第59話 王の訪問と、ラムの存在
『ちゃんと繋がったな。オリオンよ、聞こえるか?』
「はい、リアム陛下……聞こえます。今日はどうされましたか?」
『いやなに。そろそろ子竜たちを見せてもらおうかと思ってな。都合はどうだ?』
「ああ、そうでしたか」
リアム陛下からの連絡。
それは、ジナたちに会いに来るという、何とも面倒な報告だった。
いつか来るとは思っていたけど、思ったより早いなと肩を落とした。
「今、ローランドさんのところでの治療が終わったので、これから戻ります」
『治療? オリオン、どこか悪いのか?』
「あ、いえ……毒素病の重症患者がいまして……その、精霊魔法で」
精霊魔法で毒素病を治したなんて、言ってもいいのか不安だった。
だけど、どうやらもう情報は回っていたらしい。
『おお、そうだったな。ローランドから聞いているよ。
今日も国民を救ってくれたのだな、感謝する』
「あー……知ってたんですね。俺は今日は何も……あ、何でもないです。
それじゃあ、俺たちはこれから家に戻りますので」
『ああ、分かった。エリックと向かう。では、のちほどな』
「はい……失礼します」
通信が切れた瞬間、俺は今日1番の深いため息を吐いた。
一国の王が一般市民の家を訪れるなんて、突っ込みどころしかない。
「なんだ、リアムからか?」
「うん。なんか今からジナたちを見に来るって」
「そうか。まぁ、竜の子供など滅多に見られんからな。
我々の時代は王族と関わる竜が多くいたが、今の王家にはそれがない。
竜という存在自体が希少だからな。味方につけたいのかもしれん」
「そんなの知らないし。ラミンがいるんだからいいじゃん」
「バカたれ。我は王族と手など組まぬわ」
ライオネル王の考察は妙に的確で、嫌な予感しかしなかった。
ラミンがいるんだから十分だろうと愚痴ると、頭をポカポカ叩かれながら怒られる。
「キュイィ~」
「はいはい、じゃあ帰ろうか」
ラミンと小競り合いしていると、ジナが可愛らしく鳴いて場を丸く収めてくれた。
この子は本当に心根が優しいのかもしれない。
そう思いながら、これから訪れるであろう面倒ごとを想像しつつ、重たい足取りで自宅へ向かって歩き始めた――
◇
「あ……来る」
家に戻って数十分後、リアム陛下たちの気配を感じ取った。
ラムたちも新しい気配に気づいたのか、キョロキョロと辺りを見回し、警戒しているように見える。
やがて、一国の主が乗るに相応しい、豪華な装飾が施された馬車が白馬と共にゆっくりと到着した。
(本当に来たんだ……)
心の中で小さく悲鳴を上げながら、ラムたちをコハクに任せ、出迎えるため門へ向かった。
「オリオン、この住まいはどうだ?」
「ここ、広すぎて……掃除もまともに出来ないです」
「ははは、まぁそうだろうな。執事やメイドが必要なら手配するぞ」
「え?! さすがにそこまではぁ……
そ、それよりこちらです。中庭にみんないますから」
「おお、そうだな。楽しみだ」
ただ広すぎる家だと言いたかっただけなのに、執事やメイドの話題を振られてドキッと心臓が鳴った。
どうにか逸らそうと、慌てて中庭へ案内する。
ありがたい話ではあるが、これ以上迷惑をかけたくない。
そう思いながら歩き、中庭に到着し、竜眼領域を一時解除した瞬間、リアム陛下とエリックさんの視界に色とりどりの7匹の子竜が姿を現した。
「これが……七星の守護竜か。なんと美しい」
「竜の子供、初めて見ましたが愛らしい見た目ですね」
「コハクの弟たちでしゅよ~!」
「そうかそうかコハク! お兄ちゃんになれて良かったな!」
「はいでしゅ~!」
コハクがリアム陛下に近寄ると、陛下はすぐに抱き上げ、まるで我が子をあやすように優しく頭を撫でた。
コハクも嬉しそうに双尾をゆらゆら揺らして笑う。
ほんのひととき、心が和む光景だった。
――だけど、ラムたちの様子が変わった。
バラバラに飛び回っていたラムたちが、突然一斉に身を寄せ合い固まった。
見知らぬ訪問者を前に、きっと警戒しているのだろう。
そんな中、ただ一匹、ラムだけがゆっくりと前へ飛び出した。
左右の翼をバサッと大きく広げ、まるで他の6匹を庇うようにして隠す。
そして、リアム陛下とエリックさんを交互に見つめ、何かを見定めるように瞳を細めた。
一方のリアム陛下とエリックさんは、ラムの意図を察したのか、危害を加えるつもりはないと示すように、ただ静かにその判断を待っていた。
「キュイッ……キュイッ!」
どれほど時間が経っただろうか。
ラムの中で何かが納得できたのか、小さくキュイッと鳴いたあと、広げていた翼を静かにたたむ。
そしてもう一度キュイッと鳴き、ペコリと頭を下げた。
ラムがこんな行動を取るのは初めてで、思わず目を見開いた。
この子は本当に聡明で判断力が優れている。
そんな姿を見ていると、この先きっと6匹を導く子になるんだろうな。
そんな予感が胸をよぎった。
「おお、挨拶してくれるのか?
オリオン、この子は何と言う名だ?」
「ラムです」
「そうか。我が名はリアム。
ようこそ、ウィンエバー王国へ。ラム!」
「キュイィッ!」
ラムが頭を下げると、リアム陛下は柔らかい笑みを浮かべた。
そして「ようこそ」と言いながら、ラムを抱き上げ、空へ高く掲げた。
その姿はまるで、ラムたちの誕生を天に感謝する祈りのようで、神々しさすら感じられるほど眩しい光景だった――




