第57話 レガリア
「コラアアアッ! ラム! お前また壊したのか?!」
「キュウゥゥ……」
「はぁ……ラムは本当に何でも壊すなぁ。可愛いけど」
名付けをしてからも、子竜たちに大きな変化はない。
大きさも能力値も安定していて、突然巨大化したり凶暴化したりしなくて本当に良かったと胸を撫でおろしていた。
――その時だった。
ピコンッ、ピコンッ。
左耳の奥で機械音が響き、同時に胸元が鮮やかな青色に点滅し始めた。
「うわっ、びっくりした……あ、これか」
俺は首元に手を伸ばし、胸元で揺れる小さな魔導具を指先でつまみ上げた。
リアム陛下から「緊急連絡用だから持っていなさい」と半ば強制的に渡された、特級魔導通信機レガリア。
王廷の錬金術師長が不眠不休で作り上げたというそれは、俺がこれまで見たどの魔導具とも違っていた。
耳の穴とその周囲の複雑な凹凸に吸い付くようにぴったり嵌まる、持ち主の耳の形を完全に模した歪な形状。
スライム素材が使われているらしく、装着した者の耳の形に合わせて変形するらしい。
外見はガラスのように透き通ったクリア素材で、内部の構造が丸見えになっているのが妙に綺麗だった。
この魔導具は一対で一つの構造で、左右両方の通信機の中央には特別に加工された宝珠が嵌め込まれている。
普段は片方だけを耳に収め、そこから伸びる極細の銀チェーンを首の後ろへ回しもう片方、発信ダイヤルの宝珠がついた側は胸元にぶら下げておく。
騎士団長のエリックさん曰く、それが正式な装着スタイルらしい。
離れた相手と通信できるなんて、本当に贅沢な代物だと思っていた。
(俺はいらないんだけどね……)
そして今、胸元の右耳側の宝珠が青く光り、通信依頼が来ていることを知らせている。
この色は、相手によって変わる仕様らしい。
赤はリアム陛下。
青はローランドさん。
緑は騎士団長エリックさん。
王家の限られた者にしか渡されない魔導具。
つまり、俺が王家と深く関わっていることを周囲に示す証でもあった。
少し緊張しながら、レガリア中央の宝珠にそっと触れる。
ツン、と指先から微かに魔力が吸い取られ、左耳の奥でカチリと回線が繋がる音がした。
「はい……オリオンです」
『オリオン殿。繋がって良かったです。
早速で悪いのですが、毒素病の重症患者が運ばれてきたのです。
今すぐお越しいただけますか?』
「ああ、分かりました。すぐに向かいます」
左耳から、ローランドさんのクリアな声が響いた。
本当に離れた場所にいても声が聞こえるのだと、改めて驚かされた。
「ローランドの奴か?」
「毒素病の重症患者だって。ライオネル王、行こう。
コハクはラムたちの子守りお願いしていいか?」
「任せてくだしゃいでしゅ~」
レガリアの高性能ぶりに驚く暇もなく、毒素病の治療のため、コハクに子守を頼んで家を出ようとした時だった。
「キュウウウッ!」
「お? どうしたジナ。付いてきたいのか?」
「キュイッ!」
突然、黄色い子竜ジナが目の前に現れ「連れていって」と言わんばかりに俺たちの周りをぐるぐる回る。
「ラミン、いいのかな?」
「1匹くらい構わんわ。さっさと向かうぞ」
「よし。じゃあライオネル王、ジナの抱っこお願いしていい?」
「任せておけ。行くぞ、ジナ」
「キュイッ!」
子竜を外に連れ出すなんてリスクしかない。
だけどラミンが許可した以上、何かあれば責任を取らせるつもりで、俺はジナをライオネル王に預け、王立治癒院へ向かうため家を出た。
「ラミン、ジナたちって言葉覚えるのか?」
「どうだかな。そのうち勝手に喋るんじゃないのか?」
「適当だなおい……今は意思疎通が難しいからなぁ。
出来ればお喋りして欲しいけど」
俺の不満に、ラミンは頭をポカポカ叩きながら言う。
「バカ言え。今でさえキュウキュウやかましいのに、7匹の小童どもが言葉を喋ってみろ」
「ああ……うん、想像できるくらいうるさそう……
ユギだけは静かそうだけど」
「考えるだけでも末恐ろしいわ」
確かに、7匹全員が喋り始めたら――
我が家は確実に地獄のように賑やかになる。
悪いことではないが、俺の平穏は確実に消える。
いつも冷静で、周りがよく見えているけど、よく物を壊すラム。
他の6匹を包み込む優しさを持ち、キャッキャとよく笑うジナ。
静かだと思えば、突然覚醒したかのように楽しそうにみんなとはしゃぐユギ。
太陽みたいに明るく、いつも元気に飛びまわるホビィ。
飛ぶ姿が1番美しく、三日月のように目を細めて笑う姿が可愛いミナ。
マイペースで、独特の美しい鳴き声を持つテン。
2属性持ちで、1番ヤンチャそうなのに悪さもせず、ラムにくっついて回るグゥちゃん。
この7匹が一斉に喋り出したら――
俺は確実に目を回す。
「キュイィ?」
「何でもないよジナ。さぁ、初めてのお出かけ楽しんで」
俺が何か言いたげにしていたのを感じたのか、ライオネル王の腕の中でジナが不思議そうに首を傾げた。
その頭をそっと撫で、初めての外の世界を楽しませてやる。
ジナはキョロキョロと辺りを見回しながら、嬉しそうに耳をピクピク動かしていた。
そんなジナを見ていると、1匹ずつなら、たまにはこうして連れ出すのも悪くない。
そう思いながら、俺たちは王立治癒院を目指した。




