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48話 悲しい旅路

これほどまでに重たい旅路は、今まで経験したことがない。

捜索願を受けて人を助けに走ったことはあった。


だけど――“最後の別れ”をするために旅立つなんて、あまりにも悲しすぎる。

そんな思いを抱えながらも、コハクは馬車の窓から外を眺めたり、皆に遊んでもらったりと、

いつも通りの無邪気さを見せてくれていた。

その姿に、少しだけ救われる。



「それにしても、なんだか悪いよなぁ……王家から馬車出してもらうとか」


「バカたれ。こういう時は頼れるものは全て頼るに限る。

一刻も早く頭部を見つけねば、どうなるか分からんぞ」


「まぁ、そうなんだけどさ。悪いなって思うだろ?

ラミンはいつも神経が図太すぎなんだよ絶対」


「やかましい。そもそもエリックが付いてくる時点で、我々が何もせずとも勝手に動くものだ」


「あー……そうだな。とりあえず無事に到着してくれたら何でもいいや」



王家とは距離を置くべきだと思っていた。

面倒ごとに巻き込まれたくないから。


だけど――今回ばかりはラミンの言う通りだ。

一刻も早く、コハクの父親の頭部を見つけてやらなければならない。



「エドたちが行った場所って、立ち入り禁止区域ですよね?

辞める前に確かそんな話をしていた気がして」


「ああ。Draconis Cradleドラコニス・クレードル、“竜の揺り籠”と呼ばれている海沿いの谷だ。

ここから100キロほどだから、2日もあれば到着するだろう」



エリックさんの言葉に、そういえばそんな名前だったな、と記憶がよみがえる。

すると、側にいたライオネル王が懐かしそうに目を細めた。



「今もあるのだな……竜の揺り籠は」


「あ、ライオネル王の時代からあったんだ?」


「うむ。名付けをしたのは私だからな。

我々は竜族との関わりが深いだろう?竜族と共にあの谷へ赴き、交流していたものだ」


「へぇ。やっぱすごいね、ライオネル王は」



ライオネル王の時代から存在している場所――

そう思うと、急にその谷が神秘的なものに思えてくる。



「まぁ、本当にたまたまだがな。

……あそこは“竜が生まれ、死にゆく場所”とされている神聖かつ脅威の谷。

竜と関わりのない者が近づけば、命はない。

それを竜族の連中から教えてもらい、王家以外の者の立ち入りを禁じる命を出した。

そして――“命が揺れる場所”という意味を込めて、

竜の揺り籠、Draconis Cradle と名付けたのだ」


「そうだったのですね……ライオネル王の時代のお話を聞けるのは、とても光栄です」



初めて知る真実に、エリックさんは深く頷き、その目はどこか感慨深げに輝いていた。


(竜が生まれ、死にゆく場所……

だからコハクの父親も、最期はその谷で……)


そう思うと、胸の奥がきゅっと締め付けられるような、何とも言えない気持ちになった――







「海沿いを走るって、こんなに気持ちよかったっけ」


「うむ。たまにはこうして自然を感じられるのも良いものだ」


「ご主人さま、空気がおいしいでしゅねぇ~!」


「楽しいか? コハク」


「はいでしゅ! みんなでお出かけは楽しいでしゅよ~」


「そっか。それなら良かった」



旅の理由はとても悲しくて辛いものだけれど、みんなで出かけること自体はコハクにとって嬉しいらしい。

その小さな頭を撫でてやると、コハクは目をキュッと細めて、心から嬉しそうに笑ってくれる。


(なんでこんなにいい子が死んじゃってんだろうな。それに父親だって……)


考えれば考えるほど心が沈んでいく。

だけど、落ち込んでいる姿を見せればコハクが心配してしまうから、無理にでも笑顔を作って接していた。



「オリオン、ひとつ聞いてもいいか?」


「何でしょう、エリックさん」


「暁の翼は、いつからあのようになってしまったのかと思ってな。

お前が所属していた頃は、力と自信に満ち溢れ、我が国でも自慢のSランク冒険者パーティーだった。

何が彼らをあそこまで堕としたのか、不思議でならん」


「……」



コハクの元気さに励まされていたところで、エリックさんから投げかけられた暁の翼の現状。

どうしてそうなったのか──そう問われても、俺が抜けた後のことは何も知らない。

答えようがなく、ただ沈黙するしかなかった。



「エリックよ。オリオンは当時、何もできないただの荷物持ちだった。

だが、自分を救ってくれたあいつらのために何かしたいという純粋な気持ちで鍛錬を始めた。

その鍛錬の中で徐々に竜族の血が目覚め、この国屈指のサポート系魔法の使い手へと成長した。

……なぜ、オリオンが抜けた後に力を出せなくなり、劇薬に手を出すようになったのか。考えれば分かるだろう」


「……そういうことでしたか。彼らは、その事実を?」


「知らぬ。言う必要もあるまい。自分たちの力を過信したあの男たちが悪い」


「……」



俺が何も言えずにいると、頭の上にいたラミンが代わりに淡々と事情を説明してくれた。

確かに俺はサポート系魔法を使っていたが、そこまで影響があったのかと言われると、正直自信はない。

元々、力のある者たちの集まりだった。


俺のサポートがなくても進んでいけたはずだと、今でも思っている。

だからこそ、安易に劇薬へ手を伸ばし、プライドや名誉、そして目先の金に溺れた彼らの行動が許せなかったのかもしれない。



「エリックしゃん! あの人たち、とっても臭いんでしゅよ!

コハクのご主人さまに意地悪する人なんて大嫌いでしゅ!」


「臭い? 何か特別な香水でも?」


「いえ、そうではなくて。

以前、ラミンが言っていたんです。

“人の嫌な部分が表に出ている時だけ漂う独特の臭い”があるって。

それがコハクは嫌いみたいで……」


「ああ、そういう臭いが体から出ているのか。悪いことはできんな」


「ですねぇ……」



話に割って入ってきたコハクは、ギュッと目を細めてエドたちが嫌いだと訴えた。

理由を説明すると、エリックさんは驚いたあと、妙に納得したように頷いていた。


悪いことはできない──確かにその通りだ。

もし俺が間違った方向へ進んでいたら、きっとコハクは俺について来てはくれなかっただろう。

そう思うと、自分はまだマシな性格なのかもしれないと、ほんの少しだけ安心した――

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