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第81話 荷物持ちの精霊魔法

「お兄さん、本当に何する気?!」


「……精霊魔法だ」


「はっ……? な、何言ってるんだよ……

せ、精霊魔法を荷物持ちが使えるわけがないだろう?!

下級の精霊だって一般人が契約出来るかすら分かんないのに!

嘘ついてクリスを殺す気だろう?!」


「はぁ……そんなことするわけないだろう……

それに、精霊魔法なんて扱えるわけがないって俺が一番思ってたよ。

まぁ、人生いろいろだ」


「なっ……」



 精霊魔法という特殊かつ神聖な魔法がそう簡単に扱えるわけがない。

 この国で生活する者であれば、誰もが同じ認識だ。

 それを使用できると言われて「そうなんですね」と納得できるわけがない。



「頼むからっ……殺さないでくれよぉ!

バカにしたこと、謝るから!」


「だから……殺さないって言ってるだろう?」



 パニックに陥っているルトは俺の服をギュッと掴み涙を浮かべた。

 そんなルトの手をそっと解き、もう一度右手を伸ばし詠唱を始めた。



「力の根源たるユグドラよ、我が願いを訊き入れたまえ。

闇に覆われし者に光を照らし、その命を輝かせ。

万物の穢れを払い、聖なる光を与えたまえ!“エターナル・ルーメンス”!」


「なっ……」


「嘘っ……本当に精霊魔法?!」



 詠唱が終わると共に光の粒子がふわりと現れ、クリスの体内へと静かに入り込んでいく。

 先ほどまで苦悶の表情を浮かべ吐血し、のたうち回っていたクリスの表情がゆっくりと穏やかになっていく。

 そして、例の通り体内からどす黒い液体が吸い出され、すべて絞り出されるとパンッ! と乾いた音を立てて消えていった。



「これでもう大丈夫だ。ブルーアップルの毒は完全に消えたよ」


「兄ちゃん一体何者なんだよ……精霊魔法が扱えるなんて普通じゃないよ!

……本当に荷物持ちなのか? 本当は王家の人間なんじゃ……」



 この世界の常識として、上位・最上位精霊の扱いが出来るのは王家のみ。

 それが目の前で起これば、俺が王家の関係者だと思われても仕方がない。

 だけど、そんなことあってたまるかと、俺は満面の笑みを浮かべた。



「まさか。元、荷物持ちで今はのんびり暮らしてるただの冒険者だよ。

なぁ、クリス君。もう持っていないよね? 劇薬の瓶」


「……うん。あ、いえっ。持っていないです。

あの時の闇市で購入したのは1つだけでしたから……」


「そうか……それならいい」



 小瓶を隠し持っている可能性も考えたが、あの青ざめた表情を見ていると、二度と使用しないだろう。

 そんなことを考えながら、闇市について尋ねた。



「闇市って、今でもグロリアで行われてるのか?」


「あ、はい。不定期ですが、月が青くなる日、ブルームーンの日はほぼ開かれてます」


「ブルームーンの日か……分かった。ありがとう」



 ブルームーン。この世界では30日に一度、月が青くなる日が必ずある。

 その日は魔力暴走が起きやすく、魔物たちが特に活発化しやすいため、夜の活動は控えるというのが鉄則だった。

 そんな日に合わせて行われる闇市。ブルーアップルに引き寄せられやすくでもなるんだろうか。

 ひとまず、彼らをここから出しておいた方がいいな。



「君たちは今日はもう帰りな? 毒を抜いたけど今日1日はゆっくりしていた方がいい」


「あの……失礼な態度とってすみませんでした」


「いや、気にしなくていい。気をつけて帰るんだぞ」


「はいっ……」



 帰り際、今まで取っていた態度が嘘のように丁寧になり、ペコペコ頭を下げて帰還石を発動した3人。

 見送った俺は、ようやく安堵し肩の力が抜けていった。



「うむ……オリオン。先ほどの話だがな」


「え?」


「ブルームーンの日、おそらくブルーアップルの濃度が高くなり、その甘い香りに誘われてやって来るものが多いのかもしれんな」


「あ、やっぱりそうなんだ」



 話を聞いていたライオネル王が静かに分析を始めた。

 すると、頭の上のラミンが話に割って入った。



「自身にコンプレックスを抱える者ほど、甘い香りに呑まれやすい。

あの小童も、ゴイルも同じだろうな」


「そっか……俺なんてコンプレックスの塊だけどな?」


「貴様は竜族。ブルーアップルは毒にはならん」


「……そう言われると有難い体かもしれないな。

まぁ、とりあえず最上階層まで行くか。

見回りがてらラムたちを遊ばせてからギルドに行こうかな」



 コンプレックスを抱え込んでいる人ほど、甘い毒に浸食されやすい。

 人は多かれ少なかれ何かを抱えている。

 その中でも深刻に悩んでいる人たちが陥る闇。そう思うと恐ろしくなる。



「行くでしゅ~! 魔物退治するでしゅよぉ!」


「行きましょう! オリオンさま! コハク兄さん!」


「相変わらず緊張感ないなぁ、コハクたちは」



 先ほどまで張りつめていた空気が、コハクたちの呑気な声で一気に解けた。

 いい意味で空気を読まないコハクたち。

 そんなコハクたちを追いかけつつ、これから起こることを想像しながら、大きなため息を漏らしたのだった――




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