつだから!」
スローライフを送りたいという俺の切実な願いをこの場にいる全員が見事に否定した。
ラミンのせいでどんどん外堀が埋められていく。安らぎを求めている俺にとっては非常に迷惑な話だ。
「俺は好きで竜族の末裔になった訳じゃないからね?」
「それは言い訳だ。天命を受け竜族として生まれたのだからな、オリオン」
「なんでそんなに厳しいんだよランジム宰相は!」
「国家を護るのが私の仕事だからな。
そのためであれば、時には非道なことも残酷な決断もする。
それが我々の役目だよオリオン」
「俺は関係ないから! 俺はただのオリオンだからぁああっ!」
時を経ても変わらない国への忠誠心。国にとっては有難く、頼りになる宰相だろう。
だけど、俺にとってはラミンに続き、ちょっと面倒で厄介な家族となってしまった。
このまま調査が進んでいくにつれて、俺には拒否権が完全になくなり、国のために働くのだと背中を押されて駆り出される未来しか見えてこなかった――




