第64話 この場所を護るために
いつの間にか洞窟内の揺れがおさまり、静寂が俺たちを包み込んでいた。
4つの魂は何か言いたそうにこちらを見つめているのが分かる。
何を伝えたらいいのだろうと悩んでいると、隣に佇んでいたライオネル王が、一歩前に出て浮遊する魂たちに問いかけた。
「我が名は、ライオネル・イグニス・ウィンエバー。
3000年もの時を超え、この姿になって現代を生きている。
今、隣にいるのは竜族の血を継ぐオリオン・カムエルだ。
私が魂となって彷徨っていたところに現れ、救い出してもらったのだ。
お前たちは……かつての部下たちか?」
ライオネル王が魂たちに語り掛ける。
すると、4つの魂が地上に降り立ち、片膝を地面に付けて頭を垂れた。
「我が王よ――……
お久しぶりでございます。宰相のランジムにございます」
「ライオネル陛下。不甲斐なくもこのような姿での再会、お許しください。
……騎士団長ジヨン、ただいま参上いたしました」
「我が主、ライオネル陛下。執事長クリスト、ただいま戻りました」
「ライオネル陛下……こうしてまたお目にかかれるとは……
メイド長のチェルにございます」
「……やはり、お前たちだったか……
天に還らず、ずっとこの場所を護ってくれていたのだな」
「はい……我々の命は、ライオネル陛下と共に」
ライオネル王が僅かに震えていた理由がそこにはあった。
まさか、ライオネル王政権時代の部下たちの魂がここにいるとは誰が思うだろうか。
世界を揺るがすほどの事実に、自分の体が震えているのが分かった。
「ライオネル王……本当にその人たち……」
「ああ、間違いない。彼らは生前の私を支えてくれた大切な家族だ」
「そう、なんだ……」
「この場所を護るために、魂たちが留まっていてくれたようだな」
「そんなことあるんだ……ライオネル王、すごく愛されてたんだな」
ライオネル王への忠誠心、そしてこの国を想う気持ちがこの人たちをこの場所
に留めていた。
それはとても重たく、それでいて奇跡とも呼べる瞬間だと感じた。
現代の世で、これほどまでに一国の主を想い、国を想う部下がどのくらい存在するのだろうか。
そんなことを考えていると、覚醒して体が大きくなったラムが静かに口を開いた。
「皆さん、僕たちと一緒に外の世界に行きませんか?
この場所はもう大丈夫。ライオネル王、そして我が主、オリオンさまが護って下さいます」
「ラム?!」
「オリオンさま。この奇跡を手放すのは得策とは言えません。
どうか、この方々をお救い下さい」
「……また増えるの?」
「オリオン。私からも頼む。今一度、皆と共に歩みたい」
「はぁ……そう言うと思った。分かったよライオネル王」
こうなることは、あらかた予想がついていた。
3000年もの時を越えて再び会えたのだから、みすみす手放すわけがないと。
それをライオネル王ではなく、ラムが懇願してきたのには驚いたが。
「ラミン……俺、これからどうなるの?」
「家が賑やかになるだけだ。何も変わらん。
しかし、あれだな。こやつらの器を探さねばならんな」
「あああ……また器探しか。
とりあえず……俺の中に入って下さい、皆さん。外に出られませんから」
「皆の者、オリオンの体の中に入るのだ。その後、お前たちに合う器を探すからな」
「「御意」」
器探しと言われた俺は、この人たちに合う器なんて存在するのだろうかと不安になった。
(宰相に騎士団長。それに執事長にメイド長って……あの家にピッタリすぎて怖いわ)
リアム陛下からのあっせんがあったばかりだというのに、何もせずとも揃ってしまったという現実に怯えていた。
「っていうかさ。どうして急にこの地下都市が現れたんだろう。
俺が原因って訳じゃないだろ?」
「貴様が原因に決まっておるだろうが」
「えっ」
「恐らくだが、この地下都市は七星の守護竜が誕生したことにより、この地に眠っいていた古の魔力と共鳴してしまったのだろう。
竜族の巫女の最後のお告げによる存在だ。ラムたちの誕生と共にこの地下都市の復活に繋がったのだろう」
「よく分かんないけど、ラムたちとこの場所が繋がってたってことなんだな。
そのうちこの場所で何か起きたらどうしよう……」
疑問に思っていたこの場所の復活の理由。
ラムたちが関係していると言われた俺は、やっぱりこの先が不安で仕方がなかった。
この地下都市で、突然覚醒したラム。
それは、他の6匹にも何かが起きると言っているようなものだったから。
そんなことを考えながらラムに視線を移した時、ふと思った。
「ねぇラム、小さくなれないの? ここから出られないよ絶対」
「可能です」
スウッ――
「おお、本当に元に戻った」
体が大きくなっていたラムを連れて出られるわけがない。
どうにかならないのかと問うと、意外と簡単に元の小竜の姿に戻り驚かされた。
(何かある度にまた大きくなるのかな。家ではやめて欲しいけど……)
なんて心配していると、ラムは俺にギュッと抱きつき甘えん坊に逆戻りした。
「行きましょうか、オリオンさま」
「あ、小さくなっても喋るのね」
「オリオンさまと意思疎通が出来るようになりましたね。
ジナたちのことはお任せください」
「はぁ……頼りにしてるよラム」
俺の胸にぽすんっとおさまったラムの頭を撫でてやると、目を細めて嬉しそうに笑った。
その笑顔に何も言えなくなった俺は、色々と諦めて地上に戻るために階段を上り始めた。
(守護竜の次はライオネル王の部下か……)
今日からまた、退屈しない日々が始まりそうだ。
どうか、平和に過ごせますように。
そう切に願いながらもう一度ラムの頭をそっと撫でていた――




