第66話 古の存在と器
「オリオンさま。お願いします」
「……はいはい」
「ははは、タジタジだなオリオン」
隠された地下都市、ドラコポリスのある場所まで到着すると、ラムは当然のように俺に合図を送る。
ラムに促されて仕方なく壁に手を触れると、青白い一筋の光が一面に広がっていく。
ゆっくりと壁に紋章が描かれると、ゴオオオッと音を立てながら壁が左右に割れドラコポリスが顔を出した。
「これが……ドラコポリスか。儚くも美しい空間だな」
「素晴らしいですねリアム陛下。
ウィンエバー王国の歴史の中でも、最も重要視されている竜族との歴史をこの目で拝見できる日が来るとは……感慨深いです」
「竜族関係の書物は残されているが、建造物自体は誰も見ることが出来ていないのが現状だったからな。
オリオンがいなければ、生きているうちにこの場所が発見されることもなかっただろうな」
「歴史的建造物って……詳しくは知らないが、凄いなオリオンは!」
「エリックさん……崇めないでくださいっ!」
リアム陛下、そしてザッカリー宰相はドラコポリスを前に目を細め深く頷いていた。
その横に佇んでいたエリックさんだけは、何故か俺の肩をバシバシ叩きながら笑っていた。
(この人、あんまり歴史とか興味ないんだろうな。まぁ、俺もよく知らないけど)
そんなことを考えながら、早く帰りたいなと心の中で呟いていた時だった。
「リアムよ。我が部下たちを紹介する。お前たち、出てきなさい」
「「「御意」」」
「わっ! 急に喋るなよー……」
何を思ったのか、ライオネル王が部下を紹介すると言いはじめたその瞬間、頭の中で一斉に「御意」という声が響き渡り、魂が外へと飛び出した。
表情こそ分からないものの、その佇まいだけでリアム陛下は彼らがその昔、ライオネル王に仕えていた人物たちだと察した様子だった。
「お前たち、こちらは現国王のリアムだ」
「リアム陛下。私は宰相のランジムにございます」
「……騎士団長ジヨンにございます」
「リアム陛下。お初にお目にかかります。執事長クリストにございます」
「メイド長のチェルにございます」
「そう、か。そなたたちがライオネル王の……会えて嬉しく思う」
片膝をついてその名を告げると、リアム陛下は目を細め柔らかい笑みを浮かべた。
3000年前とはいえ、王家に仕えていた人たちだ。
リアム陛下からしても、歴史を作った人物との対面は嬉しいものなのだろう。
「すごいな……初代騎士団長ってことだよな……」
「ランジム宰相殿……是非お話を伺ってみたいものだ」
隣にいるザッカリー宰相とエリックさんは、揃ってそんなことをポツリと呟いていた。
俺からすれば、また魂が増えて面倒なことになりそうとしか思わないけど、
自分と同じ道を歩んだ最初の人物との出会い。
それは、どこの世界を探してもそうあるものではない。
それが現実になった今、心が躍るのも無理はないだろう。
「オリオンよ。この者たちはこれからどうするのだ?」
「ライオネル王たちと同じように、器を探して動けるようにと考えています」
「なるほどな……何かアテはあるのか?」
「王都に帰って考えようと思っていたんですが、まだ何も」
今後の予定を問われた俺は、みんなと同じ対応をするつもりですと伝えた。
だけど、本当に何を器にするべきなのか、まだ分からずにいた。
ラミンのようにぬいぐるみにすると、かつての威厳が台無しだろう。
かといってライオネル王の様にフルプレートアーマーというのは、あの騎士団長のみ対応可能だが、購入しようにも高額なものが多いため、現実的ではない。
どうしたものかと考え込んでいると、ザッカリー宰相が思い出したように「あっ」と声をあげた。
「リアム陛下。私に1つ提案がございます」
「ほう。申してみよ」
「はい。魔導人形を制作してもらうのはいかがでしょうか?
魔導人形ならば、獣から人型まで制作可能になりますので、自由に動けるかと」
「魔導人形って……主に貴族が通うっていう、魔導人形専門店"ステラ・カデンテ"のことですか?」
魂の器として、ザッカリー宰相から魔導人形はどうかと提案された。
魔導人形とは、貴族や富豪が所有している、自立型の人形。
意思を持つことはないが、事前に決められた動作の指示が組み込まれた魔法陣と共に、魔力を注ぎ込んだ宝珠を魔導人形に組み込むことで、その指示を忠実にこなす人形だ。
戦闘要員としては脆すぎるため使用できないが、掃除やお茶汲み、音楽を奏でるなどの動作が可能とされている。
(でも、あれすっごい高いじゃん……)
ごくごく小さな人形であれば一般庶民でも購入可能ではあるが、人型ともなると安易に手を出せる金額ではないため俺には無理だ。
そう伝えようとした時だった。
「オリオン。ステラ・カデンテは表の顔だ。
その裏では王家御用達の人形師が王家ために制作する箱庭の城というものが存在する」
「……また面倒なことが」
「そう顔をしかめるな。そこでは我々王家に関わる歴史的人物や魔獣などの魔導人形を制作し、王城内にある"英傑の間"と呼ばれる歴史が収められた部屋に飾られているのだ」
「そうなんですか……
でも、俺にはお金がないですから無理ですよ」
まさか魔導人形専門店に裏の顔があるだなんて思いもしなかった。
かといって、はいそうですかと頷けるはずがなかった。
(王家御用達ってなんだよ……高額すぎて飛ぶわ)
心の中でブツブツと文句を呟いていると、それを察したようにリアム陛下が口を開く。
「彼らは王家の人間だ。金額は気にせず、彼らが気に入るものを用意させる」
「えっ……いやいや、そんなわけには……」
「よいな? オリオン」
「ううっ…………ありがとうございます」
いくら魂が王家の人間だと言っても、そこまでしてもらうわけにはいかない。
何とか断ろうとしたものの、リアム陛下の圧力に負け、俺は頷くしかなかった。
「では、決まりだな。話は通しておく。近いうちに訪れるといい」
「……分かりました」
こうしてまた1つ、王家との深い繋がりが出来てしまった。
レガリアにラムたち、そして今度はライオネル王の部下。
どうしてこうも巻き込まれ体質なのか。
こんな運命だなんて聞いていない。
そう嘆きながら、胸に飛び込んできたラムの頭を撫でていた――




