第61話 調査依頼
冒険者ギルド――
「オリオン……そりゃまた可愛らしいぬいぐるみだな」
「本物ですこの子……ハルクさん……実は」
日々の日課、ダンジョンの見回り後に立ち寄った冒険者ギルド。
ハルクさんにはまだ、ラムたちのことを話していなかったこともあり、2階に上がらせてもらい事情を話した。
俺の説明を聞いても、もうハルクさんは、「へぇ、すげぇな」と言うだけで驚きもしなくなった。
俺の体質も何もかも分かってくれているハルクさんは、俺の身に何が起きても不思議じゃないと思っているようだった。
「七星の守護竜か……初めて聞いたが、オリオンを護ってくれるならいいじゃないか。こいつは何て言う名前なんだ?」
「この子はホビィです。火属性魔法の扱いが出来る子なんですけど。
7匹も集まると、毎日毎日大暴れされて大変なんですよ。言葉も通じないですし。
今はコハクが何とか面倒見てくれてるからいいですけど……
でも、そうなるとコハクを外に連れて行けないんですよね」
「確かにな。執事とかメイドとか雇ったらどうなんだ?」
「リアム陛下もそう言ってくれたんですけど、迷ってて……
ってそれどころじゃないんだった!
あのダンジョンのすぐ近くに変な洞窟が出来てたんですけど……情報入ってますか?」
昨日までは無かったはずなのに、ダンジョンのすぐ近くに地下へと続く見慣れぬ洞窟が出現していた。
それに気が付いたのは、ダンジョンの最上階から外へと出た瞬間のことだった。
この突然変異に、俺は慌てて王都に戻り、現在に至る。
「今朝、報告が入った。お前たちも知らない洞窟か……
一度調査する必要があるが……お前たち、多分依頼されるぞ?」
「嫌です。お断りします。シグナスにやってもらってください」
「オリオン貴様……女子にそれをさせるなんぞ最低だぞバカたれ……」
「オリオン、ここで今Sランクはお前たちかシグナスの2組だ。
どちらが行くべきかと言われたら、それはお前たちになるだろうな」
「……ですよね。はぁ……嫌だなぁ、初見の洞窟なんて」
ハルクさんに不審な洞窟のことを告げると、今朝方報告が入ったようで、調査のために冒険者が向かわされるだろうと言われ、即座に断った。
すると頭の上のラミンからの最低だと言われ、ハルクさんも俺に声がかかるだろうなと笑いながら言われ絶望した。
「ライオネル王……あれ、何なのか知らないの?」
「うーむ。ダンジョンなどは自然発生することも珍しくないからな。
今回出現した洞窟も新しく誕生したのか、もしくは遥か昔にあったものが時を経て復活したかのどちらかだろうな。
詳しくは入ってみなければ、何とも言い難いな」
「そうだよなぁ……」
ライオネル王に希望を託して聞いてみたが、帰ってきた答えは「行かないと分からない」という当然のような答えだった。
その言葉にガクッと肩を落として諦めモードになっていた時だった。
ピコンッ、ピコンッ。
左の耳から響き渡る機械音。
嫌な予感がしてぶら下がっている右側用のレガリアに視線をやると、赤い色が煌々と通信依頼を知らせていた。
「うわっ……最悪だ……リアム陛下だ」
「オリオン、えらいもん持たされるようになったな? さっさと出ろよ?」
「はぁ……」
ハルクさんに促された俺は、仕方なく右耳用のレガリアの宝珠に触れて通信を始めた。
国王からの直通なんておかしいだろうが……
「はい、オリオンです」
『おお、オリオン。突然すまないな。今どこにいる?』
「今ですか? ダンジョンの見回りの仕事が終わったので、冒険者ギルドでハルクさんに報告をしていたところです」
何の躊躇もなく、当たり前のように話し始めるリアム陛下。
それに対して臆することなく返事を返す俺もどうかしている。
『そうか。それならちょうど良い。ハルクから何か聞いているか? 洞窟がどうのと』
「あ……はい。俺たちもさっき発見して、それでハルクさんに報告をしていたところで……」
『さすが話が早い。悪いが、ライオネル王とラミン殿たちと一緒に調査に行って来てくれないか?』
嫌な予感はどうしてこうも毎回当たってしまうのだろうか。
だけど、ほんの少しの淡い希望を持ってリアム陛下に問いかける。
「……俺以外じゃダメですよね?」
『当たり前だろう。お前たち以外に誰が適任なのだ? お前以上に腕の立つ人物を私は知らないが?』
「うっ……分かりました。行ってきます……」
『頼むぞ。何かあればすぐにレガリアで知らせてくれ』
「はい……では、失礼します」
もしかすると、よそ(他国)から有能な冒険者を連れてくるという選択肢もあるかもしれないと思った俺がバカだった。
力なく通信を切ったあと、大きなため息を吐き出した。
すると、ライオネル王に抱かれいてたホビィが前足をバタバタと伸ばし、俺の頬をポンポンッと優しく包み込んだ。
(ヤバイ…癒しが増えた)
そんなことを思いながら、リアム陛下から洞窟調査の依頼があったと弱々しい声でぼそぼそと伝えた。
「あはは、だろうな? 諦めなオリオン。帰還石やるから準備を整えて行ってこい」
「俺のスローライフはどこですか?」
「そんなもの、あるわけがなかろうがバカたれ!」
「オリオンは相変わらずだな。これもまた運命。諦めるのだな」
「酷い……」
ホビィ以外、誰も俺を慰めてくれない。
それはいつものことだが、この状況で前向きになれるはずがなかった。
ひとりでぶつぶつと文句を言いながら、ホビィとは別の子竜を連れて行くことにした俺は、帰還石を受け取ったあと、家に戻るために冒険者ギルドをあとにした。
正真正銘初めての場所に足を踏み入れるという不安が募り、言葉数が減っていく。
そんな中、ラミンとライオネル王は「何があるか楽しみだな」と呑気に笑っていた。
(まぁ、この2人がいれば何とかなるかもしれないな)
なんて自然と思い始めた俺の脳みそは、完全に色々と麻痺しているような気がしていた――




