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第54話 竜の揺り籠からの贈り物

「ご主人さま、これは何でしゅか?」


「なん、ですかって……俺が聞きたいんだけど」



コハクの叫び声に慌てて中庭へ駆け寄ると、

噴水のすぐそばに、大きな七色の卵が落ちていた。


それは、ラミンと出会った時に俺が頭で割ってしまった卵と同じくらいの大きさだった。



「え、まさか空から落ちてきた?」


「それはないだろう。

もし空から降ってきたのであれば、すでに割れてしまっているだろうからな」


「ああ、そうか……じゃあ、これは何? ラミン」


「ん? まぁ、触れてみろ」



卵の正体が分からない俺は、素直にラミンへ確認した。

けど返ってきたのは、説明ではなく、ただの「触れてみろ」だった。


(絶対ヤバいやつだこれ……)


ラミンが言葉を濁すときは、大抵ろくでもない時だ。



「はぁ……変なものが出てきませんように」



小言のように呟きながら、そっと卵に手を触れた。


その瞬間――

胸の紋章が熱を帯び、思わず服の上から押さえる。


すると、頭の中に“あの先人の竜”の声が響き始めた。



【オリオンよ。突然このような行動を取ってしまい申し訳ない。

今そなたが触れている卵は、この地で結晶化された竜の涙を源とし、強大な魔力が集まって産まれた卵だ。

必ず、そなたを守護してくれるだろう。どうか、側においてやって欲しい】


「巨大な魔力……やっぱり嫌な予感しかしない。

それって、竜が生まれるってことですよね?」


【ああ。そなたを守護する強大な力を持った竜がな。

そなたの心ひとつで正義にも悪にも育つ。頼んだぞ――】


「え?! 嘘だろう?! ちょっと待って――」



先人の竜は、訳の分からないことを一方的に告げ、そのまま通信を切ってしまった。


(なんで俺が竜を育てるんだよ……あっち〈竜の揺り籠〉で育てたらいいじゃんか……)


心の中でぶつぶつ文句を言っていると、頭の上のラミンが、容赦なく言い放った。



「諦めろ。それが運命だ」



運命――そんな綺麗な言葉で片付けないでほしい。

竜という存在は、疎まれ、時には戦力として重宝される世界だ。

それを、俺が、この場所で育てるなんて……どう考えてもリスクが高すぎる。


(まぁ、ラミンはリスクだなんて思わないから平然としていられるんだよな)


ラミンと出会ってから今日まで、本当に色々あった。

驚いて、嫌がって、それでも物語は勝手に進んでいく。

今回もきっとそうだ。

俺がこの卵を見捨てる選択肢なんて、最初から用意されていない。


“運命”とやらに抗う術もない俺は、目の前の現実を受け入れるしかない。



「はぁ……で、いつ孵るの? この卵」


「さぁな。孵るまで毎日、貴様の魔力を注いでやることだな」


「あ。見てるだけじゃダメなのか」


「当たり前だ。貴様の魔力がなければその卵は孵らんぞ。殺す気か?」


「そうか……はぁ、家を引っ越しただけでも大変なのに、竜の卵まで。はぁ……」



ラミンに言われ、俺はひとまず掌から魔力をそっと送り込んだ。

すると――ドクンッ、と卵が脈打つ。


生きたがっている。

その鼓動が、はっきりと伝わってきた気がした。



「コハク、卵が孵るまでちゃんと見張りするでしゅ~」


「そうだな。コハクが見守ってくれるなら有難いよ。よろしくな」


「はいでしゅ~」


「あ、ライオネル王。こういう特殊な案件って、リアム陛下に伝えた方がいいのか?」


「うむ。そうだな。

そもそも王城にいる竜騎士のために国が竜を飼うことはあっても、

市民が竜を飼うなど有り得ん話だ。竜がそれを許すわけがないしな。

あとあと面倒になる。報告しておいた方が良いだろう。

手紙でも出しておくといい」


「そっか……やっぱりそうなるよね。分かった」



さすがに竜を飼うとなれば黙っているわけにはいかない。

肩を落としつつ、ライオネル王に手紙を書いてもらい、門の衛兵に預けた。



「……近いうちに誰か来るんだろうなぁ。

って、その前に卵目立ちすぎるから何かで覆っておこうかな」


「外からは見えない結界を張っておけ」


「ああ、そうしようか。ってそんな魔法あるのか?」



七色の卵はあまりにも目立つ。

確実に隠さなければいけないと思っていると、ラミンが隠蔽結界を張れと言い出した。


そんな魔法知らないと言うと、俺の頭をポカポカ叩きながら言う。



「貴様……あれだけ魔法を取得したというのに覚えておらぬのか」


「使ったことないじゃん」


「はぁ……

レギオ・オクリ・ドラコニス――“竜眼の領域”。

発動した者と、その繋がりのある存在にしか見えなくする結界だ。

さっさと張れ」


「へぇ、初めて聞いたわ。じゃあ、やってみる。

……Regio Oculi Draconis!」



言われた通り詠唱すると、胸の紋章が一気に熱を帯び、かざした掌から淡い金色の結界が広がっていく。


その瞬間――

竜の眼がガンッと開いたような威圧が走り、すぐに光は静かに消えた。



「これでいいのか? 見た目全然変わってないけど」


「バカたれ。竜眼の領域は、領域外からは卵も結界も“存在しない”ように見える。

視覚・魔力探知・気配探知すべて無効だ。

ただし、竜族の血を持つ者と、その繋がりを持つ者だけは内部を認識できる。

竜族特有の魔法の一つだ」


「へぇ……」


「もっと興味を持たんか!」


「いや、これでも十分驚いてるよ。

竜族ってやっぱり話に聞くよりずっと怖いんだな。絶対に敵に回したくない存在だわ」


「その竜族の末裔が貴様だろうが」


「……まぁ、そうなんだけど」



ラミンの説明を聞きながらも、どこか他人事のように感じていた。

何度経験しても、自分が竜族の血を継いでいるという事実は、どこか現実離れしていてフワフワしている。


それでも――

こういう場面に遭遇するたび、自分がどれほど恐ろしい存在になり得るのかを思い知らされる。


そして、先人の竜が言った言葉が胸に重くのしかかる。


「純粋さが歪めば、それは救いではなく、この世で最も残酷な“死の世界”へと変わる」



俺は、この卵を無事に孵し、正しい心を持つ子に育てられるだろうか。

当然、そんな不安はある。

だけど、側にいてくれる家族がいれば、もし俺が間違いそうになった時、きっと正してくれる。

そう信じられる自分がいた。


……さて、この卵はいつ孵るのか。

平穏な日常が騒がしくなる予感しかしないけど――

やるしかなさそうだ。

半ば諦めながら、無事に産まれてくるよう祈りながら卵をそっと撫でた――

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