第75話 乱入者
あまり眠れない夜を過ごし、ハルクさんと共にリアム陛下たちが待つ王城へと向かった。
通された部屋は軍事会議室ではなく、密議室と呼ばれる小さな、それでいて少しだけ重い空気の流れる部屋だった。
既に待機していたザッカリー宰相、エリック騎士団長の2人だけ。
そして、席についてしばらく雑談をしていると、その扉が開かれリアム陛下がやってきた。
「オリオン、ライオネル王、ラミン殿、そしてハルク。
今回は極秘の案件だ。状況が把握できるまでは他言せぬように」
「分かりました」
「早速だが、拾った小瓶を見せてくれ」
「こちらです」
「……確かに、ブルーメイド王国の紋章だな」
リアム陛下が席に着いたところで、ハルクさんが小瓶を手渡す。
紋章を目にした瞬間、リアム陛下の表情が曇ったのが分かった。
「何が起きているのかは分からないが……不用意に国民を不安にさせてはいけない。
これから最小限の人員で調査を始める。密偵もブルーメイド王国に送るとしよう。
オリオン、すまないが明日からもあのダンジョンに潜ってはくれないか?
討伐したとはいえ、再び現れる可能性もある。初心者向けダンジョンで死人を出すわけにはいかない」
「……分かりました」
リアム陛下の言葉を受け、俺には頷く以外の選択肢はなかった。
もちろん、俺の性格上、面倒くさい以外の何ものでもなかったけど、俺が断り被害が出たとなった時、確実に後悔すると思ったから。
(明日から初心者向けダンジョンの巡回か……まぁ、ラムたち連れて行って訓練させればいいか)
家の庭で遊ばせるだけよりも、ダンジョンで冒険させるほうが、あの子たちのためになるかもしれない。
なんて思いながらリアム陛下たちの言葉に耳を傾けていた時だった――
「オリオン。他国による魔物兵器の持ち込みか。即刻、国境の警備を強化する必要があるな」
「え?」
「そう焦るなジヨン。
とはいえ、この国の王族しか知らぬ存在のブルーアップルを利用して混乱を招こうと目論むとはな。
流通ルートのあぶり出しを急がねばいけませんねライオネル陛下」
「ちょ……え? な、なんで俺の鞄に入ってるんだよ?!」
突如、俺の鞄の中から聞こえてきた2つの声の正体。
それは、ぬいぐるみの中に魂を忍ばせているジヨン騎士団長とランジム宰相だった。
慌てて鞄を開けると、ピョンッと勢いよくテーブルの上に飛び出した2人。
ライオネル王の前に移動し、これからの対策を話し始めた。
リアム陛下、ザッカリー宰相、エリック騎士団長は、2人の話に真剣に耳を傾けている。
なんでこんな状況になるのだと、俺だけが頭を抱えていた。
「いいかオリオン。ブルーアップルは王家しか入れぬ場所に生る特別な果実だ。
以前、リアム陛下の弟君がそれを悪用したことは聞いている。
弟君が他国を巻き込んで、この国を滅亡させようとした可能性は十分にあり得る」
「そう、だな……」
「まずは王都、そしてグロリアの市場、闇市で現在も売られていないか調査をするのです。
それと並行して、冒険者ギルドでも様子がおかしい冒険者がいないか随時チェックしなければいけません」
ランジム宰相はライオネル王たちにそう提言していく。
ライオネル王は当たり前のように頷き、リアム陛下たちもランジム宰相の言葉に真剣に耳を傾けていた。
その様子を黙って聞いていた俺だけが、おかしな世界だと感じているようだった。
「ザッカリー宰相よ。これから共に手を取り合ってこの危機を乗り越えよう」
「はい。先代の宰相殿のお力、是非とも我々にお貸しくださいね」
「俺もいるぞ!」
「ジヨン騎士団長殿も頼りにしていますよ。
どうか、エリックを助けてやってくださいね」
「任せておけ! よし。エリック。現在の騎士団について教えてくれ」
「承知しました! ジヨン騎士団長殿」
「……」
ランジム宰相やジヨン騎士団長のことを素直に受け入れているようだが、どう見たっておかしいだろう。
百戦錬磨の集団の脳は俺にはまるで理解が出来ない。
危機的状況になるかもしれないということは分かるが、かつての宰相や騎士団長の魂と対等に話せる人がどこにいるんだろう。
「オリオン」
「なに? ラミン」
「明日からまた忙しくなるな。しっかり鍛錬しろよ」
「なっ……こういう時までそんなこと言うなよー……」
「バカたれ。こういう事案が発生した今こそ、貴様が鍛錬をして市民を護るのだ」
「俺にそんな重責を背負わせないで?」
ザッカリー宰相とランジム宰相たちとの会話を呆れながら聞いていると、ラミンはいつもと変わらず鍛錬をしろとぼやき始める。
ダンジョンの見回りをしながらレベルを上げていけという難題に、俺は深いため息を吐き出した。
市民を護るだなんて、そんな大それたことが出来るほど、俺に力はない。
だけど、昔の俺とは違い、今は精霊の力を借り、目覚めた竜族の血統がほんの少しだけ俺を強くしてくれていることは自覚している。
「はぁ……コハクのためにも、頑張るしかないかな」
「はいでしゅ~! コハクもご主人さまの為に頑張るでしゅよ~!
ねぇ! ラム~!」
「そうですね。コハク兄さん。
この謎を解き明かすため、そしてオリオンさまのために頑張りましょうね」
「ははは、頼もしいね。うちの家族は」
コハクのためにというと、俺の足元で寝ころんでいたコハクが元気よく声をあげた。
側にいたラムもやる気に満ちている様子で、コハクにすり寄った。
(まぁ、何とかなるよね)
2匹の会話は、重苦しい雰囲気が少しだけ軽くしてくれた気がした。
こうして俺はまた、事件の渦の中に呑まれていくのだった――




