第60話 自由奔放な小竜たち
ラムがリアム陛下とエリックさんは安全だと伝えたその瞬間、固まっていた6匹が一斉に翼を広げて飛んでいく。
そこまでは良かった。
陽気な笑顔を見せる赤色のホビィと、純粋無垢な瞳をキラキラさせる2色の翼を持つグゥちゃんが、何を思ったのかリアム陛下とエリックさんの頭の上に降り立ち、血の気が引いた。
(ふっ、不敬罪で死ぬやつだ……)
その様子は俺の頭の上にいるラミンの真似をしたような姿で、俺は今にも気絶しそうになる。
「やめっ、やめてくれお前たちっ! 陛下だぞ! 騎士団長だぞ!」
「まぁ、よいではないかオリオン。この子たちの名前は何と言うのだ?」
「……リアム陛下の頭の上にいるのがホビィ、エリックさんの頭の上にいるのがグゥです。
黄色い子がジナ、黄緑の子がミナで、オレンジ色の子がテン、青色の子がユギと名付けました」
「7匹もの名付け、大変でしたねオリオン」
「ええ、本当に頭を悩ませましたよ……
でも、気に入ってくれているみたいです」
絶対に死が近づいたと思わずにはいられない瞬間だった。
だけど、リアム陛下もエリックさんもホビィたちが可愛いのか、激高することなく2匹を受け入れてくれて、ホッと胸をなでおろした。
そんな中、空を舞っていたテンが突然その声を震わせ始めた。
その声は竜の鳴き声とは思えないほど美しく、俺たちの心を鷲掴みするような綺麗な歌声に聴こえて思わず目を細める。
「おお! オリオンの守護竜は美しい声を持っているのだな。まるで人魚の歌声のようじゃないか」
「そう、ですかね? テンはこうして歌うのが好きみたいで。よく一人で歌ってます」
「癒しの歌い手と一緒に過ごせるのは羨ましいものだな」
リアム陛下はテンの鳴き声という名の歌声が相当お気に召したらしく、頭を何度も撫でくれていた。
ライオネル王に言われていた、「竜を味方に付けたいのかもしれない」という発言が、今の時点では出てこなくて安堵する。
「キュイッ!」
「おお! 今度は黄緑色の……ミナだったか! こちらに来てくれたぞオリオン!」
「あっ、こらミナ!」
チュッ――
このまま何事もなく過ぎて欲しいと思っていた矢先、ミナがリアム陛下とエリックさんに近づき、2人の頬にくちばしで優しくそっと触れて三日月のように目を細めて笑った。
ミナの愛情表現のひとつなんだろうが、一瞬攻撃をするのかと思い肝を冷やした。
そんな俺の心情を察知したのか、ジナが翼を羽ばたかせて綺麗な光の粒子を俺に振りかけてくれた。
精霊魔法のひとつ、心を落ち着かせる光の舞い。
ジナはすっかり精霊アストラルと仲良くなり、その繋がりを深くしているようで驚かされた。
「オリオン、あの青色の子は大人しいな? 体調でも悪いのか?」
「ああ、ユギはああいう子なんです。
いつも騒がしくするこの子たちを見守ってるというか、冷静というかおじいちゃんみたいにのんびりしてるっていうか。可愛いんですよ」
「ほう。冷静に周りを見ることが出来る者は仕事が出来るというからな。優秀な子に育つのではないか?」
「はは、そうかもしれませんね」
リアム陛下そう言って目を細めて笑っていた。
この7匹を前にしても物怖じせず堂々としている2人を見ていると、国を護る人というのはやっぱり逞しいなと妙に感心してしまっていた。
「オリオン。この子たちはこの国の宝となりうる存在だ。
だからと言って政治利用しようとは思ってはおらぬ。安心しろ」
「あ……はは、ありがとうございます」
「この子たちが健やかに育つよう、そなたもしっかり鍛錬を重ねておくのだぞ」
「うっ……頑張ります」
俺が不安視しているのが分かっていたのか、あえて自分から政治利用はしないと宣言してくれたリアム陛下。
その優しさに安堵しつつ、ラミンのような事を言われ、一気に気分が落ち込んだ。
鍛錬、鍛錬。やればやるほどいいということは分かっている。
俺はレベル上限がないようだから、強くなれるのだろう。
(でも、ラミンは鬼教官並みのことしか言わないから嫌になるんだよ……)
心の中でそう悲鳴を上げながら、しばらくこの和やかな雰囲気の中で過ごしていた――
◇
「はぁ……やっと帰った」
「リアムから政治利用されないと言われて良かったなオリオン。
まぁ、あれはまた来るだろうがな」
「リアムの奴がもし、小童どもを戦争に駆り出させるなどと言った日には燃やすがな」
「変なこと言うなよラミン! 本当にやりそうで怖いわ!」
1時間も経たないうちに、リアム陛下とエリックさんは去っていった。
ようやく通常の空気に戻り一気に肩の力が抜ける。
「ご主人さま、お疲れでしゅねぇ」
「コハク~。お前だけだよ俺を癒してくれるのは」
「はいでしゅ~。コハクはいつでもご主人さまの癒し担当でしゅからねぇ」
俺を気遣ってくれるコハク。
そんなコハクを抱き上げ頭を撫でてやると、嬉しそうに目を細めて双尾をゆらゆらと揺らした。
「キュイィ?」
「ん? どうしたラム」
「キュイッ、キュイッ……」
「ああ、大丈夫だよ。お前たちは何も悪いことしてないから。怒ってるわけじゃない」
「キュイイッ!」
自由奔放なみんなの暴れっぷりに俺が怒っていると思ったのか、ラムは心配そうな表情を浮かべてこちらに飛んできた。
俺が大丈夫だよと言って頬をツンッと突くと、安心したように笑顔を見せてくれたラム。
(やっぱり、しっかり者だな。ラムは)
なんて思いながら、これからも今日のように7匹に振り回されていく日々になりそうだと、小さなため息を吐き出した。
――俺を護るために生まれてきた七星の守護竜。
今はまだ、ただただ可愛い小竜のまま、俺たちの愛情を沢山受け取ってくれたらいい。
ただ、国王を前にして遊ぶのは二度とやらないで欲しい。
そう切に願っていた――




