第70話 2ヶ月後の約束
箱庭の城を訪れてどのくらい時間が過ぎたのか。
あまりにも暇を持て余していた俺は、備え付けられていたソファーに横になって寝かせてもらっていた。
ハッと意識が引き戻され体を起こし窓の外見ると、見事に輝く星空が目に入る。
だけど、後ろから聞こえるライオネル王たちの声は、眠る前と同じテンションのままだった。
「ねぇ、そろそろ出来た?」
「オリオンさん、起きられましたか。
ちょうど今、全員のデッサンが終わったところですよ」
「あ、本当ですか? 見せてください」
騒がしい輪の中に入ると、デッサンが出来上がったと言われてスケッチブックを見せてもらった。
「ライオネル王……肖像画と一緒だ。本当にこんな顔だったんだ?」
「ははは、それはそうだろう。」
「これがランジム宰相? で、こっちがジヨン騎士団長……
すっごい男前……チェルメイド長も、なんていうか、大人の女性、ですね。
これが、みんなの一番輝いていた時ってこと?」
スケッチブックに描かれていたのは、ライオネル王をはじめとする5人の精巧な似顔絵という名のデッサンだった。
本人が説明していた通りの外見に、用意されていた顔のパーツのサンプルを組み合わせ、完璧な顔が描かれていた。
「そうだぞオリオン! 俺たちはなかなかいい男なんだぞ?」
「へぇ……盛ってるとかじゃなくて?」
「バカ言え! ありのままの姿だ!」
思い出の中の自分は、いつ何時でも美化されるものという認識でいた俺。
その気持ちが素直に口から出ると、ジヨン騎士団長がぴょこぴょこ跳ねながら猛抗議してくる。
小さなぬいぐるみで抗議されたところで、ただただ可愛らしいだけで少し笑えた。
「あはは、そっか。それじゃあ、ムーアさん。よろしくお願いします」
「お任せください。2ヶ月ほどお時間いただきますが、必ず皆さんが満足される魔導人形をお作りいたします」
「2ヶ月で5体も作れるんですか?!」
「問題ありません。僕の最重要任務ですからね。お任せくださいオリオン様」
たった2ヶ月で全員分の魔導人形を作ると言い、気合十分なムーアさん。
いくら有能な職人だとはいえ、この人の性格上、不眠不休で作業にあたりそうで怖い。
俺たちのために無理して倒れるようなことにならないか、それだけが心配だった。
「そう、ですか……無理せず、よろしくお願いします」
「ありがとうございます。では、進捗情報についてはその都度ご連絡しますね」
「はい! それじゃあ、みんな一旦帰ろうか」
ようやく話がまとまり、ムーアさんにすべてを託して店を出た。
その帰り道は、魔導人形の話題で持ちきりで、賑やかで耳が痛くなるほどだった。
だけど、その声が少しだけ心地よいとも感じていた。
かつて自分たちが仕えた王との再会を果たし、新しい自分の体が手に入る。
そんな奇跡が起きたんだ。
俺は、何も言わずにただ黙って話を聞きながら家を目指した――
◇
「コハクー! ラム―! 遅くなってごめん!」
「ご主人さまーーーっ! 寂しかったでしゅー!」
「うおっ! ごめんなコハク。子守り、ありがとな」
家に戻り「ただいま」と声をかけると、ラムたちと遊んでいたコハクが、クルリとこちらを向いた。
その瞬間、パッと顔色が明るくなり、俺の胸めがけて飛び込んできた。
(可愛すぎるなコハク……)
よしよしと頭を撫でてやると、幸せそうに笑って頬を擦り寄せるコハク。
この癒し系家族を前に、俺の目尻は下がりっぱなしだった。
「どうでちたか?」
「2ヶ月で魔導人形、作ってくれるって。
今回、特別にライオネル王の魔導人形も作ってもらえることになったよ」
「じぃじの体も作ってもらえるんでしゅか?
じぃじのお顔、早く見たいでしゅねぇ!」
「コハクにもようやく顔を見せてやれるのが楽しみだよ」
ライオネル王の魔導人形も制作してもらえると教えると、コハクは俺の腕から離れ、ライオネル王に飛びついた。
その可愛らしい瞳をキラキラと輝かせて喜んでいて、相変わらず孫とじいちゃんの構図が似合いすぎる2人を前に、自然と頬が緩んだ。
「オリオンさま、おかえりなさい!」
「ラム~。お留守番ありがとう。みんな変わりない?」
「大丈夫です!
あ、でも、少し前に僕が中庭の噴水を破損させてしまって……
ジナとユギに怒られちゃいました」
「あはは、また壊したの? 噴水の修理って魔法で何とかなるかなぁ」
「ごめんなさいオリオンさま……
噴水の縁が黒く焦げて少し崩れてしまいました……」
孫とじいちゃんのやりとりを微笑ましく見ていると、パタパタと翼を羽ばたかせてやってきたラム。
コハクと入れ替わる形で俺の胸に飛び込んできたラムは、申し訳なさそうな表情で今日の破壊実績を教えてくれた。
「大丈夫だよラム。怪我してない?」
「はい! ちょっと闇の炎がピュッと出ちゃいました」
「闇の炎……え、それは怖いからやめてほしいなぁ?」
「キュイ! キュイィッ!」
「ん? ミナ、どうした?」
闇の炎が飛び出したと告げられた俺は、思わず怖いからやめてほしいと苦笑した。
すると、パタパタと慌てるように翼を羽ばたかせてやってきたミナ。
キュイキュイ鳴くその姿は、何かを訴えているようだった。
すると、その意図を汲み取ったラムが、ふっと目を細めて笑った。
「ミナ……
あ、ミナはこう言ってくれています。
闇の炎が飛び出したのはわざとじゃないよって。
僕の中に溜まってた魔力がくしゃみをした時に、炎になって出ただけで、僕は悪くないから叱らないでって」
「ミナ~。お前は本当に優しいなぁ?
俺は怒ってないから大丈夫だよ」
「キュイィ?」
「本当? って言っています」
「本当だよミナ。いつもみんなを護ってくれてありがとな」
「キュイッ!」
どうやらミナはラムが叱られていると思ったようで、ラムを庇うために俺に訴えてくれたようだった。
ミナの優しさが何だか嬉しくて、よしよしと頭を撫でてやると、三日月のように目を細めて笑った。
この何とも言えないゆっくりで、ポカポカと胸が温かくなるような時間がたまらなく愛おしく感じる。
ここに、2ヶ月後には体を手に入れた4人が加わると思うと、騒がしいどころではなくなるのだろうけど、ほんの少しだけ、どんなふうに変わるのか、楽しみにしている自分がいた――




