第79話 魔物の巣
ダンジョン2階に上がると、ラムたちが再び自由に飛び回り始めた。
四方八方からラムたちがダンジョン内に蔓延る魔物たちを討伐していく音が聞こえ思わず苦笑した。
「オリオンさま、悪者、退治した!」
「ははは……相変わらずのファイヤーブレスだねホビィ」
「楽しい!」
「それは何よりだよ」
魔物討伐を楽しいの一言で片づけるホビィに引きつった笑顔を見せながら進んでいく。
初心者向けダンジョンで出てくる魔物たちの力が強くないこともあって、あっという間に静まり返っていく2階層。
他の冒険者たちが上がってきた頃にはただの洞窟と化している気がしてならない。
「そういえば、あの新人パーティーの姿が見えないな?」
「うむ。気配も感じられん。もう次の階層に向かったのか?」
「早すぎない? そこそこ広いし、入り組んでるから時間かかると思うんだけどな」
俺には空間構造を一瞬で脳内に絶対的な地図として刻み込むことが可能な、竜族の固有スキルがあるから迷うことはない。
だけど、一般的にこのダンジョン攻略をするために要する時間は長い人で1週間ほど。
新人パーティーの彼らがスイスイ進めるとは到底思えなかった。
「しょうがない……探知スキル使うかね」
手あたり次第探していくのは面倒だからと、すぐに探知スキルを発動した。
意識を集中して生体反応を探るも、冒険者パーティーは彼らだけではないため特定できなかった。
「ダメだ……あーもう面倒だな。とりあえず生体反応があるところ向けて行くか」
「貴様の竜の眼もまだまだポンコツだな」
「うるさいなぁラミンは! しょうがないだろー?」
相変わらず口が悪いラミンにポカポカと頭を叩かれながら、生体反応がある場所を目指した。
あまりにも効率が悪いと感じたのか、ラムたちが「僕たちが見てきますね」といって四方八方に散らばっていく。
俺は変わらず生体反応を追っていたが、少し先に大きな宝箱が置かれている広間で生体反応を3体見つけた。
(お、これか? やっと話が聞けるな)
ようやく見つけられたかもしれない。そう思った瞬間、ドクンッと心臓が跳ね上がった。
3体の生体反応しかなかったはずの場所に、無数の生体反応が突如として現れたのだ。
「ヤバイ……魔物の巣だ! ライオネル王、コハク、急ごう!」
「うむ。魔物の巣か。時折現れるダンジョンの罠だな。
私も昔ダンジョンで魔物の巣に遭遇してえらい目に遭ったもんだ。
そういえばあの時は――」
「そんな冷静に話さないでー! 新人に魔物の巣はヤバイだろ?!」
魔物の巣――
それはダンジョンに稀に現れるアクシデントという名の罠だ。
宝箱を開けた瞬間、罠が発動し無数の魔法陣が地面に現れ魔物で埋め尽くされるという恐ろしい罠。
初心者ダンジョンでは滅多に出くわすことはないが、どうやら彼らは運が悪いらしい。
「コハク! ラムたちを向こうの広間に集めて助けてやってくれ!」
「はいでしゅ~! ご主人さまたちはゆっくりでいいでしゅからねぇ~!」
俺たちが走って向かうよりも、コハクたちに向かわせた方がはるかに早い。
そう判断しコハクを現場に向かわせる。
すると、頭の上のラミンが低い声で盛大な嫌味をぶつけた。
「可愛いコハクを無数の敵中に向かわせるとは無慈悲な主人だな」
「なっ……! 俺を極悪非道の主みたいに言うなよ!
どう考えたってあの子たちに向かわせた方が早いだろう?
しかも、絶対に俺より強いじゃんか!」
「主人が弱者とは世も末だな」
「むっかつくーー! ラミンをコハクの背中に乗せれば良かった!」
「バカたれ! いいからさっさと向かわんか!」
相変わらずのラミンに対し、唇を尖らせ悪態をつきながら広間へと向かう。
近づくにつれて彼らの悲鳴と魔物たちの咆哮が混じった不協和音が広がり始めた。
「きゃああっ! 助けて! 私こんなに魔物相手したことないよぉ!」
「騒ぐな! いいから魔法使えよ!」
「そんなこと言ったってぇ! 詠唱する間に魔物が襲ってくるんだもんっ!」
「初級の魔法なら一言だろうが! 早くしろよ!」
「あんたは回復魔法しか使えないもんね? 役立たずーー!」
よくある見慣れた光景。危機に直面した瞬間、人の本性というものが現れる。
この手の争いでパーティーが解散するのもよくある話だな。
「わきゃーーっ! いっぱいいるでしゅねー!
ラムたち、行きましゅよー!」
呑気にそんなことを考えている間に、コハクたちが魔物を相手に遊び始めた。
突然現れたラムたちとコハクに驚いた2人は、広間の端の壁に逃げ込んだ。
その時――
「手を出すな! 俺がやるんだっ!」
「はにゃ? 何でしゅか?」
「……あの子」
コハクたちが一斉に総攻撃を仕掛けようとした瞬間、俺に悪態をついていた剣士の少年が声を荒げた。
体格に合っていない少し大きめの剣を掲げ、ひとり魔物に向かっていき、次々と切り刻んでいく。
新人冒険者という名には相応しくないほどの力と自信。
彼を見た俺は確信した。彼がブルーアップルを口にした子なのだと。
「うむ。オリオン、あの少年のようだな」
「はぁ……飲んでるよねあれ」
「今に内臓が握り潰されるな。あの小童は」
グロリアの件で既に経験済みの俺は、冷静に目の前の光景を眺めていた。
今すぐこの魔物たちを消し去り、ブルーアップルを身体から出してやらなければならないと思いつつ、安易に劇薬に手を出した罪と罰を、その身をもって体験させるべきという慈悲無き思いが交差していた。
「オリオンさま、どうるするでしゅか?」
「うーん……とりあえずこのまま様子を見ようか。
万が一あの子がやられたら、すぐに助けに行くからな」
「はいでしゅ~! じゃあ、コハクはラムたちと遊んでましゅね~」
「ああ、その辺で遊んでな」
コハクたちを広間から出したあと、広間の片隅で怯える2人を遠隔魔法で保護しつつ、剣士の彼がどうなるのかを見届けることにした。
「貴様も人が悪い奴だな?」
「ええ? ラミンなら絶対同じことすると思ったけど」
「……我はそこまで無慈悲ではないわ」
「どこが?! 十分俺に対して無慈悲だったけど?!」
俺の無言の決断を察したのか、ラミンに嫌味を言われたが、ここにいる誰よりも無慈悲なのは絶対にラミンだと思う。
なんて心の中で突っ込みながらも、目の前で繰り広げられる哀れな光景に幕が降ろされるのを、今か今かと待ちわびていた――




