第63話 紡ぐ言葉
「ラミン、あれ何……」
「分からぬ……ただ、非常に強い念を感じるな」
「俺もそれは感じたよ……怖いんだけど」
「……何かは分からないがオリオン、くるぞ。構えなさい」
「えっ」
モヤの正体が分からないまま戸惑っていた俺たち。
すると、ライオネル王が腰に据えていた剣を鞘から抜き取りスッと身構えた。
(こんな場所で戦うの?!)
今にも崩れてしまいそうな神聖な場所であのモヤと戦うのかと思うと胸が痛む。
しかし、そんなことはあのモヤには関係ない。
大きな塊となったモヤが猛スピードでこちらに突進してきた。
慌てて両手を伸ばし防御結界を施すと、バチンッ! と大きな音を立てて結界に弾かれたモヤの塊。
一瞬その動きが止まったかと思えば、すぐ側にいたラムをターゲットに変え向かっていく。
「ラムッ! 避けるんだっ!」
「キュイイイッ!」
「ラムっ!!」
「ギュウッ……キュイイッ……」
ラムが避ける間もなく、モヤがラムを喰らってしまった。
そのモヤの中で、で苦しそうな声をあげるラム。
(マズイ……ラムが死んでしまうっ……どうすれば……)
モヤは結界で攻撃を防ぐことは出来ても、剣では切ることすら出来ない。
「オリオン! 精霊魔法だ! 呼び出せっ!」
「あ、そうか!」
どう太刀打てばいいのかと頭の中で考えていると、ラミンが精霊魔法だと叫びハッとして指に嵌められた指輪に視線を落とした。
(ルミエール……俺に力を貸してくれ!)
心の中で祈りを捧げ、ルミエールと意思疎通をかわそうとした。
次の瞬間――
「キュイイイイイイイイイッ!!」
「え?」
「なんと?!」
「……この雄たけびは……」
モヤに喰われてしまったラムが突如、張り裂けんばかりの大きな声で雄たけびをあげた。
その雄たけびと同時に、モヤが怯んだのかラムを解放していく。
自由になったラムはパタパタと翼を羽ばたかせ神殿らしきドーム型の建造物の屋根の上に降り立った。
「ラム……?」
「キュイイイイイイイイイッ!!」
ラムは再び雄たけびをあげ、天に向かってその声を轟かせた。
すると、先ほどまで澄んだ青色だったはずの空が、光り輝く夜空へと姿を変えた。
そして、星と共に満月が顔を出したかと思えば、ラムに向かって息を吞むほど美しい一筋の光がラムを照らすように降り注いだ。
「何だこれ……ラム大丈夫なの?」
「ほう……覚醒、か」
「覚醒? ラムが? まさか凶暴化しないよね?!」
「この空気でどうやったら暴走するのだバカたれ……まぁ、見ておれ」
覚醒と言われた瞬間、嫌な想像しかできずにいると、ラミンに頭をはたかれた。
これからラムに何が起きるのか想像もできずに見つめていると、光に包まれた小さな体のラムが大人の竜へと進化を遂げた。
その姿は荒々しい竜ではなく、神とも呼べるのではないかと思うほど神秘的な姿だった。
そして、ゆっくりと瞳を開けたラムは、どす黒いモヤを真っすぐ見つめ、静かにその口を開いた。
「――あなた方の名前を教えてください」
「えっ?! ラムが喋った?!」
「ほう……これが覚醒なのだな」
「……」
これまで一言だって言葉を発したことがないラム。
月の光を浴びて覚醒した途端、流暢な言葉で話し始め驚きを隠せないでいた。
そんな俺を横目に、ラムはモヤに向かって言葉を続けた。
「僕には分かります。あなた方は遥か昔に確かにここに存在した方々ですね。
長い間この場所で、何を想い、何を護るために、その命を捧げてきたのですか?
……あなた方の歴史の物語を僕に、僕たちに聞かせてください」
ラムのその言葉を聞いた瞬間、モヤから強すぎる念という名の感情が取り除かれたように、ピタリと動きを止めた。
「例えどんなに長い暗闇に呑まれていても、あなた方は本来、とても美しい。
どうかその心の奥にある、大切な誇りと、魂の輝きを取り戻してください。
あなた方の本当の姿を、僕に見せてください。きっと大丈夫です。
そして、これだけは忘れないで。自分を愛してください――」
「……なんか、すごいこと言ってる……誰? 本当にラム?」
「僕たちは言葉が通じなくても、生きた時代が違っても、この魂は確かにここで繋がっています。
あなた方が繋ぎ止めてくれたこの場所がその証拠です。
……果てしなく長い旅路、本当にお疲れ様でした。――さあ、目を覚ましてください」
ラムが静かに、愛おしそうにどす黒いモヤを見つめながら語る。
そして、モヤに向かって優しくフゥッとその口から息を吹きかけた。
すると、あれほど暴れていたどす黒いモヤからまがまがしい念が取り除かれ、ラムの優しさに包まれながら解き放たれていくのを感じた。
「ラミン、ライオネル王……これは……?
魂が……4つ?」
「……まさか」
「……」
ラムの慈悲深き息吹により解放された大きなモヤは、静かにゆっくりと4つに分裂し、それぞれ人型の光となって姿を現した。
その瞬間、隣にいたライオネル王の体が僅かに震えているのが分かった。
鎧の口元をその手で隠し、どこか愛おしそうに光の魂を見つめるその姿は、初代国王の風格が表れているような気がした。




