第67話 騒がしい日々の始まり
自宅に戻ってきた俺を待っていたのは、想像を絶する喧騒だった。
ひとまず仮の器として準備したのは、歴代の王と契約をした精霊をモチーフにした小さなぬいぐるみだ。
水の最上位精霊アクアマーレにランジム宰相、光の最上位精霊ソルクスには騎士団長ジヨン。
闇の最上位精霊ノクスには執事長クリスト、そして土の最上位精霊テラにはメイド長チェルの魂が入った。
そこまでは問題ない。
問題なのは器を手に入れたことで、かつての役職の仕事を始めようとしたことだ。
「ライオネル陛下、現代のウィンエバー王国についてお教えいただけますか?
私もきちんと把握しておかねばなりませんので」
「おい、小竜ども! この城をきちんと守護しているんだろうな?
ラムッ! ミナ! お前ら全員こっちに来い! コハク、お前もだ!」
「オリオン様。このお屋敷の現在の経済状況を把握させていただけますか。
それと普段のお仕事についてもお教えください」
「お屋敷のお掃除やお料理全般はお任せくださいねオリオン様。
でもこの小さい体では難しいことが多いですね……」
「……もう、既に嫌だ」
俺はただ、この広すぎる家では何も考えずダラダラと怠けて、たまに畑仕事したりして過ごしたいのに。
それなのに、気づけばライオネル王の他に3000年前の役職持ちが4人も集まってしまった。
(今回、俺は魂を引っ張り出してないのに……ラムが解放しちゃったから……)
これを不幸と呼ばずして何と呼ぶのか。
暴走していた魂を正気に戻したラムの功績だと言われると、褒めるべきことなのかもしれないが……
「オリオン。これからステラ・カデンテに行こう。
ぬいぐるみは愛らしいが、このままでは動きがとりにくいからな」
「そうだぞオリオン。貴様が面倒だからと事を進めぬから、チョロチョロと小さいのが動き回って鬱陶しいのだ。さっさと行くぞ」
この状況に頭を悩ませていると、ライオネル王が魔導人形専門店に行こうと声をかけた。
リアム陛下が既に話を通してくれていると言われていたが、面倒だなと先延ばしにしようとしていたのが、ラミンには全てお見通しだった。
「はぁ……はいはい。分かったよ。
コハクー! ちょっと出かけてくるからラムたちのこと頼むね」
「お任せくだしゃいご主人さま! コハク、お兄ちゃんしてましゅから~」
「はは、頼もしいねコハク。じゃあ、行こうか」
コハクに声かけ、留守と子守を頼んだあと、ぬいぐるみたちを抱きかかえ家を出た。
向かうのは貴族街にある高級商業区と呼ばれる区画。
そこに並ぶ商業施設のひとつが魔導人形専門店ステラ・カテンデだった。
貴族が足しげく通う場所なんて、庶民の俺には無縁の場所。
いくら今の住まいがその区画にあるとはいえ、そう慣れるものではないからな。
「人形師ってさ、ライオネル王の時代からあったの?」
「いや? 私の時代ではそのような職人は存在しなかったな。
リアムから聞いたところによると、魔導人形の歴史は2000年ほど前が起源らしいぞ。
文献によると最初はほとんど動けなかったらしいがな」
「へぇ。時代と共に力が加わって、改良に改良を重ねて今の形になったんだな。
便利だよな、家事全般やってくれたりするのって」
魔導人形ということもあって感情がないというのは少し怖いところもあるが、こちらを困らせる行動を取らないというのは実にいいと思える。
日々の生活に馴染んで、人を助けてくれる魔導人形は、確かに貴族が好きそうな代物だな。
「オリオン様。これから私たちがお世話をさせていただきますのでご安心ください」
「そうですよオリオン様。身の回りのお世話はお任せくださいね」
「ううっ……左様でございますか……」
ライオネル王とそんな話をしていると、俺の腕の中にいたぬいぐるみ、クリスト執事長とチェルメイド長が優しく声をかけてくれた。
喜ばしいことなのだろうが、王家に仕えていた人たちに世話をされるだなんて、考えただけで恐ろしい。
だけど、これが今の現実だ。魔導人形が完成したら、今以上に騒がしくなることは明白だった。
これでいいのかと悩んでみるが、いつも勝手に話が進んでいくから悩むだけ無駄なのだと最近ようやく分かった。
「オリオン。ここのようだぞ」
「あ、本当だ。ステラ・カデンテって書いてる。 うわ、可愛い人形。本当に動いてる……」
「ほう。これが魔導人形か。からくり人形のようだな」
「時代が進むと様々なものが誕生しますねライオネル陛下」
「まぁ、可愛らしいですわねライオネル陛下。オリオン様」
話をしている間に魔導人形専門店ステラ・カデンテに到着した。 真っ白い外観に濃い群青色の日よけ。
壁や日よけ、扉には金色で星をモチーフにした装飾が施されていて、人形専門店というだけあって、高級感はもちろんだが、どこか可愛らしい。
そして、入り口の扉の横の大きな出窓から見えるのは、人形師が命を吹き込んだ小さな魔導人形たちが出窓の中に作られた庭を行ったり来たり。
まるで小人たちが出窓の中で生活をしているような、そんな可愛らしい光景だった。
「俺には似合わない場所だな」
「何をぬかしておるか。我を頭に乗せ、ぬいぐるみを4つ抱いておる時点でお似合いだ」
「それ、全然嬉しくない」
「やかましい! 早く入らんかバカたれ!」
「分かってるよー……」
貴族関係の商業施設というものに無縁の俺は、その扉に手をかけることを少しだけ躊躇していた。
すると、頭の上でラミンがポカポカと俺を叩いて急かす。
そんなラミンをなだめながら、今日一番の大きなため息を吐き出したあと、意を決してその扉に手を伸ばした――




