第78話 過保護な家族
「あの……皆さん、付いてこないでもらえますか?」
「「「えっ?!」」」
「ここは今、安全だから。それぞれ自分たちのペースでダンジョン攻略してください」
はじめて連れてきた子たちもいるし、今日はのんびり15階まであがろうとゆっくり歩いていた。
すると、聞こえてくる数人の足音。振り返ると、新人と思われる冒険者パーティが俺たちのすぐ後ろを当たり前のように付いて来ていた。
正直、こういうことをされるのは苦手だ。
ラムたちもいる時点でこうなることは分かっていたが、何となくモヤモヤしてしまう。
「えー! ケチだなぁ! Sランクのくせにケチとかダセェよ!」
「……」
「何で一緒に行っちゃダメなんだよー!
俺たちグロリアから引っ越してきて、今日初めてここに来たんだよ!」
「そうなんです! 分からないことばかりだし、一緒に回って下さいよ!」
「……そうか。でも、俺にはやることがあるんだ。
だから君たちと一緒には回れない。ごめんね」
「面白くなーい!」
まだ冒険者になりたてで、このダンジョンが初見の彼らからすれば、慣れている俺についていくのが楽だろう。
それに、こんなに面白そうな面々を前に、好奇心が湧くのも分かる。
ただの鍛錬でこの場に来ただけなら相手に出来るが、一応陛下から直に受けている今、遊んでいるわけにはいかない。
やんわりと伝えたつもりだったが、俺の言葉に不服そうな表情を浮かべる新人パーティー。
もういいよと言わんばかりに俺たちの横を通り過ぎ、リーダーと思われる少年がクルリと振り向いた。
「あんたつまんねぇ奴だな~。暁の翼はそんなことなかったぞ」
「はははっ……」
暁の翼。その単語が出た瞬間、側にいた女の子がじっと俺の顔を見て思い出したように声をあげた。
「ねぇ、この人暁の翼にいた人じゃない?! ほら、荷物持ちの!」
「……ああ、何の役にも立たない荷物持ちか。
付いて行ったところで意味ねぇな。行こうぜ」
「じゃあねぇ、荷物持ちさん。怪我しないようにねぇ~」
「ははは……」
俺が暁の翼の荷物持ちだったと分かると、あからさまに態度が変わった。
相変わらず荷物持ちというポジションは見下されるのだなと、改めて実感していた。
「はぁ。じゃあ、行きますか」
「……」
「どうした? コハク、ラム。それにみんなもすごく不機嫌そうだけど……」
若者たちがいなくなり平穏な時間が戻ってきたと思っていたが、何故か不機嫌になるコハクたち。
可愛らしい顔が今にも襲い掛かりそうなほど険しくなり、ラムたちも明らかに何かに怒りを感じている様子だ。
ラミンはポカポカと頭を叩いているが、唯一冷静なままのライオネル王。
一体何が不満なんだと思っていると、コハクがその不満を爆発させた。
「何なんでしゅか?! あの人たちは! ご主人さまに失礼なことばっかり!
燃やしてもいいでしゅか?! それとも氷漬けがいいでしゅか?!」
「コハク、なんてことを言うんだよ……」
「オリオンさま、コハク兄さんの言う通りです。あの態度は万死に値します」
「ええ……?」
「オリオン貴様、あんな小童どもに舐められて黙っているなど竜族の名が泣くぞ!」
「……ああ。それでみんな怒ってくれてたのか。俺は大丈夫だよ。慣れてるし」
「慣れるなバカたれ!」
誰かに罵倒されたり、傷つく言葉を投げかけられることは日常茶飯事だった。
いつの間にか傷つくこともなくなり、何を言われても響かなくなっていた心。
それなのに、自分のことのように怒りを露わにしてくれるコハクを見ていると、何だか胸の奥がじんわりと温かくなった気がした。
「オリオン。ここにいる皆、そなたが悪く言われるのは耐えられないのだよ」
「……ありがと。みんなが怒ってくれただけで十分だよ。もう気にしないで」
「ご主人さまは優しすぎるんでしゅ! もっと鬼になってくだしゃい!」
「あはは、鬼かぁ。俺、そういうタイプじゃないからなぁ。
まぁ、いいじゃん。もう向こう行ったんだし、見回り続けよ?」
「ふぎゅぅ……」
コハクは放っておくと彼らを追いかけて消し炭にしそうで怖い。
思わずヒョイッと抱き上げて気にするなと言うと、俺の胸に顔を埋めて不服そうな声を漏らした。
こんなにも愛らしい態度を見せてくれるだけで、先ほど投げかけられた言葉なんて空の彼方に吹き飛んでいく。
これが家族の愛情の力なのかと、ひとり癒されていた。
その時だった。コハクが俺を見上げながらポツリと呟いた。
「ご主人さま。そういえば、あの冒険者たちから臭いがしまちたよ」
「臭い?」
「くっしゃいの! あれは絶対にブルーアップルでしゅ!」
「え……?」
コハクの口から飛び出したブルーアップルという言葉に目を見開いた。
(そういえば、彼らはグロリアからやってきたと言ってたな。まだブルーアップルが売られていたのか……?)
思わず息を呑んだ。グロリアで売られていたブルーアップルは、リアム陛下の実弟ゴイルとその仲間が売りさばいていた。
闇の売人はリアム陛下の手によってこの世から消え去ったと安堵していたのに、何故彼らがブルーアップルの餌食になっているのか。
「うむ……オリオン、少し急いだほうが良いかもしれんな。
いつ頃から飲んでいるのかは分からんが、暁の翼のようなことにもなりかねんぞ」
「……そうだな。あの子たちから話を聞いた方がよさそうだ」
ライオネル王に促され、俺たちは彼らから事情を聞くためその背中を追いかけ始めた。
若い冒険者が餌食になっていたグロリアの治癒院にいた子たちのことを思い出すと胸が痛む。
魔法が使用できなくなったり、呼吸をするだけで激痛が走ったり。他にも後遺症に苦しむ人々の話をヴァンスさんから聞いていたから。
彼らも同じような目に遭うかもしれないと思うと、冷静ではいられない。
なんて焦燥感に駆られていると、ユギたちが一斉に口を開いた。
「オリオン、あいつら、死ぬのか?」
「ヒョン! あの人間悪い奴。やっつける!」
「ヒョン、さっき悪口言われてた! あの人間始末する!」
「ミナ、悪い子、嫌い!」
「オリオンさま、笑って! 大丈夫だよ!」
「僕が、癒してあげる! オリオンさま!」
「お、おう……でも、始末はやめて?」
サラッと恐ろしいことを言うユギ、テン、グゥちゃん。
そして、いつもは三日月のような目をして笑うミナはあからさまに嫌悪感を示す。
ホビィとジナは優しい言葉をかけてくれたが、その瞳は笑っていない。
「みんな、オリオンさまが大好きなんですよ。本音です。
やはり、彼らは万死に値します」
「ラム……それ、フォローになってないから!」
とどめを刺すように口元だけ笑ってみせるラム。この小竜たちは忠誠心の塊なのかもしれないが……
一歩間違えれば、ラムたちは暴走一直線な気がしてならなかった。
(可愛い顔して言うことがえげつないんだよなぁ)
なんて呆れながらも、素直で可愛らしいこの子たちの底知れない愛情に包まれているのが心地よいと感じていた――




