第74話 見つかった小瓶
「オリオンさま。こちらがキマイラの体内に残されていました」
「……小瓶? これ、ブルーアップルが入ってた瓶じゃないのか?」
「うむ……オリオン見なさい。ここ、刻印がされている。
これは……どこの国だ? 見たことのない紋章だな……」
「どこかで見た気が……
とりあえずギルドに戻って、ヴァンスさんに報告しようか」
キマイラの体内に残されていたという小瓶。
前回、リアム陛下の弟のゴイルたちが持っていた小瓶に似ていたが、それとは決定的に違うものが刻まれていた。
鳩をモチーフにした紋章。
どこかの国で生産され、このダンジョンに持ち込まれたという紛れもない証拠を前に、またひとつ面倒なことが増えたと肩を落とした。
「はぁ……帰るか。ラム。小さくなって」
「はい、オリオンさま」
とにかく王都に戻って報告をしてみないことには何も始まらない。
ラムに声をかけ、小竜に戻ったところで備え付けの転移装置に触れてダンジョンの外へ出ると、そのまま王都へと向かって歩き始めた。
「さっきの小瓶だけどさ、どこかの国が関わってたとしたら、それってウィンエバー王国を誰かが侵略しようとしてるとか、そういう話になる?」
「うむ。まぁ、そうなるだろうな。」
「俺、関わりたくないんだけど」
「バカたれ。調査を依頼されてその結果がこれだ。
嫌でも関わらざるを得ないだろうな。貴様はブルーアップルの解毒も出来るのだから」
「うぐっ……」
小瓶を渡して、「あとはよろしく」と言えたならどれだけ楽だろう。
重い責任を背負う依頼だけは受けたくないという俺の願はいつだって叶わない。
今回もまた、世界が勝手に俺を巻き込んでいくんだな。
そう思いながら重い足取りで王都へと向かった――
◇
冒険者ギルド――
「……というわけで、15階層までの各ボスは討伐したんですけど。
この小瓶が見つかってしまったので、俺は今すぐ逃げたいです」
「何言ってんだオリオン。逃げられるわけねぇだろう?
しっかしこれ……よりにもよってブルーメイド王国じゃねぇかよ……」
「え……」
「はぁ……よりにもよってブルーメイドかよ。面倒なことになるぞこれ」
「ブルーメイド王国って、実際はどんな国なんですか?」
ハルクさんに報告を入れると、小瓶を見て眉をひそめ、ブルーメイド王国と口にした。
それは、コハクの母親の命を奪った残酷な国の名前だと思い出し、胸の奥がざわついた。
「現国王のサバストラは極端な人間至上主義でな。
人間の優位性を絶対視していて、亜人はもちろん、思想に反する人間すらも徹底的に罰する。
最悪の場合、奴隷として酷使されているらしい。
そのせいで次々と国を捨て、王都や地方の村や町には空き家が目立ち始めてな。
各国から交流を絶たれて国益も出せなくなり、今は国を再建させるために躍起になってるっつー国だ」
「交流を断絶してるって……それなのに何で小瓶があんな場所に……?」
「……最近、妙な噂があってな。
魔物で兵器を作り出して他国を攻撃しようとしてるっていう馬鹿げた話だ。
まさかうちの近くでその実験をしていた可能性が出てくるとはな。
それか、利用された魔物がダンジョンに召喚されたか……
どちらにせよ、これはすぐに王家に報告する必要があるな」
「……」
ブルーメイド王国。
|Draconis Cradle、竜の揺り籠の地に眠っていたコハクの父親から聞かされていたが、想像以上に酷い国だと知り胸が締め付けられた。
その国が、他国を滅亡させるために魔物を使用した実験を行っている可能性があると聞かされた俺は、他人事には思えなかった。
母親を殺し、コハクまでも奪おうとした存在。
それが分かっているのに、このまま放置しておくのは家族を見殺しにするのと同じだ。
俺はすぐさまレガリアを起動させ、リアム陛下に今回の件を報告した。
他国が絡んでいる可能性のある事態を、俺がどうにか出来る問題ではないことは分かっている。
だけど、魂になったとはいえ、こうして元気に走り回るコハクにまた危険が迫るかもしれない。
そう考えるだけで背筋が冷たくなるのを感じた。
「リアム陛下、何だって?」
「明日、王城で会議をするから俺たちとハルクさんに同席してほしいって」
「はぁ……まぁ、そうだろうな。頼むぞオリオン」
「ふぅ……分かりました。じゃあ、明日一緒に王城に行きますか。
とりあえず今日は帰ります」
漠然とした不安を抱えながら冒険者ギルドを出て家に向かう中、事情を把握していないコハクは無邪気にグゥちゃんと一緒になってはしゃいでいた。
そんな中、俺に抱かれているラムと目が合うと、少し目を細めて俺の胸をポンポンッと優しく叩いた。
「オリオンさま。きっと大丈夫です。僕たちがついています。
コハク兄さんのことは絶対に護りましょう」
「ラム……コハクのこと、知ってるのか?」
「コハク兄さんから聞きました。
お父様が殺され、お母様もよその国の者の手によって殺されてしまったと」
「コハク、そんなこと言ってたのか……」
「コハク兄さんは、記憶がないからあまり分からないと言っていましたが……
心の奥底では寂しい思いをしているのかもしれませんね。
だからこそ、オリオンさまやライオネル王、そしてラミンさまが必要なのです」
「そうだな……家族だからな。俺たちは」
まさかコハクが自ら自分の両親についてラムに話しているとは思わなかった。
自分から両親の話を持ち出すことはしないコハク。
だけど、誰かに聞いてもらいたかったのかもしれないと思うと、胸がギュッと締め付けられた。
もしも、ブルーメイド王国が本当に関わっていたとしたら。
その中にコハクを傷つけ、母親を殺した人物がいたら。
俺は、冷静でいられるだろうか――




