第55話 新たな命の誕生
数日後――
「君たち、あそこに何が見える?」
「え? 我々には何も見えないですが、ライオネル王」
竜眼領域を張ってから数日が経った頃。
ライオネル王は、この結界の仕組みを確かめるため、ある実験をしようとしていた。
「ふむ……やはり竜眼領域の結界は有能なのだな。
すまぬが、ひとりだけ付いてきてはくれないか」
「え? では私が」
「この辺りで良いか。今からその槍を、この方向へ伸ばしてみてくれ」
「分かりました。では――」
中庭を護衛していた衛兵を呼び寄せ、
持っていた護身用の槍を卵の方向へ向けて突き出すよう命じた。
その瞬間――
「ぎゃあああっ?! な、なんだ?!
今、竜に睨まれた感覚がっ……これは一体……!」
「ほうほう。なるほど。これが竜眼領域の護りというやつか」
槍が卵へ向けられた瞬間、
“竜の眼”がドンッと開いたような覇気が走り、衛兵は一瞬で恐怖に支配された。
これが竜眼領域の防衛機能――
外敵を近づけさせない“竜の眼の威圧”らしい。
「竜の眼が外敵を威嚇する覇気を放つ……ということか。
ふむ。すまない、ありがとう」
「は、はぁ……では、私は持ち場に戻ります」
状況を理解できないまま、衛兵はおずおずと持ち場へ戻っていった。
国の衛兵を使って実験するなんて、ライオネル王にしかできない芸当だな……
なんて思いながら、俺はそっと卵に触れた。
「それで、オリオン。卵の状態はどうだ?」
「最初より鼓動が強くなってるよ。早く外に出たいって」
「そうか。もうじきかもしれんな。楽しみだ」
「おい、忘れぬうちに今日の魔力を注入しておけ」
「ああ、そうだな」
ラミンに促され、俺は意識を集中させて魔力を卵へ注ぎ始めた。
(無事に産まれておいで。待ってるから)
心の中でそう語りかけると、
ドクンッ――と卵が強く脈打つのが掌に伝わった。
「……オリオン、来るぞ」
「え? う、産まれる?!」
「ああ……」
ラミンにも卵の命の鼓動が伝わったようで、その言葉と同時に、ピキッ、ピキッと卵に細かな亀裂が入り始めた。
すると、遊び回っていたコハクが卵に近づき、コンコンッと前足で優しく励ますように叩いた。
「頑張るでしゅよ~。待ってましゅよ~」
コハクの声に応えるように、卵の亀裂はさらに広がっていく。
どんな竜が生まれてくるのか、誰もが固唾をのんで見守っていた。
その時。
パリンッ!
卵の欠片が数枚、弾けるように飛び散った。
続いて、まばゆい光が周囲を包み込み、思わず目を閉じる。
恐る恐る目を開けると――
「「「キュイイイイイイッ!!!」」」
「ええええええっ?!」
「なんと……」
「やはり、そうか」
「ご主人さま!! なんか沢山いましゅけど~?!」
目の前に現れた竜の赤ん坊。
そこまでは……まぁ、想定内だ。
問題は、その数。
紫、黄色、青、赤、緑、オレンジ、
そして黒い体に青と赤の翼を持つ子竜。
7匹の竜が産声を上げ、宙を舞っていた。
「ど、どういうことだよラミン……なんで?
普通ひとつの卵から産まれるのは1匹じゃないの?!」
「……竜の巫女の最後の予言は、今、現実のものとなった。そういうことだ」
「はぁ? 意味分かんないんだけど! ちゃんと説明してくれよ!」
訳が分からない。なぜ1つの卵から7匹も生まれるんだ。
ラミンなら知っているはずだと問い詰めるが、語り部みたいな言葉を呟くだけ。
思わず俺は、頭の上のラミンを掴んで、飛び回る7匹の子竜の近くへ持ち上げた。
「教えてラミン!
じゃないとこのぬいぐるみの体かじられるよ!!」
「やめんか! バカたれ!
……竜族に巫女がいた話はしたな?」
「あ、うん。竜族の血を残すためにって話してくれた時に言ってたな。
その巫女が何か予言していたってこと?」
観念したのか、ラミンは深いため息をつき、ぽつりと語り始めた。
「……竜族が滅びゆく時、最後の巫女はこう予言した。
竜族の血を継ぐ者が再び現れし時、守護の星を宿す7匹の竜が現れ、守護竜となるだろう。
彼らは竜族の血を継ぐ者が暗闇に呑まれるのを防ぎ、正しい世界へ導くであろう……とな」
「守護竜……この子たちが?」
巫女の言葉は、7匹の竜が飛び出してきたことよりも、ずっと重く胸にのしかかった。
俺の血が原因で誕生した7匹の竜。
彼らは、俺を闇から救うために生まれた“守護竜”。
つまり、竜族の血を継ぐ俺は、それほど危険な存在になり得る ということでもあった。
「しゅごい竜なんでしゅねぇ~」
「「「キュイイイイッ!!」」」
「元気な子竜たちだな。オリオン、大変なことになるぞ。
……子守、頑張るのだぞ」
「……嫌な予感って、やっぱり当たるんだな」
コハクもライオネル王も、呑気に笑っている。
その横で、ただひとり漠然とした不安を抱えている俺がいた。
俺は、いつか本当に強大な力を持ち、世界を闇に包むような存在になるのだろうか。
もしそうなった時は、この7匹が救ってくれるのかもしれない。
だけど、平穏を願うだけの俺が、それまでの日々の中で、この子たちを護れるのだろうか。
そして、ラミン、ライオネル王、コハク。
大切な家族に幸せな時間を与えられる器が、俺にあるのだろうか。
答えの出ない問いを抱えながら、無邪気に飛び回る7匹の子竜たちを、ただ静かに見つめていた――




